scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架(29)国王と貴婦人 -2-

二回にわけた「国王と貴婦人」の後編です。前回、ラウラは国王に命を助けられたことと、ルーヴランならびにセンヴリとの戦争が回避されたことを知りました。そして、自分を助けたいと願った人間のひとりが「フルーヴルーウー伯爵」だと国王に告げられ戸惑います。

また、今回は「マックスはやめて国王にしちゃいなよ、ラウラ」同盟(そんな同盟あるんか)の読者の皆様には、要のエピソードかと思います。ちなみに、私なら、どっちにするかですって? あ、どなたも訊いていらっしゃいませんね。


「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架
(29)国王と貴婦人 -2-


 ラウラは首を傾げた。
「それは、行方不明になられている方ではありませんか?」
「そうだ。見つかったのだ。ただ、本物の証だけが欠けている。別の人物の手に渡っているのだ」
「……誰の?」

 王はラウラの襟元に光る黄金の十字架に手を伸ばした。
「そなたの首にかかっている、これだ」

 彼女は、黙って考えた。それから、ゆっくりと息をつくと十字架を外し、王の手に載せた。王はその十字架を裏返し、双頭の馬の文様とその間に収められたルビーを確認した。間違いなく、かつて叔母が触らせてくれたフルーヴルーウーの家宝だった。彼女はそのレオポルドの手の中にある十字架を見つめていたが、やがて黙って下を向いた。

「どうした。誰の事を言っているのかわかっているのだろう?」
「つまり、ティオフィロス先生がお話しになっていた《黄金の貴婦人》とは、王妹マリー=ルイーゼ殿下だったのですね」

「そうだ。余の大切な叔母、前フルーヴルーウー伯爵夫人だったマリー=ルイーゼだ。命を付けねらう狡猾なジロラモ・ゴーシュから守るために、伯爵マクシミリアン・フォン・フルーヴルーウーは密かに賢者のもとでマックス・ティオフィロスとして育てられたのだ。そなた、嬉しくないのか?」

 一度氣のない様子で首を縦に振ったラウラは、やがて横に振りなおした。
「なぜ?」
「あの方のために、お喜びしとうございます。でも……。陛下はお笑いになるでしょうね。これでも私にも夢があったのです」

 王は黙って先を促した。彼女は窓の側に寄り、深い《シルヴァ》の森を眺めた。
「かつて、《学友》を勤め上げて自由になったら、自分の足でこの森を歩いていきたいと、そう夢みて生きてきました。姫が二十歳になれば、わたしは自由になれるはずでした……」

「自由になったなら?」
「街から街へ、国から国へ、ティオフィロス先生の向かう街で一番美味しい食事処の女給となって、働いて暮らそうと」

「待て。それがそなたの夢なのか? なぜ、女給なのだ」
「あの方が足を向け食事にいらっしゃり、その日のことを話してくださるのを待つことができますから」

 国王は大きなため息をついた。
「随分ささやかな夢だな」

「振り向いてくださらなくてもいい。ただお目にかかってお話が出来ればいい。生まれた身分が違うから、それ以上の期待はしていませんでした。でも……」
ラウラは一筋の涙をこぼした。
「身分の違いなどない、鍛冶屋の次男だとおっしゃってくださった。どこか遠くで一緒になろうと。それが叶わぬのならば、せめてこの身の終わる時まで側にいてくださると。それがとても嬉しかったのです」

 けれど、彼はマクシミリアンだった。フルーヴルーウーの伯爵、しかも王妹の血を引く、王位継承権一位の貴人だった。ルーヴランの孤児との結婚はおろか、もう二度と氣ままな旅などはしないだろう。街の食事処や居酒屋などにも顔は出すこともなければ、囚人を訪れることもないだろう。
「終生罪を償わねばならぬ身で、何を馬鹿な話とお笑いくださいませ」

「言ったであろう。ルーヴランの送ってきた偽物の姫は、既に処刑された。この世には、その罪を問われる者はもうどこにもいない。かといって、そなたが女給になるという案には賛成しかねるが」
「陛下?」

 レオポルドは、しばらく黙ってラウラの顔を見ていた。それから視線を逸らすと《シルヴァ》の奥で羽ばたく鳥を目で追いながら言った。
「何度も考えた。他に道はないのかと。どこか辺境の貴族の娘ということには出来ぬか、バギュ・グリ侯爵に正式に申し込むのはどうか、ただ、このまま森の中に生涯隠し通すことは出来ぬか」
「おっしゃる意味が……」

