スウェーデン刺繍 その3

お試しキットを2つほど試して「やっぱりたまにこれやりたい」と思った私は、日本から友人と姉をたより、スウェーデン刺しゅう専用布を入手して送ってもらいました。そして、はじめてキットにはないモチーフでコースターを作ってみましたよ。
この図案は、布や刺繍糸を販売しているオリムパス製絲株式会社が公開している図案の1つで、ウサギ。
布の大きさと端の処理などは、前回のキットの説明書を参考に作ってみました。
なぜ、もう作ったコースターをさらに作っているのかというと、このくらいの大きさのものの方が、飽きずに隙間時間で作れるのと、前回作ったコースター、会社でけっこう重宝しているので、誰かにちょっとしたお礼をするときに添える系の手作り品としては、コースターはけっこういいかもと思ったのです。
まだ差し上げるレベルには達していないのですが(刺繍よりも、後ろの額縁仕立てが下手すぎる)、この調子でゆるゆると楽しんでいこうと思っています。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(16)凍える宵 -4-
この旅の中間地点であるフルーヴルーウー峠まであとわずかというところで、一同は悪天候に見舞われました。雨宿りをした小屋で結局ひと晩過ごすことになり、8月とは思えぬ寒さに震えています。
前作の連載を終え、このメンバーで旅をする続編を書こうと思いついたときから、このシーンは入れようと考えていました。
スイスに住むようになって印象的だったことの1つに「アルプス山脈は、ヒマラヤ山脈などとは違い、みな氣軽にハイキングやマウンテンバイクで越えてしまうこと」がありました。その一方で、峠程度といっても標高がそれなりにあるので、夏でも寒いのです。この感覚は、初めて旅をする面々には体験してもらわねばと思っていました。
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森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(16)凍える宵 -4-
「外套も、そろそろ乾いている。必要ならこれも着るといいでしょう」
フリッツは、それぞれに外套を渡した。
ラウラに外套を羽織らせてアニーが腰掛けると、ラウラは自分の膝の上にかかっている上掛けを彼女の膝にも載せた。
「そんな、ラウラさま。私なんかに……」
「アニー。いまの私は、あなたと同じく平民なのよ。一緒に暖まりましょう」
そのさまを微笑ましく眺めてから、レオポルドたちは、この山越えについて話を始めた。
「後悔なさっておられるのでは?」
フリッツが単刀直入に訊いた。平民のフリなどをしなければ、少なくとも雨になど濡れない馬車で峠の宿泊施設にたどり着いたはずだ。
レオポルドは肩をすくめた。
「戦で野営もしたではないか」
「あのときは、陛下用の寝台をお持ちしましたよね」
「わかっているさ」
それに戦の野営とはいえ、国王が寒さに震えるようなことはなかった。それだけ、ついてきた臣下や従者たちが、彼のために心を砕いたということだ。彼のための毛皮の敷物、寝具、簡易囲炉裏などが彼の天幕に用意されていた。『裕福な商人デュラン』が持てるようなものではなく、今回の旅でレオポルドが期待していたものでもない。
レオポルドは言った。
「ふかふかの寝床に包まれて眠ることだけを望むなら、フリッツやモラたちの言うとおりに王らしい旅をしていればいいのだ」
マックスは答えた。
「わざとこのような厳しいところにお連れしたわけではありませんが、民の中には眠れないほど寒い夜を過ごしたり、薄い粥以外食べられない人たちも珍しくありません。目で見るだけではなく、実際に肌で感じることも、陛下のおっしゃっていたさまざまな階級を知る1つの手立てとなるように思います」
レオポルドも、一同も頷いた。地図上で行程を考えるのと、今日の昼に登ったような道を実際に行くのは違う。冬にまともな暖房もない小屋で凍える民の話も聞いたことはあるが、実際に自分たちが眠れぬほど寒い思いをするのは話が別だ。
同時に貴族としての煌びやかな服を着たままで市井の人びとの本音を聞くことも難しい。この数日間、レオポルドはこれまで目にし耳にしてきたこととは異なる民の生活を体感してきた。
「そなたが見てきたものを、この短い旅ですべて見られると思っているわけではない。だが、少なくともまったく想像もつかないのと、わずかでも経験するのでは違う。そうだろう?」
