scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】アプリコット色の猫

scriviamo!


「scriviamo! 2017」の第六弾です。たらこさんも、プランBでご参加くださいました。プランBは、まず先に私が書き、それに対して参加者のブロガーさんが創作作品や記事などを書いてくださる参加方法です。

たらこさんは、四コママンガでひまわりシティーという架空の世界で起きる壮大な事件をいろいろと表現なさっていらっしゃる創作ブロガーさんです。「ひまわりシティーへようこそ!」の最終章を絶賛連載中です。

初参加の今回、いきなりのBプラン、なおかつご自分が描きやすくなるようなリクエストもなしという、前代未聞のチャレンジをなさっているので、全くフリーで書かせていただきました。しかも、普段ほとんど書かないファンタジー系。私が書きやすいファンタジーって、こういうのだなって改めて思いました。

せっかくたらこさんへのBプランなので、なんとなくキャバ嬢を絡めたくなってしまいました。いや、その、別にたらこさんがキャバクラ好きだと言いたいわけじゃありませんよ。ええ、そんなことは思っていませんとも。

で、書いていたらなぜか大幅に予定を越えて7000文字以上になってしまいました。これではいかんとどこかを削らねばと悩んだんですが、キャバクラ関連以外削るところがなかったので、削らずに長いままでいくことにしました。すみません。


【追記】
たらこさんが、素敵かつ笑える四コママンガでお返しを描いてくださいました!
たらこさんの描いてくださった 「アプリコット色の猫」



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アプリコット色の猫
——Special thanks to Tarako-san


 どこでおかしくなっちゃったのかなあ。姫子はバッグの奥をかき回しながら、考えた。

 今朝、ホテルでちゃんと持ちもの確認をしなかったから? あのホテルにエアコンがなくて、暑くて考えられなかったから? 安いホテルにしたのが悪かったの? そもそも夏のウィーンに来たのが悪いの? 

 いや、婚約破棄になって何もかも嫌になったせい? そもそも、キャバ嬢のバイトをしていたのが間違い? ううん、あの奨学金を返せるあてもないのに申し込んだのが悪かったの? っていうか、金持ちの娘に生まれてこなかったから?

 いや、落ち着こう。お財布は、どこかにあるはず。すられるほど人混みのところは歩いていないし、第一、こんなごちゃごちゃの鞄からお財布をするのはプロにも難しいはず。

「あ。あった」
キルティングのオレンジ色の財布は、お客さんにプレゼントしてもらったものの中で一番のお氣に入りで、これだけは転売しなかった。転売するような値段のものではなかったこともあるけれど、そういう問題ではない。大切な思い出が詰まっているのだ。

 姫子は、コーヒーの代金をつっけんどんな様子で待つ店員に払った。あ、これ最後の50ユーロ札だ。これからどうしようかなあ。

 姫子は勤めていた役所をクビになり、アパートも追い出されたので、荷物を処分して日本から逃げだしてきた。新婚旅行で行くはずだったウィーン。自暴自棄になって人生を諦める前に、ここだけは来てみたかった。でも、軍資金は底をついた。

 結婚したら、これまでの上手くいかない生活が全てリセットされて、白金や広尾で優雅にお茶の出来る日々が待っているんだと思っていた。ああいうちゃんとした人と結婚するなら、借金返済のためにキャバ嬢のバイトをしていたなんて言わない方がいいと思っていた。

「匿名で教えてくれた方がいましてね。興信所で調べてもらったんですよ」
あの人のお母さんが、とても冷たい目をして言った時、それでも一度でも結婚しようと思ったなら、少しはかばってくれるかと思ったんだけれど、避けるようにして帰っていったよね。

 公務員がバイトを、ましてや水商売の副業をしちゃダメなのはわかっていた。でも、あの給料で奨学金を返すのはどう考えても無理だった。

「ねえ、ちょっと」
日本語の声がしたので辺りを見回すと、誰もいない。つっけんどんな店員はもう別のテーブルに行っているし、隣のテーブルの熟年カップルは、熱々で二人の世界にどっぷり。こちらは存在していないかのような態度。ってことは、空耳かしら。

