scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】目が合ったそのときには - 2 -  俺ん家が温泉風呂になったわけ

この記事は、カテゴリー表示のためのコピーです。

scriviamo!


scriviamo!の第九弾です。かじぺたさんは、limeさんの「妄想らくがき『狐画』」につけたお話で参加してくださいました。

かじぺたさんの書いてくださった『狐画』によせて・・・【オレん家の風呂が温泉になった訳】scriviamo!2016参加作品

かじぺたさんは、好奇心旺盛なブロガーさんで、旅のこと、日々のご飯のこと、ご家族のことなどを、楽しいエピソードとともにたくさんご紹介してくださっています。それも、毎日更新! fc2のブログって、私にはいっぱい容量があって永久にいっぱいになんてならないと思っているのですが、かじぺたさんは熱心に更新なさっていらっしゃるので、ひとつのブログはもう一杯になってしまい、現在は二つ目のブログを中心に活躍なさっていらっしゃるのです。が、どうやら旧ブログもしっかりと更新していらっしゃるだけでなく、もう一つのブログもあるみたい。そのパワーはどこに? ただ更新しているだけでなく、ちゃんと中身が充実しているのがすごいです!

そして、それだけでなくて、皆さんのブログへのコメントがとても丁寧で、とっても暖かいのですよ。お人柄にじーんときます。私が仲良くしていただけるようになったのは、わりと最近なんですが(彩洋さんちのオフ会ぐらいがきっかけだったでしょうか)、小説もたくさん読んでいただけているだけでなく、その暖かさに感動している私なのです。

さて、scriviamo!参加用に出してくださったのは、あちこちのブログで競作が盛んなlimeさんの『狐画』につけたお話で、お風呂に入っている時に思いついたとのこと。可愛くて、ハートフルなお話し、温泉みたいにぽかぽか温まっちゃうし、可愛い女の子にきゅんきゅんしてしまいます。

で、お返しなんですが、かじぺたさんのお話は、きちんとまとまっているので、何かを書き加えるのは難しいし、この企画の常連さんはご存知のように、limeさんからの宿題でこのイラストに合わせた話はもう書いたのですよ。同じ絵で別の話は自分の中で上手くイメージできないので、前回「続きが氣になる」とおっしゃった方が何人かいらっしゃったのをいいことに、続編を書いてみました。

かじぺたさんのお話は「オレん家の風呂が温泉になった訳」ですが、沐浴小説ブログ(いつからそうなった?)の管理人としては、これはいただかないと(笑)こちらはそれをもじって「俺ん家が温泉風呂になったわけ」です。

え〜と、かじぺたさんだけでなく、皆さんに謝っておきます。この素敵なイラストでこんな話を書いているのは、私一人です。


参考 (読まなくても話は通じますが、読んだ方がわかりやすいかも)
目が合ったそのときには

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目が合ったそのときには - 2 - 
俺ん家が温泉風呂になったわけ
——Special thanks to Kajipata san & lime san


『狐画』by limeさん
このイラストの著作権はlimeさんにあります。無断使用は固くお断りいたします。


 絵に背を向けて、俺は颯爽と画廊を後にした。こんなに簡単にいくとは思わなかった。京極のヤツ、間が抜けすぎているんじゃないか? 俺と入れ替わっても騒ぎもしない。あまりのことに呆然としているんだろうか。

 でも、ヤツのことを凝視していると、また目が合ってしまうかもしれないので、さっさとトンズラすることにした。

 昨夜、俺は振った佳子に猫耳少女ならぬ狐ギャルに変身させられてしまった。現実の世界に戻る方法は、目の合った最初の人間と入れ替わることだけ。狂った設定だけれど、賢い俺はこのピンチをチャンスに変えて、超絶イケメン京極の体と一緒に金持ちライフを手に入れたってわけだ。

 商談を続けようとする画廊の親父を振り切って、俺は中央通りに出た。京極の野郎はここから徒歩で帰れるすごいお屋敷に住んでいるのだ。江戸時代から続く名家は、中央区に二百坪の屋敷を構えている。営業の途中に前を通って、「ちくしょう、いい星の下に産まれやがって」と思っていたが、今日からあそこが俺の家だ。

