【小説】マックス、ライオン傭兵団に応募する
「scriviamo! 2015」の第十五弾です。ユズキさんは、「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」の主人公マックスとユズキさんの代表作「ALCHERA-片翼の召喚士」の戦士ガエルのコラボでイラスト付きストーリーを描いてくださいました。ありがとうございます!
ユズキさんの作品 企画参加投稿品:ある日、森の中
ユズキさんの参考にさせていただいた作品と解説ページ
ALCHERA-片翼の召喚士- 特別小咄:人魚姫と王子様(?)
《コッコラ王国の悲劇:キャラクター紹介》
ユズキさんは、異世界ファンタジー「ALCHERA-片翼の召喚士-」をはじめとする小説と、数々の素晴らしいイラストを発表なさっているブロガーさんです。私も「大道芸人たち」の多くのイラストや、強烈な「おいおい」キャラである「森の詩 Cantum Silvae」のジュリアを描いていただきました。そして、フリーイラストの方でも、たくさんお世話になっています。
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」も、最初から読んでくださっていて、旅する傍観者マックスはにも馴染んでいただいています。今回は、ALCHERA-片翼の召喚士-」に出てくる熊の頭をした戦士ガエル、そう、私の大好きなガエルとマックスを謎の森で逢わせてくださいました!
「もりのくまさん」を彷彿とさせる、楽しいお話。折角なのでお返しもこのまま、時空の曲がりまくった異世界コラボでいきたいと思います。ユズキさんのお許しを得て、「ALCHERA-片翼の召喚士-」の「ライオン傭兵団」の皆さんにご登場いただくことにしました。
なお、「ALCHERA-片翼の召喚士-」には、数々の魅力的なキャラクターが登場します。が、今回は、あえてヒロインのキュッリッキ、とってもカッコ良くて優しいメルヴィン、強くてかっこいい中年トリオ、白熊&パンダ正副将軍コンビなどの重鎮にはご登場いただいていません。彼らの活躍は、もちろん本編でどうぞ。
![]() | 「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読む あらすじと登場人物 |
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森の詩 Cantum Silvae 外伝 マックス、ライオン傭兵団に応募する
- Featuring「ALCHERA-片翼の召喚士-」
——Special thanks to Yuzuki san
おかしいなあ。先ほど見た、あれは夢だったのだろうか。マックスは首を傾げながら森を進んでいた。
その日、いつものように一人で森を進んでいたら、今まで目にしたことのない異形のものと出会った。サラゼンの人びとのようななりをした大男(と思われる誰か)がそこにいたのだ。だが問題はその男の頭だった。熊だった。マックスは、それまで奇妙なものをたくさん見てきた。頭に殺した熊を剥製にした兜をかぶる、はるか北の国の戦士にも出会ったことがある。だが、先ほどの男の頭部は兜などではなかった。彼が話す度に、その口は開き、見つめる瞳も生氣に溢れていた。何かのまやかしにやられたのか。そういえば、その熊男と一緒に入ったけばけばしい物売り小屋が、忽然と消えてしまった。
だが、魔女や悪魔に惑わされたにしては、経験したことが馬鹿馬鹿しすぎる。熊男は大瓶の蜂蜜をいくつも買って帰ったのだ。そんなシュールなまやかしがあるものか。それに、マックスも、財宝を欲しがったわけではない。蜂蜜の小瓶を一つ買おうとしただけだ。納得がいかない。
マックスが、ブツブツ言いながら森を進んでいると、不意にバサバサと音がした。猛禽でもいるのかと上を見上げると、樹々の合間から空を飛ぶ鳥ではないものが見えた。
「天使……? それに抱えているのは、人魚?」
