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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(29)国王と貴婦人 -1-

さて、前回更新分から、小説内での時間も一週間経っています。その間にグランドロンで何が起こり、そしてルーヴランの奸計や戦争はどうなったのか。たぶん、「えっ」というような肩すかしかと思いますが、こうなりました。

完結も近いのですが、急いでもしかたないので2000字程度で二つに分けました。一度は、五月中に頑張って完結させて、こっちをアルファポリスの「歴史・時代小説大賞」に出そうかとも思ったんですが、「歴史・時代」というには、架空の国設定ですからねぇ。というわけで、こちらは通常運転のままで行きます。


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あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(29)国王と貴婦人 -1-


 昼の時間を十分ほど過ぎてから、ハイデルベル夫人は暇を告げて御者が扉を開けて待つ華奢な馬車の中へと消えて行った。最後まで昼食を出すべきか迷っていた使用人たちはほうっと息をついた。
「ここのところ、毎日ですものねぇ」
「宮廷奥総取締の女官長が仕事もそこそこに何を話されているのかしら」

 ハイデルベル夫人は宮廷奥総取締を二十年近く勤めていた。王太后や、十年前に薨去したマリー=ルイーゼ前王妹殿下の信頼も厚く、彼女に会いたい人間は自分から王宮に行くのが筋だった。けれど、この森にわざわざ通い詰めている。使用人たちが首を傾げるのも不思議はなかった。

「どうしてもわからない。奥方様はいったいどこの誰なのかしら?」
野菜の皮を剥きながら下働きの娘がつぶやけば、床を掃除していた下男はニヤニヤとして言った。
「そりゃ、国王陛下の大事なお方でしょう。ここは陛下の持ち物なんだから、他にはあり得ないよ」
「でも、それにしては陛下は一度もお見えになっていないじゃない」

 奥方様と呼ばれている女は、一週間ほど前にヘルマン大尉が馬車で連れてきたのだ。朽ち葉色をした艶のある髪を、後ろできっちりと結わえ、飾りの少ないが質のいい灰色のドレスを着ていた。へルマン大尉はこの女を貴婦人として扱い、丁寧に世話をするように申し付けたが、こうも付け加えた。
「奥方様が外出したいと申し出られたら丁重にお断りするように」

 つまり、この女はこの《シルヴァ》にある国王の狩猟用別荘に軟禁されているのだった。

「するってえと、あれかな。ヘルマン大尉の愛人かな?」
下男の想像はますますおかしな方向に向かっていた。

 午後になると、再び馬車が向かってくるのがわかった。
「なんと、今度は王家の馬車だな。王太后様か?」
使用人たちは緊張して入り口に並んだ。中から飛び降りるようにして出てきたのは、国王その人だった。足取り軽く、貴婦人のいる居間に入ると、使用人たちを人払いした。女中たちは、やはりというように目を合わせると控えの部屋へと出て行った。

「しばらくであった。ラウラ。足りていぬものはないか」
「おっしゃる意味が分かりません。私はなぜこのようにもてなされているのでしょうか」
「なんだ、知らぬのか。ハイデルベル夫人に訊かなかったのか」
「ヘルマン大尉がここへ私をお連れになった時に、陛下以外にこの待遇の意味を質問してはならぬとおっしゃいましたので」
「ああ、そうか」

「私は、いつ処刑されるのでしょうか。結婚式の予定だった昨日だと思っていましたが、何も起こりませんでしたので、ぜひお伺いしたいと思っておりました」
「ああ、それも知らぬのか。ルーヴランが送り込んだ偽物の姫なら、あの翌日に処刑した。血塗れた婚礼衣装と縛り付けた侍女を送り返したら、翌日にはセンヴリの奴らが寝がえって贈り物をしてきた。ルーヴランはこちらが宣戦布告をする前に、勝手に直轄領の一部と《シルヴァ》の四分の一を差し出してきた」

 ラウラは眉をひそめて訊き返した。
「どなたを処刑なさったのですか」
「豚だよ」
「まあ」
彼女は大きく目を見開いた。それから視線を落とし、しばらく迷っていたが、やがて思い詰めた様子で国王を見た。

「ティオフィロス先生は……」
レオポルドは、きたかという表情をした。
「氣になるか?」
「もちろんでございます。罪のないあの方を巻き込んでしまったのは全て私の咎でございます。あの方には、お国に対しての叛心はまったくございません。どうか……」