 ラウラの唇に人差し指をあてて、王はそれを制した。
「余は、そなたと結婚して共にこの国を治めていきたいと真剣に願ったのだ。だが、国王にもどうすることも出来ないことがある」
「陛下」

「余が権力でもってそなたを我がものにすれば、マクシミリアンは余を憎むようになる。危険な存在になり、取り除かねばならなくなる。だが、死の床で息子のことを頼むと懇願した叔母との約束は違えられない。女のために臣下を殺した暗君とみなされれば、国を治めるのも楽ではなくなる。味方にすれば博学で信頼に足る従兄弟を失うのも馬鹿げている。それに、そうまでして奪ったとしても、そなたの愛は得られない、そうだろう?」

「陛下。私は、陛下のような主君を戴く国に生まれとうございました。心から尊敬申し上げております」
ラウラは真剣に言った。

 王は目を閉じると、しばらく黙っていたが、やがてしっかりと頭を持ち上げて、ドアの方へと向かい扉を開けて控えの間にいる女たちを呼んだ。

「お呼びでございますか、陛下」
女たちは小走りに部屋に入ってきた。

「奥方様の外出の用意をするように。半刻後に、外の馬車に乗せるのだ」
ラウラは驚いて、レオポルドの方を見たが、王は振り返らずに部屋から出て行った。

関連記事 (Category: 小説・貴婦人の十字架)
  0 trackback
Category : 小説・貴婦人の十字架
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
「マックスはやめて国王にしちゃいなよ、ラウラ」同盟ですが、はい、
後半を拝読してその意味がよーく理解できました(笑)
いやもうかっこいいなちくしょう! 王様(´Д⊂ヽ

それから、黄金の十字架の件ですが、
その時は知らずとはいえ、マックスの◯◯(ピーネタバレ防止のため伏せ字にしました///)
が身につけていたものを最愛の女性に渡す……
ってすごく象徴的なエピソードですよね。
今回のお話のテーマとは少し外れるのかもしれないのですが
個人的に冒頭の流れがすごく好きです。
あ、これも、王様の手腕ですね。外堀を囲うようにして
最後に答えをラウラに委ねるという……
ううん、ラウラ、もうどこかの従兄弟さんじゃなくて
王様にしちゃいな(以下略

げほげほっ、続きを楽しみにお待ち申し上げております。
マックス、頑張れ!(いや彼なりにすんごい頑張っているんだけれども!)
2015.05.13 10:37 | URL | #- [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

「マックスはやめて国王にしちゃいなよ、ラウラ」同盟の加盟人としては、こりゃどうも極めて遺憾な流れです。もうすべてがラウラ×マックスに向かっちゃってますよね。
それにしても、ラウラの願いがささやか過ぎて、なんでやねんと思ってしまいました。いちおう、未来の伯爵様から思いを寄せられてるんだから、もうちょっと望みを高く持ってもいいんじゃない? あ、でもそこがラウラらしいのか……。
やはり、ラウラとレオ様では、いろんな意味で釣り合わないか。ま、レオ様なら、いくらでもいい相手が見つかるでしょう。
次話あたり、そろそろ真打(マックス)のご登場でしょうか?
2015.05.13 15:48 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

かっこいいですか? えへへ。
この人ちょっと有利なんで、それで登場もかなり後にしたんですが、無意味でしたね。
でも、一週間近く、ぐるぐる考えていたみたいですよ。
ま、女への未練だけでなく、いろいろと政治的な先の案も練っていたみたいですが。

伏せ字ありがとうございます。でも、私がどんどんネタバレして歩いているかも(笑)

十字架の件、そう、マックス的には単純に自分の持っている物の中で一番大切なものだったからあげたのですが、そういう意味合いになりましたよね。
でも、取り返されちゃいました。あれがないと伯爵様として認められないんで、しばらくは。

レオポルド、マックスがただの馬の骨だったら、もっと違うアプローチになったと思うんですよ。
もちろんあまり姑息な事はできない性格でしょうけれど、もっと強く迫ったんじゃないかと思います。
でも、よりにもよってマクシミリアンだったので、ここに来る時にはもう八割方「だめだな」と結論づけてきたので、ここでラウラの返事を聞いてそこで「やっぱりあなたがいいです」と言われない限りはしょうがないなって感じでしょうか。
ラウラの返事、私たちの言葉に直すと「いいお友だちでいましょうね」だし。

