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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(22)男姫からの依頼 -1-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第22回『男姫からの依頼』をお届けします。今回は少し長いので3回にわけます。

首尾よく修道院で宿泊するチャンスを掴んだレオポルド一行。今回は、我らがヒロイン(?)のどこが残念なのか、具体的に明かされます。本当に残念なんですよ、この人。

さて、説明を忘れていましたが、修道院長マーテル・アニェーゼのマーテルとは院長に与えられる敬称です。日本でもごく普通の尼僧がシスターと呼ばれるのに対して修道院長がマザーと呼ばれますよね。この敬称を設定するときにイタリア語にしようかとも思ったのですが、中世だしラテン語風にマーテルにしておきました。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(22)男姫からの依頼 -1-


 レオポルドが聖キアーラ修道院に半ば強引に滞在しようとしたのは、トリネア候国の事情に明るそうなマーテル・アニェーゼと親しくなり、候国や候女についての情報を得るつもりだったからだ。ところが、一行をここに連れてきた男装の娘こそが、よりにもよって縁談の相手である候女エレオノーラだった。

 夕食の時に現れた彼女は、まだ少年の服装をしたままだったし、女性らしい振る舞いや口調になることもなかった。マーテル・アニェーゼをはじめとした修道女たちや下男たちも、この姫君の変わった振る舞いに慣れているらしく、そのままにしていた。

 アニーは、長らくルーヴの王宮で侍女として働いていたので、貴婦人の模範とまで謳われたラウラだけでなく、王族や貴族の奥方や姫君の立ち居振る舞いを近しく目にしてきた。

 おしゃべりで会話の内容に問題があった伯爵夫人や、いろいろな香水を混ぜすぎて同席した貴人たちを戸惑わせた令嬢はいたものの、本当に貴族なのか疑うような行儀作法の侯爵令嬢が存在するとは考えたこともなかった。

 語学や政治情勢、歴史、詩作などでは、宮廷教師だったマックスを悩ませるほど劣等生だったマリア=フェリシア姫ですら食卓では、そこそこの振る舞いができた。

 だが、エレオノーラの振る舞いには、そのアニーですら時おり目を疑いたくなった。スープを食べるときに音を立てていたし、肉を触った指をフィンガーボールで洗う前に杯に触れてベタベタにしていた。極めつけは肉汁が口についたときに、置かれているリネンではなくテーブルクロスで口を拭いていた。

 ラウラは顔色一つ変えずに、やはりまるで何も見なかったように振る舞う尼僧たちと会話をしていたが、レオポルドは時おり目を宙に泳がせていたし、マックスとフリッツは不自然なほど違う方向を見ていたので、やはり衝撃的だったのだろうとアニーは思った。

 アニーは、もしかして来月を待たずにグランドロン国王は帰るかもしれないと考えた。マリア=フェリシア姫よりひどい結婚相手なんてこの世には存在しないと思っていたけれど、この姫君はあまりといえばあまりだ。

 だが、アニーの予想に反して、レオポルドは翌日もトリネア城下町を去りたがる氣配を見せなかった。それどころか、港を訪れたり、市場を回ったりしながら、トリネア城下町を見て回った。確かに、候女と結婚しなくてもトリネア候国のことを近しく目で見る機会そのものは、そうそうはないのだから、急いで帰る必要もないのかもしれない。

「ずいぶん若い修道院長だと思っていたが、あの女は相当の切れ者だな」
アニーは、港から修道院に戻る道すがら、レオポルドがマックスと話しているのを聞いていた。

「そうですね。それに、薬草についても医学者なみに博学で驚きました」
グランドロン王国一の賢者であるディミトリオスの弟子だったマックスが驚くというからには、並みならぬ知識を持っているのだろうとアニーは考えた。

「有力とはいえ家臣のベルナルディ家が、あそこまでの教育をほどこせるのに、なぜ候女がああなのか、どう考えてもわからぬ」
レオポルドが小さな声でつぶやいた。

 修道院に戻ると、その候女が再び来ていた。もう二度と会うこともないだろうと思っていたので、一行は驚いた。奥で治療中と聞いた、例の人狼を騙っていた男トゥリオの様子を見に来たのだろうか。

「私もしばらくここに泊めてもらうことにしたんだ」
エレオノーラは言った。

「そんなに何度もお城を抜け出してよろしいのですか?」
ラウラが訊くと、エレオノーラは「今日はあそこにいたくなかったんだ。……あんなのと縁談を推し進められるのはまっぴらだ」とつぶやいた。

「恐れながら、誰との縁談ですか?」
もしや自分との縁談の件かと好奇心に駆られてレオポルドが訊くと、エレオノーラは「カンタリアの王子だよ」と答えた。

 聞き捨てならないな、カンタリアの王子がたった今トリネア候国を訪れているのか。これは詳しく話を聞き出す必要がありそうだ。

 レオポルドは、エレオノーラに近づいた。
「カンタリアの王子とおっしゃいましたか?」

「ああ。私の母親は、カンタリア王の従姉妹なんだ。カンタリアの第2王子のエルナンドっていうのが、ルーヴラン王国目指して旅をしているらしいんだけれど、その途中に母上に挨拶するってことで立ち寄っているんだ」
エレオノーラは、身震いをした。

