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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(4)アカシアの道 - 1 -

二週ほど別の小説が入りましたが、本年のメイン小説「郷愁の丘」再開です。五歳児メグを届ける目的で、祖母であるレイチェル・ムーア博士の家にやってきたジョルジアたち。ここでジョルジアは意外な事を知る事に……。

ところで、アフリカの白人のお家は平屋でやたらと広いものが多いのです。おそらく土地はいっぱいあるからなのでしょうね。以前ヨハネスブルグ郊外で滞在したお家は、とても広くて、トイレに行く時にギリギリまで我慢するとピンチになるくらいでした。ナイロビで滞在したお家、モンバサで滞在したお家も広かったなあ。

今回も二回に分けています。「よりによって、そこで切るか」と言われても、半分くらいがここだったんだもの……。


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あらすじと登場人物




郷愁の丘(4)アカシアの道 - 1 -

 四時間のドライブのあと、一行は赤茶けたサバンナの舗装されていない道をゆっくりと進み、たくさんのアカシアの樹が生えている一画に建つ家に入っていった。それはアフリカには多い大きな平屋建てで、二匹のドーベルマンが前庭を駆け回っていた。

 彼が降りて呼び鈴を押すと、電動で門が開き、彼は車を玄関先まで進めて停めると、メグを起こしてジョルジアと自分の荷物を玄関に運んだ。玄関が開いて映画でその姿に見覚えのある動物学者レイチェル・ムーア博士が出てきた。

 メグは祖母の姿を見ると、それまで必死で抱きついていたジョルジアからぱっと離れて、その腕の中に飛び込んだ。
「ナナー!」

 映画で見たときより少し歳とったとはいえ、レイチェル・ムーア博士は誰かの祖母という言葉がピンと来ないほど若々しくて生氣に溢れた女性だった。少し濃いめの金髪はボブカットに揃えられ、半袖のサファリシャツと太ももまでの丈のショートパンツから見えている手足は瑞々しかった。

 ああ、この人は光だ。ジョルジアは感じた。それは彼女が兄である実業家マッテオ・ダンジェロや、世界でもっとも成功したモデルの一人である妹アレッサンドラに対して感じる、抗えない強いパワーと同じエネルギーだった。

「なんてお礼を言ったらいいのかしら、ミズ・カペッリ。この子はどうしてもヘンリーのことが怖いらしいの。あの髭と生真面目さのせいだと思うんだけれど」

「レイチェル。僕は車を駐車場に入れてきます」
「あ、ヘンリー。申し訳ないんだけれど客用の駐車場に、アウレリオが買った鉢植えを八本も置いたまま行ってしまったの。適当にどけてくれる?」

 グレッグは頷いた。
「本来はどこに置くべき鉢なんですか」
「スイミングプールよ。置くスペースは作ったんだけれど、今日、雑用で来てくれているジェイコブが来なかったから移動できなかったの」
「わかりました。じゃあ、プールに運んでおきます」

「私も手伝うわ」
ジョルジアが言うと、グレッグは首を振った。
「君は、ゆっくりしててくれ。ようやく客らしい立場になれたんだし」

「そうよ。まず客間に案内するわね。その後すぐお茶を淹れるわ」
ジョルジアは少し慌てた。
「私の事はおかまいなく。ミセス・ブラスが大変な時で、それどころではないでしょう」

 レイチェルは笑顔で首を振った。
「最初の連絡では私も慌てたけれど、さっき本人から電話があってね。全く問題がないんですって。少しおかしいなと思った時に誰もいなかったのでパニックに陥ってしまったらしいの。ヘンリーがすぐに病院に運んでくれて、しかもあなたたちがメグを無事にここに届けてくれるとわかったら、安心したみたい。あっちは蒸し暑いでしょう。それで調子を崩したのね。明日、退院してアウレリオと一緒にこっちに戻ってくるわ。だから、マリンディではできなかった分、あなたをおもてなししたいの。よかったらこちらにお好きなだけ逗留していってくださいな」