「ここだよ、ここ、ここ。下を見て」
また日本語なので、変だなと思って、足元を見た。

 猫がいた。つぶらな瞳をしたオレンジっぽい毛色の猫だ。何だっけなあ、この色。どっかで見た。ああ、今朝食べたアプリコットジャムの色だ。雑種かな。どこにでもいそうな普通の猫で、赤いコートを着ているわけでもないし、長靴も履いていない。それに見た感じでは人間の言葉は話してはいない。

「呼んだの、あなた?」
訊くと「みゃー」と短く鳴いた。

 馬鹿じゃないの、私。猫が日本語を話すわけないじゃない。空耳、空耳。姫子は、おつりを財布にしまうと、バッグにしまって出て行こうとした。するとまた声が聞こえた。
「ちょっと待ってよ。話は終わっていないんだから」

 姫子は、まじまじと猫を見た。
「今、呼んだの、本当にあなた? 本当なら、尻尾を三回振って」

 ゆらゆらゆら。尻尾が揺れた。へたりと椅子に座り直した姫子の膝に、その猫はストンと載って、ゆっくりと三回瞬きをした。それから頭の中にまた日本語が聞こえてきた。
「電車に乗ってフシュル湖へ行かないといけないんだ。協力してよ。お礼はちゃんとするからさ」

「フシュル湖? どこそれ? どうやって?」
幸い周りに日本語を解せる人がいないおかげで、変な目で見る人はいない。猫を可愛がっている無害な日本人観光客に見えるだろう。

「ザルツカンマーグートだよ。僕をペット用バスケットに入れてさ。バスケットはちゃんとあるんだ。上手くザルツブルグ行きの電車に乗せてくれたら、そこまででいい。お礼は最高のザルツブルグ観光を一日。どう?」
ザルツカンマーグートがどこにあるのかも知らない。でも、ザルツブルグは知っている。でも、今、観光させてもらって喜ぶような心境じゃないんだけれど。姫子は猫をじっと見つめた。

「一日観光はいいから、代わりに私の状況、少し変えてくれない? 私の人生詰んじゃっていて、いよいよ終わりにするかどうかってとこなのよ」

 猫は、一瞬だけ黙ってから、ヒゲを前足で弄びながら答えた。
「そんなの一介の猫には無理だよ」

 日本語テレパシーで喋っているくせに、都合が悪くなると「一介の猫」ですか。姫子はムッとした。そのまま彼女が立ち上がって払い落とされた猫は、慌てて言った。
「わかったよ。じゃあさ。あっちで僕としばらく一緒に暮らすといい。少なくとも人間の生活よりも面白おかしいぜ。会社に行ったりとか、税金の支払いとか、犬の散歩とか、そういう面倒なことは何もしなくていいんだ」

 姫子は、ちらっと考えた。心もとないけれど、どうせ路頭に迷うなら猫の世話になる方がいいかも。テレパシーが使えるなら魔法が使えるかもしれないし。

「そのザルツカンマーグートで、あなた、どんな所に住んでいるの?」
「小さめの城ってところかな。いくらでもいるヤマネを追いかけたり、鳥の羽根をむしったり、けっこういい暮らしをしていたんだぜ。でも、ここに連れてこられちゃってさ。早く帰りたいんだ」

 そのいい暮らしというのが、どうもネコ目線の意見で若干の不安はあるが、このままでは浮浪者となるのがほぼ確実なので、論議はしないことにした。

「でも、猫って、遠くに連れてこられても自力で歩いて帰るんじゃないの? 人間に頼んで連れて帰ってもらうなんてはじめて聞いたわ」
姫子は首を傾げた。猫は前足でヒゲをちょっと触ると上目遣いで言った。

「そりゃ時間がたっぷりあるならそうするさ。でも、僕は急いで帰らなくっちゃいけない事情があるんだ。協力するの、しないの? しないなら、他の人を……」

「え。するわよ。じゃ一緒に来て。荷物をホテルに取りに行くから。ところであなたのバスケットはどこにあるの?」
「そこの裏手さ、こっち」

 猫についていくと、カフェの裏手の暗い路地に、小さなプラスチックの猫移動用ケースが置いてあった。扉の部分が壊れている。
「これ、どうしたの」
「壊さないと出られなかったんだ。大丈夫だよ。電車の中ではペットらしくしているから」

