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Posted by 八少女 夕

【小説】郷愁の丘(6)シマウマたち - 4 -

「郷愁の丘」です。四回に分けた「シマウマたち」の四回目、ラスト部分です。

主人公グレッグはカメラを持っていません。彼は視覚的な記録をすべてスケッチで残しています。これはこの人の特殊能力とも関連あるのですが、お金もあまりなくてインフラも整っていないサバンナの生活では、このウルトラアナログな方法が一番面倒がないという事情もあります。

かつてフィルムのカメラが主流だった頃は、旅から帰国すると現像して写真を整理してという面倒がありました。現在はデジカメになりましたが、今度は旅先で「あ、コンセントの形状が!」とか「iPhoneもカメラも充電しないと」というような面倒が増えました。記録を鉛筆一本と紙一枚さえあれば自由に残せる、グレッグのような能力があればいいなと、時々思います。


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あらすじと登場人物




郷愁の丘(6)シマウマたち - 4 -

 それから、不意に思い出した。
「でも、グレッグ。あなたは今日、ノートに文字だけを書いていたわよね。スケッチをする事もあるの? もしかして、私が横でいろいろと訊いていたから落ち着いてスケッチできなかったの?」

 彼は首を振った。
「そうじゃないよ。スケッチは、いつも後でするんだ」
「後で? 写真にも撮らなかったのに、どうやって?」

 彼は、一度室内に入ると、スケッチブックを持って出てきた。そして、座ると何も描いていない白いページを開けると、尖った鉛筆を一番左端の下方に持っていった。鼻先から始まってすぐにシマウマとわかる顔が現れた。耳とたてがみ、背中、尻尾。脚が四本揃うまで、鉛筆はただの一度も間違った所を通らなかった。次に縞が描かれていく。その斜め後に二頭目が現れはじめた。ジョルジアは自分の目が信じられなかった。

「あの群れが、どこに、どんな風にいたのか憶えているの?」
「うん。これを描こうと意識すると、その詳細を憶える事が出来るんだ。もちろんはじめから集団全体を憶えられたわけじゃないよ。いつもこればかりやっていたからね。子供の頃から動物の絵を描くのはわりと得意だったんだ。その代わり、そっちに夢中になりすぎて、約束したのにクラスメイトと遊ぶのを忘れてしまったり、宿題をやらなかったりで、親や先生を困らせたんだ」

 ジョルジアは、彼が論文を確認するのに熱中して七時間も部屋にこもっていた事を思い出した。「あまり友達もいない、かなり変わったヤツなんですけれど」そうリチャード・アシュレイが彼について評していた事も。彼の集中力と才能は、おそらく多くの人間関係の犠牲を強いてしまったのだろう。

 どんどんシマウマは増えていった。あっという間に、草食動物の群れがスケッチブックを埋め尽くしていく。サバンナの下草も、アカシアの樹も、側にいたインパラやヌーもまるで写真を「鉛筆スケッチ」というフィルターをかけて加工したかのように正確に描き込まれていく。

 彼女は、黙ってスケッチを完成させていく彼を見つめた。彼は、彼自身の宇宙に籠っていた。ジョルジアの存在はたぶん完全に消え去っているのだろう。

 それが無礼だと、多くの人が彼を責めたのかもしれない。もしくは自分が大切な存在と認められていないと判断して腹を立てたのかもしれない。けれども、そういう事ではないのだと、ジョルジアは思った。

 先ほどサバンナで見かけたシマウマたちは、絶対に安全だと判断するまではこちらを観察するのをやめなかった。観察している人間が無害だと確信しなければ安心して草を食むことはないのだ。彼もまた、誰の前でもこれほど無防備な姿を晒せるわけではないだろう。