「そうですね。例えば、我々にとってこの夜はたった1晩の経験に過ぎませんが、この生活しか知らぬ民がいると想像できるのは、為政者たる我々にとって悪いことではないですね」
ラウラが訊いた。
「ここは、夏でもいつもこんなに寒いのですか」
マックスは頷く。
「朝晩は、常にヴェルドンの真冬くらいに寒くなる。日中、陽が射せば照り返してかなり暑くなるけれど、悪天候の時は8月でも雪が降ることもある」
これほど粗末な設備にもかかわらず、馬用にも屋根のある小屋が用意してあったのは、夏でも寒すぎる夜のせいだった。
結局、5人は少しウトウトしただけで、深く眠ることはなかった。このままここに留まるよりも、夜明けとともに出発し、峠の宿泊施設で暖を取り、きちんとした食事を摂ることをマックスは奨め、4人はそれに同意した。
雷雨は夜更けに止み、雲のなくなった空には何万という星が輝いていた。明るい白と紫、そして紺色が混じる《乳の河》が強い光を放っているようだった。
東の空は少しずつ色を変え、稜線が赤く光り出す。湿氣が霧のように溜まっている。そこにやがて橙色から黄色へと色を変えていく光が見えて、太陽が上がってきた。
その神々しい光を見てから、5人は峠への道を歩き出した。分岐点まで戻ると、辺りはすっかり明るくなり、すっかり濡れた下草が宝石のごとく輝いているのを見て、昨夜の雨の激しさを思い起こした。
朝焼けに十字架のシルエットが浮かび上がっている。下方に見える昨日通り過ぎた湖が赤と金に輝いている。ピーピーと動物の声が響いている。マックスが岩の合間を指さした。
「マルモルティーレだ」
リスに似ているが仔猫くらいに大きく丸々と太った動物が岩の中に急いで飛び込み身を隠す。その横を鷹が通り過ぎていく。
「なんて可愛いの! 初めて見たわ」
アニーがマルモルティーレをよく見ようと身をよじった。
「おい。突然そんな風に暴れると、落馬するぞ」
フリッツが強引に彼女の姿勢を正した。
「なんてことを! 私は幼児じゃないんですから、女性らしく扱ってくださらないと」
「幼児とどこが違うんだ。慎ましく座ってもいられん癖に」
レオポルドとマックスは「またじゃれ合っている」といいたげに顔を見合わせた。
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肉を食べる

先日、久しぶりにステーキを注文して食べました。スイスは、日本の外食産業に慣れていると、なんでもないメニューも十分に高いのですが、ビーフステーキは、悩むくらい高い値段です。まあ、個人的にはそのくらいの値段設定の方がいいと思います。
ちなみに和牛ではありませんよ。折からのブームで「Wagyu」を出す店もあることにはありますが、100gぐらいの肉だけで50フラン(今のレートで7500円くらいかな?)はかかるでしょう。付け合わせや飲み物やサラダなどを普通に頼んだら100フラン近くいってしまうと思います。頼みませんけれど。
さて、私が今回わざわざ「肉を食べる」というタイトルで記事を書いているのは、昨今の「サステナブルな食生活のすすめ」や「動物たちがかわいそう論」にちょっとうんざりしているからです。もちろん、資源を大切に使うことは大切だと思います。不要な廃棄を減らすことにも賛成です。とはいえ、「肉食はやめて、ヴィーガンになれ」とか「コオロギを食べれば地球を守れる」とか頼んでもいないことをやたらと押しつけてくるメディアには、懐疑的なのです。
私は、毎日ではないですが、肉を食べます。実は、環境のためではなく、連れ合いの健康的問題のために一度マクロビオティックの食卓を目指してみたことがあるのですが、その時に「これは続かないわ」と思いました。身体にはいいのかもしれませんが、私の食べる喜びが激減してしまったのです。それからは、エッセンスだけを取り入れています。そして、こうしてがっつり肉を食べる楽しみも残したというわけです。
「生命に感謝して食べる」ことは大切にしています。「動物たちがかわいそう論」に対しては、そう思う人がヴィーガンになることは止めませんが、私は植物もまた生命なのでそこだけかわいそうと食べるのを控えることに意味を見いだせません。
たとえば、畑にまいた種からたくさんの芽が出て、私は一部を間引きします。本当はすべてをそのままにしておきたいのですけれど、そうするとすべてが育つ空間はありません。なので間引きますが、せっかく出てきたのにそのままコンポストに直行する氣にはなれません。持ち帰ってきて洗って、サラダに入れて食べます。小さくてもラディッシュや大根の味がします。