 姫子はホテルに預けてあった全財産でもある小さな機内持ち込みサイズのスーツケースを受け取ると、猫についてウィーン中央駅に向かった。

「急いでよ。今日の電車がでちゃう」
電車の近くまで来ると、猫はちゃっかりとバスケットに収まって、飼い猫のフリをした。でも、姫子に指図する態度は一向に変わらない。

「あなた、なんで時刻表を知っているのよ」
「昨日と一昨日、上手く紛れ込めないかトライしたんだよ。でも、最近の電車は入口が電動で、高いところにあるボタンを押さなくちゃ開かないんだ」

 猫に案内されて、ザルツブルグに向かっている。細かいことは考えないに限る。ホテル暮らしをするお金はもうないんだし、猫でもなんでも頼らないと。

 電車が走り出すと、コンパートメントの扉を閉めてから、バスケットを椅子の上に置いた。猫は出てきて腰掛けると丁寧に顔を洗い始めた。

「ところで、ちゃんと説明してよ。なんでザルツカンマーグートからウィーンに来ることになったの? どうして急いで帰りたいの? どうして、私が助けてくれると思ったの?」
姫子は馬鹿馬鹿しいことを口にしているなあと思いながら立て続けに訊いた。

「僕は飼い主と賭けをしてね。彼の命が尽きるまでに僕が帰れることができれば僕はずっとあそこにいられる。それができなければウィーンの野良猫になるって。もうだめだと思ったけれど、君のアプリコット色のお財布を見て、ピンと来たんだ。この人が僕を連れ帰ってくれるってね。だから話しかけたんだよ」

 アプリコット色のお財布? ドキッとした。このお財布は、キャバクラであるお客さんが姫子にプレゼントしてくれたのだ。他の人がプレゼントしてくれたブランドものは、みなネットオークションで転売した。一円でも多く手にして返済に回したかったから。でも、そのお客さんは、姫子が奨学金の返済で困っているということを憶えていて、ブランド品の代わりにとても安いこのお財布の中にブランド品を買ってもおつりが来るだけのお金を入れてプレゼントしてくれたのだ。

「どうしてそんなによくしてくれるんですか?」
「全額返済してあげられるような甲斐性はないからね」

 そういって笑った彼は、キャバクラ通いをするお金が続かなかったらしく、やがて来なくなった。迷っていないでプライヴェートのメールを教えてあげればよかったなと思ったけれど、結局それっきりになってしまった。

 婚約した御曹司は、お金があって、私を救い上げてくれそうだった。でも、あのお客さんほどの真心も持っていなかったんだ。打算で結婚しようとした私もそれ以下の馬鹿だものね。姫子は考えた。

「でも、このお財布のことを知っているってことは、あなたのご主人は、あのお客さんなのかな?」
姫子がそう訊くと、猫は首を傾げた。
「なんのこと? 僕は仔猫の頃にその色をした古いお財布をオモチャにもらったんだ。僕と同じ色だからってね。それを思い出したんだよ」

 なんだ。そういうことか。

「飼い主は、年寄りで、病持ちで、もうそろそろアブナいんだって。だから、僕が死ぬまではつきあえないんだって。それで僕をウィーンに連れてきたんだ。帰りたいなら誰か信頼できる人に手伝ってもらえ、嫌ならウィーンの野良になれってね」

「猫のくせに、自由にしたくないの?」
「猫にだって、ホームが必要なんだよ。僕があそこに帰ったら、君だってあそこで自由にしていいんだ。時々、僕の世話はしなくちゃいけないけれど」

 それってねこまんまを作れってことかなあ。姫子は、窓の外の田園風景を眺めながら、それも悪くないかなと思った。

「ものすごくきれいなところなんだ。湖に光はキラキラしているし、大きな魚は撥ねているし、春にはレンゲや野菊やアプリコットの花が咲き乱れるんだ。ごちゃごちゃしたウィーンなんて目じゃないよ」

 へえ。ちょっとだけでもそういうところに暮らせたらいいなあ。姫子は思った。春までは無理としても、しばらく泊めてもらえないかな。飼い猫を届けるんだし。

 ザルツブルグでバスに乗り換えてフシュルまで行き、そこから歩いた。バスケットが邪魔なら捨てろと言われたけれど、ここまで持ってきたし、いつ必要になるかわからないし、軽いので持ち歩いた。

