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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

晩秋のガーデニング

初心者家庭菜園の話。

自家製ミックスベジタブル

盛夏には、食べても食べても減らないくらい同じ作物が採れていたのが、この寒さでそういうことはほとんどなくなりました。

とはいえ、遅れてきたロマネスコ、ニンジン、とても小さいピーマン、3つくらいしか成っていないしょぼい枝豆、などなど小さな成果をかき集めるだけで1食分のミックスベジタブルが出来上がります。これはこれで善きかな。

サラダ菜

冬に向けて、家庭菜園での野菜があまりなくなることを見越していろいろと実験も重ねています。たとえば、サラダ菜の一部は窓際のプランターに植えましたが、これは寒くなったら部屋の中に入れる予定です。その他に、冬にはスプラウトをたくさん育てます。

大量の冷凍、または乾燥野菜もあるので、おそらく冬もほとんど野菜を買わなくて済みそうです。

濡れ落ち葉集め

そして、今年初めて挑戦しているのが、来年に向けた土作りです。というか、先日大量の濡れ落ち葉を見て、これを捨てるのはもったいないと思ったからなのです。

ちょうど、トマトを引き抜いて大量に余ったプランター土があったので、落ち葉と重ねて腐葉土を作ってみることにしました。

ネットの情報も参考にしましたが、先日日本から取り寄せた「もっと上手に小さい畑: 15m2で45品目をつくりこなす」という著作です。著者の斎藤進氏は、わたしが借りている畑とほぼ同じくらいのやはり借りている畑で、試行錯誤を重ねながら大量の収穫に成功なさっている方で、今年うまく行かなかったことに対するヒントがたくさんある本でした。

経験だけでなく、土地も天候も畑の条件も違うので、急にここまではいかないでしょうが、来年は参考にしたいと思っています。

そして、実は「これはやらないか」と諦めていたのが、自分でする土作りです。が、放置されていた濡れ落ち葉と、連作障害間違いなしのトマトの残り土を見ていたら「こんなにあるんだからやってみよう」と思ったのです。

腐葉土作り

やっていることは簡単で、土と鶏糞的肥料(亡き義母からのもらい物)と濡れ落ち葉を交互に重ねていくだけ。これを3週間ごとに入れ替えて春まで熟成させるのです。

うまく行くかわかりませんが、たいして手間はないのでやってみようと思います。新しくプランター用の土を買ってくるのも重いので、少しでもその量を減らせたらラッキーですものね。
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Category : ガーデニング

Posted by 八少女 夕

【小説】完璧な美の中に

今日の小説は『12か月の建築』10月分です。このシリーズは、建築をテーマに小さなストーリーを散りばめています。

今月のテーマは、インドのタージ・マハルです。わたしはまだインドに行ったことがなく、この有名な霊廟も行ったことはないのです。なので、イメージはすべて動画を観ながら育てました。

ムガール帝国も、同じ「12か月の建築」で紹介したカンボジアのクメール王朝と同様、凄まじい権力争いで皇帝位を維持してきたらしいのですが、クメール王朝よりもっとすごいのは、実の兄弟を毎回皆殺しにして帝位に就いているってことなんですよね。そうした壮絶な背景のもと続いた王朝の最盛期とも言われる親子姉弟の愛憎をイメージしながら作られた物語です。

ちなみに両腕を切り取られた工匠の伝説は、おそらく史実ではないとされています。とはいえ、これまた興味深い人間関係を想像させたので、登場させてみました。


短編小説集『12か月の建築』をまとめて読む 短編小説集『12か月の建築』をまとめて読む



完璧な美の中に

 赤砂石でできた正門建築の中に入るとアーチの向こうに白い大理石に覆われた「貴婦人の廟園」が浮かび上がる。ムガール帝国第6代皇帝アウラングゼーブは、ふと視線を隣の輿に乗る姉に向けた。

 長い確執の果て、再びその名誉を回復して帝国第一の貴婦人として遇することにした皇女ジャハーナーラー・ベーグムは、かつてと変わらぬ美しさと威厳を保っていた。

 幽閉されたまま失意のうちにこの世を去った父、第5代皇帝シャー・ジャハーンの最後の栄誉の完成を見るために、アウラングゼーブとジャハーナーラーは、この白亜の霊廟を訪れた。先帝の遺体は、伝統に従いアグラ城の壁を破り、ヤムナー川を渡る船に乗り、幽閉中に眺め続けたこの霊廟の地下玄室、誰よりも愛した妻の隣に葬られた。

 ここは、シャー・ジャハーンの妃アルジュマンド・バーヌー・ベーグムのために建立した墓廟である。「愛でられし王宮の光彩」を意味するムムターズ・マハルの称号を持つ彼女は、ヒジュラ歴1040年ズルカイダの月に、皇帝に伴われてデカンに遠征中に第14子である皇女ガウハーラーラー・ベーグムを産んだ後に産褥死した。