マックスねぇ。いや、あんまし頑張っていないじゃん。ちょっとずるいぞ、お前。

次回は、マックス登場です。どうぞよろしくお願いします。

コメントありがとうございました。
2015.05.13 21:08 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

う。TOM-Fさんも加盟なさっていらしたのでしたね。あはは。遺憾な流れですか。
ラウラ、「よしてよ」って感じですものね。
そりゃ、本人は貴族相手の教師だって身分違いと思っていたのに、王様なんて滅相もないでしょう。

ラウラの心の中のデフォルトは「肉屋の孤児」ですから。マックスがずっとラウラの熱い視線を無視していましたから「どうせ叶わない恋だもの」モードが中心だったのですよ。きっとまだ両想いモードに慣れていないですよね。

レオポルドの相手探しは、かなり難航する予定です。この本編ではみつかりません。
この人、相手にうるさすぎ。しかも、これからはいちいちラウラと比較するだろうし。
ラウラみたいな謙遜系のお姫様がいるわけないですよね。

そう、次回はマックスの回です。もう誰も待っていなかったりして(笑)

コメントありがとうございました。
2015.05.13 21:17 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
はい!「マックスはやめて国王にしちゃいなよ、ラウラ」同盟のけっこう初期からの構成メンバーとしてはちょっと残念です。
レオポルド、考えてることがいちいち優秀!冷静で合理的です。マックスを敵にしたくない、どころか右腕にすることまで考えが及ぶのですから凄いです。
自分の恋路は冷静に諦め、マックスの愛する人の罪は帳消しにし、その後の処遇まで考えています。
おまけに叔母との約束はきちんと果たし、老師の顔も立てる。
言うことなしの王様ですよ。
ラウラが心から尊敬するのもよく分かります。
レオポルドは尊敬よりも愛が欲しかったんだろうな。
ラウラが『心からお慕い申し上げます』って言ったらどうだろう?他のびっくり展開があったかも・・・。「マックス“なんか”やめて国王にしちゃいなよ、ラウラ」同盟メンバーとしてはそう考えてしまいます。

ラウラのあまりの謙虚さに呆れてしまいましたが、こういう人だからこそレオポルドが伴侶にしようと考えたのですね。もっともラウラがとびっきり優秀だったからでしょうけど。でも自分の選択肢ではないと判断すると、スパッと切り離すのは見事です。こんなこと普通の人にはできないですよ。ウジウジ系のサキとしては驚きです。でも少しは苦しんだのでしょうか?
さて2人は出かけるようですね。どこへ行くのかな?
2015.05.14 13:51 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
マックスの本当の素性を知ってしまったラウラが、ドラマでありがちの「ええ~~!」な驚きを示さなかったのが、やっぱりラウラらしいな。^^
そこに驚いてるよりも、ずどーーんと落ち込んでしまったのですね。
うん、気持ちはわかります。この時代では、身分がすべてだったんですもんね。
でもそんなラウラをモノにしたがってるのがこの国王とその伯爵だなんて。
そこ、ラウラ喜んでいいのよ~。

だけど「マックスはやめて国王にしちゃいなよ、ラウラ」同盟の端くれとしてはやっぱりこの展開の後に国王が涙を呑むのは辛いなあ。
いや、恋愛ものって、こうやって涙を呑む役割がもしかしたら一番おいしいのかも・・・なんて、恋愛もの初心者はふっと思ったりするのでした。



2015.05.14 14:14 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんにちは。

「マックス“なんか”やめて……」かぁ、あはははは。
そうなんですよね〜。実は、マックスはあまり努力もせずにラウラの心をつかんでいますが、実は、それも出会った順番の問題だったりして(笑)まあ。でも、王妃ともなると、いろいろと針のむしろですよ。外国の馬の骨ともなると、もっとね。

レオポルドは、まあ、そういう教育を受けてきた人ですから、まずは国王としてどうあるべきがあって、次に「楽しんじゃえ」が来るんですよね。でも、「あなたの方がいいです」と言われたら、「いただき!」ってなると同時に困るんじゃないかな。「マックスの件、どうしよう」「身分の件も面倒くさい」「偽物の姫の件も暴かれるかも」と、いろいろ。

まあ、この結論に至って、逢いに来るまで一週間かけていますから、いろいろと悩んだとは思います。戦争などでは、一週間も悩めませんが、これには時間をかけていたみたいですね。当事者たちはしかたないとして、ヘルマン大尉や老師も、その間は胃が痛かったんじゃないかしら。