「急いでよ。早く!」
荷物がない身軽な猫にそう急かされて、姫子はふうふう言いながら上り坂を歩いた。途中から道は湖畔になり、輝く湖水が目を射た。

 ああ、本当だ。なんてきれいなところなんだろう。真っ青な湖、若緑の絨毯みたいな田園風景。揺れる木の葉に、落ち着いた緑の山並み。ウィーンも面白かったけれど、こんな静かで心洗われる風景ではなかった。それに蒸し暑かったウィーンと較べて、ずいぶんと爽やかだ。これならエアコンはいらないわよね。

 いつも東京の狭い六畳のワンルームアパートと、満員電車、灰色の役所、それにネオン街の往復しかしていなかったから、こんなに落ち着く光景に心うたれたのがいつ以来なのだかもう憶えていない。ここに来て、本当によかった。猫に急かされているとは言え。

 小走りで走っていた猫が、急にぴたっと止まった。それから、湖の方を眺めた。
「どうしたの?」
追いついた姫子が訊くと、項垂れて言った。
「もう急がなくていいよ。間に合わなかったんだ」

「ええっ。飼い主さんが死んじゃったの? なんでわかったの?」
猫は答えなかったが、再び歩き始めて、こんどはゆっくりと進んだ。それからひと言も話さなかったので、姫子は、さっきまで聴いていたのはもしかして自分の想像だったのかと思い始めた。

 やがて湖畔をそれてまた丘に登った猫は、果樹園のようなところを横切って、その中央にあるボロボロの小屋に向かって行った。え。ちょっと待って、さっき小さいお城って言わなかった? まさか猫のいうお城って、これ?

 小屋の前には、立派な車が三台ほど停まっていて、小屋の中からはドイツ語で話す声が聴こえていた。なんかお取り込み中みたいだな。私はどこかに隠れていた方がいいかも……。そう姫子が思った途端、開け放たれたドアの向こうにいた年配の女の人が大きな声を出して、姫子の方にやってきた。

 猫が姫子の足元にいて、姫子がバスケットを持っているので、猫を連れてきたのだと思ったのだろう。中にいた人たちも近寄ってきてみな口々に何かを言っている。ドイツ語なのでわからないけれど。

 小屋の中にはベッドがあって、亡くなったばかりと思われる老人が横たわっていた。猫は人間たちの足元を通り抜けて中に入り、そのベッドに飛び乗って、みゃーみゃーと鳴いた。それと入れ違いに出てきた眼鏡の男性が姫子に話しかけたが、言葉が通じないとわかると英語に切り替えて話しだした。

「あなたがあの猫を連れてきてくださったのですね」
「え。あ、はい。成り行きで……」

「そうですか。私は故人ケスラー氏の顧問弁護士トーマス・ウルリッヒです。こちらにいらっしゃるのは故人の息子のケスラー氏とその夫人です。奥にいて死亡診断書を書いているのがマイヤー医師です。あなたは?」
「あ~、日本人旅行者で永田姫子っていいます」

 名前を訊いたわりに、ケスラー夫妻とウルリッヒ弁護士の目は、なぜか姫子の持っている壊れたバスケットに釘付けになっていた。
「あなたは、この不明になっていた猫の事情をご存知ですか?」

 姫子は日本人らしく曖昧な笑顔を見せて肩をすくめた。猫から帰りたいと聞いたなんてことは言わない方がいいように思ったのだ。弁護士は深く頷くと話しだした。

「実は、故人には最近したためた遺言状がありましてね。古城を含めた全財産を慈善団体に譲るというものだったのです。もともとは、この果樹園小屋で暮らしたがる変わったご老人を息子さんたちが諌めたことが原因の諍いだったのですが、この遺言状が効力を持つと息子さんたちは全てを失うことになるんです」

「はあ」
それと猫がどう関係があるんだろう。

 弁護士は姫子の持っているバスケットに手を伸ばした。
「ちょっと見せていただきたいのですが、いいですか?」

 わからないまま頷くと、弁護士は壊れたバスケットの扉をどけて、中に手を伸ばした。床板をそっと動かすと、そこから立派な封筒が出てきた。
「あったぞ!」

 ケスラー夫妻が大喜びで、それを確認してから、姫子の手を握ってきた。
「ありがとう。あなたのおかげです」
姫子は、あいかわらず何がなんだかわからなかった。

 それから、古城に泊めてもらい、しばらく湖畔に滞在してわかったことには、バスケットに隠してあったあの封筒は全財産を慈善団体に寄付するとした遺言状よりも更に新しい、有効な遺言状だった。そして、遺産は元通りに息子夫婦が相続出来ることになった。