 彼女を深く愛した皇帝は、その遺言の1つに従い、「後世に残る墓廟」の建設を決めた。そして、霊廟、付随する4本の尖塔、向かい合うモスクと集会場、そして大楼門が完成するまでに17年、縁者の墓などの周囲付帯施設の完成まで含めれば22年という月日と、莫大な費用をかけて完成させた。

 母親が亡くなったとき、アウラングゼーブはまだ13歳だった。彼自身には母親との思い出はほとんどない。父親がフッラム皇子と呼ばれていた頃、祖父である皇帝ジャハーンギールに反乱を起こし敗北したために、2歳のアウラングゼーブは兄とともに人質としてジャハーンギールのもとに送られた。父が他の兄弟たちを殺害し皇帝となったために9歳の時に解放されたが、諸地方へ遠征する父皇帝に常に同行する母親と過ごす時間はほとんどなかった。

 姉と並んでここを訪れたのは初めてだ。50歳を超えても、10年近い幽閉を経ても変わらぬ美貌を保つジャハーナーラーの横顔には、ほとんど何の表情も浮かんでいない。

「姉上。父上の平和な崩御へのご尽力に感謝申し上げます」
そうアウラングゼーブが低い声で言うと、彼女ははじめて謎めいた微笑を見せた。

 病床の父を説得し、皇位を簒奪したアウラングゼーブを許すという文書に署名をさせることができたのは、彼女だけだった。

 誰よりも愛した長男ダラー・シコーの首を送りつけられ、その長兄を偏愛したことへの不平の手紙ばかりを送られ、個人の財産も取りあげられて上履きすら新調できぬ苦境に立たされた廃帝が、心の底から3男アウラングゼーブを許したかどうか、今となっては知る術もない。だが、アウラングゼーブにとっては、謀反を企てる臣下への牽制として、書面への署名こそが重要だった。

 彼自身も憎み続けた父が、自分を許すかどうかということは、大して重要ではなかった。横に並ぶ姉が、自分に対して昔と変わらぬ愛情を持ち続けているかも知りたくはなかった。父を愛し、ダラー・シコーをも愛した姉が、自分を完全に愛せるはずがない。

 それでも、スーフィズムに傾倒する姉は、家族の他の誰よりも彼の理想とするイスラム法による帝国支配の理解者だった。博学で有能、比類無き美貌、そして、親子兄弟姉妹間で幾たびも起こった裏切りと策略の合間を泳ぎ、誰の権能の下でもその地位を守り抜くしたたかさを持っている。ムガール帝国の皇女である彼女が、現在まで生き続けていることこそが、油断ならぬ女性である何よりもの証拠だ。

 正門から出ると、アーチからは見えなかった4本の尖塔を従えた堂々とした霊廟と庭園が全貌を現す。強い陽光が、白亜の大理石に反射して見る者の眼を射る。そして、庭園のかなりの距離を進み、人の3倍近い高さの基壇の上に霊廟がそびえている。

 方形の四隅を切った八角形の建物は、どこから見ても同じように見える対称に作られている。

 さらに近寄れば、工匠たちが技術と芸術の粋を尽くした偉大なる細部が見えてくる。

 その廟は、単なる権力者の愛する妻の墓というだけでなく、「夫への愛を貫き、多くの子をなす偉業を成し遂げ、男性の聖戦と同義と見做される産褥によって命を失った」という理由で殉教した聖者として巡礼されるべき宗教施設としての性格も兼ね備えていた。

 建物はラージャスターン地方の白い大理石、ファテープル・シークリーの赤砂石で覆われ、ブンデールカンドのダイヤモンド、パンジャーブのジャスパー、スリランカのサファイア、中国の翡翠、エジプトのベリドット、ペルシャのアメシスト、アフガニスタンの瑠璃、アラビアの真珠と珊瑚など、既知の世界すべてから集められた宝石・宝玉がはめ込まれた。

 大理石に彫り込まれた唐草模様。貴石を使った象眼細工。シリアやペルシャの書家が刻んだクルアーンの聖句。トルコの設計師が指導した堂々たる丸屋根。

 入り口は、むしろ小さく見える。中に入れば、扉の蜂の巣構造から差し込む光が象眼細工を美しく照らす。輿から降りて、姉と共に霊廟に入ったアウラングゼーブは、内部をぐるりと見回した。

 母ムムターズ・マハルを讃える慰霊碑が完璧な八角形の2階建てドーム型の部屋の中央にある。そして、その脇に、シャー・ジャハーンの慰霊碑がひとまわり大きく作られた。

 ジャハーナーラーは、思わず息を飲んだ。

 アウラングゼーブはその姉の様子を見て、わずかに口髭の下で唇を歪ませた。
「誰よりも愛された母上の隣に眠られたこと、父上はさぞお喜びでしょう」

 その心にもない詭弁に、姉は反応しなかった。父はイスラムの伝統に従い、この霊廟に完全な対称性を持たせることを望んでいた。東西だけでなく南北にも対象にするために、ヤムナー川の対岸に黒いもう1つの霊廟を建てて、死後はそこに眠ることを切望していた。