 彼女は、彼女がシャッターを切る瞬間と同じ、ある種の真空を感じた。絶対に邪魔をしてはならない時間。完成するまで、黙って待つ事は彼女には困難ではなかった。

「す、すまない」
我に返った彼が動転して発した言葉が予想とぴったりだったので、彼女は声を立てて笑った。彼は、彼女の朗らかな様子にホッとして笑顔を見せた。それから、はにかんで出来た絵を彼女に見せた。

 彼女はそれをしみじみと眺めた。先ほどのサバンナで、確かに彼女もこの景色を見た。デジタルカメラを再生するまでもなく、彼の描いたどこも間違っていない事を確信する事が出来た。
「素晴らしい才能だわ。信じられないくらいよ。画家になればよかったのに」

 彼は首を振った。
「僕が描いているのは観察記録だよ。芸術とは違う。例えば、これをリビングに飾りたいかい?」

 そう言われて、ジョルジアは首を傾げた。確かにリビングに飾る絵とは違う。
「う~ん。そうね。ちょっとバランスが。……このシマウマをここに移動することは無理かしら」

「移動?」
「そうよ。構図なんだけれど、ここにみんな固まっているでしょう。実際にそこにいたからなんだろうけれど。でも、この繁みと重なっていてシマウマの柄が上手く出ないから、こちらの何もないところだとすっきりすると思うの。空の割合とのバランスもよくなるし」

「構図?」
「三分割構図や黄金分割なんていろいろなメソッドがあるけれど、でも、印象的であればそれにこだわらなくてもいいのよ」

 彼はページをめくると、面白そうに手の位置を動かした。
「ここかい?」
「ええ。それも少し手前に大きく」

 彼女が想像した通りのシマウマが現れる。そして、アカシアの樹、遠くに見える《郷愁の丘》、遠くで眺める仲間のシマウマたちも。不思議な事に、それは彼女にとっても現実のサバンナとは違うファンタジーに見えた。

 彼は楽しそうに笑った。
「本当だ。絵画らしくなってきたね」

「そうね……。でも、こうして見るとわかるわ。これは印象的だけれど、明らかに本物じゃないわね。それに、あなたの研究の資料としては間違いになってしまうわ」

 彼はそれを聞いて、彼女の方を見た。ロウソクの暖かい灯り越しに、研究の価値を尊重してもらったことの喜びが伝わってきた。

 彼はスケッチブックからその絵を切り取ると、彼女に渡した。ジョルジアはそれを両手で受け取った。
「皺にならないように持って帰らなくちゃ。宝物にするわ」
「そんなの、大袈裟だよ」
「いいえ。額に入れて飾るの」
そう言って彼女は、シマウマの背の部分をそっと指でなぞった。

 彼女は、一日どこかに引っかかっていた何かにようやく答えが見つかったような氣がした。

「ねえ、グレッグ。私、今朝は望遠レンズと、リバーサルフィルム用のNIKONを持ってこなかった事を後悔していたんだけれど……」
「けれど?」
「わかったの。今回の私に、それらは必要なかったんだわ」

 グレッグは首を傾げた。
「いまは景色や動物たちは撮らなくていいってことかい?」

 彼女は首を振った。
「私がいま撮らなくてはならないのは、違うものなの。あの朝焼けの色でも、サバンナの雄大なドラマでも、そしてこの星空の輝きでもない。次の写真集に欠けている最後のピースなの」

 新しいモノクロームの人物像だけで構成する写真集。彼女が撮ってきた写真に映っている陰影は、全て彼女の心の光と影だ。それでいて、モデルとなった人たちは、全て彼女からほど遠い人たちだった。彼女はかけ離れた位置に立ち、自らが立ち直れないほどに傷つくことはない光と影を映し出した。

 けれど心の奥に、傷つきのたうち回っている弱い自分が待っている。正視する事の出来ない痣を持つ鏡の向こうの醜い化け物。理解してもらう事を求めながら、逃げ回る事しか出来ない臆病な生き物。それでいながら、わずかな居場所から生きる証を発信したいという願い。

