scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】ホワイトデーのご相伴

この記事は、カテゴリー表示のためのコピーです。

scriviamo!


「scriviamo! 2015」の最後、第十八弾です。栗栖紗那さんは、ラノベのショートショートで参加してくださいました。ありがとうございます!

栗栖紗那さんの書いてくださった作品 『創作料理店のバレンタイン』
栗栖紗那さんの関連する作品 『創作料理店のとある一日』

栗栖紗那さんはラノベらしいラノベを書かれるブロガーさんです。ブログでの小説交流をはじめたもっとも古いお友だちの一人です。人氣作品「グランベル魔法街へようこそ」や「まおー」、わたしがよく絡ませていただく「Love Flavor」などたくさんの連載作品を安定のクオリティで書かれていらっしゃいます。最近はお忙しいようですが、それにもかかわらず、「scriviamo!」皆勤してくださいました。本当に感謝します。

さて、今回はとある料理店のデキるシェフと思われる青年と、看板娘でどうやら青年が夢中らしい少女が出てくる作品のバレンタインデーバージョンを書いてくださいました。ということで、このお二人をお借りして、このお話の後日譚、ホワイトデーのことをちょっと書いてみたくなりました。うちから登場させたキャラは、年に一度しか出てこない上から目線のあやつです。紗那さん、勝手にお二人をお借りしました。ありがとうございました。


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ホワイトデーのご相伴
「タンスの上の俺様」 2015 - Featuring『創作料理店の……』
——Special thanks to Kurisu Shana san


Oresama

 俺様は、食にはうるさい。そもそもニンゲンというのは、量や種類で言えば、とんでもないバリエーションを食べているのだが、その大半は屑だ。たとえば俺様のエサ係は、プラスチックのカップに入ったインスタントラーメンや、時間が経って冷えてしまった宅配ピザ、スーパーの特売で半額で手に入れた色の変わりはじめた果物など、見るからにおぞましいものを嬉々として口にしている。全くもって、なげかわしい。

 エサ係には、でっぷりと肥えてテレビの前のこたつに横たわっている「嫁」がいる。この女はエサ係よりはいいものを食べている。ただ、そのバランスが最悪だ。二時間並ばないと買えないなんとか屋のケーキをコーラで流し込むというのはいかがなものか。

 そんな二人の家庭では、俺様に提供される食事もあまり期待できないのはやむを得まい。添加物にまみれた安っぽく劣悪なものばかり食べているくせに、「キャットフードなんてどれでもいいじゃない、どうせ猫に味なんかわからないわよ」などという、とんでもないセリフが出てくるヤツらなのだ。

 俺様は、雨露をしのげ、体調を崩した時に医者に連れて行ってくれるヤツらへの最低限の礼儀だと心得ているので、週に四日ほどは、朝晩ともに大してうまくないキャットフードを食してやっている。だが、たまにはまともなものが食べたくなるので、いくつかの隠れ家を用意し、グルメとしての矜持を保っているのだ。

 今日は、さてと、どこにいこうかな。そうだ、あの店がいい。なかなか腕のいいシェフと、見かけは悪くないが、料理店の従業員としては致命的な欠点を持つ変わった娘がいる料理店だ。

 あの店にはじめて行ってやったのは、三ヶ月ほど前のことであった。いつもの冒険の帰りに雨が降ってきたので、濡れるのが苦手な俺様はとりあえず一番近くの軒先に入ったのだ。

「あれ。仔猫が来たぞ」
白い調理師の服を着た男が言った。俺様は、追い出されるのかと思ったので、「お前の勝手にはさせないぞ」光線を発しながら睨んでやった。

「なんか怒っているみたいだぞ。野良じゃなさそうだな。どこの家の猫なんだろう」
「ああ、これ、三丁目の莉絵さんちの俺様ネコだよ」
建物の中から出てきた娘が言うと、男は首を傾げた。
「俺様ネコ?」
「うん。本当は、なんだっけな、ええと、あ、そうそう、ニコラとかいう名前がついているんだけれど、あそこのご主人が俺様ネコって呼ぶと振り向くんだって」

 俺様は、しっかりと頭をもたげて、じっと見てやった。男は、俺様を追い出すつもりはないらしく、面白そうに腕を組んだ。娘は言った。
「お腹空いているのかもよ。ねこまんまかなんか、作ろうか」

「……お前が作るのか?」
「え? いくら私でも、ねこまんまくらいは完璧に作れるよ。ご飯でしょ、みそ汁でしょ、ソースに、わさびにケチャップ……あとなんだっけ?」

 お、おい。それは、エサ係の残りものよりもまずそうじゃないか! 俺様が好きなのは、サーモン・ムースとか、ストラスブルグ・パイとか、鯛のお造りとか、その手の高級食材なんだが。

「へえ。お前のねこまんまがロクでもない味だということは分ったらしいぞ。露骨に嫌な顔をしたからな。おい、俺様ネコさんとやら、氣にいったよ。こっちにおいで」
そういうと、男はレストランの中に俺様を招き入れて、かなり新鮮な白身魚の骨、それもまだかなりたくさんの身がついている状態で出してくれたのだ。

 それ以来、この店は俺様のお氣にいりとなったのだ。

「あれ、俺様ネコ、また来たのか? 今日は散歩か?」
散歩ではない。美味いものを適当に見つくろってくれ。ん? なぜ、菓子なんか作っているんだ。お前は製菓は守備外だと言っていなかったか?