 ただし、あの果樹園と小屋だけは、バスケットを持って帰って来た人間に譲ると書いてあったので、なんと姫子がもらえることになった。さらに、息子夫婦は姫子が奨学金の残りを返済してもおつりが来るくらいのお礼をくれた。そして、姫子がこの村に住むことが出来るように面倒な手続きを全てしてくれた。

「あなたのおかげですもの」
「でも、どうしてあの方は果樹園小屋に住んでいたんですか?」
姫子は未だに納得がいかないままだった。

 ケスラー夫人は声を顰めた。
「それがね、お義父さまは、猫と意思疎通が出来るなんて言ったんです。主人はそれはナンセンスだと言って、売り言葉に買い言葉。それで、お義父様が家を出てしまわれて。帰って来いと主人が言っても猫と意思疎通が可能と認めなければ帰らないと言うし、主人も認めることは出来ないというし。そのうちに、あの猫と新しい遺言状を隠してきた、あの猫が誰かの助けを得て戻ってくるか、うちの主人が間違っていたと謝らない限りは、全財産は慈善団体に行くなんていいだして。しかも、どちらも折れないでいるうちに、お義父様があの日急逝なさってしまわれて、私たちは真っ青だったんですよ」

 姫子は、どうやって猫と一緒にここにたどり着いたかは言わなかった。ケスラー夫妻も追求してこなかった。ここはあやふやにしておくのが大人ってものだろう。

 こうして姫子は、猫と話せたおかげで新しい人生を始めることが出来た。かなりめちゃくちゃな結末だけれど、悪くない。

「とにかく、あなたのおかげで本当に私の人生、好転したのよ。どうもありがとう。果樹園の世話なんてどうやるのかわからないけれど、ケスラーさんたちが教えてくれるっていうから、きっとなんとかなるわよね」

 話しかけると、猫は大きく伸びをした。
「簡単だよ。水をやるのは、天の神様だし、授粉は蜂たちがやってくれるのさ。出来た木の実をもぐだけなんて、ネズミを狩ったりするほどの技術もいらないだろう」

 そういうものかな。なんか違うようにも思うけれど、これから家族になる猫だから、不要な喧嘩はしない方がいいだろう。そう思って、ふと思い出した。
「あなたの名前、訊いていなかったわね。なんていうの?」

 猫はきれいな瞳をくるくる回した。
「マリッレ。この木と同じだよ」

(初出:2017年1月 書き下ろし)

註・マリッレとはオーストリア方言でアプリコットのこと
関連記事 (Category: scriviamo! 2017)
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Category : scriviamo! 2017
Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
わあ!確かにファンタジーですね。
ホノボノ系ローファンタジーというところでしょうか。
夕さん、厄介なファンタジーをスルッとご自分のステージに引き込んでおられますね。
それにこの小気味良い展開、どん底から浮かび上がる、まるでシンデレラや白雪姫的ストーリー、大好きです。あ、ファンタジーですものね。当たり前か。
この猫ちゃんのモチーフは長靴をはいた猫でしょうか?
不思議な力を持った万能の猫ではないのですが、魔法や超能力でガンガン解決するんじゃなくて幸運を呼び込むだけ、喋る以外は普通の猫だなんですよね。でもこの設定が夕さんらしくてとても面白いです。

読んでいて思ったのですが、ひょっとしてこのお話、猫が話さなくても最後まで展開できそうな気がするんですが・・・。ですから“そんなアホな!”的展開ではありますが、本当に起こったとしてもおかしくないリアリティーがあります。姫子以外の登場人物には、科学的に有り得ないような不思議な事や不自然なことは何も起こっていませんよね。

嬉しいのは姫子に新しい生活の展望が開けたことです。
周りも優しい人みたいだし。
めでたしめでたしっと・・・ホッコリしました。

でも夕さん、アプリコットが好きですね。
2017.01.23 12:09 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
執筆、お疲れ様でした。

