scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】目が合ったそのときには

この記事は、カテゴリー表示のためのコピーです。

scriviamo!


ものすごく巻いていますが、そうなんです、今、いっぱいたまっているんですよ。というわけで、scriviamo!の第六弾です。limeさんは、「妄想らくがき」シリーズの最新作で参加してくださいました。

limeさんの描いてくださった『狐画』
『狐画』by limeさん
このイラストの著作権はlimeさんにあります。無断使用は固くお断りいたします。

limeさんは、登場人物たちの心の機微を繊細かつ鮮やかに描くミステリーで人氣のブロガーさんです。昨年も携帯投稿サイトの小説家を養成する公募企画で大賞を受賞されたすごい方です。穏やかで優しいお人柄に加えて、さらにこんなに絵も上手い。まあ、みなさんよくご存知ですよね。

今回、scriviamo!参加用に出してくださったのは、ちょっと妖艶な感じの狐の化けたような少女の登場するイラストです。これ、私には七転八倒するほどの難問だったのですが、どうもそれは私だけだったようで、あちこちのブログで素晴らしいお話が発表されています。

で、お返しなんですが、最初にイメージした妖狐を使う話は避けました。他の方と重なることが予想されたし、さらにscriviamo!は基本的に受付順でお返しするので、思いついた話を即日発表できるような状況になかったので。で、普段は書かないようなストーリーにしましたが、なんだか私の性格の悪さを露呈しただけのような……。他の方の書かれる素敵なお話と毛色の違う妙なストーリーになりました。

そもそもありえない状況を書いていますので、「なぜこれがこうなるんだ」というような辻褄にこだわるとハマります。辻褄は、全く考えていませんので、あしからず。


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目が合ったそのときには 
——Special thanks to lime san


「お願い。まずは友達になってくれるだけでもいいから」
佳子の必死な声に、俺は背を向けた。悪い。二次元じゃなきゃ嫌だっていうほどこっちも病んではいないけれど、君はまったく趣味じゃないんだ。

 佳子は、三流の女子校を上から十番目くらいの成績で卒業して、推薦で短大に進み、親のすすめで入った会社で経理をやっているというタイプの女だ。本当のところは知らないけれど、とにかくそういうイメージ。きっと得意料理は肉じゃがとかマカロニグラタンとか、その手の無難なヤツだろう。

 そういうのが好きな男はいっぱいいるから、悪いけれどそっちへ行ってくれ。俺が小悪魔タイプがいいのは知っているだろ。
「悪いけれど、三次元だったら、猫耳のコスプレしてミニスカートでお出迎えしてくれるような子じゃないとイヤなんだ。君にはまったくチャンスはないよ」

 いくら俺でも、本当にそんなタイプじゃないと彼女にできないなんて、そこまで怪しくはない。もちろん、妄想ではいつもその手の子だけれど、現実はそんなに俺に都合良くできていないことくらいわかっている。そもそも上から目線で選べるほどこっちの条件がいいわけじゃない。でも、ここまでいえばこの子は諦めてくれるだろう。

 泣きながら佳子は去っていった。俺は、少しホッとした。秋葉原へ行くつもりだったけれど、氣をそがれて中央通りを銀座方面へと歩いていった。何か用事があった訳ではないけれど、こんな俺でも少し後ろめたいときだってあるんだ。まあ、俺に振られたくらいで世を儚むこともないだろうから、罪悪感を持つこともないんだけれど。

 京橋にたどり着く少し前に、洒落た画廊の前を通り、ガラスウィンドウから見慣れた後ろ姿を目に留めた。総務の京極だ。

 同期で一番の出世頭なだけじゃない。女が群がる超絶イケメンで、生家は江戸時代から中央区に屋敷を構え、子供の頃から一流品だけを身につけている品のいい金持ちで、会長が惚れ込んで孫娘との縁談を進めようとしている。

 そのスペックのたった一つでいいから、神様が俺にわけてくれたらよかったのに。

 京極は、草原の上で白い狐が日向ぼっこをしている絵を見ていた。御坊ちゃまらしい品のいい趣味だ。俺だったら、ただの狐じゃなくて猫耳もとい狐耳をした女の子に日向ぼっこしてもらいたいけれどな。あいつ、あの絵を買うんだろうか。優雅なこった。

 俺は、そのまま銀座まで歩くと、日比谷線に乗って我が家に帰った。ガラのあまりよくない繁華街を通らないといけないせいで、東京二十三区の中にあるというのに家賃は格安だ。部屋に戻って最初にするのはPCの電源を入れること。そして、今日も好みのコスプレちゃんを探してネットサーフィンに興じるのだ。