 それに対し、アウラングゼーブは、黒い霊廟を建てることを拒否しただけでなく、母親の霊廟の心臓にあたる慰霊碑の空間に、父親の慰霊碑を無様な位置に割り込ませることで、その対称性を壊したのだ。

「そこにいるはウマーか」
アウラングゼーブの言葉に、ジャハーナーラーは足下に畏まる1人の工匠の姿を目に留めた。

「はい」
「ご苦労であった。いい仕事をした。父上の慰霊碑の象嵌は、母上のそれと見分けがつかぬほどの出来だ」

 ジャハーナーラーは工匠の顔をじっと見た。よく似た顔をどこかで見た記憶があった。

「この植物の象嵌をしてくれる腕のいい工匠がなかなかみつからなくてな」
弟帝の言葉に、皇女は眉をひそめた。

 この霊廟の建設は、多くの工匠たちを富ませた。厳格なスンニ派で、自身のためは決してこのような豪奢な墓を建てさせることはないであろう新帝が、今後はないであろう高額な工賃を払うとわかっているのに、この仕事を工匠たちが好まないとは考えにくい。

 姉が理由を理解していないことを見て取って、アウラングゼーブは付け加えた。
「忘れたか。父上が象嵌を施した工匠の両腕を切り取ったことを」

 ジャハーナーラーは、息を飲んだ。そうだ、あれはここの象嵌を担当した男だった。完璧な仕上がりに満足した父帝が、褒美を授けるために王宮に呼び出した日のことを彼女はまだ覚えていた。

 ペルシャの血の入ったその男は、母ムムターズ・マハルの祖父イティマード・ウッダウラが、ムガール帝国に移住する際に連れてきた職人らの出身だった。

「慰霊碑は、そなたが担当したと聞いた。見事な細工だった。どのような褒美を望むのか」
シャー・ジャハーンは問うた。ジャハーナーラーは、その時に既に父の言葉に潜む棘に氣がついていた。

「なにも。亡き王妃様は、まだお嬢様であられた頃、わたくしの細工を愛で褒めてくださいました。あの方のための慰霊碑を完成できただけで、わたくしは満足でございます」
男はまっすぐに皇帝を見つめ帰した。

 妻を悼むため、白い服しか身につけなくなった父と、やはり全身を白で包む工匠の目が合い、ジャハーナーラーは、2人のあいだに物言わぬ戦いがあることを感じた。皇帝は、彼が出会う前の妻を知る男に対して激しい怒りを感じ、そして、工匠は14人もの子を産ませ、戦地にも連れ回したがために産褥死させることになった皇帝の后への独占欲に無言の抗議をしていた。

 いや、それは、ジャハーナーラーの思い込みかもしれない。何があったか、今となっては誰にもわからない。

 覚えているのは、父帝が立ち上がって言ったことだ。
「では、余からの褒美を与えよう。両手を前に出せ」

 工匠の白い服は父が切り落とした両腕の鮮血に染まり、ジャハーナーラーはショックで氣を失った。

 彼女は、兄に話しかけられて畏まる工匠ウマーをもう1度見つめた。誰かに似ていると思ったのは、あの両腕を失った工匠だ。瞳に宿る強い光も、あの男のものそのままだった。

 あれから、20年近く経っている。ここにいる男は、もしかしたらあの男の身内なのかもしれない。弟アウラングゼーブは、あの事件の時には王宮にはいなかったから、あの男の顔を知らないのだろう。

「誰もが嫌がる仕事に完璧に応えてくれたことに礼を言う。褒美は望むままに取らせよう。もちろん腕を切り取ったりはせぬぞ」
アウラングゼーブは笑って言った。

 男は、深く頭を下げた。
「わたくしめも、『何も望まぬ』などとは申しませぬ。妻と子が路頭に迷わぬよう、わたくしめの働きに応じた褒賞をいただければ幸いです」
 
 男が退出した姿を見送り、アウラングゼーブは姉を振り返った。ジャハーナーラーは、憂いの混じった顔つきで、並ぶ父母の慰霊碑を見つめていた。

「姉上。私をひどい男とお思いか」
その声に振り向き、弟がこちらを見ていることに氣がついた。

「何に対して? すべての潜在的な父上の後継者たちを倒さねばならなかったことですか? それとも、父上に許すことを強要しても、あなた自身が父上を許さなかったことですか?」
「そのどちらも」

 彼女は首を振った。
「兄弟を皆殺しにして即位したのは、父上も同じ。家族でありながら、完全に愛することができないのも、あなただけではありません。このように大きく壮麗な霊廟を作って、なんになるのでしょう。父上と母上がこの世にもたらしたのは、争いと死ばかりではありませんか」

 アウラングゼーブは、わずかにホッとした表情を見せた。
「姉上。わたしは偽善者にはなりたくなかった。悼んでもいない父上のために似たような黒い霊廟を建て、財政を悪化させ民を疲弊させることよりも、神の意にかなうイスラム法シャリーアによる政治に力を入れたい。それをあなたにだけは伝えたかった」