 あからさまな嫌悪の表情を見せるのがおかしくて、レオポルドは訊いた。
「あなた様にとっても親戚なのに、会えて嬉しくないのですか?」

 エレオノーラは口を尖らせた。
「嬉しいもんか。そなただってあの野蛮な男たちを目にしたらうんざりするに決まっている。あいつら、まともに立てないくらいに酔って、中庭に母上から贈られた豚を連れてきてその場で殺したんだ。腸を切り開いて、馬鹿笑いしていたんだぞ」

 ラウラだけでなく、レオポルドとマックスも顔を見合わせて眉をひそめた。それは国によって作法が違うといって済まされる程度の無作法ではない。

「王子様がたはその作法で、ルーヴ王宮に行くつもりなのですか。それはさぞ……」
レオポルドは、ことさら取り澄ましたルーヴランの貴族たちがさぞ驚くだろうと、残りの言葉を飲み込んだ。

「なのに、母上ったら、あの王子は第2王子だから、結婚すれば婿入りしてくれる。氣に入られるように振る舞えなんて言うんだ。だから、急いで逃げ出してきたんだ」

 マックスとレオポルドは、再び顔を見合わせた。
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Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

休暇中です

現在、夏の休暇中。仕事は忘れてのんびりと楽しんでいます。

ゴッタールドにて

以前だったら、休暇といえば、泊まりがけで遠くへ出かけていましたが、猫が我が家に来てからは出かけても日帰りです。

それは今回の休暇も同じで、無理のない範囲であちらこちらの峠越えをしました。上の写真は、ゴッタールド峠からティツィーノ州に降りていく途中の光景です。

この夏のスイス、一度ものすごく寒くなったりもしたのですが、幸い休暇の第1週は暑すぎるほどの夏日より。バイクの風に吹かれるのは最高の過ごし方でしたね。

国境にて

家からさほど遠くないところでも、普段はあまり行かないところにも足を伸ばしました。たとえば、我が家から30分ほどのヴァル・デ・レイはイタリアなんですが、公道ではスイスからしか到達できない行き止まりにあります。ここはダムなのですが、安全保障の観点からダムの壁の立っている土地だけはイタリアからスイスが買い取ったそうです。

それ以外の土地と水はイタリアのもので、ダムの運営会社はスイスの会社。島国生まれの私には、少し不思議な感じがします。

アーフェルスにて

ちなみに、このダムに到達する谷をすこしずれると、人が年間通して住む村としてはヨーロッパ一標高の高いアーフェルス=ユフがあります。標高が2000メートルを超えると針葉樹も生えなくなるので、こんな光景になります。

お出かけをするとちょっと出費はかさみますが、食事作りに負われずに済むので、休暇の時はお出かけをたくさんしたくなります。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(21)修道院 -2-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第21回『修道院』の2回に分けた後編をお届けします。

ジューリオと名乗り男装をしている娘の案内で聖キアーラ女子修道院についた一行は、訳ありの男トゥリオとジューリオを助けた縁で、茶菓のもてなしを受けました。

今回は、思いがけない成り行きに渡りに舟と食いつくレオポルドたちが、その語にジューリオの正体に氣がつくことになります。


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森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(21)修道院 -2-


 マーテル・アニェーゼは、さまざまな焼き菓子を一同の前に置き、薬草入りの白ワインをすすめた。
「城下町に滞在なさるご予定ですか」

「はい。安全で心地のいい宿をいくつかご存じでしょうか」
マックスが訊いた。

「そうですね。この近くにもいくつかございますが、あの森の村人たちとかち合わないようにとなると、かなり町の中心まで行く必要がございますね」
修道院長は考えながら答えた。

 ジューリオは、その会話を遮るように突然言った。
「ねえ。マーテル。いっそのこと、この人たちをここに泊めてくれないか? ここなら安全だし」

「まあ。でも、よろしいのですか? その……あなた様の……」
修道院長は、困ったように口淀んだ。

「少年のフリをしている女だとわかってしまう……と?」
レオポルドが言うと、2人は驚いたように見た。一行の誰も驚いていないので、どうやらとっくにわかっていたようだと、マーテルは肩をすくめた。

「もし懸念がそれだけだというのなら、今から城下町の中心まで行き、まともな旅籠を探すのも骨が折れるので、お言葉に甘えさせていただけるだろうか」
レオポルドは、マーテル・アニェーゼともう少し話をする機会を逃すつもりはない。

「そうですね。ここは修道院でございますので、申しわけございませんが、殿方様のお部屋と、奥方様のお部屋に分けさせていただきます。また、夕刻の祈りの時間には門の錠を締めさせていただきますので、あまり遅くまでの外出はできません。それでもよろしゅうございますか」
「もちろん異存は無い」

 マーテル・アニェーゼは頷いた。
「それでは、どうぞ、ゆっくりとご滞在くださいませ」

 レオポルドは、頭を下げた。
「ご親切に感謝します。もちろん相応のお代は支払わせていただくので、私の秘書であるこちらのマックスに申しつけていただきたい」

「私どもは旅籠ではございませんのでお代はいただきませんが、もちろんいくばくかでも寄進をいただければ幸いです。それでは、皆様のお部屋を用意いたしましょう」

 マーテル・アニェーゼが立ち上がると、ジューリオも立ちラウラとアニーの横に立った。
「わたしも、今日はここに泊まるんだ。あなたたちの部屋には私が案内しよう」

「エレオノーラ様」
マーテル・アニェーゼは咎めるような声を出した。

「いいじゃないか、マーテル。ここでの私は下人みたいなものだろう」
「冗談はおやめください、姫様。それに、今日のあなた様は、お祈りのためにここに泊まるお許しをお父様からいただいたんじゃありませんか。トゥリオ殿の看病とお客様のお世話は私どもがしますので、あなた様は大人しくなさっていてください」