輝く黄金の髪をした美しい男が、翼を広げて飛んでいた。腕の中には魚の尾鰭を持った少女を抱えている。だが、マックスが戸惑ったことに、彫刻や絵画で目にし慣れている天使の姿と違って、その天使は全く何も身に付けていなかった。人魚の娘を上手に抱えれば都合の悪いものは隠れるだろうが、どうやら娘の楽な姿勢を優先したのだろう、問題のある部分だけが丸見えになっていた。天使ともなると恥ずかしさなどは感じないのであろうか。マックスは視線を森に戻し、何も見なかったことにした。
すると、森の途切れた辺りに、見覚えのある若草色の衣服が見えた。あれは先ほどの熊男ではないか! マックスは、その男を追ってみることにした。
森を出ると、突如として広がった景色は、マックスの見たことのあるどのような街とも違っていた。自然の石を敷き詰めた石畳ではなく、きちんと四角に切り添えられた石で道が造られていた。家のスタイルも、色遣いも違う。もう少し原色に満ちている。ここはどこなんだ。それに、こんなに大きい街がここにあるとは聞いたことがない。これは王都ヴェルドンよりもはるかに大きい都のようだ。
人通りが多くなり、熊男を見失わないようにするのが難しくなった。その時に、この街に対する大きな違和感の理由がわかった。道を行く人びとも、グランドロンやルーヴラン風の衣装とは違うものを着ているのだが、それは大した問題ではなかった。それよりも、彼らの1/3くらいが、人間の頭をしていないのだ。猫、狐、狸、猛禽……。熊男が歩いていても、誰も驚かないはずだ。幸い、マックスと同じように人間の頭をしている者も多かったので、マックス自身も目立っているとは言えなかった。
背の高い熊男の頭を見失わないように急ぐと、熊男が一つの大きな家の前に立って何かをしているのが目に入った。彼は、呼び鈴の隣に掲げられた立て板のような所に、羊皮紙のようなものを張り出していた。彼が貼ろうとしている告知は大きく、前に貼られていたものを上から覆うようにしている。それが終わると、大量の蜂蜜の壺を軽々と抱え直して扉の中に消えた。「今帰ったぞ」という声が聞こえた。
彼の張り出していた告知を見ると、マックスが知らない言葉で読めなかったが、蜂蜜の絵があったので、これは彼が蜂蜜を販売していることなのだろうとあたりをつけた。では、この僕が最初の客になろう。マックスはひとり言を言って、扉を叩いた。
「なんだ」
顔を出したのは、ザン切り頭で無精髭を生やした、屈強な男だった。
「その張り紙を見たんだが」
マックスが告げると、男はああ、という顔をして、奥に向かって叫んだ。
「おい、応募者が来たぞ! カーティス!」
応募者? 言葉は通じていると思うのだが、単語に違う用法があるのかもしれない。マックスは、目の前の男が中へ招き入れるのに素直にしたがった。
「ちょっとこの部屋で待っていてくれ。あ、俺はギャリー。うまくあんたが採用されたら仲間になるってわけ、よろしくな」
そういって去っていった。仲間? 蜂蜜を買う仲間って何だ? マックスは首を傾げた。これはその責任者が来たらきちんと話をしないと……。そう思っていると、ドタドタと音がして大量の人間が階段を下りてくるのが聞こえた。
「嘘だろ、あれっぽっちの報酬で応募してくるバカがいるのかよ」
「おい、俺にも見せろ! どんなスキル〈才能〉があるヤツなんだ」
「ちょっとっ! 賭けは賭けよ。本当だったらアタシの勝ちじゃない」
ドアが開き、華麗なスカーフとマントを身に着け、目が隠れるほど長い前髪を垂らしいてる黒髪の青年が入ってきた。
「ごきげんよう。遠い所、ようこそ。私がライオン傭兵団のリーダーを務めるカーティスです。お名前と出身地をどうぞ」
「マックス・ティオフィロスです。グランドロン王国の王都ヴェルドンの出身です」
蜂蜜を買うのに出身地を言わなくてはならないとは。マックスは首を傾げた。だが、カーティスと名乗った男も眉をひそめた。
「グランドロン王国? そんな国聞いたことねーな」
カーティスが何も言っていないのに、部屋の外にいる外野が騒いでいる。カーティスの立派なマントの影になり、全ての後ろの人びとがマックスに見えているわけではないが、ちらりと狐や狸の顔をした人物は見えた。
「そのような王国があるとは初耳ですね。あなたはヴィプネン族ですよね。惑星はヒイシですか?」
マックスは言葉を失った。ヴィプネン族? 惑星って何の話だ?