 ジャハーナーラーは、弟帝が「托鉢僧ダルヴィーシュ 」「祈りを捧げる人ナマーズィー」とあだ名をつけられていることを思いだした。実際に彼は、曾祖父アクバル大帝以来の宗教融和政策をイスラム法シャリーアで統治するよう大きく転換したのだ。それを彼女もまた評価していた。

 皇女は、弟と別れ、霊廟から出て輿に乗った。振り向くと庭園の向こうに完璧な対称性を維持した白亜の霊廟が見える。帝国の権威を世に示し、イスラムの楽園をこの世に実現した完全な調和が広がって見える。

 その中心に、当の両親の眠る場所だけが、どうしても流しきれないわだかまりと同じように、深い沈黙の中、完全性からとり残されている。それは、彼女の弟に対する愛憎と同じであり、完全なイスラム精神に至れない自分自身の鏡でもある。

* * *


 ウマーは、黄金の入った袋を抱えて、帰路を急いだ。思っていたよりもずっと重かった。つらく苦しかった日々がようやく報われた。

 褒美をもらう代わりに両腕を失うことになった父親が、王宮で何をしでかしたのか知らない。家に運び込まれたとき、血を失いすぎて、父親はもう何かを語ることはできなかった。

 霊廟の象嵌が完成するまでの長い時間、彼の母親と子供たちがどれだけの者を犠牲にしてきたのか、父親は考えたのだろうかと、幾度も思った。働き盛りだった父親を失い、その後ウマーの一家は辛酸をなめた。

 彼は亡くなった父を悼む代わりに、その軽率さを憎み、やがて父が得るべきだった褒美を自分が代わりに得ることだけを励みにこれまで生きてきた。

 シャー・ジャハンの慰霊碑に彼は持てるすべての技術と知識を詰め込んだ。父親に報酬を与える代わりに、命を取った冷徹な皇帝は、我が子に幽閉され惨めな最後を遂げた。そして、彼に莫大な報酬を払ったのは、その簒奪者アウラングゼーブ帝だ。

 彼は、振り向き白亜の霊廟を見つめた。完璧な美が夕陽に浮かび上がる。その中心に、多くの聖句に囲まれて、2つの慰霊碑と2つの棺が眠っている。怒りと、無念と、許せぬ想いと、そして虚しさが、外からは誰にもわからぬような静けさのまま、ただ据わっている。
 
(初出:2023年10月 書き下ろし)

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India's Taj Mahal Is an Enduring Monument to Love | National Geographic
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Posted by 八少女 夕

スイス連邦議会総選挙

政治の話……というほどの大袈裟なことでもありませんが。

スイス国会

今週末は、スイス連邦議会総選挙です。

スイスという国は、日本と比較すると国民の政治に対する関心が平均的に強いと思います。これは直接民主制で、重要課題に自分で1票を投じることができることも大きいですし、普段のものの考え方に「みんなと同じ」「上のいうことにしたがっておけばいい」という他人任せが少ないこともあるかなと思っています。

さて、そんなわけで、政策などに関する投票の前には、それぞれの利点欠点や争点を書いたチラシが入ったり、スーパーや新聞でその話題が書かれて真剣に考える題材がたくさんあるのですけれど、国会議員にあたる連邦議会の議員選挙に関しては、ちょっとわかりにくいのです。

国民議会(下院)の方は、政党の主張を元に判断すればいいのでまだいいんですけれど、全州議会(上院)の方は支持する政党から出ていないどころか、候補者の一覧も手元になかったりして、どうすればいいのか途方に暮れる感じです。

ネットで調べてみたら、候補者とそれぞれの主要な政策に関する主張などがまとめてあったので、これを見ればいいのかと理解しましたが、これってよほど政治に興味がないとたどり着けないよな……と思ってしまいました。

ちなみに候補者の顔写真のポスターはあちこちにありますし、ド田舎のこのあたりだと、候補者の何人かが顔見知りだったりするので、コミュニケーションがしっかりとしている人たちは、候補者たちそれぞれの主張などをわかっているのかもしれません。

日本と違って街宣の車が候補者の名前を連呼するというような選挙活動はありません。集会で主張を説明する会などはあるようですが、ぼーっと歩いていてそうした演説を聴く機会はなさそうです。これって、自分で関心を持って考えるのが当然って事なのかなと考えてしまいます。

ちなみに、どの党が数の上で第一党となっても、その党が政治を自由にできるということはありません。閣僚は主要な党からバランスよく選ばれますし、大事なことは国民投票になります。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(24)予期せぬ再会 -3-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第24回『予期せぬ再会』3回にわけたラストをお届けします。

敬愛するラウラとその一行の嘘を護るため、嘘に嘘を塗り重ね泥沼に嵌まりつつあるアニー。幸い、ギースに対して嘘をつかなくてならないのは一行だけでなかったので、首の皮一枚で繋がった模様。これで、しばらくアニーは一行から離れて静養することになってしまいます。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(24)予期せぬ再会 -3-