 コートのポケットにiPhoneが入っている。これももう俺のものだ。パスコードは知らないけれど、指紋認証は問題ないし、ヤツのメールも読み放題だ。

 まてよ。佳子が言っていたな。
「その狐は、四角い枠の中なら何処へでも行けるの。PCでも、テレビでも、スマホでも自由に。そして、目の合った最初の人と入れ替わることができる」

 もし、狐にされてしまった京極の野郎がスマホから戻ってこようとしたら……。ダメだ。スマホもPCも避けなくちゃ。ああ、今晩放映するアニメも観られないじゃないか。せっかく京極になったって言うのにいろいろと厄介だな。

 考えているうちに、もう京極の家に着いていた。あたり前だが、玄関の枠も四角かったのでビビったが、狐は出てこなかった。出てきたのは割烹着を着たおばさんだ。

「坊ちゃま。おかえりなさいませ」
う。誰だろう。使用人かな。

「どうかなさいましたか」
「い、いや。なんでもないんだ。実は、会社でちょっと頭を打ってね。記憶が曖昧なんだけれど、二三日で元に戻るだろうと医者にいわれたんだ、そのつもりでいてくれ」

 俺が口からでまかせを言うと、その女はちょっと変な顔をしたが「そうですか」と言った。なんとか誤摩化せたか。

「お食事にしますか。それとも、いつものようにお風呂に入られますか」
「ああ、風呂にするよ。いつものようにね」

「今夜は満月ですから、露天風呂にお入りになるんですよね。いつも通り熱燗をご用意しましょうね」
「え? 露天風呂?」
「ええ。お忘れですか。ご先祖様がわざわざお引きになった温泉のことも」
京極のヤツ、自宅で温泉なんかに入っていたのか。こりゃいいや。今日から、俺んちの風呂は温泉露天。サイコー!

 俺は嬉々として、その女の後について、でかい屋敷の中を進んだ。個人邸宅だというのに、そこら辺の旅館よりも立派な風呂で、楕円形の内風呂の他に、本当に立派な露天風呂があった。香り高い檜の枠で、湯の底に丸い天然石がきれいに敷き詰められているのが見えた。

 わずかに鉄のような匂いのするいい湯だ。女が徳利とお猪口の載ったお盆を持ってきた。もちろん全裸で入っていた俺は、一瞬慌てたが、女は京極の裸は見慣れているのか、「ごゆっくり」と言って出て行った。

 なぜお猪口が二つあるんだろう。俺は首を傾げた。まあ、いいか。

 水面に満月が揺れている。湯氣が立ちのぼる。いい湯だな。こういう風呂で猫耳のギャルにお酌してもらいたいなあ。彼女は言うんだ。「あたし、少し酔っちゃったみたい。肩に頭載せてもいい?」なんちゃって。

 と、思った途端、水面の月が揺れたかと思うと、その中から狐耳の美少女が浮かび上がってきた。え?

 月の光が眩しい黄金になって目がくらんだ。ええっ?

「体、返してもらったから」
あわてて目をこすって、瞼を開けると、目の前に京極がいて、手に持っていたお猪口を傾けて、熱燗を飲んだ。そして、俺は、また狐耳の美少女にされていた。

「坊ちゃま、お済みになりましたか?」
扉の向こうから、さっきの女の声がする。京極は答えた。
「ああ、無事に戻ったよ、サエさん。ありがとう」

 俺は、呆然として京極の顔を見ていたが、ようやく口をきいた。
「なんで……」

「もう五回目なんだよ。サエさんも慣れていてね。こういう時には、この露天風呂に誘導してくれるんだ。四角い枠だろう、この風呂も」
そういうと、日本酒をもう一つのお猪口に入れて奨めてくれた。なんだよ、こいつ、この余裕は。