 一同は、黙ってジューリオ、正しくはエレオノーラというらしい男装の姫を見た。

 当人は、ため息をついて答えた。
「わかった。じゃあ、この人たちの世話は任せた。何といってもこの人たちは、私の、つまりトリネアの恩人だしな」

 レオポルドとフリッツは、戸惑ったように目配せをしあった。

* * *


 案内された部屋に入った途端、レオポルドはフリッツに詰め寄った。
「おい。まさか、あれがトリネア候女だっていうじゃないだろうな」

 マックスも、「やっぱりそうなのか」と思った。

 聖キアーラ修道院長マーテル・アニェーゼは、トリネアの有力貴族ベルナルディ家の出身だ。その彼女が尊い姫のように扱っているということは、あんななりをしていてもかなりの家柄の令嬢なのは間違いない。加えて、かの男姫は自分たち一行のことを「トリネアの恩人」と言った。

 フリッツは、困ったように答えた。
「残念ながら、その可能性は高そうです。姫君の正式なお名前は、エレオノーラ・ベアトリーチェ ・ダ・トリネアでしたよね。そのうえ院長は姫様と呼んでいましたし。まあ、他に姫様と呼ばれる同名の女性がいる可能性もあるわけですが」

 レオポルドは頭を抱えた。
「あれはないだろう。あんな粗忽な姫なんて見たことがないぞ。勘弁してくれ」

「1つだけ、陛下の出された条件に合ったところもありますよ」
フリッツは、慰めるように言った。

「何だ」
「御母后様とはまったく似たところがございません」

 マックスは思わず吹き出しそうになったのをそっぽを向いてこらえ、レオボルドに睨まれた。
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Tag : 小説 連載小説

Posted by 八少女 夕

ラベンダーもらった

思いがけないいただき物をした話。

ラベンダー

先週の日曜日、大家さんと世間話をしていたとき「そういえば、ラベンダーのドライっている?」と訊かれました。私たちの住んでいるフラットは、広い芝生の庭があって、薔薇やラベンダーなどが植わっています。で、ラベンダーが盛りを過ぎて、しかも自然にカラッカラになったので刈り取ったらしいのです。自然にできたドライフラワーで、陰干しして作ったものと違って色はあまりよくありませんが、とてもいい香りがしています。

喜んでいただきました。この下の状態。紙袋2つ分です。かさばるし、このままでは使えません。なので大家さんももったいないけれどこのまま処分するか悩んでいたのでしょう。

ラベンダー

ここから、ドライフラワーとして使えるものと、花だけのものとに分けて切っていきました。単純作業ですけれど、量が多いのでけっこうかかりました。そして、余った茎の部分もけっこういい香りがしているので、捨てるには忍びず、1センチくらいに切りました。

使い道は、チンキにしてルームスプレーにしたり、お茶パックに詰めてサシェとして使うなど、いろいろと考えられます。

サシェ

先日から楽しんでいるスウェーデン刺繍を使ってサシェを作ってみました。天然の防虫剤としてタンスに入れておきます。

また、お世話になったひとへの小さなプレゼントとして、使う予定です。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(21)修道院 -1-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第21回『修道院』をお届けします。今回は2回にわけます。

人狼と思われていた男トゥリオを救ったため、村人たちに報復される可能性のある道を避け、一行はジューリオと名乗った少年の案内で聖キアーラ女子修道院へと向かっています。レオポルドは本来の身分と名前を隠したまま修道院長マーテル・アニェーゼと知り合えると目論んでいます。

この修道院ならびにマーテル・アニェーゼは一度外伝でも登場しましたが、モデルは中世ドイツのヒルデガルト・フォン・ビンゲンです。


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森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(21)修道院 -1-


 森の道は、半刻ほど登り坂のままだった。それからわずかに下り勾配となった。足下が崩れやすいので、1歩ごとの時間がそれまでよりもかかった。道幅が広く、歩きやすくなってしばらくしてから、かなり大きい灰色の建物が木々の合間から見えてきた。

「あれがその修道院か」
レオポルドが訊いた。

「ああ、そうだ。すぐに着く」
ジューリオはそう答えたが、実際に壁面にたどり着くまでは半刻ほどかかった。ここの道もかなりの傾斜で下り、歩みは再びゆっくりとなった。木々は広葉樹ばかりとなり、若葉の色もずっと明るい黄緑で、明るく感じられた。

 ようやく森から出て、石畳にも似た石盤が土の合間に敷かれた道を修道院の壁に沿ってしばらく歩いたところでジューリオは停まった。

「ほら、そこが裏門だ」
生い茂る蔦に隠れるように裏木戸があった。ジューリオは、辺りを確かめながら裏木戸を開けて、一行を塀の内側に入れた。

「ちょっとここで待っていてくれ」
そう言って、ジューリオは建物の中へと向かった。5人とトゥリオはその場に残った。

「なんだあれは」
レオポルドが眉をひそめて言った。フリッツが肩をすくめた。
「伝説の男姫でしょうか」

「《男姫》ユーリアは絶世の美女だったって話じゃないか。こっちは単なるちんちくりんだぞ」
レオポルドは吐き出すように言った。

 それを聴いて、アニーが驚いてラウラに耳打ちした。
「あの方、女性なんですか?」
「そうみたい。でも、ここで大きな声でその話はしない方がいいわ」
ラウラはトゥリオを目で示しながら答えた。