 国王は、言い募るラウラを制した。
「心配はいらぬ。そなただけを助けたのではない。そもそも彼が情報をもたらしてくれたので、我らは速やかにルーヴランの奸計に対処することができた。動機はどうあれ、彼のその行動が国を救ったことは事実だからな。それに、老師の助命嘆願を無碍にして、そなたの命だけを救うのは公平ではないだろう」

 彼女はほうっと息を一つついた。
「なぜ、私をお救いくださったのですか?」
「そなたを死なせたくない人間が三人いたからだ」
「三人?」
「一人はハイデルベル夫人だ。つい先日までは、何を隠しているのかわからず怪しいと言っていたくせに、そなたの境遇を聴いて以来、同情でいても立ってもいられないと」

 彼女は困ったように笑った。
「先程もご親切にもお見えになりましたわ。お忙しいでしょうと申し上げたのですが……」

「あれは極端な女でな。毎日戻ってきては、どれほどそなたの知識が豊富で宮廷の奥のことに精通しているか、延々ときかされているのだ。数年後に宮廷奥総取締職を辞す時に代わりを託せるのはそなたしか考えられぬと言い出している」
「ルーヴランの、肉屋の孤児に、ですか?」
「まあ、身分はなんとかせねばならんだろうな。いずれにしても現在そなたには名がない」

「……私を死なせたくないとおっしゃっている後の二人は?」
「余と、それから余の従兄弟のフルーヴルーウー伯爵だ」

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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

前話の緊迫した引きから、一気に話が進んでこうなったんですね。
この展開に、まずはほっとしました。だってねえ、あの雰囲気じゃあ、ラウラもマックスも……なんてことになっても、不思議じゃなかったですからね。
しかし、これじゃ良くても「人目を憚る愛人」ですよね。小屋の下男、なにげに天然キャラ(笑)

それにしても、センヴリの風見鶏っぷりも見事だし、ルーヴランの「対処」も速かったですね。ザッカさん、無事なんでしょうか。
ラウラは、えらい人気ですね。なぜ外国人にモテまくる?
まあ、その三人が助命を考えているのなら安心ですね。マックスには老師もついているし。
あとは陛下がどう出るか、ですが……。
まさか、ラウラを巡って陛下VS伯爵候補者なんてことに、なったり……しないか。

いずれにしても、次話が楽しみです。
2015.05.06 11:01 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
うわぁ!一気に来ましたねぇ。そしてホッとして安心しました~。
ラウラの身に何か起こったらどうしようと思っていましたが、何とか上手く切り抜けましたね。丁寧に扱われているようだし。
レオポルドの寛容な計らいに(多分計算尽くなのでしょうけれど)感謝、感謝です。やっぱりいい男だ。無用なことはしないんだ。ラウラを処刑してしまっては、そこで全てが終わってしまいますものね。老師のフットワークもとてもよかったようですし。ルーヴラン、変わり身が早いですね。たぶんザッカの判断なんじゃないかな?血まみれの婚礼服に大混乱したんだろうなぁ。

ハイデルベル夫人はラウラにとってどのような人なんでしょう。
マックス、レオポルドの従兄弟同士はどういう関係になっていくのでしょう?気になります。
でも、縛り上げられて送り返されたアニーは大丈夫?ここまで読んで、そこが一番気になってきました。
2015.05.06 13:29 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
私もひとまずはホッとしました。
ラウラやアニーやマックスが処刑されるとは思わなかったので、じりじりする展開をすっ飛ばしてこのシーンに移行するのは、読者にとってはうれしいです。
読者はその先が知りたいんですものね。
とにかく、思った以上にレオポルドの度量が大きい事に安心しました。
前回の事で、小さい男なら100%いじけて、マックスにいじわるしそうな感じだったので。
やっぱりいい男じゃないですか。
マックス、がんばって!
そしてハイデルベル夫人が思いがけず良い人だったのも驚きでした。
竹を割ったような人なのかもしれませんね。ラウラ、いいお友達になれそう・・。^^
さて、この裏で、ザッカは何を思うのかな。
インタビューしてみたいです。
2015.05.06 14:16 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんばんは。