 ジョルジアは、どうしてもその陰影をも映し出さねばならなかった。

 それと向き合えなかったのは、確信が持てなかったからだ。確信を持てなかったのは、自分が進んでいる道が正しいのか、報せてくれる道標を見かけなかったからだ。けれども、彼女は、自分の直感が導いたこの地で、十分すぎるほどの啓示を受け取ったと感じた。《郷愁の丘》と、グレッグという人間と。

 これまで彼女が手探りで求めてきたものを、全く違う場所で、かけ離れたメソッドで、同じように探している「私に似ている誰か」。人間社会の決めた「呼び名」のどれに当てはまるのか、決める事は出来なくても、これだけはわかる。この人は私の人生にとって絶対的に必要な人なのだと。

 彼は不思議そうに彼女を見ていた。ジョルジアは、身体の向きを変えて彼を正面から見据えて言った。
「あなたを撮らせてほしいの」
「僕を?」
「ええ。ここで、シマウマたちと対峙しているあなたを撮りたいの」

 世界に作品を受け入れてもらえるかどうかはわからない。けれど、彼女が世界にさらけ出すのは魂の風景でなくてはならなかった。そして、今の彼女には、魂の心象とは彼を撮る事に他ならなかった。

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Comment

says...
ありゃ?初コメ?
私が初コメだとちょっと恐縮してしまうな。。。

確かに写真見ながら、絵を描くのは風情がないですからね。
頭で描くのが一番ですよね。
だからこそ。個性があるんでしょうし。
捉え方がみんな違いますからね。

あ、こちらにコメントありがとうございます。
グッゲンハイムが終わったら、コメント来るだろうなあ・・・と思っていましたけど。
颯爽と送って来たので驚きました。
誠にありがとうございます。
<m(__)m>
2017.07.26 12:15 | URL | #- [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

緊張だなんてそんな。
でも、初コメって、私もなんとなく苦手かも(笑)

普通は、その場で見ながら写生するんですよね。この場合は記憶してしまっているところがポイントです。
描く方は単なる技術の問題ですが、こういう記憶だけで詳細を憶えられる能力って、ちょっと特殊でサヴァンの一種であることもあります。
特殊能力と一種の発達障害が同時に起こる場合があるみたいですが、この人についてはどれと特定せずに、常軌を逸して内向的な特徴とともにこの能力を設定しました。

そして、そちらのブログへのコメントですが。
いやあ、グッゲンハイムの方、コメントを入れるにはあまりにも過去の話やファンタジーのことがわかっていなくて、ちょっとコメントできなかったんですよ。すみません。
「解決警部」はばっちりコメを書かせていただきますので(笑)

コメントありがとうございました。

2017.07.26 20:21 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

うおう、グレッグの才能、すごい。
特殊な能力者というより、努力と訓練で身に付いた能力みたいですね。たしかに芸術とは違うものですが、別の意味で芸術的ですらあります。職人芸というべきかな。
そして、芸術家ジョルジアと学者グレッグの違いが、くっきりとした話でもあったように思います。

ジョルジア、衝動ではなく、自分に必要な被写体としてグレッグを選んだようですね。いったいどんな写真を撮っていくんだろう。そして、その撮影を通して、どんな気持ちの変化が表れてくるんだろう。
次話は新展開ですか? 楽しみです。
2017.07.27 10:38 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
あ、なんか目で見た物をそのまま記憶できる。そういうのサヴァン症候群って言いましたっけ?
とっても特殊な能力で、グレッグはそういう能力の持ち主なんですね。
動物の行動のいろんなシーンを記憶出来たら、この才能は動物学者としては天からの贈り物ですよ。頭数なんかも後でカウントできたりして。
でも、見たことを正確に描き出せるだけでは、ジョルジアのように芸術家としてやっていくことは難しいんですね。人を感動させるのにはまた別のセンスが必要だと思います。
そして、ジョルジアの写真家としてのアドバイス、それに対するグレッグの反応は相性の良さが目いっぱい出ています。
このシマウマをここに移動することは無理かしら・・・とジョルジアが提案した時、「ここに動かすと群れとしておかしい」なんて生真面目に反論するのかと思ったら、「ここかい?」なんて書き直してますもん。笑ってるし・・・
ほら、グレッグが素をさらけ出している。