 しばらくすると、ジューリオが3人の尼僧と戻ってきた。背の高い女性には明らかに他の2人とは異なる威厳があった。彼女は一行に頭を下げると、レオポルドに話しかけた。

「当修道院の院長でございます。この度はとんだ災難でございました。この2人をお助けくださったとのこと、私からも御礼申し上げます。どうぞ中でしばしお休みくださいませ」

 レオポルドは、頭を下げた。
「それはご親切にありがとうございます。お言葉に甘えて、すこし休息させていただきます」

 尼僧たちは、下男たちを手配しトゥリオを手当てするため奥に連れて行った。レオポルドたちは、そのまま中庭へと案内され、そこで茶菓のもてなしを受けた。院長マーテル・アニェーゼとジューリオも一緒に座った。

 塀に囲まれた大きな修道院は、俗世間から隔離されていることもあり、小さな城のような様相を示している。広い庭園にはたくさんの野菜とともに薬草になる植物がたくさん植えられ、蜂が忙しく蜜を集め、鶏も歩き回っていた。

 修道女たちが心を込めて作ったパンや菓子の甘い香りが漂い、夏の熱い日差しを葡萄棚が遮る庭園での休息は非常に心地よかった。

「ラウラ様……」
アニーがそっと立ち上がりラウラの左に回った。見ると左手首に巻いたスダリウムが外れかけている。馬から下りるときにずれたのだろう。赤い皮膚の傷跡が見えていた。

 ラウラがルーヴランでマリア=フェリシア姫の《学友》として代わりに罰を受けていた頃は、この傷が癒える間もなく次の鞭が当てられたものだが、グランドロンに来てからそのようなことはなくなり、傷は完全に塞がっている。だが、その痛々しい跡はもう消えることがないので、王都やフルーヴルーウー城では金糸の縫い取りのついた厚手の覆いをしている。だが、それは平民に相応しいものでもなく現在の服装にも合わないので、この旅の間は白いスダリウム布で簡単に覆うようにしていた。

 アニーが、スダリウムを結び直している時に、ジューリオはその様子をじっと見つめていた。
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Posted by 八少女 夕

野菜づくりは楽しい

またまた家庭菜園の話です。

収穫

もともとは「食糧危機に備えなくちゃ」というような動機で試行錯誤を始めた家庭菜園ですが、最近は純粋に楽しむモードになってきました。

暑くなったり(といっても日本に較べれば湿度は少ないし快適な方です)、寒くなったり(7月や8月に最高気温11℃ってのはひどいと思う)、やきもきしながらも、夏のスイスではさほど作物がダメになる要因はなくて、なんだかんだいってコンスタントに野菜を収穫できています。お店と違って、毎日似たような野菜ばかりになりますが、それが旬って事ですよね。

うまく出来ない野菜はしかたないことと諦め、できた野菜や,多くなりすぎた野菜をすぐに食べたり冬のために貯蔵したり、日々やることがたくさんあります。

また収穫がだいたい済んだ野菜を放置している場合ではなく、土地を有効活用して秋冬の野菜も作らなくてはと頭を悩ませています。

ジャガイモ、ついに収穫しました。不織布のポテトバッグで作っていたのですが、去年よりも多くできたので満足です。といっても1㎏程度でしょうか。これで諦めるつもりはなくて、これから再挑戦します。

ちょうど玉ねぎも収穫し終わったので、その土をジャガイモに流用、そしてジャガイモを作った土で玉ねぎを作ることで連作障害を避けようという魂胆です。

私は家庭菜園初心者なので、まだまだ学ぶことがたくさんあるのですが、たとえ失敗した植物でも食べられる部分がたくさんあって、完全に無駄になった作物はまだありません。

秋のラウンドも頑張ろうと思います。
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Posted by 八少女 夕

【小説】地の底から

今日の小説は『12か月の建築』8月分です。このシリーズは、建築をテーマに小さなストーリーを散りばめています。

今月のテーマは、トルコはカッパドキアにある古代の巨大地下都市デリンクユです。当時はそういう名前ではなかったとどこかで読んだので古い名前を使いました。

これは、実際にこういうことがあったという裏付けのある話ではありません。デリンクユのことを調べている間に、「これってどうやって暮らしていたんだろう」と想像が膨らみ、いつのまにか生まれてきてしまった話です。


短編小説集『12か月の建築』をまとめて読む 短編小説集『12か月の建築』をまとめて読む



地の底から

 水面に月明かりが揺らめいている。セルマは静かに桶を浸した。痛いほどの冷たさを感じた。日中に外に出れば、怯えるほどの熱風に晒されるはずだが、この地底はアナトリア高原の厳しい夏とは無縁だ。少なくとも彼女はもう何か月も地上へは行っていない。

 セルマは、地下都市マラコペアの最下層に小さな部屋を与えられている。その役目を果たす時以外に彼女と関わろうとする者は非常に少ない。時おり、好奇心に駆られて話しかけてくる人はいる。しばらくの交流があり、やがて家族や友人たちに止められ、後ろめたそうに去って行く。いま、時おり訪れてくるファディルもいつかはそうなるのだろう。

 セルマは『水番』だ。地下都市マラコペアの最下層には地下水の泉がある。10以上ある同じような泉は、すべての階層の家族の命を支えている。この地下都市と地下通路で繋がっているほかの地下都市もまた、同じつくりになっている。この井戸は地上と地下の双方の住民のため使われており、地下都市にとっては、水汲みの井戸としてだけでなく、通氣口にもなっている。外界から空氣と光が差し込む唯一の場所だ。