「俺の目を見ろ!」
再トライしてみたが、京極は笑った。
「ダメなんだよ。前の人の時もそうだったけれど、同じ人とは一度しか入れ替われないらしいよ」

 俺は、がっくりしてしかたなくそのお猪口を受け取った。京極は、月見酒を飲みながら訊いた。
「ところで、君も、うちの会社の人?」

 俺は、もちろん黙秘だ。
「そんなこと、あんたには、関係ないだろう」
「まあね。でも、否定しないってことはそうなんだろうね」

「前にもうちの会社のヤツが、狐になったのか」
「少なくとも三人はね。人事と総務と経理」

 俺は、それで氣になっていたことを口にした。
「経理の関谷佳子、今日会社に来たか?」

 京極は、じっと俺を見つめてから答えた。
「いや、有休だそうだ。営業の山内拓也が今日、その届けと彼自身の退職届を持って来たよ」

 お猪口を持つ手が止まった。
「え? 退職?」
「ああ、そうだ。なんだっけ、外国に行くとか」

 俺は、ざばんと温泉から立ち上がった。
「なんで俺が、外国に行くんだ~!」

 京極の目が、不自然に逸らされたので、俺は美少女のあられもない姿をヤツにさらしてしまったことに氣がついて、慌てて湯の中に戻った。

「君、山内だったんだな」
不覚……。バレてしまった。

「そうだよ。悪かったな。でも、助けてくれよ。佳子のヤツ、あのままトンズラするつもりだ」
「関谷くんが、君の体を乗っ取っているのか?」
「うん。俺が振ったのを恨んでいるのかな。取り返されないように逃げるつもりだ。居場所がわからないと、追いかけられないよ。どうしよう」
「でも、変だな。石橋を叩いて渡る関谷くんにしては行動が早いな」

 言われてみればそうだった。佳子は、一昨日までは存在すらもわからないくらいだったのだ。いきなりの告白、振ったらその日のうちに復讐。

「告白をしてきた佳子、もしかして本人じゃなくて乗っ取られていたのかな」
「その可能性はあるな。そして、その誰かは一度、狐女になってから今度は君を乗っ取ったのかもしれないな」

 京極は、俺のお猪口にまた熱燗を注いでくれた。
「俺はどうすればいいんだろう。俺の体の中にいるヤツの裏をかいて、また入れ替われればいいんだけれど。絶対に返したくないって宣言されちゃったんだよ」

「関谷くんとコンタクトをとって、まず彼女が本人なのか確認した方がいいな。君の中にいるのが誰なのかも確認した方がいいし、それに、狐女になったことのあるうちの社員たちと話をして、もともとの狐がどこにいるのかも……」
「でも、それがわかるまで、俺はどうしたらいいんだよ。この恰好じゃどこにも行けないし、うっかり変な奴と目が合ったら、またおかしなことに」

 京極は、う~んと言って月を見上げた。
「じゃあ、しばらくここにいろよ。僕が明日会社に行って、関係者と話をして情報を集める。この露天風呂には、ほとんど誰も来ないし、誰か来たらお湯の中に消えればいい。サエさんには、食事を運んでくれるよう言っておくから」

 俺は、京極の顔をみた。体を乗っ取ろうとした奴に、なんとまあ親切なこった。
「お前、そんなに人がいいから五度も乗っ取られるんだぞ」
「そうかな。でも、君がその姿でここにいる限り、新たな混乱は起こらないだろう。その方がこっちにもいいんだよ」

「ふうん。じゃあ、お言葉に甘えるかな。でも、この風呂の中に一人でずっと居るのは退屈だな。マンガとかお前持っていなさそうだよな。日中、アニメとか観てもいいかな?」

 京極は呆れた顔をしたが、頷いた。
「しかたないな。後でテレビとリモコンをここに持ってくるよ。それと悪いが、裸でそこら辺をうろちょろしないでくれ」

「そんなこといわれても、服持っていないよ」
「晒し布かタオルを用意してもらうから、それでも巻いておけよ」

 それよりもスクール水着はって言おうとしてやめた。俺は、京極にこれ以上呆れられないように、大人しくお猪口を傾けた。まあいいや、しばらくはこの温泉風呂を根城に、ちょっとした休暇を楽しもうっと。アニメ三昧の。

(初出:2016年2月 書き下ろし)

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