ネコとテレパシー通じるという時点で、たしかにファンタジーですね。
黄色い財布が好きな金持ちの男性と……ってのは、さすがに無いですよね。しかも、それじゃあお返し作品も書きにくいでしょうし。

ずいぶんバスケットに拘っているなぁと思っていたら、そんな秘密が隠されていましたか。しかし、ネコ本人(?)じゃなくて、バスケットの方に仕込むとは、リスキーなことを……。
でもまあ、姫子が路頭に迷わなくてよかったです。今度は「ウィーンの日本人」っていう連作ができかねない展開でしたからねぇ(爆)

ザルツカンマーグートっていうと、ハルシュタット湖くらいしか思い浮かびませんでしたのでググってみましたが、フシュル湖も素敵ですね。
あんな場所で果樹園をしながら暮らすって、いいかも。なんか「ご隠居」っぽいけど(笑)
2017.01.23 16:29 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

ああ、こういうのをローファンタジーって言うんですね。
ふむふむ。
お氣に召して何よりです。

この話なら、多少は変でも「全ては姫子の空耳だった」で済む程度なんですよね。
それに、ご都合主義のハッピーエンドでも、本来の相続人を追いやってお城をもらっちゃうとか、一日で玉の輿に乗るとか、そういうのだと「そんなわけないだろ」と書いていて自分で首を傾げちゃうんですが、ボロボロの小屋をもらって、果樹園の労働者になるぐらいならアリかなと思うんですよね。

そして、周りの人たちも、この程度のラッキーだったら妬まずに助けてくれるんだと思います。

アプリコットの件はですね。
オーストリアと猫と果樹園と姫子を結びつけるのに必須だったんですよ。
アントネッラの方は特に必須でも何でもなかったんですけれど。

オーストリアと言ったら、だれがなんと言おうと私にとってはマリッレなんです。
普段アプリコットジャムは食べない私なんですが、あれはとっても美味しいんですよ。
(結局それか!)

コメントありがとうございました。
2017.01.23 22:42 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

キャバクラ系だけで話をまとめるという案もあったんですが、実は、私はキャバクラに行ったことがなくて詳細が書けないんですよ! (なら書くな!)
で、オーストリアだけでほのぼのにすることも出来ましたが、おふざけ感を出したかったので「どうせなら少しファンタジー入れてみようかな」 と。

一応、あちこちにたらこさんのツッコミどころを隠しておいたつもりですが、どうやって四コマにしてくださるのかな〜。
楽しみです。

そして、「ウィーンの日本人」もわるくなかったかも。
でも、アメリカだけで全然収拾つかなくなっているし(笑)

ザルツカンマーグートは、実は憧れだけでまだ行ったことがないんですよ。
素晴らしいところだと聞いているので、一度行ってみたいですね。
今回フシュル湖を選んだのはザルツブルグからけっこう簡単に行ける湖で、素朴な村や古城がありそうなところという選択でした。

こういう暮らし、都会好きにはいまいちかもしれませんが、私はけっこう好きだったりします。
まあ、ボロ屋をもらっただけですけれどね(笑)

コメントありがとうございました。
2017.01.23 23:22 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
最初にキャバクラってあったので
どんなお話かと思って心配したけれど
むしろ現代版シンデレラみたいでメルヘンでよかったです
小説の雰囲気もいつも通りに近かったので安心しました
果樹園暮らしも楽しそうです
でも受粉作業とか面倒そうかも…
2017.01.24 09:10 | URL | #- [edit]
says...
姫子さんも猫と意志疎通できる人
だったんですね!
ほのぼのと読ませていただきました!
2017.01.24 12:17 | URL | #- [edit]
says...
夕さん、こんばんは~\(⌒日⌒)/

最初、夕さんらしくてお洒落なタイトルだな~と思って何気なく読んでみたら・・・
えっ!?俺!?(笑)
いや~、これは難題ですよ~。
どのようにお話をつなげるか・・・
ネタにするか・・・
この素晴らしい作品をネタにするのは勿体無い気がしますね~(笑)
ツッコミどころもないくらい良い話ですよ。
ちょっとほのぼの系、ジブリ作品のような魔女の宅急便とかそういう感じのね。

