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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち (12)セウタ、 アフリカ大陸 -2-

ここに出てくるモロッコ一日ツアーに、私と旦那は参加しました。印象は小説に書いたそのままですが、書かなかったことが一つ。香辛料屋でしかたなく購入した肉用と魚用の香辛料にべた惚れしてしまいました。ああ、もっと沢山買ってくるんだったと、ちょっと後悔しています。

あらすじと登場人物
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大道芸人たち Artistas callejeros
(12)セウタ、 アフリカ大陸 後編


 モロッコで稼げるとは思えなかったので、四人は定休日にテトゥアンとタンジェをまわる一日ツアーでモロッコに入ることにした。昼食もついているし、パスポートコントロールもガイドまかせなので何の苦労もいらない。両替の必要すらない。

 ものものしい国境でのコントロール、モロッコ側にたむろしている大量の人たち、道の脇に積み上げられたゴミの山などが、全くセウタとは違う世界だった。

「アフリカ大陸に来たって、ようやく納得できたわ」
「セウタは完全にヨーロッパだもんな」
「国境一つでこんなに違うんですね」

 バスの窓の向こうに青い空と乾いた大地が広がっている。道行く人たちの服装が、歩き方が、たたずまいが異国的だ。

 やがて、バスはテトゥアンの市内に入り、バザールの入り口で止まった。バザールの中は迷路のように入り組んでいた。白い壁には強い日光が照りつけているが、内部は暗く涼しい。カラフルな衣類や雑多な生活用品を売る店が続く。鍋類が鈴なりに飾られている店、平たいパンを窯で焼く店、それらを楽しそうにのぞきながら、ツアーガイドに連れられて先へと進んでいく。

 もの憂げな顔の売り娘、偽ロレックスを買わないかともちかけるうろんな男達。ヨーロッパの市場と違うのは、一分でも人々が放っておいてくれないことだ。

 やがてガイドは一行を絨毯屋に連れていった。絨毯を買う氣が全くない四人のにべもない断り方に、ついに販売をあきらめた売り子がほかの客に張り付いてくれたので、その間に四人は他の場所を見て回ることが出てきた。

 蝶子はレネに通訳してもらって金の縁取りのあるティーグラスを四つ買った。

「そんなもん、どうするんだ?」
稔が訊いた。

「移動する時に、いつもワインをプラスチックで飲んでいるでしょう?ちゃんとしたワイングラスは難しいけれど、せめてガラスで飲みたくって」

「悪くないな。白ワインをこういうグラスで飲むこともあるからな」
ヴィルが言った。

「だから、四つ買ったの。いつ割れちゃうかわからないけれどね」
蝶子はウィンクした。

 昼食は大きなタジン鍋に入ったクスクスと鶏と野菜のシチューで、すばらしい装飾のある大きなホールの真ん中では、ベリーダンスを踊る女性達がいる。レネはぼうっと嬉しそうにダンスを眺め、稔はクスクスにがっつき、ヴィルは観光客用のビールを遠慮なく飲んでいた。蝶子は遠慮してミントティーを頼んだものの、その甘さにうんざりしてすぐにヴィルと同じくビールに逃げた。

「モロッコで稼ぐことにしなくてよかったわね」
ビールの味に眉をひそめて蝶子が言った。イスラム国ではワインなんて絶対に飲めないし、ビールがあるのも観光客向けのレストランだけだ。

「そうだな」
ヴィルもスペインのセルベッサ(ビール)の味が恋しそうだった。

 香辛料屋に連れて行かれ、それからバスに乗ってタンジェに行った。白い植民地時代の建物の残る港から海をのぞむ。

「なぜか、物悲しいわね。昨日見たのとおなじ海なのに」
蝶子が言った。

 その通りだった。同じスペインに面した海を見ているのに、なぜかセウタで見た海とタンジェで見る海は全く違って見える。周りの人々、ほこりっぽい土地、空氣の匂い、それらがなんともいえない哀調を呼び起こしている。
帰りのバスから観る海に沈む橙色の太陽は、そのメランコリーをさらに強めた。四人は黙って海に消えてゆく夕日を眺めていた。

 セウタに戻ると、沈んだ心を高揚させるべく、バルに入ってティントを頼んだ。先程モロッコにいたのが嘘のように、セウタは完膚なきまでのヨーロッパだった。蝶子は買ったティーグラスを取り出して眺めた。やはり、モロッコに行ったのは夢ではなかったのだ。
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Tag : 小説 連載小説

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