テーマとモデルが決まりましたね。
いよいよジョルジアの自分自身への対面が始まったのでしょう。グレッグという媒体を介して・・・。
少しずつ、少しずつ、ですね。
2017.07.27 12:08 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

じつはこの映像記憶という能力、誰でも努力次第で習得できるものではないと思います。子供の時にはさほど珍しくないらしいのですが、思春期以降消失することが多いようです。ただ、大人になっても失っていない人が僅かにいて、それが特殊能力として驚かれるということが多いようです。グレッグの場合は、子供の頃からずっと一人ぼっちでこればかりをやっていたので、失わなかったのかもしれません。あまりにも人付き合いがなさすぎで、実はこうやってスケッチを描いていることを知っている人はほとんどいないので、この能力が特殊だということに本人はいまひとつわかっていません。

この人の設定は、「いろいろとグレーゾーン」なのです。
かなりアダルト・チルドレンでトラウマがあることはまちがいないのですが、「極端な内氣であること」と「対人恐怖症」や「社交不安障害」のグレーゾーン、「高機能自閉症」と「健常者」のグレーゾーンなど。健常者でも極稀に持つことがある映像記憶は、サヴァン症候群の人の一部も持っているのですが、何故こんな能力があるかは本人も診察を受けさせられたこともないので全く不明です。

ジョルジアは写真家として、構図や焦点、色や光の具合などなど体に染みついたものがあります。何がどこにどうあるとぴたっと「決まる」かが瞬時に分かるのですね。一方で、グレッグの方は見る人の印象などよりも記録する正確さを追っています。これの違いに、二人とも氣がついていなかったのだけれど、この交流で意識するようになって、お互いの仕事の刺激になる、という流れにしてあります。

「どちらにとっても意味のある出会いだった」というのが書けているといいなと思います。

写真自体は、例の衝撃の一枚ほどのインパクトは持たないと思います。まあ、白黒の写真です(笑)
次話は、新展開というほどでもないかなあ。少なくとも色恋沙汰は全く進みません(泣)

コメントありがとうございました。
2017.07.27 20:47 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

爽やかで申し訳ないような夜です。お体、大切にしてくださいね。

さて、このグレッグの能力、映像記憶っていうみたいですが、高機能自閉症と対応して起こっているサヴァン症候群なのか、単にたまたま映像記憶を保持し続けてしまったのか、その辺はいまひとつグレーゾーンです。グレッグの設定は、TOM-Fさんへのコメ返で長々と書いたのですが、平均以上に知能は高いのですが、主に社交性の方に問題があって、適応障害なのか微妙なところ、ということにしてあります。

幼少時の環境やトラウマが未だに尾を引いていることは確かなのですが、そんなこんなもあって、こんな千載一遇の機会だというのにジョルジアに指一本触れないという設定もあります。

ともかく、ほんとうにこの能力は彼の仕事では便利です。
後のちにいろいろなことを比較するときにも記憶を突き合わせればいいわけですし、おっしゃるようにカウントもできますし、便利ですよね。

ジョルジアの言うままに、絵を描き直している件は、実は「構図」という言葉が彼の辞書になくてびっくりしたんですよね。
で、なんだそりゃと思ってやってみたら、あらびっくり、「まともな絵みたいになったぞ」と思って笑っているわけです。
本人は、自分の記録と、いわゆる芸術的な絵が違うのはわかっていましたが、なぜ違うのかはじめて意識したというわけです。

こんな風に、ジョルジアの方だけでなく、彼にとっても、彼女と一緒にいることは恋愛面だけでなくいろいろと面白くて刺激があるのですね。これまで親しい友達もいなくて、こういう付き合いもしたことがないので、彼はそれだけでもとても嬉しいのです。