初めて描かれる小説との事で半分キャラクターをもらっちゃてもいいでしょうかね?
キャラクターのイメージを変えてしまいそうな感じも致しますので一応許可をと思いまして。
あれですかね~、この重要そうであまり触れられなかったお客さんがキーマン的な感じなのかな~ちょっと考えてみます(^O^)
2017.01.24 15:15 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

いやあ、知識が足りなくてキャバクラ舞台の話は掛けませんでした(><;)
そして、シンデレラストーリーながら、ボロ小屋をもらっただけという情けなさが私らしさかもしれませんね。
そして、小説は、そんなに簡単に違う書き方はできませんよね(笑)

果樹園は、日本の農家のように完璧にやるのだととても大変なんですが、こちらでは授粉作業とか、大きさを揃えるために選別してカバーをかけたりする細やかな作業はやっていないみたいだから、楽なんじゃないかなあ?

コメントありがとうございました。
2017.01.24 22:51 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

おお、読んでいただきありがとうございます。
意思疎通が出来たのかもしれないし、もしかしたら、「そういうつもりになっている人」なのかも?
真相は藪の中でございます(笑)

コメントありがとうございました。
2017.01.24 22:53 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

そうです、たらこさんへの小説ですよ〜。
すみません、「本当に何も指定なしのBプランでいいの?」って、思ったんですけれど、確認してもそれでいいとおっしゃったので、こんな話になっちゃいました。しかも長いし。

一応あちこちにツッコミどころと言うか、たらこさんが遊べる余地は作っておきましたので、どのようにでも遊んでくださいませ。
このストーリー、本当に前も後も何もありませんし、いくらでもネタにしてください。
何やってもOKです。
あ、殺されちゃうのは、悲しいけれど(笑)

ご参加とコメント、ありがとうございました!
2017.01.24 22:57 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
私も、冒頭の夕さんの前置きを読んで、てっきり舞台はキャバクラなのかと思ってしまいました。そうしたらしゃべるねこの話だった……あ、しゃべったかもしれない猫のはなしか。うん。
へ~、こういうのをローファンタジーというのかぁ~とまたまたお勉強。でも、といわれても、ローファンタジーという単語を説明せよと言われても、説明できない……^^;

何はともあれ、小気味いいテンポで話が進んで、それほど大それた展開でもないけれど、まずまずなラストですとんと落ちた感じ、夕さんらしい展開が随所にあって納得でした。こういう展開、私もかなり好きかも。ゴージャスにならない範囲でラッキーが降ってくる、でもラッキーかどうか(ぼろぼろの小屋だし、果樹園で働かないといけないし)ちょっと微妙、でも、雨風がしのげるから、ま、いいか!って感じの展開。
これはまさに、「金のない奴は俺んとこに来い! 俺もないけど心配すんな。見ろよ、青い空、青い海、そのうちなんとかなるだろう」(だったかな)の世界ですよね。勘三郎さん的に言うと「生きてるだけで丸儲け」って感じ。うん、かなり好き。

そうかぁ~「ウィーンの日本人」かぁ~うちの慎一ぼっちゃんも混ぜてもらおうかなぁ。そういえば、彼のパトロンの音楽評論家は、ザルツカンマーグートの観光業が本職でした(本人はお供え経営者で、何もしてないけど)。ちょっと親近感.かといって、この果樹園をツアーの行程に入れたりはしない、よふにしなくちゃ。
続々と発表されるscriviamo! 夕さんのパワーにますます脱帽状態です。う~む、後半で名乗りを上げるかなぁ.実はネタは浮かんでおるのですけれど。
2017.01.25 12:21 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
夕さん、こんばんは\(⌒日⌒)/

了解致しました~♪
夕さんもご存知だと思いますがうちの連載のロードってあるでしょ。
あそこに絡ませようかなと考えてます。
ロード連載したのですがcanariaさんが戻ってこられるまで眠ってしまうので(笑)
ロードを企画参加物にしようかなと思ってまして。
それで出来たものはうちのブログで掲載と言う形でいいのでしょうかね?
なんせまだシステムが分かっていないものでして。
その掲載するときに夕さんの文面もお借りしてもよろしいのでしょうか?
ご検討、お願い致しますm( __ __ )m