 ムーア博士が彼女を二階に案内した。メグも嬉しそうについてきたが、客間の前でシャム猫をみかけると声を立てて駆け出し、猫と一緒にまた一階へ行ってしまった。

 ムーア博士は客間の扉を開けると言った。
「ねえ、どうか私をレイチェルと呼んでちょうだい。メグの友達になってくれたんですもの、私の友達にもなってほしいわ」
「光栄です。ジョルジアといいます」

 そう答えるとレイチェルはウィンクして答えた。
「知っているわ。あなたの名前も、それから、お仕事も。あなたとやっとお知り合いになれてとても嬉しいのよ。彼の幸せは私たちの重要な関心ごとなの。彼はどう思っているかわからないけれど、私もマディも、ヘンリーの家族のつもりだから」

 ジョルジアは、彼女が何を言っているのかよくわからなかった。どこから訊き直すべきか考えている間に、レイチェルは本棚から抜き出した写真集を見せて笑いかけた。それはジョルジアの『太陽の子供たち』だった。まさかケニア中部の初めてあった人の家でこれを目にするとは思わなかったので、彼女はさらに驚いた。

「これはヘンリーのところにあったのよ。この前のクリスマスに彼の家に行った時にマディが見つけてクリスマスプレゼント代わりにって強引にもらってきてしまったの。以前アテンドした写真家で、アメリカの有名な賞で入賞したって、アシュレイから訊いてから欲しがっていたのに、売り切れで手に入らなかったから」

 グレッグが『太陽の子供たち』を持っていた? まさか。

 今回の旅で、彼女は前回のアテンドのお礼として、リチャード・アシュレイとグレッグ用にそれぞれサイン入りの写真集を持ってきた。リチャードは「欲しかったのに手に入らなかったんですよ!」と大喜びしたが、グレッグははにかみながら礼を言って受け取っただけだった。関心があったとは思いもしなかったのでもう持っているかどうかは訊かなかったのだ。

「マリンディに出かける前に、マディがね。ヘンリーが招待した女性、どこかで聞いた名前だと思ったらこれだったんだわって、持ってきたのよ。私もね、彼が子供の写真集ばかり持っている理由がわかってホッとしたの。私たちがよく話すようになってからこのかたガールフレンドがいた形跡がないし、ペドフィリアの傾向があったら由々しき問題でしょう? でも、おつき合いしている女性の作品だったから集めていたんだとわかったから、本当に安堵したのよ」

「これ以外にも、私の写真集を?」
「ええ。七、八冊くらいあったかしら」

 それは、つまり、出版されている私の写真集をほとんど全て持っているってこと? 言葉がでてこなかった。

 彼が子供好きでないのは、メグの扱いを見てもわかる。それに七、八冊あるという事は、その前に撮っていた風景の写真集もあるはずだ。彼が写真集を買った理由は題材にあるわけではなく、写真家に興味があるとしか考えられなかった。けれど、彼はこれだけたくさんの事を話したのに一度もその事に触れなかった。それは……。

 彼との会話が甦る。
「知り合ってもいない人に恋をしたことがあるんですか?」
「いや、知り合ってはいます。でも、二度と逢う機会もない程度の知り合いだったから、あなたのケースとほとんど変わりありませんよ」

 彼女は、手にした自分の写真集を見つめた。あの言葉を聞いたとき、自分と結びつけて考えることはなかった。だが、そうではないと断言する理由などどこにもないのだ。

 レイチェルが誤解するのも無理はない。彼が、マリンディの別荘に誘った時に、ジョルジアは彼を既婚者だと思っていたのでそんなつもりはなく招待に応じたが、レイチェルやマディの立場で考えれば、彼が女性を連れてくると言ったら恋人だと思うだろう。