 なんとか行かずに済む方法がないか考えたが、彼女が遠慮していると思い込んでいるエマニュエルは、性急に立ち上がり、彼女を抱き上げると馬に乗せてサンタ・キアーラ修道院へと急いだ。

 旅籠の陰からそれを見ていたフリッツとフィリパは、急いで馬をつないである木の所まで戻った。

「なんだい、ヘルマンの旦那。ずいぶんとご機嫌斜めだね」
フィリパに茶化すように言われて初めて、ようやくフリッツはひどく苛ついていたことに氣がついた。なんだ、あの氣障な伊達男は。虫唾が走る。

「別に、機嫌が悪いわけではない」
「そうかい。あの貴人はヘルマンの旦那の『奥様』とずいぶんと親しそうだったけどねぇ」

「それは私の知ったことではない」
「おお、こわっ」

「くだらないことを言うな。それよりも、厄介なことになってきたな。あの男の前に顔を出すわけにはいかないが、なんとかアニーと連絡をとらねば……」

 フィリパは、訊いた。
「あの男、知っているヤツか?」

「ルーヴランの紋章伝令副長官エマニュエル・ギース殿だ。ノードランドの戦いの停戦交渉の場にいた。私の顔までは覚えていないかもしれないが、陛下のことはすぐにわかるだろう。それに、ルーヴ城にいた伯爵ご夫妻のことはもっとよく知っているはずだ。……だからアニーも同行者とははぐれたなどと嘘を言ったんだろう」

 フィリパは頷いた。ギースとアニーの向かった修道院に向かっていたが、辻で立ち止まると、フリッツに提案した。
「そうか。ならば旦那はいま出ていかない方がいいな。あたしは身分を偽っているわけじゃないし、ちょっと寄って様子を見てこよう。旦那は、その辺で待っていてくれ」

「そうだな。頼む。私はあそこの屋敷の陰で待っていよう」

* * *


 ギースが修道会に着くと、修道院の下男らは「これはギース様、お久しぶりでございます」と頭を下げた。

 アニーは下男たちに顔が見えないように、リネン布を少し引いた。この感じだと、ギース様とマーテルはお互いにとてもよくご存じの仲なんだわ。どうしよう。

「今そこで、溺れかけた娘を庇護したのだ。申し訳ないが、マーテルに手当をお願いしてくれ」

 ギースはすぐに中に通され、建物の中で診療に使われている小さな部屋に案内された。アニーは、ギースに抱きかかえられたまま、どうやってあれこれ露見するのを防ごうか頭を悩ませていた。

 すぐにマーテルがやって来た。
「ごきげんよう、エマニュエル。久しぶりにいらっしゃったと思えば、何があったのです?」

「久しぶりだね、アニェーゼ。トリネアに来たので、いつものようにあなたに挨拶するつもりでこちらに来たんだ。そうしたら、そこで溺れかけたルーヴラン人がいると通訳を頼まれてね。行ってみたら、なんと知っている娘だったんだ。しかも、数日来、同行者とはぐれて行き場もない状態らしいんだ。水を飲んでしまっているみたいで、手当をお願いしたい。費用はいくらかかっても払うので請求してほしい」

 マーテルは濡れたリネンに包まれた娘の姿を見ると、すぐに他の尼僧に着替えや乾いた布を取りに行かせた。
「わかったわ。この方の着替えをさせて手当をするので、あなたは呼ぶまで隣の部屋に行っていてちょうだい」
「わかった。じゃ、アニー、また後で」

 アニーと呼ばれたのを聞いて、マーテルはリネンを深く被っている娘の顔をのぞき込んだ。それからはっとしたが、エマニュエルの前で声を出すようなことはしなかった。

 彼が部屋から出ると、扉をしっかりと閉めてから戻ってきて小さな声で言った。
「いったい何があったのですか」

 アニーも同じように囁いた。
「『死者の板橋』が流されてしまって、私だけ川に落ちてしまったのです」
「他の方は?」

「無事だと思います。主人たちが姫様のいる離宮に向かっていることは他言しない方がいいかと思い、1人だったと言ったのですが……」

「そうですか。賢明なご判断に感謝します。エマニュエルはキリスト教徒としては素晴らしい魂を持つ人ですが、ルーヴラン王宮に勤める身、離宮にいるエレオノーラ様が病気ではないことや、今ここでトゥリオ殿を匿っていることは、悟らせたくないので……あなたのことを私は知らないことにしてもいいかしら」

 アニーは、大きく頷いた。マーテルが、そういう理由で陛下のご一行のことをギース様に黙っていてくださるのなら、ひと安心だわ。

 受け取ったさっぱりした服に着替え、マーテルの診察を受けてから暖かい寝具に横たえられてひと心地着いたころ、エマニュエルが呼ばれて入ってきた。

「大丈夫か、アニー」
「はい。よくしていただきました。ありがとうございます」
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Posted by 八少女 夕

ザワークラウト作った

「自分で作ってみたら簡単だった」食品の話です。

畑のキャベツ

家庭菜園のキャベツは、6つほど植えているのですがそのうちの3つくらいが結球を始めています。もうちょっと大きくならないかなと様子を見ているところで、まだしばらく自分で育てたキャベツはお預け状態です。