 泉の周りに、入り組んだ細い通路や階段につながれた居住区が、互い違いに上下に存在する迷路のような構造になっており、セルマの暮らす最下層は地下8階にあたる。

 セルマや、他の井戸に住む『水番』は、上から降りてくる桶に水を汲み、それが引き上げられる前に少しだけ水を飲んでみせる。それが『水番』の勤めだ。外敵によって井戸に毒が投げ込まれれば、それは地下都市で生きるすべての家族の死を意味する。だから、『水番』が必要なのだ。

 地下都市マラコペアがいつ建設されたか、詳しいことは誰も知らない。主イエス・キリストが生まれる何百年も前の時代にヒッタイト人またはフリギア人が建設したという者もいるし、ペルシャ人たちは伝説のペルシャ王イマが建設した地下宮殿がここだと主張しているらしい。いずれにしても、大昔のことだ。

 キリスト教が急速に広がると同時に、それを問題視するローマ帝国では迫害も始まった。聖ステパノが最初に殉教してから120年ほど経った今、迫害を避けて移動してきた信者たちの多くがこのアナトリア高原の地下都市マラコペアにたどり着いた。

 もともとの地下都市の壁は硬くしっかりとしていたが、その奥の空氣に触れる前の火山岩層は脆く容易に掘り進められることがわかった。それで、人びとは単にここに隠れ住むだけではなく、地下都市を拡張させ、狭い通路と防御のための大人5人分ほどの重さのある引き扉を用意した。それどころか、敵が通ると背後に回り通路を閉じて行き止まりの空間に誘導する罠までも作った。

 住居だけでなく調理場、倉庫、家畜小屋、会堂、そして長らく地上へと戻ることのできないときのための墓所までが用意されている。

 祈りを捧げる信徒たちの歌声がわずかに響いてきた。ひときわ美しい声は『聖女』ペトロネッラだ。聖堂と呼ばれる十字型をした広い空間に彼らは集い、敬虔な祈りを捧げる。この地下都市に潜む数百家族のうち、明け方の礼拝で聖堂に常に集うのは司祭ヒエロニムスを中心とした数十人だけだ。

 ファディルは、その重要な人びとの1人だ。若く力強く、新しい通路を掘るための設計を任されている有能な若者で、いずれは有力な指導者の1人となるだろう。まだ独身で、青年たちの住居区画に住んでいる。

 井戸の1つ上の階層で水汲み窓に問題があったのを機に、セルマの仕事場兼居住場にやって来たが、それをきっかけにときどき話をするようになった。

 蔑まれる異教徒のセルマに対する公正な態度。朗らかで誠実な人柄、若々しく精悍な佇まい。セルマが密かに想いをよせるようになるのに時間はかからなかった。

 もちろん、願いが叶うことはないだろう。彼は『聖女』ペトロネッラの崇拝者のひとりだし、そうでなくても異教徒と関係を持つことは、彼や彼を取り立てた司祭ヒエロニムスの立場を悪くするだけだ。

 司祭ヒエロニムスは、何人かいる司祭たちの中では穏健派だ。同じ地下都市に潜む異教徒たちとの関わりを禁止しようとする厳格派たちをやんわりと抑えて、その必要性を唱えた。掘り進む通路を完成させるためには純粋な信者たちだけでは倍の時間がかかる。それに、現在『水番』となっているのは、みな異教徒たちだ。なぜなら、同じ信者の中に、理論的に犠牲者となりうる存在を出すわけにはいかないから。

 セルマの村とその周辺の地域は、ローマ帝国の税制に反対して壊滅させられた。生き延びるためには、キリスト教徒たちの力を借りて、この地下都市に住まわせてもらう他はなかった。男たちは人足となり、一部の女たちはキリスト教に帰依して共同体の一部になった。そうしなかった子供のいない女は、竈番になったり、『水番』になった。

 キリスト教徒たちは、異教徒たちを半ば奴隷化していることを信仰という名の大義名分で覆った。後ろためさを交流しないことでなかったものにしている。厳格派の司祭たちを支持する裕福な信徒たちは、『水番』や人足たちは、無料で安全と食糧を享受しているのだから彼らの奉仕を受け取るのは当然なのだと主張していた。

 久しぶりに穏健派の司祭であるヒエロニムスが、教会の中心となってからは、こうした異教徒たちへの冷たい扱いは、減ってきているかもしれない。

 ヒエロニムスを中心に……もしかすると本当の求心力を持っているのは、ペトロネッラなのかもしれない。

 セルマは、『聖女』ペトロネッラの整った清冽な横顔を思い浮かべた。聖ペトロの血を引く高貴な生まれだと、人びとがひれ伏し敬愛する若い女が、かつてエラという名で、セルマと同じ村でハシシの製造で身を立てていた少女だったと知る者はほとんどいない。

 ファディルは、セルマの言葉を信じなかった。
「言っていいことと悪いことがあるぞ。彼女は高潔で穢れなき魂そのままの顔かたちをしている。セルマ、妬みは君自身のためにならないよ」

 妬みか……。そうかもしれない。一番低い階層に、もっとも地上から遠い洞穴空間に潜み、賛美歌を聴いている。けれど、信徒たちのように、神の国の訪れを待っているわけではない。いつの日かローマ帝国の怒りを氣にせずに暮らせる日まで生き延びたい、それだけだ。