畜産については、いろいろな意見があることも知っています。とくに日本の畜産では狭い空間に劣悪な環境でおかれた動物たちが虐待されるようにおかれていることも耳にします。アメリカやドイツでもそういった劣悪な環境で飼育されているという話を聞きます。それにたいする抗議として肉食をしないという人がいることには理解します。
スイスに関していえば、少なくとも私が身の回りで見る畜産では、外に放牧されて真冬の外には出せないときでもかなり余裕のある小屋で過ごしているのを確認しています。もちろん屠殺されることは当の動物にとっては幸せなことではないことを百も承知で、私は感謝して肉を食べます。
少なくともビーフステーキの代わりにコオロギを食べようとは思いません。それにヴィーガンにもならないと思います。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(16)凍える宵 -3-
この旅の中間地点であるフルーヴルーウー峠まであとわずかというところで、一同は悪天候に見舞われました。今回の記述は実際に中世ヨーロッパの山越えがこうだったというわけではなく、私の知っているいくつかの知識を組み合わせての創作が入っています。
この国に来てから、中世から前世紀までのさまざまな風物を近しく目にする機会に恵まれました。お城の豪華な調度などはネットなどでいくらでも調べられる時代になりましたが、貧しく面白そうでもない市井の人びとの暮らしの痕跡は、ネットや急いだ旅行などではなかなか見聞することが出来ないので、偶然目にしたり話を聞いたりしたときには、いつ使えるかわからなくても、できるだけ写真を撮ったり書き留めておくようにしています。今回はそんな情報が少し役に立ちました。
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森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(16)凍える宵 -3-
マックスは馬を止め、方向を転換した。
「どうするのだ」
レオポルドが訊くと、先ほどの分岐点を指さした。
「このまま峠まで行くのは無理です。雨宿りをしましょう」
分岐点の脇から岩にほぼ隠れている細い道を進んだ。そこは珍しく低木がいくつかある場所で、奥が見えていなかったが、しばらく行くと開けた平らな場所が見えてきた。滝にほど近く、粗末な小屋が3つほど並ぶ場所があった。
1つは馬小屋で、残りの2つは人用の小屋になっていた。馬をつなぐと、5人は1つの小屋に入っていった。
天井の低い小屋には誰もいなかった。寝台や腰掛けになりそうな台がいくつか並ぶ以外は、調度らしい家具もほとんどないが、火をおこす場所はある。
マックスは、木の窓覆いを開けて、とりあえず内部に光を入れた。激しい雨は、ますますひどくなっており、稲光が時おりあたりを明るくする以外は、辺りを天幕のように降水が覆っていた。このまま進まずに済んだことをラウラはホッとして辺りを見回した。でも、ここは誰かの所有なのだろうか。
マックスが言った。
「誰でもここに入ることは許可されているんだ」
「ラウラさま。このままではお風邪をひきます」
アニーが、ラウラに近づき外套を脱がせようとした。
「大丈夫よ、アニー。1人でできるわ。それよりも陛下の方を」
「外套くらい、ひとりで脱げなくてどうする。……といっても、どこで乾かすのがいいだろう」
レオポルドが、外套を手に持ち見回した。
「お待ちください」
マックスは既に火をおこす準備に入っている。フリッツは、3頭の馬にくくり付けてあった荷物を1つずつ小屋に運び入れている。
小屋の外に積んであった薪を暖炉にくべ、隅に山のようにまとめてある藁を少し置くと、マックスは火をおこした。アニーは暖炉脇の杭にそれぞれの濡れた外套を引っかけた。
「ここは簡易宿泊所のようなものか」
全員がひと息ついて火の周りに座ると、レオポルドが訊いた。
「はい。旅籠や峠の宿泊施設や修道院と違い、人はいませんが緊急の場合に旅人が寝泊まりすること、薪や藁を使うことは許可されています。ただし、追い剥ぎなどには自分で対処しなくちゃいけないんですが」
「ということは、今夜はここで寝るんですね」
フリッツが確認した。
「すぐに雨が止めば、峠の宿泊施設まで行けますが、このまま夜半までこの調子であれば、ここで1泊するしかないでしょうね」