 冷蔵庫に向かい、缶ビールを取り出した。プシュと開けて、そのままPCの前に戻る。いつもは「猫耳」「制服」で検索するのだが、今夜は趣向を変えてみたくなった。

 少し考えた。「狐」「コスプレ」「小悪魔」。よし、これで行こう。

 いつもとあまり変わらない検索結果が表示されたが、そのページの一番最後に、著しく心惹かれる顔があった。真っ白い肌、髪も白い。ほっそりとした顔立ちに、簡単には落ちないと言いたげな反抗的な目つき。俺の好みにど真ん中。へえ。こんな子がいるんだ。

 俺は、その子の写真をクリックした。表示されたページで、何とその子とチャットもできることが判明。俺の方はカメラはないけれど、あちらはライブで映してくれるらしい。ほんとかよ。

 俺は、恐る恐る「チャット希望」ボタンを押してみた。ボタンが「呼び出し中」に変わり「接続しています」に変わった。それから、パッと画面が暗くなったと思ったら、全面に紛れもないその子の姿が映し出された。

「こんばんは」
聞き覚えのある声だ。もちろんこんなかわいい子に逢ったら絶対に忘れないから、知っているはずはないのだけれど。

「こんばんは。僕の名前は……」
「名前なんて言わなくていいわ。私、知っているもの」
「え?」

「わからない? さっきまで一緒にいたのに」
俺は、ぎょっとした。聞き覚えのある声の持ち主が、それでわかったからだ。
「佳子? まさか!」

「そうよ。ここで逢うとは思わなかったでしょう? さあ、私の目を見て」
「え?」

 狐の耳をした美少女の金色に光る瞳が、こちらを向いて光った。その時に、俺の周りは急に金色の光に包まれて何も見えなくなった。

「はい、終了。私はあなたを手に入れたから」
俺の声がした。

 なんだって? 俺は、恐る恐る瞼を開けた。

 すると、画面の向こうに見慣れた俺の部屋があって、俺の服装をした男が立ち上がっているところだった。

「PCの電源を落とす前に教えてあげる。その狐は、四角い枠の中なら何処へでも行けるの。PCでも、テレビでも、スマホでも自由に。そして、目の合った最初の人と入れ替わることができる。私は、もうあなたを離したくないから、二度と狐と目なんか合わさないけれど、あなたは自由になりたかったら、好きなところヘ行って誰かの体をもらうといいわ。もっとも、あなたも好きでたまらない耳のある美少女を手に入れたんだから、ずっとそのままでもいいかもね」

 そう言うと、彼女はぷちっと電源を落とし、俺は暗闇の中に取り残された。

 これは、夢だ。こんな馬鹿なことが! 俺は、大声をだし、頬をつねり、ジタバタ走り回った。でも、どうにもならなかった。俺は、狐の耳を持ち、白い髪の毛とふさふさの尻尾を持った、ロリータ系美少女の体つきになっていた。冗談じゃない。俺は鑑賞する方がいい、自分が美少女になって何が楽しいものか。

 とにかく、なんとかしなくちゃいけない。佳子が言っていたことが本当だとすると、また俺みたいに狐耳の美少女を求めて検索してきたヤツと交代すればいいんだろうか。

 まてよ、それは嫌だ。自分ならいいけれど、俺みたいな嗜好をもった他のむさ苦しい男になるなんて勘弁だ。どうせ違う人間になるなら、もっと恵まれた存在になりたい。例えば京極みたいな。

 そして俺は思い出した。京極のヤツ、あの画廊で絵を眺めていたな。まてよ、あれも四角い枠じゃないか。もし、あいつが明日もあの画廊に行くなら……。俺にもチャンスが向いてきた。

* * *


 そして、俺は、あの画廊の、あの絵の中にいる。絵の中にいた白い狐は蹴散らしてやった。あの狐が日向ぼっこしていた場所に座って、あいつが来るのを待っている。座っているのに飽きたので、横たわって昼寝をすることにした。

 日中にヤツがやってこなかったのは、やむを得ない。総務のヤツらは五時までは上がれないからな。ようやく営業時間が終わった。待ちくたびれたぞ、早く来い。早く来い。

 ふっ。本当に来たぞ。画廊の店番が大喜びで出迎えていやがる。さあ、こっちにこい。お前と目が合ったその時には、俺の恵まれた人生が始まるんだからな。

(初出:2016年1月 書き下ろし)

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