 桶に水を汲む度に、複雑な想いが渦巻く。地上を避けて地下都市マラコペアに隠るのは、教えを認めず迫害する人たちがいるからだ。毒を投げ入れるとしたら、それは教えを迫害する為政者の手の者たちであろう。だから、毒で死ぬとしたら殺害者はローマ帝国の手の者だ。

 それでも……。司祭ヒエロニムスも、『聖女』ペトロネッラも、他の信徒たち、そう、ファディルですら、毒を入れられた水で彼らの代わりに死ぬのは『水番』だとわかってその役目をさせているのだ。

 桶が降りてくる度に、数分後にも生き延びられていることを願いながら水を飲む。ここに来て以来、願いが叶わなかったことはまだない。だが、その幸運が続かなった同胞もいることを知っている。隣の泉で2か月前に起こった騒ぎの時には、しばらくセルマの泉に投げ込まれる桶の数がずっと増えた。

 あれ以来、信者たちは、食事の度に生命を賭けることを課されている『水番』たちともっと距離をとるようになった。誰が隣の泉に毒を入れたのか、本当に地上から投げ入れられたのか、それとも中に忍び込んだ敵がいるのではないかと、誰もが疑心暗鬼になった。そして、より疑われたのはやはり異教徒の住人たちだった。

 それぞれの井戸は離れており、人ひとりが身をかがめてやっと通れる狭い複雑な通路を通ってしか行き来できない。桶が投げ込まれたときにその場にいなくてはならない『水番』たちは、他の井戸へと向かうような時間的余裕はない。だから、セルマはほかの『水番』たちが、何を想っているかを確かめることはできない。全員が未だ生きているのかすら知らないのだ。

 地上には通じていない泉が1つだけある。地下都市マラコペアの中央にあり、聖堂の奥、普段は人びとが足を向けない墓所の先で、位の高い聖職者や有力者だけがその場所を知りいざという時のために守っている。すべての泉に毒が投げ入れられて飲み水が使い物にならなくなった場合のためだ。

 神とイエス・キリストを信じ、運命を共にする信仰共同体とはいえ、完全にすべての人びとを信じているわけではないのだ。2万人が暮らすことのできる巨大地下都市網、常に新しく掘り続けられる通路、信仰共同体の中の新たな上下関係が、また別の不信を呼び起こしている。

 異教徒たるセルマは、聖堂だけでなく他の人びとの部屋、ワインセラー、食堂などを訪れることは許されていない。

 共有スペースとなっている調理場を訪れることは許されている。床に埋められたタンドール竈で調理する調理場は、泉からさほど離れていない場所にそれぞれ設けられている。煙突から漏れる煙が外界から見えないように、調理は夜間だけに限られる。できたての肉やパンは、まず聖職者に、それから裕福な家族たちと順番に提供される。セルマはもう誰も訪れなくなった明け方に、そっと調理場を訪れ、黙って食事をする。

 司祭ヒエロニムスが聖書を朗読しているのを耳にしたのは、食事を終えて居住区に帰ろうとしたときだった。

 賛美歌の音色と、厳かな雰囲氣に心惹かれ、ロウソクの光を頼りに普段は向かわぬ聖堂への通路を通った。聖堂は地下都市の中でもっとも大きな空間を占めている。十字型をしており、天井や壁に壁画までが施されている。セルマはそっと聖堂脇の戸口の陰に座った。

もし食物のゆえに兄弟を苦しめるなら、あなたは、もはや愛によって歩いているのではない。あなたの食物によって、兄弟を滅ぼしてはならない。キリストは彼のためにも、死なれたのである。それだから、あなたがたにとって良い事が、そしりの種にならぬようにしなさい。神の国は飲食ではなく、義と、平和と、聖霊における喜びとである。

(ローマ人への手紙 14章15-17)



 尊敬する『聖女』ペトロネッラの周りに集まる若い婦人たちや、彼女を賞賛しその手を望むファディルと若者たちは、その聖句に神妙に頷いているが、彼らは知らないのだ。

 セルマの生まれ故郷がまだローマ帝国に対して反旗を翻す前のことだ。地域には広大な麻畑が広がっていた。過酷な夏にも涼しく心地よい上質な衣服や丈夫な縄を作るのに重宝された作物だが、葉や花を燃すことで酩酊効果があることも知られていた。

 貧しい村人たちは、パイプ用の樹脂を作成して、秘密裏に売り現金収入を得ていた。セルマと同じ村の娘エラも、パイプ用樹脂を作り売っていた。美しくあまたの男性に対する影響力を自覚していた彼女は、ローマからの差配人の誘いを断らなかった。ローマでは珍味として珍重されるヤマネ肉をご馳走してやると言われて彼と何度も逢ったのだ。そして、差配は、何度かめの訪問の時に、村で麻の樹脂を作成して密売していることに氣がついた。

 差配人は、その地域の不正をローマに進言することで出世した。セルマの村だけでなく近隣の50ほどの村が争いに巻き込まれた。

 村が、ローマとの争いで荒廃し、彼女を崇拝していたたくさんの若い男たちが命を落としていたとき、エラは差配人によってとっくに安全な南部地域に逃されていた。それから、彼女の身に何があったのか、セルマも他の生き残った村人も知らない。再び彼女が姿を現したとき、そこにいたのは若い男を籠絡してほしいものを手に入れていたエラではなく、愛と慈しみに満ちたキリスト教徒の鏡のような『聖女』ペトロネッラだった。