逐一書いてもよかったんですけれど、どうせぐるぐるしているだけで、読んでも面白くないですからね。
ラウラの方は、これで十分でしょう。

たぶんディミトリオスが話しにこなかったら、もう少しヤバいお仕置きになったと思います。
でも、話を聴いてしまったので、扱いに困った様子。
一週間も経ってしまった理由は、後半の方でうっすらとわかるでしょう(笑)

下男もですけれど、こちらにお勤めしている人たちは、お城の女中や下男たちと違って、多少のびのびしていますね。お偉いさんがいないので、かなり言いたい放題です。

ザッカの処遇は、最終回にちらりと出てきます。

ラウラ、偉い人氣といわれてもその三人だけです(笑)
そのうち一人は、いちおう恋人だし!
きっとヴェロニカには、毛虫のように嫌われているんだろうなあ〜。

次回は、「人目を憚る愛人」編(なんだそりゃ)の続きです。

コメントありがとうございました。
2015.05.06 21:40 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

あそこで不安にしたまま時間だけ経たせてもしかたないので、まずは安否の確認だけ(笑)
馬の骨のラウラはともかく、マックスは処刑できません。
まあ、レオポルドも、これだけ高度な政治問題が絡んだ場合は、女が好きか嫌いかだけでは行動しませんが、個人的にも氣にいっているので処刑は避けました。そして、もう一つ、ラウラの身代わりを作ってまで助けた理由は、最終回に出てきます。

ルーヴランの大恐慌は今回は文章にしなかったのですが、これまで散々ラウラの血を見てきたはずのマリア=フェリシアが、その婚礼衣装を見てショックを受けて、若干おかしくなった、という設定はあります。続編、まだ「書く書く詐欺」なんですが、書くとしたらまたあのお姫様もでてくるはずです。

ハイデルベル夫人は、これからはラウラのよき理解者、導き手になります。これも続編があればですけれど。
マックスとレオポルドのことは次の章で、そしてアニーは最終回に再登場ですよ。

来週も読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.05.06 21:49 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

あ、そうですよね。
牢屋に入れられたその夜のぐるぐるシーンなんてつまんないと思ったんです。ですよね?
で、すっ飛ばしました。戦争の件もあっさり。
ゲームなんかだと、戦争ありきだと思うんですけれど、実際の王様だったらしなくていい戦争なんかしないと思うんですよ。どれだけ有利でも負傷者は出るし、お金もかかるじゃないですか。タダで何かを貰えるならその方がいいですよね。

イジけて意地悪をするほど小者ではなかったようですが、懐の深すぎる人格者でもないのは、来週の分をお読みいただければ(笑)まあ、彼にもいろいろしがらみがあるんですよ。本能だけでは行動できないんですね、王様ともなると。たまにしているけど。

マックス……。マイペースです。

ハイデルベル夫人は、表裏のないおばさんです。
頑張り屋が好きなので、今後ラウラの味方になりますね、この人は。
ザッカはもう出てこないのですが、彼の近況が最終回でちらりと語られます。

続編があったら、彼はもっと活躍すると思うんですけれどね。

というわけで、次回も読んでくださると嬉しいです。
コメントありがとうございました。
2015.05.06 21:58 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おっと、ここからの救済ですか。
救われたような、英断をしてくれたというか。
流石は王様というか、人を生活を担う王様らしい判断ですね。
2015.05.08 23:49 | URL | #- [edit]
says...
まとめ読みするつもるで大事にとっておいたけれど、読んでしまった……レオポルドの誘惑に負けてしまって……
あぁ、やっぱりちょっと後悔。クライマックスだから皆さんと同じ条件になりたいと思ったけれど、やっぱりまとめ読みしたい~と読んでから叫ぶのでした。
でも連載もののドキドキ感は十分味あわさせていただきました。幸い、ここからは『水戸黄門の印籠』がラウラにも披露されて、きっと大団円に向かうのでしょうから(一部残念な人たちもいそうだけれど。あ、マリア=フェリシアのことは私も結構気になっています。うん、と、我儘ながらもインパクトのある人物でしたから)、ほっと一息つけるところまで一気に読ませていただけて良かったです。
でも、いちばんの気がかりはザッカ……あぁ、あなたは今どんな思いで、どんな境遇でいるのでしょう?