激しい雷雨は、全く止む様子はない。大きな雷鳴のとどろきに、アニーは耳を押さえて小さな悲鳴を上げた。ラウラはそっとそんな彼女の肩を抱いて力づけた。
他の旅人がやって来てもいいように、フリッツの運び込んだ荷物は隅の1カ所にまとめ、暖炉からさほど遠くないところに、寝床を作ることになった。
入り口近くの隅に山になっている藁を何回かに分けて運び、1人眠れる程度の小山にすると、その上にやはり隅にまとめてあった布をかけた。旅籠のリネンのように使う度に清潔に洗濯することを期待することは全くできないが、少なくとも藁の上で直接眠るよりは快適になるはずだ。いずれにしてもこの寒さの中眠るとしたら、いま身につけている服装のまま横になることになるので、旅籠の寝具と比較する必要はなかった。
「今はとても冷たく感じるかもしれないが、藁は人の湿氣で温度が上がるので、眠っているうちに少しは暖かくなると思う。といっても、快適な夜は期待しないでくれ」
マックスが、アニーとラウラに説明した。
夜半を過ぎても雨は衰えることなく降り続け、一行は持参したパンに干し肉とチーズの夕食を取った。レオポルドとラウラ、そしてアニーは少し赤ワインを飲んだが、フリッツとマックスは飲まなかった。
「今夜は、2人交代で火の晩をします。ぐっすり眠るわけにはいきませんからね」
深夜、マックスがフリッツと静かに交代し、熾火を動かしていると、レオポルドが起き上がってきた。
「どうなさいましたか。お休みになれませんか。藁の積み方を少し変えましょうか」
フリッツが訊くと、レオポルドは首を振ってやはり囁き声で返した。
「いや、寝床の快適さが問題というわけではない。単に目が覚めたのでな」
ガサッと音がしたので振り向くと、ラウラとアニーが共に起き上がっていた。
「そんなにうるさくしてしまいましたか」
フリッツが申し訳なさそうに言うと、女性陣は共に首を振った。
「うるさかったわけではありません。ずっと半分起きたままでした。その……」
ラウラが言いよどむと、アニーがはっきりと言った。
「ラウラさま。お寒いのでしょう。私の上掛けを……」
マックスが暖炉の前に場所を作っていった。
「陛下、皆も、こちらに来て少し暖をとるといいでしょう」
全員が、それぞれ上掛けを羽織り、火の周りに集まった。暖炉の上に置かれた鍋には湯が沸いていた。アニーがそれぞれに暖かい湯飲みを渡した。
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サツマイモの芽が出た

今年は隣人の畑の一部を借りることができた話は先日しましたが、よそのお家の一部を借りる大きな利点がわかりました。
野菜作りのことはネットで調べて自分で試行錯誤していたのですけれど、日本語の情報ではスイスでのタイミングがわからないんですよ。(あたりまえ)でも、今年からは、隣人が進める作業を見て「あ、土作りってこんなに早いんだ」とか「あ、もう苗植えていいんだ」とか、目に見えてわかるんです。さらに、明らかにおかしいことをしたら忠告してもらえます。
去年は、もう雪は降らなくなるといわれている5月ぐらいに苗を買ってきて植えたんですが、そうすると収穫が遅くなり、「寒くなってきたのにまだまだだよ」ということになった野菜もありました。でも、こんなに寒かったら苗が死んじゃうのでは?」というタイミングでも、植物はけっこう強いので大丈夫そうです。
植えたサラダ類の種は芽吹いてきましたし、なぜだか半額で売っていたレタスの苗も衝動的に買ってしまったのですが、それも植えてみました。ズッキーニの本葉が出てきたばかりの苗や、芽の出てしまった玉ねぎなど、フラットで育てるのが面倒になってきた苗も順次畑に移しています。
その1つがサツマイモ。
秋に、日本人の方からいただいた日本の品種のサツマイモが1つありました。もったいなかったので、そのまま保存しておきこの3月に芽が生えるかトライしてみたんです。ご覧の通りちゃんと芽が出てきました。これをツルにまで育ててサツマイモを作る予定なのです。
この小さなポットに2つ用意したのですけれど、部屋の暖かさでダメになるか、畑の寒さでダメになるか、わからないのでとりあえず1つは室内で、1つは畑に植え替えて様子を見ています。
ジャガイモは私でも作れることがわかったので、今年はサツマイモが収穫できることを目標に頑張ります。
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【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(16)凍える宵 -2-