で、つい先日、スーパーでめちゃくちゃ安くなっている大きなキャベツを見かけてしまったのです。今年は家庭菜園で採れる野菜がたくさんあるのでほとんどスーパーでは買っていないのですが、「どうしょうかなあ。こんなに安いし、うちのキャベツはまだしばらく食べられないし……」とグズグズ悩んだあげく、買っちゃいました。

ところが持ち帰ってみたら冷凍庫もいっぱい。そこで、1週間ぐらいで食べきれる分(コールスローと塩キャベツ)として1/3くらいを残して、残りでザワークラウト作りに初挑戦してみました。

ザワークラウトって、日本に住んでいたら、日常的には食べることのない食品の1つだと思います。ドイツ語の「酸っぱい(Sauer)キャベツ(kraut)」が意味するように酸味のある発酵食品なのですが、「酢キャベツ」と違って加工過程にお酢は使わないのです。何を使うかというと、塩をして常温で乳酸発酵させているだけなのですね。実際に、酢キャベツほどは酸っぱくありません。

で、ドイツのレシピは知りませんが、このあたりだと分厚いハム、かなり大きいソーセージ、塊のベーコンやジャガイモなどと一緒に蒸し焼き状態にして食べます。あまり暑い時期には食べないのですが、スイスだと10か月くらいは「暑い時期」ではないので、我が家ではわりとよく作る昼食かもしれません。

そして、これまではもちろん市販のザワークラウトを買ってきて作っていたのですね。で、せっかくだから自分で作ってみようと思ったわけです。

ザワークラウトの仕込み

瓶で作るのが一般的ですが、初めてだし失敗したくなかったので、より失敗が少ないと言われるファスナー付き保存袋で作ってみることにしました。

必要なのは、塩だけですが、加えて香り付けにハーブを加えるのもアリだそうで、私が加えたのは月桂樹、キャラウェイシードと、ザワークラウトにはつきもののジュニパーベリーです。

袋を閉じて、重し(ペットボトルでいいそうですが、私はビニールで保護した辞典で)をしてキャベツから出てくる水に浸して数日発酵させます。

ザワークラウト

だいたい4〜5日したら、色が黄色っぽく変わり、ザワークラウトのいい香りがするようになりました。これを袋に詰めて、結局冷凍しました(笑) 最初の頃と比べるとずっと量も減っていますし、またすぐに食べてしまうでしょう。

これ、見た目はお漬物だなあ。お漬物も発酵食品だから、見かけが似ていて当然かもしれませんね。

ザワークラウト、とても簡単だったので、またキャベツが激安だったら作ってみようと思います。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(24)予期せぬ再会 -2-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第24回『予期せぬ再会』3回にわけた2回目をお届けします。

川に流されてしまったアニーは無事だったものの、ここで会うべきではない人物に遭ってしまいます。レオポルドやマックス、ラウラの顔をよく知っているエマニュエル・ギースです。しかも、兄の命の恩人でした。敬愛するラウラたちをピンチに陥れないよう、必死に頑張るアニーですが……。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
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森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(24)予期せぬ再会 -2-


 とはいえ、アニーにはもう1つの秘密がある。他ならぬレオポルドの一行が、トリネア候国の人びとに正体を隠し、『商人デュラン一行』として離宮に向かっていることだ。

 これだけは、絶対に隠さなくてはならない。……今、ギース様とラウラ様たちが顔を合わすようなことになったら、エレオノーラ様にすべてがわかってしまうわ。アニーは、必死に頭を働かせた。

「いいえ。王城に忍び込むようなことはできなくて、でも、侯爵様のご一行はもう帰国してしまわれたので帰ることもかなわず、そのままヴェルドンにおりました」
「ヴェルドンに? 右も左もわからぬ異国で行くところもなく、さぞ苦労したのだろう」
「いえ。幸い、親切な商家に拾っていただきまして……」

「なぜトリネアに?」
当然の質問をしてきたギースに、アニーは慎重に応えねばと思った。

「ご主人さまの買い付けの旅に同行していました」
商人デュランの買い付けの旅という設定はずっとしてきたので、話が続けやすい。

「では、これまで誰かと一緒だったのか? 他にも流された者がいると?」
エマニュエルは、訊いた。

 アニーは、これはまずいと思った。誰か一行がアニーを探しに来てこの紋章伝令副長官と鉢合わせしたら、グランドロン国王とフルーヴルーウー辺境伯夫妻がトリネアにいることがわかってしまう。

「いえ。今日、私はひとりでした。実は、数日前に旦那様たちとはぐれてしまって、トリネア城下町に行けば再会できるのではないかと急いでいたのです」

 ちょうどその時、旅籠の外まで来ていたフリッツとフィリパは、窓から聞こえるアニーの説明を耳にした。2人は、顔を見合わせて、室内の会話をさらに聞くことにした。

 レオポルドの護衛を南シルヴァ傭兵団に頼み、馬で急ぎ下流に向かったフリッツは、下流の村で村人たちが騒いでいるのを見た。先ほど渡った川の向こう側の村だったので、再び渡るためにさらに下流に走り橋を見つけた。渡ってから急ぎ馬を走らせ戻ってきたところ、こちら岸を走ってきた女傭兵フィリパと合流した。

