scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 2 (4)バルセロナ、宴 -1-

またしてもしばらく間が空きましたが、「大道芸人たち」の続きです。この「バルセロナ、宴」で浮かれまくっている「ケッコン祭」はひとまず終わります。と言っても長いので3回に分けています。ブツブツと連載が途切れると、読みにくいと思いますので、77777Hit記念掌編の続きはこの3回(とStella用の作品)が終わってからになります。どうぞご了承ください。

「大道芸人たち 第二部」をはじめから読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(4)バルセロナ、宴 -1-


 カルロスの言葉は嘘ではなかった。稔はコルタドの大聖堂が本当に満杯になっているのをみてのけぞった。前から四列だけはカルロスがリボンを引いて座れないようにしてあったので、招待客がやっと座れるという状態だった。

 領民たちはみな、日曜日用の背広やワンピースを着て、がやがやと座っていた。外には大きなテントがいくつも張られていて、結婚式の後の大宴会用の準備が忙しく行われていた。

 稔とレネは一張羅を堅苦しく着て、通路を一番前に向かった。真耶と拓人がもう座っていて、ここだと手招きした。証人の二人は通路に一番近い最前列に座るのだ。真耶たちの向こう側にはピエールとシュザンヌが晴れ晴れしい笑顔で座っていた。後ろはアウグスブルグの連中で、もうほろ酔い加減なのかと思うほど大声で騒いでいて、時折スペイン人に「しっ」と怒られていた。

 通路を隔てて反対側には、イネスやサンチェスをはじめとする主だったカルロスの使用人たち、それにスペインとイタリアの雇用主たちがすまして座っている。稔とレネは軽く頭を下げて挨拶した。その他の招待客は、クリスマスパーティでなじみになった、カルロスの友人たちだった。

 ヤスミンとマリサの姿は見えない。二人はブライズメイドをつとめるので蝶子と一緒に入ってくるのだ。カルロスの分も含めて三人分の席が、レネたちの反対側に確保してある。

 稔とレネに少し遅れて入ってきたのは、今日の花婿である。モーニングを着ていてもまったく衣装負けしていないのはいいが、フュッセンの時と違って、あまりの大騒ぎに勘弁してくれという顔をしている。もちろん、それを読み取れるのは証人の二人だけである。

 稔とレネは立ち上がって、ヴィルに「がんばれ」と目でサインを送った。ヴィルは淡々と、招待客たちに礼を言ってまわった。アウグスブルグの連中は嬉しそうに固い握手をし、女性陣はその頬にキスをして祝福した。真耶もその一人だった。拓人はがっしりと握手をしてからウィンクした。

 やがて、荘厳なオルガンの音がして、人々の目は一番後ろの大聖堂の入り口に集中した。ここにいる人間の九割がたの領主様であるカルロスが誇らしげに花嫁に腕を貸して入ってくる。美しい花嫁の父親役が出来る役得を大いに楽しんでいた。

 すっきりとしたマーメイドラインは蝶子の完璧なスタイルを強調している。ラインはシンプルだが、表面をぎっしりと覆い、腰から後ろにも広がっている長くて美しいレースが清楚でありながらスペインらしい豪華さだ。顔を隠している長いヴェールにも同じ贅沢な手刺繍がふんだんに使われている。真耶は思わずため息をもらした。

 稔とレネはヴィルの表情が変わったのをみて顔を見合わせて笑った。ほらみろ、テデスコ。教会での結婚式も悪いもんじゃないだろ。さすが、トカゲ女だ。こんな完璧な花嫁はなかなか観られるもんじゃないぜ。それからレネと稔は、マリサとヤスミンに笑顔を向けた。

 一ヶ月前のフュッセンでの婚式でもう正式な夫婦として認められていたので、ヴィルはこの教会の挙式を単なる義務か罰ゲーム程度にしか考えていなかったのだが、それは自分の考え違いだったと認めざるを得なかった。カルロスから蝶子の手を渡された時に、ようやく本当に蝶子と一緒になれたのだと感じた。

 それは美しい花嫁だった。ヴェールの下から見つめる瞳が、強い光を灯している。赤い唇の微笑みはついにヴィルの無表情に打ち勝った。ヴィルは稔とレネが驚くぐらいにはっきりと微笑んだ。

 フュッセンで行った婚式と違うのは、カトリックの結婚式でオルガン演奏と大コーラス付きの聖歌や祈りや、司教による説教などが入っているところだったが、基本的には同じ誓いを繰り返して、二人は宗教上も認められる夫婦となった。