今回の記述の大半は、中世に関する文献から得た知識だけではなく、現代の私がアルプス山脈を越えるときに見聞きしたものをアレンジしてあります。(完全に同じというわけではありません。《ケールム・アルバ》はあくまで中世ヨーロッパ風の架空の場所です)
4つの石のピラミッドは、中世では実際に道標の役割を果たしていたそうですが、現代では使われていません。現在はきちんと道標があるか、もしくは赤白の旗のようなマークがその代わりに見られます。
樹木が生えなくなるのは、およそ標高2000メートルです。ここまで来ると峠まであと少しですね。
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森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(16)凍える宵 -2-
「陛下の馬の手綱も、私が」
フリッツは言ったが、レオポルドとマックスに視線で制された。道は狭く、2頭の馬に挟まりフリッツが歩くような幅ではない。
一番前をマックスが、続いてラウラとアニーが、その後ろをレオポルド、最後は背後を守りながらフリッツが歩くことになった。
マックスが言ったとおり、しばらく険しい道を歩くと、草むらと言っていい平坦な野が現れた。再び馬に乗って進んだが、半刻もしないうちに、ふたたび険しい岩道を進むことになった。
それぞれが太い枝を杖がわりにして歩いた。転んだり、躓いたりしないためにも必要だったが、蛇などに噛まれるのを避けるためにも必要だった。
「危険な蛇と、そうでない蛇の簡単な見分け方を知っているかい?」
マックスに訊かれて、ラウラは少し考えた。
「頭の形や柄でしょうか?」
レオポルドとフリッツは顔を見合わせて、肩をすくめた。蛇に噛まれる危険のあるところを長く歩くのは初めてだ。
「基本はそうだ。怖れなくてはならないのはクサリヘビの仲間のアスピ蛇、つぎに十字クサリヘビだが、実は、これらの毒蛇にそっくりな大人しい蛇もいる。正確には目の形でたいてい見分けることが出来るんだ。縦に細長い目をしていたら、それは真に危険な毒蛇だ」
マックスは、遍歴教師らしく説明した。
それはもちろん興味深いのだが、現在自分が噛まれるかもしれないという恐怖を減らしてくれる情報ではなかったので、アニーが思わず声を上げた。
「でも、目の形なんかわかるほど近くに行ったら……!」
マックスは、杖代わりの枝で、前方の草むらや岩を派手に叩きながら言った。
「その通りだよ、アニー。だからこうやって、かなり前から大きな振動を与えて、蛇が危険を感じるほどこちらに近づかないようにしているんだよ」
それから、アニーが必死になって大きな音を立てながら進むので、一同は笑った。
やがて、そうした深い草むらは少なくなり、馬に乗って進める地域が増えてきた。以前はフリッツと同じ馬に乗ることを嫌がっていたアニーが、大喜びで馬に乗ろうとしたので、一同は再び笑った。
途中で、マックスは再び砕石が多い急傾斜の道を選んだが、もっと楽そうな谷川の草むらを見て、フリッツがなぜそちらの道を選ばないのか訊いた。
「どう見ても楽そうな道に、まったく人が踏み分けた後がないのが分かりますか」
「はい。なぜでしょうか」
マックスは先に見える川の湾曲を指さしながら説明した。
「これは、危険な道だからですよ。おそらくあちらは沼になっています。旅人は、できるだけ楽な道を行こうとし、その思いをくじかれて戻ることを繰り返して、行ってはならない道を見分ける術を学ぶのです。これをご覧なさい」
険しい岩道の手前に4つの石が小さなピラミッド状に積み上げられている。
「これは、ここを通る旅人たちからの奨めです。ここには道標のようなものはありませんが、同じ旅をした先人たちからのメッセージが、次のこの道を通る者たちを正しい道に導いてくれるのですよ」
前よりもいっそう肌寒くなってきていた。見ると、広葉樹は一切なくなり、針葉樹もまばらになってきていた。風が冷たくなり、渓谷のあちこちの日陰に雪の名残が見えるようになった。
朝は晴れ渡っていたのに今はかき曇り、うっすらと霧がかっている。マックスはつぶやいた。
「ああ、これはまずいな。峠の宿泊施設にたどり着く前に、ひどく降られるかもしれない」
「あの先だろう? おそらく夕方には着くのではないか? 曇っているだけであるし」
レオポルドが訊く。