「グランドロンでは、人民を種族で区別したりはしないのですが。あの、表の張り紙にあった蜂……」
マックスが全て言い終わる前に、カーティスは畳み掛けた。
「スキル〈才能〉は何をお持ちですか」
「え? 私は、王宮での教師を生業としていますが」
「ということは記憶スキル〈才能〉をお持ちということですか?」
「記憶……ですか。悪くはないとは思います。それに、リュートとダンスなども少々嗜みます」
「それは楽器奏者のスキル〈才能〉もお持ちということで?」
「は? 弾けるということです」
話が噛み合ない。マックスはますます混乱した。
「だ・か・ら~っ。カーティスが訊きたいのは、あんたはどんなスキル〈才能〉を使って敵を倒せるのかってことでしょっ!」
噛み合わないやり取りに苛立って、ずかずかと入ってきた女性がいた。オレンジ色の髪に赤い瞳をした、なかなか魅力的な女性だ。
「マリオン。悪いが、黙っていてくれませんか。私がこれから……」
だが、話がますます聞き捨てならない方向に向かっているので、マックスはカーティスの言葉を遮って言った。
「失礼ですが、私は文人ですので、戦闘などには一切関わらないのです。私がこちらに来たのは、表の張り紙にあったように蜂蜜を買いたかったからなのですが……」
「蜂蜜~?!」
その場にいた全員がすっとんきょうな声を上げた。誰かが表のドアを開けて、掲示板を見に行った。
「おいっ! 本当に傭兵募集の張り紙の上に、ガエルの蜂蜜頒布会のお知らせが貼ってあるぞ!」
その声に、カーティスはがくっと首を垂れた。
「ガエルっ」
呼ばれて、誰かが地下室から上がってきた。
「誰か俺を呼んだか?」
「呼んだか、じゃありません! 表の張り紙はなんですか! 仲間募集の張り紙が隠れてしまったでしょう?」
「あ? あの募集は賭け用のシャレじゃないのか? あんなちっぽけな報酬で傭兵になりたがるヤツなんかいないだろう」
「う……ところで、この方は、どうやらあなたのお客さんのようです」
そう言われて「なんだって」と部屋に入ってきたのは、確かに先ほどの熊男だった。
「あれっ、さっきの……。あんた、俺から蜂蜜を買いたいのか?」
マックスは肩をすくめた。
「先ほどの店がどういうわけかなくなってしまったんでね。ほんの少しでいいんだが」
「じゃあ、わけてやるよ。あんたは特別だ、払わなくていい」
マックスは、ガエルにごく小さい蜂蜜の壺を貰うと、荷物の中に丁寧にしまい、礼を言って立ち上がった。
「ところで、ここはどこなんだい?」
マックスが訊くと、その場にいた人たちはきょとんとした。
「皇都イララクスだが」
ガエルが答える。マックスは、それはどこだと心の中で訴える。ガエルは、そのマックスの心の叫びを理解したようで、ポンと彼の肩を叩いた。
「さっきの森に戻れれば、きっとあんたの世界に帰れるだろう。ちょっと待ってくれ、飛べるヤツを呼んでくるから」
そう言って、部屋から出ると「おい! ヴァルト、ちょっと頼まれてくれ」と叫んだ。
「なんだよ」
声がして、バタバタと誰かが二階から降りてきた。部屋に入ってきた金髪の男を見て、マックスは「あ」と言った。さっきのすっぽんぽん天使だ。いや、今はきちんと服を着ているし、羽も生えていないが。
「悪いが、ちょっとした恩のある男なんだ。森まで連れて行ってくれないか」
「俺様が? どっちかというとカワイ子ちゃんを抱えて飛ぶ方が好みなんだが。ま、いっか」
ヴァルトは、ばさっという音をさせると、大きくて美しい羽を広げた。
「来な。あんた、まさか高所恐怖症じゃないだろうな。忘れ物すんなよ」
ヴァルトに抱えられて空高く舞い上がったマックスに、ライオン傭兵団の面々は手を振った。ガエルが「また逢おう!」と声を掛けた。マックスは手を振りかえした。
鳥の視点で見る都は、とても美しかった。だが、その不思議な色彩の建築物の数々を見れば見るほど、ここはどこか異世界なのだとはっきりとわかった。
「ほら。森が見えてきた。ここでいいだろう」
ヴァルトは、樹々の間を通って下草の間にそっとマックスを降ろした。それからウィンクして言った。
「じゃあな。もう迷子になるなよ。またどこかで逢おうぜ」
それからバサバサと音を立てて飛び立っていった。下から見上げてマックスには、それがヴァルトを最初に見かけた正にその場所だとわかった。
「ありがとう! またどこかで逢おう!」
マックスは、手を振った。
《シルヴァ》は、広大な森は、いつものように神秘的で深かった。下草を掻き分け、小川に沿ってゆっくりと進むと、また明るい光が射し込んできた。
街が見えてくる。マックスの見慣れた、グランドロン式の建物が目に入った。ようやく彼は自分の世界に戻れたのだと確信できた。マックスは荷物をそっと開けて、蜂蜜の小さな壺があるのを確認した。あれは夢ではなかったようだ。だとしたら、またガエルやヴァルトや、その他の傭兵たちともどこかで逢えるのかもしれないな。
マックスは、次の目的地を目指して、道を探した。新しいものを見聞し、世界の広さを知る、人生の旅だった。
(初出:2015年2月 書き下ろし)
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