 ヴィルは蝶子のヴェールを引き上げて優しくキスをした。大聖堂は歓声に満ち、二人が大聖堂から出てくると盛大なライスシャワー攻めにあった。そしてテントでは、さっそく領民たちが大騒ぎして飲み始めた。飲めれば何でもいいのは僕たちと同じだな、レネは密かに思った。

 真耶は蝶子に抱きついて祝福をした。
「おめでとう、蝶子!あなたは今までに私の見た一番きれいな花嫁よ」

「ありがとう、真耶。あなたにだけはどうしても来てほしかったの。はい」
そういって、蝶子は白い蘭のブーケを真耶に渡してしまった。

「おい、そのブーケを狙っているヤツはまだこっちにもたくさんいるんだぞ」
稔がヤスミンやその他の女性軍を目で示した。実は、マリサも密かにブーケを狙っていた。

「だめよ。もうもらっちゃったもの。私もここで結婚したいわ」
真耶は微笑んで大聖堂を見上げた。

 拓人が肩をすくめた。
「お前の結婚式がここなら、僕はまたお前と共通した四日連続の休みを見つけなくちゃいけないじゃないか」

「それって、親戚として? それとも音楽のパートナーとして? どういう立場で参列したいわけ?」
真耶は冷たく言い放った。

「もちろん花婿としてですよね」
レネが優しく突っ込んだ。拓人は大聖堂を見上げてうそぶいた。
「ここで挙式するのは、確かに悪くない。カルロスに予約しておこうかな。相手が誰かは別として」

 大聖堂前でいつまでものんびりしているわけにはいかなかった。この後、コルタドの館ではパーティがある。女性陣は着替えなくてはならないし、カルロスや使用人チーム、それに稔やレネ、花婿のヴィルですらやる事がたくさんあった。領民やアウグスブルグチームのように酔っぱらっている場合ではなかった。

「あまりここで飲み過ぎるな。パーティの始まる前に泥酔されると困る」
ヴィルが言ったが、ドイツ人たちはグラスを高く掲げてセルベッサを一息で流し込んでいるだけだった。

「ヤスミン! お前もここに来て飲めよ」
ベルンが誘ったが、ヤスミンは首を振った。
「冗談! ビール臭い息でダンスを踊れっていうの? ドレスだってせっかく新調したのよ」

「だから、女ってヤツは……」
団長がまわらぬ舌で文句を言ったが、ヤスミンはもうその場を去っていた。
関連記事 (Category: 小説・大道芸人たち 2)
  0 trackback
Category : 小説・大道芸人たち 2
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
ご結婚おめでとうございますm(__)m
どんなドレスなんだろ、と思っていたのですが、
マーメイドラインのドレスはまさに蝶子さんに
ぴったりのドレスですね。
普段も濃紺のマーメイドタイプのフレアスカートを着用している
蝶子さんですが、今回のドレスの色っぽさと可憐さは
一塩だったでしょうね。
わたしは漠然と普通のふんわりしたフレアスカートを想像していたので、
このチョイスは唸らされましたね!
マーメイドラインのドレスは、なぜか若い子よりもある程度
歳を重ねた大人の女性によりはまる気がします。なぜかわからないんですけど(笑)

ヴィル様があからさまに顔色変えてる!
こういうこともあるのか……とこっちがなんだか恥ずかしくなりましたよ。
笑顔も蝶子さんの一人勝ちだし、これはもう、認めざるを得ませんね。
ヴィル様みたいな性格の人って、こういうお祭りというか、余興的なのを
避けて通りがちな面があると思うんですが、今回ばかりは
やってよかったって本心から思ったんじゃないかな。
あと、>宗教上も認められる夫婦となった
という記述が印象的でした。

それからそれから、カルちゃんいい味出し過ぎ!(笑)
「ケッコン祭」、まだ続くのですね。
引き続き楽しませていただきます^^
2016.07.14 05:48 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

お祝いありがとうございます。
って、私の結婚じゃないけど。

ドレス。
教会用の白と、パーティ用の色ドレスと二着あるんですが、白はマーメードのイメージしか浮かびませんでしたね。
かなりすっきりした、ストンとしたウエディングドレス、こちらではよく見ます。
やはりジャンルとして「かわいい」よりも「大人っぽい」女性が多いからかなと思ったりもします。
ただ、蝶子のドレスの主役は、レースです。
手刺繍のレースってウルトラ高いんですよ。カルロスは金に糸目をつけずに用意させたはず。そう考えると形はフレアタイプよりもすっきりさせてレースが美しく見える方がいいなと、それでこういうデザインを選びました。

それに蝶子はけっこう年増ですし!