 彼女を知る者はもうほとんどいない。そして、何を言おうと、『聖女』に狂信的な忠誠を誓う信者たちは、異教徒のセルマたちの言葉など一顧だにしない。エラは、それをよく知っている。美しい面に慈しみに満ちた微笑みをたたえて、妄言を語る異教徒すらを許す信仰深き態度を演じてみせる。

「あなたの食物によって、兄弟を滅ぼしてはならない」
そう告げる聖書の言葉を、エラはどのような思いで聴いているのだろう。彼女が炙ったヤマネ肉と引き換えにして捨てた故郷の村はもうない。戦って死んでいった崇拝者たちも、人足として、あるいは『水番』として蔑まれつつ、時には命を失う不条理に耐えて生き延びるかつての同郷者たちを、偽りの特権の座から眺めるのはどんな心持ちなのだろう。

 聖堂の中心、司祭と共に会衆に向かって立っているエラは、戸口に潜むセルマに氣づき、挑戦するかのような冷たい視線を向けた。他の信者たち、司祭ヒエロニムスも氣づかぬほどのわずかな時、まったく違う立場になってしまったかつての同郷者たちは、瞳を交わした。

 司祭ヒエロニムスが、聖餐を記念する聖句を唱え出すと、『聖女』ペトロネッラは我にかえり、祭壇の脇に置かれた水差しを手に取った。その中のワインは、司祭ヒエロニムスが祝福することで聖水となったと信者たちにありがたがられている水から作られた。一方で、その水をセルマが汲んだおり、毒が入っていないか確かめた行為は考慮され感謝されることもない。

 ファディルが聖なるパンを捧げ持ち、水差しを持つ『聖女』ペトロネッラと並んで司祭の待つ祭壇へと運んでいった。ヒエロニムスの唱う聖句に合わせて信者たちが唱和する祈りの響きが聖堂に満ちた。悲しいほどに美しいハーモニーが、地底の聖域に響き渡る。

 信徒たちは、迫害にも負けぬ清らかな心と互いに対する善行という正しさを拠り所に、『聖女』と共に天国に入る鍵を手に入れようとしている。彼らが今や日々口にするすべての食物や飲み物に入る水に込められた、セルマの苦い想いは氣づかれることすらない。
 
(初出:2023年8月 書き下ろし)

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Respighi: Pini di Roma, P. 141 - II. Pini presso una catacomba

私にとっての「ローマ時代のキリスト教迫害」のイメージといったら、誰がなんといおうともこの曲なんですよ。今回の作品はこの曲のイメージから何となく生まれてきたものです。
* * *

デリンクユについて興味をお持ちの方は、こちらがわかりやすくて興味深かったです。

デリンクユ:かつて2万人が生活していた地下都市とは
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Posted by 八少女 夕

作物チョイスの話

あいかわらず家庭菜園の話。

オクラ

私が素人家庭菜園をはじめるにあたって、参考にするのはやはりかなりの部分が日本語の情報です。ネットにしろ、園芸雑誌にしろ、ドイツ語の情報だっていくらでもあるんですが、やはりたくさん読んで間違いなく理解するのは日本語の方が楽です。さらにいうと、日本人の「懇切丁寧体質」はこういう情報にも表れていて、やはりそっちの方が早いんです。

とはいえ、日本とスイスでは氣候が違いますし、標高や土だって違うので、日本でうまく行くものがスイスでもうまく行くとは限りません。その逆も然りで、難しいと言われていたものがスイスでは簡単な場合もあります。

例えば、上の写真のオクラ。日本だと初心者向けの野菜だと紹介されていますが、スイスではうまく育ちません。ものすごく大きくなるという話だったのに、全然育たず、ようやく1つだけ花開きましたが、収穫は1つか2つぐらいじゃないかなあ……。

反対にほぼ放置でも問題なく育つのはハーブの類い、サラダ類、そして豆類です。

モロッコインゲン

去年は室内で育てようとしたために、5莢くらいしか獲れなかった枝豆は、放置に近くてもたくさん膨らんできました。

実は、枝豆とモロッコインゲンを植えた場所に、たまたまユウガオが雑草として生えてきてしまい、花が咲くまでそのツルを枝豆だと思い込んで大事にしていたのです。花が咲いてユウガオだとわかり、枝豆は失敗して生えてこなかったのだと思い込んでいました。

先週ぐらいから、写真のようにモロッコインゲンが収穫できるようになってきたのですが、よく見るとそれに混じって枝豆もできはじめてきています。いつの間に!

私の植えたモロッコインゲンは55日、枝豆は70日と言われているので、枝豆が食べられるサイズになるにはあと2週間くらいかも。

今は、毎日モロッコインゲンとほうれん草や野良坊菜を収穫しては付け合わせにしています。

トマトもずいぶん大きくなっていますが、赤くなるまではもう少し待たないと。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(20)人狼騒ぎ -3-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第20回『人狼騒ぎ』の3回にわけたラストをお届けします。

人狼を罠にかけてリンチしようとしている村人に、無謀にも立ち向かっていく少年を放っておけずレオポルド、マックス、そしてフリッツの3人は様子を見にいきました。(あいかわらず前作の主人公たる約1名は全く役に立っていませんが……)

かつて外伝で登場させたことのあるこの少年の格好をした人物は、歴史上の男姫ヴィラーゴジュリアに憧れているのでジューリオと名乗っています。男姫ジュリアの方は(超問題ありな言動はともかく)絶世の美女だったということですが、我らがヒロインの方は、まったくそういう属性はありません(笑)