「運がよければ、さほど濡れずに宿泊施設に着くでしょうが、難しいかもしれません。途中で雨宿りできる場所もありますから、行けるだけ進んでみましょう」
マックスは答えた。
馬に乗っているとはいえ、走らせることは出来なかった。道は崩れやすい大きめの石砕で埋まっている。ついに木は1本も無くなり、非常に短い下草と崩れた岩が広がる地域に来た。川は片足を反対側に置いたまま渡れるほどの細いものが、木の根のようにあちこちに広がるだけになった。
マックスは、途中で岩の奥に進む道との分岐点で止まった。馬の足下にある小さな石ピラミッドを見ていたが、天を仰ぐとそのまま峠までの道を進んだ。曇り空はさらに重く暗くなっており、先ほどまで吹いていた風はどういうわけかピタリと止んでいた。
それからしばらくして、雨が降ってきた。再び風が吹いてきたが、先ほどのものよりも冷たく強い風だった。皆はマントを深く被ったが、雨宿りをする木陰がないので、冷たい雨がマントに染みてくるまでにはさほど時間がかからなかった。雨ははじめから非常に強く、雲の色から見て、すぐに止むようにも思えない。雷鳴がつんざくような音を上げ、ラウラは思わず首をすくめて震えた。
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ハッピーイースター!

まあ、私にとって何よりも嬉しいのは、4連休だということなんですけれど……。
イースターは、毎年「春分の後、最初の満月の次の日曜日」と決まっているので、日にちは移動するのですが、曜日は常に日曜日です。そして、スイスのプロテスタントの市町村ではその直前の聖金曜日と翌日のイースター・マンデーも祝日なので、私には4連休になるというわけです。
日本のようにたくさん祝日はないし、祝日が土日と重なった場合の振替休日なんてものもない国なので、場合によっては土日でない祝日が10か月ぶりなんてことにもなってしまったりするのですけれど、曜日が確定している4連休はものすごく嬉しい。
実は先週が休暇だった私は、「また休みだ〜」なのですが。とにかく嬉しいのです。
とはいえ、1週間前に納骨を済ませたばかりの義母を悼むカードをくださったみなさんへのお礼状を用意したりと、わりと忙しく過ごしていました。
昨年までは、義母を招いてイースターの御祝いをしたり、直後の彼女の誕生日の御祝いを考えたりする時期でしたが、今年からはそれがなくなりました。
でも、来週は連れ合いの誕生日があります。さて、何をすべきか考え中です。実は、この日を以て彼は一応の定年なのです。特にいろいろと変わるわけではないのですが。
今日の写真は、2018年に亡くなった母の残してくれたイースターエッグです。
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お忘れの方も多いかと思いますので軽く説明をすると、国王レオポルドとフルーヴルーウー辺境伯マックス(+おまけ)の一行は、険しい山脈《ケールム・アルバ》を越えて、南側のセンヴリ王国に属するトリネア候国へとの平民のフリをしたお忍びの旅をしています。
今回は、もっとも厳しい山越えの話です。《ケールム・アルバ》のモデルはアルプス山脈。夏とはいえ時間と天候によっては、歌いながらハイキングをするような旅ではなくなります。
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森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(16)凍える宵 -1-
幸い、その後に泊まった2軒の宿では、フルーヴルーウー辺境伯の内政に関わる問題やグランドロン王国の根幹を揺るがすような噂話をする旅人たちとの交流はなく、『裕福な商人デュランとお付きの一行』は、順調に旅をして南へと向かっていた。
既にサレア河の扇状地と呼べる低地は過ぎ、森と小さな峡谷を交互に通りながら少しずつ高度が上がっていることを、一行は肌で感じていた。視界が広がり、谷を臨めば今朝去ったばかりの村が遥か眼下に見える。日中でも外套を脱ぐことは少なくなってきた。道に石畳が敷かれていることはかなり稀になり、それどころか土の均された道は村の近くにしかなくなった。
そもそもマックスが1人旅をしていた遍歴教師時代には、フルーヴルーウー峠と城下町の間に3泊もしたことはなかった。今回は国王が生まれて初めての庶民に化けた旅をしており、更には旅慣れていない女性が2人も同行している。それで、できるだけ疲れが出ないよう、さらには道中の村やサレア河上流に多い風光明媚な渓谷や滝などを見ながらゆっくりと《ケールム・アルバ》を登っていた。