レオポルドがかっこよすぎて、マックスの影が薄くなるのはかわいそうだけれど(いや、これは彼のせいではありませんよね)、何はともあれいとこ同士、とりあえずは話が通じるようになって良かった。でも、レオポルドの失恋の痛手が……あの、ラウラ、別に今から乗り換えてもいんじゃない? などと思ったりする不届きな読者なのでした。ラウラの性格上はなさそうだけれど、主人公の性質が違っていたら、もっとどろどろ~な恋愛劇になっていたかも、と一人あらぬ想像をして喜んでいる場合じゃありませんね。思えば、拓人にしてもレオポルドにしても、夕さんの作品には主役の男性(というのか、主人公とくっつく男性?)よりも魅力的、もしくはインパクトのある男性が多いような。

壮大な歴史もの、じゃなくて時代もの?いや、架空の世界を借りた時代もの、というのでしょうか、夕さんの力量を感じる物語で、かなり楽しく読ませていただきました。って、まだ終わってないけれど。
前半は設定自体に(中世のあれこれが、歴史書を読むみたいで)興味惹かれ、後半は主人公たちが動き始めて。でも、なぜかマックスが影が薄いのはどうしてなんだろう……思えば夕さんのお話、脇が結構インパクトがありますよね。逆に主人公は結構正統派。夕さんの世界の面白い点かもしれません。横の広がりが大きいというのか。
何はともあれ、あと少しは結局追いついちゃったので、毎回楽しませていただくことにします(*^_^*)
2015.05.09 02:20 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
おはようございます。

政治的に無罪放免という選択肢がありえない中でも
レオポルドは個人的に氣にいっているラウラを殺すのが忍びなかったようです。
加えて、他の思惑も……。これは最終回ですね。
まあ、主人公とヒロインがバッサリ殺されたら話が終わっちゃいますので(笑)
それはそれで斬新な展開かもしれないけれど。

コメントありがとうございました。
2015.05.09 07:52 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おはようございます。

あら……。
そろそろまとめ読み用PDFでも用意するかと思っていたのですが(笑)
「待てない」と読んでいただけるとは、光栄です。嬉しいな〜。

恋愛ものでもあるんですが、この話はそれがメインではないので、恋愛の話が落ち着いた後にももう少しだけ(二章分だけ)話が続きます。でもまあ、始めから公言しているように予定調和そのものの「王子様とお姫様の物語」(のバリエーション)ですので、どんでん返しはなにもありません。

ザッカ? 最終回に消息が聞こえてきます。でも、詳しくは「書く書く詐欺」の方に乞うご期待! (つまり藪の中?)

レオポルドも、基本はいい男ですが、やはり脱力もののしょーもなさを持ち合わせていますし、それは拓人も一緒かな。まあ、こういう人は、ほっておいてもモテるしそんなに凹まないのでいいでしょう。
このストーリーは高校生の私が作ったので、ラウラの心情としてここでレオポルドとどうこうというのはありえませんが、いまの私ならどうでしょうね。強硬手段にでられて、揺れてしまった、で、そのあとグルグル、という展開もなきにしもあらず。でも、そんな事をやっていると、永遠に終わらないストーリーになってしまいます。それよりも「書く書く詐欺」の方が話としては書いていて楽しそうなので(笑)

ジャンルとしては悩みますよね。アルファポリスでジャンルを決める時には、恋愛ものではなくて時代物だと思ったんですよ。リライトした時から、二人の恋愛はおまけになり、むしろ二国の政治の話がメインストーリーになったので。それに中世のこともあんなに調べたんだし。でも、歴史物ではないですよね。かといってファンタジーにはできない。魔法やら竜やらが出てきませんし。毎回、「ジャンルのわかりにくい小説」を書いてしまうのはなぜなんだろう。

なんかね、スーパーヒーローに救い上げてもらう正統派ヒロインって、難しくないですか?「はいはい」って読者がドッチラケにならないように、納得性のある筆致で書くのが。だから主人公(大抵カップル)はわりと等身大になり、脇で遊んじゃうんだと思います。マックスの影が薄くなるのは、やむを得ません。だってこの人のポイントって毒に強いだけだし、それじゃヒロインは救えない。でも、まだいちおう主人公なんです。(説得力まるでなし)

最後まで読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.05.09 08:16 | URL | #9yMhI49k [edit]

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