 村人たちは、まだそこにいて噂話に話を咲かせていた。

「ここで何があったんだい?」
「川に落ちて溺れかけたルーヴランの娘がいるんだってよ」
「大丈夫かしら」
「あそこの旅籠に連れて行ったってよ。ルーヴランの言葉を話す旦那様がいるんで通訳をお願いするってね」

 それを聞いたフリッツとフィリパは頷き、馬を木につないでから旅籠に急いだ。

 窓からそっと覗き、アニーを認めて声を出そうとしたフィリパをフリッツは急いで止め、身を窓の外に潜めて中から見えないようにした。アニーに話しかける男の顔をよく知っていたからだ。どこで見たんだ、あの男は……。

 その男は、もってこさせた大きなリネンで全身ずぶ濡れのアニーの身体を優しく包み込んだ。
「では、そなたは異国にたった1人で? しかもこんな恐ろしい目にあって……。アニー、そなたは幾たび私の心を張り裂けさせれば氣が済むのだ」
なんだ、この男は。アニーのことをよく知っているのか? フリッツは首を傾げた。

「ギース様、ご心配をおかけして申し訳ありません」
アニーの声で、フリッツははっとした。そうか。ノードランドの停戦交渉の時にいたルーヴランの紋章伝令副長官エマニュエル・ギースだ。ということは、陛下の顔だけでなく、ルーヴ王城時代のフルーヴルーウー伯爵夫妻のこともよく知っているはずだ。これはまずい。

 アニーは続けた。
「私はたぶん大丈夫です。服さえ乾けば……」
そう言った途端、彼女は咳き込んだ。水が、喉に詰まったらしい。

「なんてことだ。すぐに服を着替え、手当をして、身体を休ませねば。この界隈には医師などはいなだろうから……。そうだ、私がこれから訪れる予定の修道院に一緒に行こう。院長は私の知り合いだ」

 アニーは、慌てた。マーテル・アニェーゼの所に行ったら、先ほどまで「ご主人さまたち」がいたことがわかってしまう。どうしよう。
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Posted by 八少女 夕

ポルチーニ茸もらった

秋の味覚のお話。

ポルチーニ茸

私の住む地域は、田舎です。なので、例えば東京のように週末ごとに違う場所に買い物に行ったり、グルメ、文化催事、劇場、映画館など、人工的な楽しみで時間を紛らわすことはできないのです。それで、人びとが何をするかというと、屋外活動なのですね。

夏はハイキングやサイクリング、冬はスキーやクロスカントリーをする人の割合がとても多いですが、秋には狩りを趣味としている人が比較的多いです。そして、茸狩りをする人も多いと思います。

もちろん素人が採ると危険もあるので、よくわかっている人が同行することが多いようです。私は、自分の知識に自信がないので行こうと思ったことはありません。

で、どういうわけか、みなさん、分けてくださるんですよ。

茸って、急いで食べなくても乾燥させたり、冷凍させたりして食べられるのに。

周りを観察していると、こうした茸を受け取ることを嫌がる人も多いみたいです。1つには食中毒を怖れる場合もありますが、おそらく、処理が面倒くさいんじゃないかと思っています。

でも、お店で買うととっても高いポルチーニ茸をたっぷりタダでもらえるんですよ。私は、処理くらい、なんてことないです。まあ、土や虫が苦手な人は難しいかもしれませんが。

茸マリネ

新鮮なものは、クリームパスタやこの写真のようにマリネにして使います。また、乾燥させたり、冷凍させたものはリゾットなど、戻してだしがわりにするような料理に。

秋の楽しみの1つです。
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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(24)予期せぬ再会 -1-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第24回『予期せぬ再会』をお届けします。今回、切るところで迷ったあげく3回にしました。

川に流されてしまったアニーは無事でした。とはいえ、別の意味での意外な展開に。「乙女ゲームじゃあるまいし、こんな偶然ありか」などという抗議は受け付けません。中世の伝説的逸話って、なぜかおかしな再会がつきものなのですから。ただし、私のストーリーでは、主役ではなくて脇役にその役目が回ってきます。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(24)予期せぬ再会 -1-


 濁流にのまれて流されたものの、アニーは意識を失わなかった。うまく泳げなかったが、つかまりやすい板きれが、おそらく壊れてしまった橋の一部が、共に流れてきたので、必死にそれにつかまった。

 やがて、川が湾曲し、かなり広くなった所で流れが少しゆっくりとなった。うまく岸に近づいてきたのでバタバタと身を動かしていると、ちょうど岸にいた男たちが氣づいて引き上げてくれた。