ラウラのデフォルトは、あくまで「肉屋の孤児」なんですよ。だから、王様が偽物だとわかった後でも、そんな事を言ってきて、愕然としたと思います。

そう、王家の馬車に乗って、出かけます。次回は、マックスパートなのでちょっともどかしいと思いますが、もうそろそろ終わりですので、まあ、そういうことですね(笑)

コメントありがとうございました。
2015.05.14 15:54 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんにちは。

ええ。なんか「ええ〜!」って、ラウラらしくないかなって思いまして。
処刑されない、マックスも大丈夫だったとわかって、やっぱりどこかで「もしかしたらいつかは一緒になれるかも」って期待したと思うんですよ。でも、宮廷の教師どころか、王族の血まで引いていると聞いたら「もうだめか」ですよね。

だからこそ、彼女にしてみれば「王様、あなた何を言うとりますねん」なんですけれど。

limeさんも加盟中か……。
いや〜、でも、この時代の貞操観念って、あれで、ほら「○○伯爵夫人」「△△男爵夫人」だけれど王様の愛妾なんてのはよくある話で、王様としても、ごにょごにょ……なんでもないです。そんなどす黒い設定を高校生の原作者がするわけないでしょう。たぶん。

そうそう、それにこういうかっこいい役は、読者受けとしてはおいしいのです。ほら、どこかのマンハッタンでも似たような事がありましたよね(orz)

次回は孤立無援の主人公パートです(笑)

コメントありがとうございました。
2015.05.14 16:04 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
夕さんが「中学生の(でしたよね)私が考えたストーリーだから」とおっしゃっていた意味がよく分かりました。そうそう、もしもこれが今の夕さんなら・・・・・もっと話をどろどろに展開!……ってことに意外にならないんじゃないかなと思ったりしているのです。いや、最後は主人公同士をちゃんとくっつけてくださるんだろうなぁと思うのですが、途中の経過はもっとどろどろと複雑にされるかな。でも、若かりし夕さんが考えて、肉づけを今の夕さんがされている、まるで過去と今の夕さんのコラボみたいなイメージがだんだん膨らんできました。
「マックスなんか……」同盟に名乗りを上げていた大海ですが、大方のみなさんが大きくそっちに傾いておられる今、天邪鬼にも「やっぱりマックスで」同盟に鞍替えしようと思います(*^_^*)
なぜならば~、ラウラとくっついていないレオポルドの方が渋みがあって素敵!と思うから(あれ? それじゃ、単にレオポルド派であるってだけじゃん)。
いや、水戸黄門の印籠も出されたことだし、後はどんな後始末が待っているのか、それもちょっと楽しみです。一応、マックスの立場も聞いてあげなくちゃ、ね。
2015.05.15 11:38 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんにちは。
中学ではなくて高校生の時でしたが、あの頃の高校生は今よりも夢見がちだった、というか、私がお子様だったのか。

とはいえ、今でもあまりドロドロの展開って書きませんよね。書いてもいいんだけれど、それをやっていると書きたいものが見えなくなってくるから。

もし原作がなかったら、マックスはそもそもいなかったかも。王様と恋愛結婚なんて流れはなくても、単に助けてもらって、それで終わりというのもありかなと思うんですよ。でも、そうなると、チャプター1が書けませんでした。ラウラはお城から一歩も出ていないから、マックスパートである「歩く傍観者」の役割をできる人がいなくて。王様もね。そこまで暇にはできないし(笑)

元々の原作は、グランドロン側もルーヴランに劣らず酷い人たちだったから、マックスが相対的にいい男になれたのかもな〜。

マックスは、人氣挽回は難しいですが、ま、彼なりに頑張ります。

たぶん……

コメントありがとうございました。
2015.05.15 13:10 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
私は恋も愛も大好きなので。
そのために身分も今までのものを全て捨てるというのは大好きです。
・・・実際に、そういう人もいますからね。
ある意味ラウラの姿は美しい。
2015.05.15 13:13 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

いや〜。どうやら皆さん、単純すぎるお話は書かないみたいで。
かえってここまで単純だと意外に思われるようですね。
ラウラの選択は、まっとうすぎて、現代物だと嘘くさいかもしれませんが、これは一種のお伽噺として書いています。ラウラの選択を認めていただいて嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2015.05.15 20:22 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/1053-cd2d010e