えっ!?
殺す!!・・・
僕がそんなことするように見えます?(笑)
2017.01.25 13:59 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

一度は真剣に考えたんですよ。キャバクラを舞台に書けないかなって。でも、そもそもキャバレーとクラブとキャバクラとバーの違いがわからない人が書くのは問題あるだろうと。困ったもんです。

そして、もともとなぜ猫を出そうと思ったかというと、たらこさんのマンガにチャッピーと言う猫がでてくるんですよ。
この猫はヒロインのお父さんが生まれ変わってヒロインを守るために側に来た姿なんです。
で、なんか女の子と猫の話かけないかなあ、というのが始まりでした。
オーストリアを舞台に決めた後は、連れ合いが狂っているマリッレ・ジャムをどうしても出したくなって(笑)

そして、私もローとハイファンタジーの境界がいまだにわかりません(笑)
憶えようという氣がなさ過ぎるのか……。

いくらファンタジーと言っても、あまりにもラッキーの度合いが大きすぎると「なんだかなあ。そんなわけないだろ」と突っ込みたくなりますよね。とくに、掌編でその「なんだかなあ」はちょっとなあと思うんですよ。だから「そういうラッキーね、はいはい」と受け流してもらえる程度のラッキーで止めたいなと思ったんです。

「金のない奴は俺んとこに来い!」は植木等?
うん、そういう無責任な感じ、そのままですよ! そういうのは、定職を持っていたりすると飛び込むのに躊躇しますが、失うものがないときはけっこう心強いですよね。それに、私の人生、正にそんな感じだったかも。本当になんとかなりました(笑)

慎一ぼっちゃんはまさにウィーンの日本人ですよね。でも、TOM-Fさんのおっしゃる「○○の日本人」シリーズって、帰るところもお金もなくて踏んだり蹴ったりな日本人女性のシリーズという意味でしょうから、ヴォルテラ家の後ろ盾のある人は含まれないかも。

ザルツカンマーグートの観光業が本職ということは、もと浮浪者予備軍の姫子は関係ないでしょうけれど、このケスラーさんちとは関係あるでしょうねぇ。モデルにしたのはけっこう有名な古城ホテルレストランで、お高いみたいです(笑)もし、どっかですれ違ったらどうぞよろしく。

今、たまっている最後の作品を執筆中です。二月はけっこう余裕がありそうですので、いつも通りの超高度な課題をどうぞ! お待ちしています。

コメントありがとうございました。
2017.01.25 22:31 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

おお、「ロード」ですね。
わ〜い。
ぜひぜひ、よろしくお願いします。

そして、そうです。たらこさんのサイトで発表していただく形になります。
引用でもリンクでも何でも大関係でございます。

ははは、二次創作で殺されちゃうことって、たまにあるんですよ〜。
それ以外だったら、何してもOKですので(笑)

ご連絡、ありがとうございました。
2017.01.25 22:34 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.02.02 05:54 | | # [edit]
says...
こんばんは。

いらして読んでいただけただけでなく、コメントもいただけて感激です。
嬉し〜。
どんな形でも、ちょっとずつでも交流が続くのは幸せですね。

そして、この話、けっこう私の感じる幸福感が混じっているかもしれません。
通勤なんかしないで、鳥を追いかけたり、たまに通行人にナデナデしてもらう猫ライフ、ちょっと理想です(笑)
それにウィーンは面白い街ですけれど、やはり田舎のものすごく美しい景色の中で暮らすのって至福です。
(それにお金もウィーンほどなくならないし・笑)

ファンタジーだから、どんな突飛なラッキーでもいいんですけれど、やはり私自身が小市民だからでしょうか、身の丈にあったシンデレラストーリーの方が安心するんですよね。
「嘘つけ、そんなことあるか」ってそっぽ向かれない程度の小さいラッキーで収めたくなってしまうんです。

そして、そうなんです。たらこさんはマンガで返してくださるそうなので今からとても楽しみです。
わくわく。

鍵コメ様も、ご自分のペースで活動を続けてくださいね。
楽しみつつ、無理のない範囲で。これが一番大切だと私も思います。
あ、まだ締切まで一ヶ月ありますし、もし、参加なさりたいと思われたら、いつでも!

コメントありがとうございました。
2017.02.02 21:23 | URL | #9yMhI49k [edit]

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