 そこは小さな集落で、騒ぎを聞きつけて何人もの男女が出てきた。
「どうしたんだ」
「大丈夫か。どこから来たんだ」

「すこし上流の、『死者の板橋』が壊れて……」
アニーは説明した。彼女はセンヴリ語はできないのだが、幸いここトリネア候国の方言は、かなりルーヴラン語に近いので、人びとはアニーの言葉をだいたい理解した。

「ルーヴランの娘だ」
「誰か、言葉のわかる者は……」
「ああ、あの旅籠で食事をしていたお方は、確かルーヴからいらしているとか。あそこに連れて行け」

 人びとは身振り手振りで説明しながら、何とか歩けるアニーを伴って近くの旅籠へと伴った。「そこにルーヴラン語をよくわかる人がいる」と言っていることはわかったので、アニーはついていった。言葉がわかる人がいれば、はぐれてしまった一行を探す手だてもあるかもしれないし、少なくとも離宮への道のりは教えてもらえるだろう。

「おお、旦那様、まだいらっしゃいましたか! よかった。溺れかけた娘がいまして、ルーヴラン語を話すんです。ちょいと、通訳をしていただけませんか」
旅籠の入り口で、ひとりの男が奥にいる貴人に話しかけていた。

 人びとと離れて奥の席で食事をしていたその貴人は、「わかった」と言って出てきた。

 村人たちに伴われて旅籠にアニーが入るのと、その貴人が奥の部屋から出てきたのはほぼ同時だった。もっとも彼女は、完全に濡れて重くなった衣類に氣を取られて、ほとんど前を見ていなかった。

「アニー!」
その声を聞いて、アニーは驚いて彼女を呼んだ男の顔を見た。

「ギース様!」
アニーは、あまりの驚きに、その次の言葉が続かなかった。

 通訳をしてくれるという貴人を、アニーはよく知っていたのだ。それは、故郷が同じということでルーヴ王城でアニーとマウロの兄妹によくしてくれた紋章伝令副長官エマニュエル・ギースだった。

 どうしてここにギース様が?!

「アニー! そなた、生きていたのか!」
彼は駆け寄ってきて、アニーをきつく抱きしめた。

「ギ、ギース様! お召し物が汚れます」
アニーは動転して言った。

「かまうものか。そなたが、ヴェルドンで行方不明になったと聞いて、どれほど心を痛めたことか。侯爵に付き添っていった者らが、そなたはグランドロンの警備の者に屠られたと……」

 それを聞きながら、アニーはようやく自分が二重の意味で秘密を守らなくてはいけない立場にあることに思い至った。

 偽王女としてヴェルドンに行ったラウラと、彼女を助けようとしたマックスだが、国王レオポルドはさまざまな事情から秘密裏に2人を救った。偽王女は表向きは処刑されたことになり、マックスとラウラは見つかったフルーヴルーウー辺境伯夫妻として新たな人生を送ることになった。

 一方、それを知らなかったアニーはラウラの敵を討とうと王城に忍び込むことを画策し、あっさりと捕らえられた。けれど、レオポルドの温情で彼女もまた救われフルーヴルーウー伯爵夫人付きの侍女として生きることになった。

 その事情は、もちろん多くのルーヴラン王国の人びとは知らない。もしかするとラウラがフルーヴルーウー辺境伯夫人となったことは、エマニュエル・ギースは知っていた可能性はある。

 兄マウロが、名馬の世話のためにこのトリネア候国に連れてこられて、そのまま口封じで殺されそうになった時に、機転を利かせて逃しフルーヴルーウー城へと行くようにと手配してくれたのも、このギースだったからだ。
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Posted by 八少女 夕

中秋の名月 2023

過ぎたばかりの中秋の名月のお話。

中秋の名月のお供え

今年もスイスでお月見をしました。日本にいたときは、日々の忙しさに紛れていたのか、それとも世間が盛り上げてくれていたので、それでよしとしていたのか、自宅でお供えして盛り上げるようなことは全くしていなかったのですが、スイスに来てからは、わりとコンスタントにお月見をしています。あ、インスタ映えのためではありませんよ。この程度の写真ではね……。

これって「海外在住あるある」だと思うのですが、七夕やお月見、お正月迎えなどを「なんちゃって」でもそれっぽくしないと、なぜか落ち着かないんですよ。そして、頑張ってお萩やお月見団子を作るなんてこともひと通りやったのですが、最近のお月見では無理せずにホワイトチョコのボールでお供えをしています。

そして、今年は自分で育てた野菜類もお供えしました。本当は、立派に育ったサツマイモをお供えしたかったのですが、まだできていなかったので、ミニのジャガイモやプチトマトがメインに(笑)

中秋の名月

そして、この夜はしっかりと晴れたので、このようにきれいな満月が空に輝いていました。OLYMPUSのコンデジですが、きれいに撮れたので満足です。

そういえば、中秋の名月って必ずしも満月ではないのですよね。10年も前にこんな小説を発表しました。そこに「次の満月の中秋の名月は……」って記述を入れたことを思い出しました。当時は、その次もまだブログをやっているかなと考えながらこの記述を書いたんですが、余裕でやっていましたね(笑)
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