ヴィルがはっきりと表情を変えるシーンってあまりないんですよ。
まあ、結婚式くらいはね(笑)

ケッコン祭、「もういい加減にせい」というくらいしつこく書いていますが、あと二回でおしまいです。
みなさんにちゃぶ台ひっくり返されそうですが、こんなことは全メンバーの結婚式でやるわけではありませんのでご安心ください。なんかね〜、ヨーロッパの結婚の風習も書こうかなと欲張ったら、長くなっちゃったんですよ。すみません。
その後、いきなりトーンが変わりますので、それまでしばし浮かれた感じをお楽しみくださいませ。

コメントありがとうございました。
2016.07.14 22:30 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

フュッセンの結婚式がセレモニーだとすると、こちらはまさにパーティという感じの華やかさですね。
ヴィルは面倒くさかったんでしょうね。法的にはもう……とか渋い顔で言いそう(笑)でも、そんなヴィルを花嫁姿の蝶子の魅力が、完全に上回りましたね。稔ではないですが、さすが、と言う感じです。どこぞの御曹司みたいに、逃げられないように花嫁の手をしっかりと掴んでおいてほしいですね。
それにしても、マーメイドドレスか。スタイルに相当の自信がなければ、着られないだろうなぁ。
真耶と拓人が思わせぶりな台詞を吐いていますけど、どうなんでしょうね。この二人が結婚しても、今とあまり関係は変わらないような(笑)
次回はいよいよ、ダンスパーティですね。誰かさんは、練習の成果が出るといいですね。
女性たちの華麗な競演、楽しみです。
2016.07.15 11:52 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

大聖堂でなんて滅茶苦茶になったので、もう蝶子は開き直っていますね。やりたい放題。
そりゃ、ヴィルじゃなくても嫌でしょう(笑)

でも、あれですよ。「ウェディングドレスなんて無駄だよ」なんて言っている人に限って、実際に目の前に美しい花嫁が来るとノックアウトされるみたいですよ。本番までドレスを見せないのは正解でしたね。この二人は(常にケンカしつつ)上手くいきそうな感じがします。

蝶子は普通のドレスなら足見せてもいいくらいスタイルに自信ありますからマーメードくらい楽勝でしょう。
うちのキャラでこういうの着られるのはこの人ぐらいだなあ。

真耶と拓人は、戯れているだけですので、きっとこのままだな。
いずれにしても何も変わらなそうです。ホント。

そして、次はお色直しですね。
何こんなことばっかり書いてんだろう。
女性陣はドレスで登場し、そして稔のダンスデビュー(笑)いや、あいつはどうでもいいのでした。
あと二回、浮かれ騒ぎが続きます。アウグスブルグの連中は、飲みっぱなしです。
もう少々、おつき合いください。

コメントありがとうございました。
2016.07.15 19:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ヴィルが思わず蝶子の美しさに微笑んだのを、傍で見たかったなあ~(笑)
蝶子の記憶にも一生残るでしょうねw

蝶子のスレンダーで高身長なボディにマーメードドレス。綺麗だろうなあ~。
日本のクールビューティーの美しさ、思いしれ~(って誰に言ってる)

真耶と拓人のやり取りもヒューヒューって感じで楽しかった^^
こりゃあひょっとするとひょっとする?
ちょっと意地っ張りな二人の会話が可愛いなあ。

でもこの後パーティなんですよね。酔っ払い続出で更に収拾つかないことになりそうだけどそれも楽しみです^^
2016.07.16 01:00 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
Congratulations!
おめでとうございます!

素敵だー。
蝶子の入場。カルちゃんの役得。ヴィルのめったに見れない嬉しい表情。
蝶子のドレスー! ふつくしい・・・(*u_u)
レネと稔。真耶と拓人。お約束のやり取り(?)
大道芸人たちファンを裏切らない、素敵な結婚式でした。
夕さん、魅せてくれてありがとう!!
2016.07.16 12:12 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

しょっちゅう誉め称えてくれる人もいいんですけれど、普段は何を着ていても、どんななりをしていてもまったく言及もしなければ、そもそも氣づいていないような人が「ついに」というのは印象に残りますよね。

蝶子はおしゃれが大好きですから、きっといまの言葉でいう「ドヤ顔」でしょうね。
結婚式は、嬉しくてたまらないと思います。
思い知れ〜って(笑)ヴィルだな、うん。

真耶と拓人は、まあ、お約束の戯れ合いですが、今のところ「以上」ですね(笑)
拓人は、少しはわかっているのかしら?