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(20)人狼騒ぎ -3-


 一番威勢のいい男が棒を振り上げて少年に向かって振り下ろした。ダガ剣がそれを受け止め、意外にもあっさりと男を後ろにはね返した。

「手加減してやったのに、この野郎!」
他の男たちも次々と少年に襲いかかる。そこそこ剣の腕前はあるようだが、多勢に無勢で明らかに少年の分が悪い。

 少年に跳ね返された棒が1つ、マックスたち3人の近くに飛んできた。レオポルドは徐にそれを拾うと、一番近くの男の後頭部にそれを投げつけた。

「いてっ。何すんだ!」
振り返った男は、他にも3人の男がいるのにはじめて氣がついた。
「何だお前ら。人狼の味方かよ!」

 レオポルドに向かって男が突進してきたので、すぐにフリッツが剣を抜いた。

「やり過ぎるなよ」
レオポルドの言葉に答えながら、フリッツは既に応戦していた。
「わかっていますよ」

 6人の村人たちは、少年ひとりならともかく、鍛え抜かれたフリッツとレオポルドに敵うわけもなく、数分以内に全員が棒を失った。

「ちくしょう。1度退散だ。応援を呼んでこようぜ」
ひとりの男の声を合図に、6人ともほうほうの体で逃げ出していった。

 少年は、急いで落とし穴に向かい、魚網をどけて中の汚い男に手を差し伸べた。
「トゥリオ! 探したぞ」

「申しわけございません」
物乞いでもこんなにひどい格好をしているものは珍しいと思うほどの男だが、驚いたことにきちんとした言葉遣いをした。

 マックスは、急いで落とし穴に向かい、手を差し出して少年と一緒にその男を引っ張り出した。見ると男は足をくじいたのかまともには歩けない。

「あなた様にこのような危険を冒させてしまいました。到底許されることではございません」
「何を言う。もちろん助けるとも。兄上やペネロペが生きていたら、きっと同じようにしたはずだ」

 少年と男の会話を聞いていると、どうやらこの男は人狼などではないだけでなく、ある程度の身分ある屋敷の家人のようだ。レオポルドたちは目配せをしあった。

「加勢していただき助かった。礼を言う」
少年は、3人に頭を下げた。トゥリオと呼ばれた汚い男もまた頭を下げた。

「大したことはしていない。だが、あいつらが戻ってくるまでに、ここを離れた方がいいな」
レオポルドが答えた。

「迷惑をかけて申し訳ない。そなたたちは旅人か」
少年は、訊いた。

「ああ、トリネア城下町まで行く予定だが……」
マックスが答えると、少年は首を振った。

「それはよくないな。この道を行くとあいつらの村を通ってしまう。私が別の道を案内しよう」

 それで、一行は急いで馬に荷物を載せた。歩けないトゥリオはフリッツの馬に乗せ、一行は少年と一緒に歩いた。

「私はジューリオという。ここにいるトゥリオは追われている知人なのだが、この森に隠れていることを知り、救出に来たのだ。1人では助けられないところだった。そなたたちの加勢に、心から礼を言う」
 
「私は商人で、デュランという。そなた1人で立ち向かうのは無謀だったな」
レオポルドが言うと、ジューリオは俯いた。
「わかっている。相手の人数が多すぎた。でも、あのままにしていたらこの男は殺されてしまっていただろう」

「そうかもしれんな。……もっとも、遠吠えをしたり、羊をかみ殺したりしたというなら、公に裁いてもらっても同じことになった可能性もあるな」
レオポルドが言うと、ジューリオは色をなした。
「トゥリオがそんなことをするはずはない。人狼ではないんだから。目撃者なんてあてになるものか」

 トゥリオは、申し訳なさそうに口をはさんだ。
「羊をかみ殺したりはできませんが、遠吠えの真似事はしました。村の子供たちが、面白半分に近寄ってきたことがありまして……」

 一同は、馬上の怪我人を見つめた。ジューリオは呆れていった。
「じゃあ、人狼の噂が広まったのは、お前自身のせいなのか?」
「はい。もうしわけございません」

「たまたま近くに本物の狼が出たのも噂を広めることになったのかもしれませんね」
マックスがつぶやいた。

 ジューリオはため息をついた。
「おかげでお前の居場所の予想はついたけれど……。でも、運が悪かったら、向こうが先にお前を見つけてしまったかもしれないんだぞ」

 トゥリオは頭を下げた。レオポルドと顔を見合わせてから、マックスは訊いた。
「向こう?」

 ジューリオは答えた。
「このトゥリオに人殺しの罪をなすりつけて亡き者にしようとしたヤツらだ。でも、それが誰だかはっきりしないので、このまま彼を連れ帰ることはまだできないんだ」

 レオポルドは訊いた。
「じゃあ、そなたはいま、どこに向かっているのだ?」
「トリネア城下町の外、聖キアーラ会修道院に行く。院長は私の知りあいなので、トゥリオのことも匿ってくれるはずだ」

 聖キアーラ修道院と聞いて、レオポルドとマックスは顔を見合わせた。かつてトリネア候女との縁談を持ち込んだのは、他ならぬ聖キアーラ女子修道院長のマーテル・アニェーゼだった。

 身分を隠したままマーテル・アニェーゼやその近くの尼僧たちと知りあいになれるとは、トリネア事情を知るのに望んでも得られぬ好機だ。
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