ダヴォサレアの村を過ぎて最初の辻につくと、マックスは馬から下りた。辻とはいえ、目の前には、岩で出来た階段に近いものが草むらから顔を出している道とはいいにくい光景が続いている。
「この先の山道はとても狭く、崖の傾斜が急でとても馬に乗ったままは越えられない。つらいだろうけれど、しばらくは徒歩で行くしかない」
フリッツは、眉をひそめて言った。
「まさか、峠まで徒歩なのですか」
もちろん彼自身が嫌なのではなく、レオポルドの疲労と安全を案じてのことだ。
マックスは首を振った。
「ずっとではありません。ですが、おそらく徒歩で行く距離は、馬に乗れるそれ以上になります。時間でいったら、ずっと徒歩ばかりという氣がするでしょうね。引き返し、《フルーヴルーウー街道》を行きますか」
《フルーヴルーウー街道》は、馬車に乗ったままフルーヴルーウー峠を越えられる公道だ。幾箇所もある城塞にて通行税を払う必要があるので、資金に余裕のない平民たちは大きな荷がない限り、宿場だけは通るがそれ以外は整備されていない森や谷間の自然道、一般に《野道》と呼ばれるルートを通った。
もちろんレオポルドには十分すぎる資金の余裕はあるが、数ある城塞で《フルーヴルーウー街道》を行く高貴な旅人たちに逢い、どこで正体を知る相手に出くわすかわからないため、あえてはじめから《野道》を進んでいた。
レオポルドは、フリッツを制した。
「この道が厳しいのは百も承知で、平民の行く《野道》を来たがったのはこちらだ。だが……」
レオポルドは、馬上のラウラをちらりと見て言葉を濁した。彼女がつらければ、引き返すことも考えねばならないとの想いが顔に表れている。
ラウラは、マックスの方に手を伸ばし、降りる意思を見せた。マックスは、彼女を地面に下ろしてやった。アニーも急いでフリッツと共に馬から下りた。
ラウラは、レオポルドに頭を下げた。
「身の程をわきまえず無理についてきたことで、お心を煩わせてしまい申しわけございません。女である私とアニーがいることで、旅にたくさんの不自由が生じていること、日々感じお詫びのしようもございません」
馬から下りて、レオポルドは言った。
「頭を上げなさい。謝られるような不自由はまだなにも受けておらぬ。そなたたちが絶対に耐えられぬ道だと思えば、マックスは元からこの道は選ばなかったであろう。どうだ、マックス」
マックスは頷いた。
「先日見た傭兵団に従軍している女たちを見ただろう。彼女たちも年に数回、この道を往復しているのだ。今は夏で足下の危険も少ない。多少、速度を緩めれば、君たちが越えられないはずはないと思う」
ラウラは、マックスの方を見て言った。
「より時間がかかってしまうこともお詫びしなくてはなりませんわ。私が伝聞で満足しなかったために、陛下やあなたを足止めしてしまうことになるのでしょう」
マックスは首を振った。
「謝らなくていい。それに、僕は出発前とは違う意見を持っている。君がここまでの道程で感じてきたことは、僕からの伝聞で知ったことはまったく違うものだろう。この旅で、世界のすべてを見聞きすることはできないけれど、それでも君が、世間や、それに僕という人間を理解するために、この旅は必要だったと思うよ」
「それでは行くか。我々男は馬の手綱を引くので、奥方さまたちは、自分の足下に責任を持ってついてくるように」
レオポルドが、おどけた様子で言った。
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もう1匹、ネコを飼いだしました
今日は、ちょっとしたニュースをお知らせします。

実は、10日ほど前から、新しいネコがうちに住みついてしまったのです。しばらくしたらいなくなるかなと思っていたので、お知らせしなかったのですが、どうやら我が家と決めたらしくて、常に我が家で寝泊まりするようになったので、正式に飼い猫として迎えることにしました。
仔猫みたいですけれど、けっこう身体が大きめで、さらには先住ネコのゴーニィよりもずっと木登りが得意な子です。名前はリンクスに決めました。
これからちょくちょく記事にも登場するかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
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