このあと、そうなんです。
酔っぱらいが、期待通りにやってくれる予定です。
甘いだけだとつまらないですからね。

コメントありがとうございました。

2016.07.16 19:15 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

おお、お祝いありがとうございます。

カルロス、美味しいんですよ、この人。
何げに一番いい所をもっていっています(笑)

結婚式って、いいですよね。
本人たちにとっては当然忘れられない思い出ですけれど、いい式だと周りも幸せになりますよね。
結婚式のシーンって、これまでほとんど書いたことなかったし、これからもまず書かないと思うんですが、書くからには理想の結婚式を詰め込んじゃえ! って感じでした。

喜んでいただいて嬉しいです。
まだしつこく続きますが、楽しんでいただけるといいなあ。

コメントありがとうございました。
2016.07.16 21:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
やはり結婚は祝い事ですねえ~~。
祝えるだけ祝えばいい!!
・・・って感じなのは世界共通なのですね。
ということが伝わってきますね~~。
(´▽`*)
おめでとうございます。
2016.07.17 05:24 | URL | #- [edit]
says...
素敵な結婚式、ごちそうさまでした!
本格的な式の進行を楽しませていただきました。さすが領主様。
特に蝶子が入場してくるシーン、想像してドキドキしてしまいました。
花嫁の腕を取って入場するカルロスの誇らしげな顔や、ヤスミンとマリサが務めるブライズメイドの様子、そしてなにより蝶子のドレス姿、素敵だろうなぁ。サキは想像の中で立ち会ってしまいました。
マーメイドラインのドレスの描写もとっても素敵でした。スタイルの良い蝶子ならでは、ですよね。どなたかイラストを描いてくださらないかなぁ。なんてついわがままを言ってしまいます。
ヴィルもずっと自分自身を自分の理想通りに演じていたんでしょうが、ついに演技が出来なくなって、本当の姿が現れてしまったというところでしょうか。
そりゃそうでしょう、相手は蝶子ですからね。ヴェールを引き上げて優しくキスをするところなんか、感動ものです。嬉しい!やっとここまで来た。
真耶、ブーケを受け取っていますが、拓人との関係に変化はないのかな。なんだか思わせぶりですが・・・。このまま素直には行かないんだろうなぁ。作者が夕さんですからね~。
サキだったら単純なんだけど・・・。
この後、ヤスミンやマリサの行動に興味津々です。彼女達のカップル、順調に進んでいるようですから。ダンスパーティ、楽しみに待ってます。

目眩事件がまだ完全に解決していません。
念のための小さなサルベージがあと1つ残っています。
そんなわけでコメントが遅くなってしまいました。
お許しくださいネ。
2016.07.17 07:33 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

そうですよね。
結婚はどこの国でも共通して大きな祝祭です。
あまりこういうシーンを書くことはないので「これでもか」と書いてしまいました(笑)

お祝いとコメント、ありがとうございました。
2016.07.17 17:57 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ヴィルはもちろん、「教会挙式する」と言い出した蝶子ですらこんな事になるとは思っていなかったはず。
でも、ドサクサに紛れてどんどん話が大きくなってしまいましたね。

この蝶子のドレス、実は私のイメージ通りの写真が存在します。
NETでどんなドレスがいいかなと探しまわった時に見つけたものなんです。
普通のマーメードだけよりも、レースが覆っているとものすごく豪華になるんですよね。
イラスト、あるといいんですけれどねぇ。
limeさんやユズキさんのようにご自分で自在に描ける方がうらやましいです。

ヴィルは、この人は本当に唐変木ですからね。
花嫁姿に対する女の憧れなんてカケラも理解していません。
でも、目の前にいたら、そりゃきれいだし、それが自分の嫁ですからね。
稔やレネは内心「やった!」でしょう。

真耶と拓人は、いつも通り戯れ合っているだけですからねぇ。
特に結婚するという予定、皆無です。
この人たち、永久に美味しいサブキャラだし(笑)

ダンスパーティは次回以降です。
サキさんには喜んでいただけるようなシーンがあるように思います。

そして、めまい、まだ続いているんですか?
それは心配でしょうね。
早くおさまるといいんだけれど。
少なくとも原因が分かるといいんですけれど。

サルベージも大変ですよね。
どうかご無理はなさらずに!

コメントなんて本当にいつでもいいんですよ。
そんな大変な時に、わざわざ読んでご感想をいただき本当に感謝です。

ありがとうございました。
そしてどうかお大事に。
2016.07.17 18:08 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/1292-8752dbda