 彼が階段を上がってきたのが目に入った。ジョルジアが手にしている『太陽の子供たち』を見て、彼はレイチェルが何を話していたのか悟ったようだった。

「まさか……知らなかったの?」
レイチェルは、口元に手を当てて、痛恨のミスをどう取り戻そうかと考えているようだった。だが、ジョルジア自身は驚きと混乱で、氣の利いた言葉を返すことが出来なかった。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
あ、レイチェル、痛恨のミス・・・というか読者にとってはグッジョブ!
思わぬ展開で、本人たちをさておいて強制的に動いてしまいましたね。大地震の地すべりみたいです。
でもこの2人、こうでもしないとテコでも動きそうにないですからね。
ジョルジアも鈍いなぁ「いや、知り合ってはいます」というグレッグの台詞、サキでも思い当りますよ。あ、これはサキが物語の読者だからですね。ジョルジアの場合、自分に対するコンプレックスが相当強いですから考えもしないか・・・。
この後のジョルジアとグレッグはどんなふうに顔を合すんでしょうね。楽しみです。
レイチェル、上手にフォローしてやって!
2017.05.10 12:02 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
やっぱり家が広いっていいなあ。。。
・・・と全く別視点で感想をもってしまった。
私もドーベルマンは飼っていたのですが、やはり日本では1匹が限界ですね。
庭で放し飼いにしてましたけど、日本の庭は狭いから不自由しただろうなあ。。。
・・・と小説とは全く別軸のことを考えてしまった。
2017.05.10 13:37 | URL | #- [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

このご一家も、グレッグ以外は社交的なんですね。そして、レイチェルがジョルジアを大歓迎だったのは、メグの件だけが理由ではなかった、と。
それにしても、あ~らら~、ですね。グレッグのカミングアウトは、そういうことでしたか。
グレッグ、どんな気持ちであの台詞を言っていたんでしょうね。まあ、真面目と言えばそうなんですけどね。ジョルジアの質問に、嘘はつかず、きちんと答えたわけだから。
しかも、ここでお預けって(笑)
この気まずい雰囲気、どうなるのか気になってしょうがないじゃないですか。次話が待ち遠しいです。
2017.05.10 16:29 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

ご明察の通り、二人だけに任せておいたら何も進まないので、最初はリチャード・アシュレイ、次はマディ、メグ、さらにはレイチェルといろいろと「知らずに加勢」してもらっています。大変なんですよ、こういう組み合わせ!

ジョルジアの鈍さは筋金入りです。
ベンの件だってまったく氣がついていないくらいですから、知り合ったばかりのグレッグの件なんて全く(笑)
もっとも子供の頃から、非モテ街道まっしぐらで来ましたからねぇ。

レイチェルは、このあとは全然フォローしません。必要なし(笑)
来週発表するこの続きは、「そういう展開かい!」とサキさん呆れるかも。
でも、ここからが長いのです。
見捨てずに読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2017.05.10 21:02 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

犬の件ですけれど。
ケニアではなくて、南アフリカでしばらく居候をした農場は、荒野のど真ん中にあり、道路沿いの門から母屋まで7Km、門から隣家まで40Km、母屋から見える背後の「自分ちの敷地」は「地平線までずっと」で、敷地内にオリックスが走っていて勝手に繁殖しているのでその数は「知らない」ということでした。そんな広い「自分の家」なので、もちろん犬の「散歩」などは必要なし。想像を絶する世界でしたよ。

東京などでは、かなり立派なお屋敷でもやはり大型犬が走り回って暮らせるほどの広さはないので、それに較べるとアフリカとまでいわなくても、スイスなどの田舎で生きる大型犬は幸せなんだろうなあと思います。

コメントありがとうございました。
2017.05.10 21:13 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ここも説明をかっ飛ばしていますが、日本は家の大きさなどの問題もあり「誰かれ構わずウェルカム!」という家庭は相当珍しいと思います。が、欧米では、意外とそういう人たちが多いのです。更にアフリカなどに行くとその傾向は強いんですね。