「お。いつもの料理と違うのがわかるのか? そう、これはミニケーキだ。今日は、あいつがいないんで、ちょっと練習をしてみようかと思ったんだ。お前、ホワイトデーって知っているか?」

 バカにするな。知っているとも。エサ係が、嫁から「欲しいものはここに書いておいたから」とリストを渡されていた、あれだろう。エサ係は、何でも俺様に相談するからな。俺様はその度にきちんとしたアドバイスをしてやるのだが、あいつは頭が弱いらしくそれがわからない。大抵はアドバイスと違うことを実行して嫁に怒られるのだ。

 だが、この料理店の男の所では、リストは配られていないらしい。
「あいつがバレンタインデーに作ってくれた『あれ』は、そもそも人間の食えるような代物じゃなかったんだが、そうであっても心がこもっていたのは間違いないと思うんだ。だから、お返しもちゃんとした方がいいと思ってさ。慣れないケーキなんて作っているわけだ」

 男は、砂糖を水に溶かして白いアイシングを作った。それをケーキの上にかけていく。それが大半固まると金平糖とマジパンの葉っぱを手早くのせて飾り付けていく。ふむ。確かに綺麗だ。だが、俺様の腹は、それでは膨らまないんだ。

 男は俺様の興味のない様子を察したらしい。
「ケーキに興味あるわけないか。待ってくれ、ほら、これ。スモークサーモンがあるんだ。塩分がお前にはよくないかもしれないから、ほんの少しだぞ」

 おお、ノルウェー産のスモークサーモン。よくわかっているではないか。俺様は、慌てて全て食べてしまい、多少はしたなかったかなと思いつつも、丁寧に顔を洗った。それを見ていた男は、腕を組んで少し考えていた。

「そうだよな。何も世間に迎合して、甘いもので返さなくたっていいんだ。自分らしい味が一番なんだよな。ここは創作料理店なんだから、もう少しオリジナリティのある……」
それから、思いついたように「ああ、サーモンを使って……そうしよう」と勝手に頷いた。

 今日はこれ以上何も出てこないようなので、俺様は興味を失って戸口に向かった。
「なんだ。もう帰るのか。もし憶えていたら明後日、14日もここに来いよ。アイデアをくれたお礼だ。一緒にホワイトデーを祝おう」

* * *


 俺様の日常には、カレンダーなどというものはない。晴れているか雨が降っているか、それとも暑いか寒いか、それだけだ。だから、14日に来いなどと言いさえすれば、こちらが指折り数えて待つと思っては困る。それに俺様の指は折っても肉球までは届かないのだ。

 しかし、俺様が考えるまでもなく、エサ係が今日はホワイトデーだと教えてくれた。嫁に頼まれていた、タレントのなんとかがプロデュースしたバッグが手に入らなかったんだそうだ。どうせリストには十以上の希望が載っているんだ、一つくらい足りないからといって騒ぐこともないと思うが。

 俺様は、エサ係の悩みを無視して外に出た。今日は乾いたエサなど食うことはないだろう。あのレストランへ行ったら、なんかまともなものが用意されているはずだから。

 角を曲がると、戸口にいた娘が「あ! 本当に来た!」と手を振った。俺様を待っていたのか?

「へえ。本当にわかったんだ。猫に日付がわかるとは思わなかったな」
何を言う。俺様をただの猫だと思っているならそれは全くの見当違いというものだ。俺様は、そんじょそこらの猫とは違うのだ。どこがどう違うのかと訊かれても困るが。

 俺様は、当然のごとく店内に入って、中を見回した。俺様のエサはどこだ。

「ほら、見てみて。これ、わたしのために作ってくれたんだって」
テーブルの上に、ケーキのように見える物体が載っていた。しかし、それからはケーキよりもはるかに魅惑的な匂いがしていた。

 スモークサーモンが薔薇の花びらのようにデコレーションされている。俺様は、もうすこし良く見るためにテーブルの上に載った。葉のようにカットされているのはキュウリ、これには興味はない。ケーキ台のように見えたのは、わずかに穀粒の混じった円形の食パンを薄くカットしてさらに六等分して作ったサンドイッチを三段に重ねたものだった。それぞれ、サーモン、ターキー、それにチーズが挟まっている。

 俺様が毒味をしてやるために、前足を薔薇の形をしたスモークサーモンに伸ばすと、男はあわてて俺様を抱き上げた。

「これはこの娘の分だから。お前さんのはこっち」
そういうと、テーブルの下に俺様を置いた。そこには、ずっと小さいサイズのやはりケーキに見える物体が置いてあった。パンやキュウリなど俺様の興味のないものを取り除いた、ずっと美味そうなバージョンだった。

 ううむ。このまろやかなクリーム。最高級のバターに生クリームを混ぜて練ったに違いない。ターキーは、塩竈にしたのかな。ふっくらジューシーに仕上がっている。それにこのチーズは幻の最高級グリュイエール……。そして、もちろんノルウェー産サーモンたっぷり。

「お、おいっ! 何をするんだ」
その声に、ふとテーブルの上を見上げてみると、娘が彼女のサンドイッチにケチャップとソースをたっぷりかけていた。……なんてこった。この繊細な味付けを一瞬にしてめちゃくちゃにしたらしい。

「だって、こうしたほうが、味にメリハリがつくよ。俺様ネコもケチャップとソース、いる?」
いるか! 俺様は、余計なことをされるまえに急いで大事なご飯をかきこんだ。男は、少なくとも俺様までが味音痴ではなくてホッとしたらしい。

 だが、男よ。こんな味音痴にべた惚れなお前も、人のことは言えないぞ。そう思ったが、猫らしく余計なことはいわずに、顔を洗った。

(初出:2015年3月 書き下ろし)

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