それに加えて、レイチェルはジョルジアのことを「ようやく出来たヘンリーの彼女」だと思っていましたから、そりゃあもうウェルカムですよ。

その一方で、明るくて社交的な一家の中で一人ウジウジタイプであるジョルジアは、グレッグの引っ込み思案に勝手にシンパシィを感じているという事情もあります。

で、いきなりこうですよ。
「痛たたた」の展開です。
あのセリフを言っていたときは、そりゃ涙目だったと思います。
もちろん本人としては、知らせるつもりは皆無だったのであんな事を言っていたんですけれど、バレてしまいました。
失恋するは、バレるは、もう踏んだり蹴ったりなんですよ。

が、このまま失恋でゲームオーバーではお話にならないので、「おいおい」な展開になっていきます。
ここで切ったのは、ヤキモキしていただきたかったわけじゃなくて、単に半分だったから……といっても信じていただけないだろうなあ(笑)

きっと「どこかズレている」な顛末になると思いますが、この件は来週までお待ちください。

コメントありがとうございました。
2017.05.10 21:42 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
うおぉっ…前置き通り、「よりによって、そこで切るか」と思ってしまいましたw
次回が楽しみです^^
あと、半分くらいがここだったんだもの……。という気持ちも分かります。
僕も書き終わった後はちょっとした悩みの種ですね><

グレッグ気まずいだろうなぁ~…僕がグレッグの立場だったら、赤面して家から逃げ出しそうな展開です^^
2017.05.11 14:35 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

わざわざ「読者をやきもきさせよう!」と切る事もあるんですが、今回は本当にここ以外だとどっちかが長くなるし「もういいや、ここで」と切りました(笑)

書いているときって、発表用の長さの事は考えないですよね。で、発表する時になって「アララ」となる事が多いです。
新聞の連載小説とか、どうやっているんだろうと思いますよ。プロって、すごすぎる。尊敬します。

そして、グレッグ……。こんな居たたまれない状況ってあまりないですよね。
ひどい作者だ。って、私ですが。
次回は、少しは……いや、ひどい作者には違いないかな。
また読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。

2017.05.11 21:28 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
今回はいろんなびっくりがあったんですが、グレッグがみんなから(一瞬でも)ペドフィリアを疑われてたことが、おかしいやら気の毒やら(笑)
でも……そうか、グレッグはそこまでジョルジアに関心を持ってたんですね。
ジョルジアに2冊目の写真集をもらった時の彼の顔が目に浮かびます。

さあもう、こんな話を聞かされちゃあ、いくらジョルジアでも、気持ちを決めるしかないですよね。
このまま、何も無かったように終えるなんてできないし。
自分の気持ちと向き合う時が来たかな^^

グレッグも、もう覚悟を決めなさいね(笑)
2017.05.14 09:43 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんにちは。

このレイチェルのセリフには、説明を省いている欧米の事情が前提になっていたりします。
カップルが社交の基本なので、そんな歳にもなってずっとガールフレンドがいないのは「事情があるに違いない」なんですよ。日本と違って、「草食系」とか「絶食系」とか「みんなは知らなかったけれど実はずっと彼女がいた」とか普通はないんですね。つまり「同性愛」か「人に言えない何か(犯罪か倫理的にやばいこと)」だと思われるわけです。グレッグの場合は、単純に「社交下手」「頑張ってもモテない」で、ここまでシングルできていますが、それでもそんなタイプの人間の家に子供の写真集がいっぱいあったら「げげげ!」とドン引きされるのは間違いないです。

わざわざ全部持っていた事にしたのは、『太陽の子供たち』だけ持っていたとすると「仕事で関わったからかな」と別の意味で別の解釈をする余地が残るからです。ジョルジアは鈍いから(笑)
本人は、せっかくアメリカから取り寄せたものを、マディにもっていかれてしまい、でも「好きな人のだから返して」とも言えなくてがっかりしていた所に、本人からサイン本をもらえて嬉しかったと思いますよ。

しかし!
こうなったから、関係がどんどん進むと思ったら、そうは問屋が卸さないのが私の小説です。
ここからが長いんですよ。「なんでここでさっさと……」とlimeさんを疲れさせる展開が待っております。ご期待ください。
(おいおい……)

コメントありがとうございました。
2017.05.14 13:45 | URL | #9yMhI49k [edit]

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