恋愛も進みませんが、ジョルジアの自分の陰影を探り当てる旅も、遅々としてなかなか進みません。
でも、確かに少しずつ動いているようです。また、応援のほど、よろしくお願いします。

コメントありがとうございました。
2017.07.27 21:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
>「す、すまない」

グレッグ〜(笑)

自分だけの宇宙を持ってるが故のグレッグのこの応対は
ある種の人間や女性には理解し難いものなのかもしれませんね。
ジョルジアはもちろん、すんなり受け入れていますけれど。
このお二人、「人間」としての相性はこれ以上ないくらい
ばっちりなのですから、あとはグレッグがどう「男」の部分を
見せるかだと思うのですが、う〜ん、難しいだろうなぁ〜。

その場にあるものをそのままの形で記憶する能力、
サヴァンのことは何かで読んでて知ってたんですけれど、
グレーゾーンの彼がその能力の保持者というのもなんか納得です。
もちろん、あくまでグレーゾーンで、「そうだ」っていうことでも
ないんですけれど。
で、面白いのは、写真もその場にあるものを「切り取る」
ものであるにも関わらず、やっぱりグレッグのそれとは
違うんだってところ。
ジョルジアのアドバイスで絵画らしくはなったけれど研究の資料としては
間違いになってしまう、ところなど、写真ってやっぱり撮った側の
「フィルター」が入ってしまうものなんだなぁって。
グレッグの場合は、その「フィルター」がないというか。
2人の生き方とか性格の微妙な違いとも合致しているようでした。

そして、おお、ジョルジア。
グレッグを被写体に……

今までは、光の側の人を撮り納めてきたけれど、
今度は陰の部分を撮ろうと思った、もしくはそれが必要なのだということに気付かされたのですね。

>この人は私の人生にとって絶対的に必要な人なのだと。

ここまで心の中で彼女は言い切ってるのだから、グレッグ、頑張れ!

あくまで「対象」から自分の陰影を確認していくという作業。
これも、写真家らしいですよね。
対象と向き合うことが自分自身と対峙することに繋がるのですね。

ジョルジアのフィルターを通して彼がどう映し出されていくのか
楽しみにお待ちしております。

2017.07.28 02:37 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

グレッグ、またやっちゃいました(笑)
今回は七時間ではなかったのですが、彼は「またやってしまった。今度こそ嫌われる」と超焦っています。
ジョルジアが笑い飛ばしてくれたので、ホッとしました。

彼もわざわざ来てもらっているのに放置したりしてはいけないとわかっているんですが、熱中すると他のことが吹っ飛んでしまうのはどうしようもないのですね。ジョルジアは、自分もまたこういう排他的な集中力を必要とする仕事をしているので、ここでは邪魔をすべきではないと瞬時にわかります。でも、そういうのがわからない人もいて、グレッグはもうなんども「この男、ありえない」と上手くいく以前に振られています。

「男」の部分は消し去ったままです。
女性は、べつにケイほどではなくてもいいかもしれませんが、やはりある程度危険な香りを漂わせた方が相手を引きつけるんですが、グレッグはそういうことが出来ないのですね。むしろ「それを出したら絶対にダメだ」と頑張って押さえつけていますそしてジョルジアがまたつけあがる(笑)

映像記憶の能力、自閉症患者に出てくる割合が多いことや、子供の頃にあっても通常は思春期以降消えてしまうこと、ただし、後天的に脳に損傷を受けると、それまで使っていなかった場所を使うようになりそこでサヴァン的な能力を発揮し始めることもあるなど、いろいろなパターンがあるらしいです。この小説では、グレッグの場合はどれかという設定をしていません。

どうしてか、ということがわかっても、それは本人の救いにはならないのですよね。本人は、どうすることも出来ない。研究が地味でパッとしないのも、友達ができないのも、パーティをはじめとする社交から逃げ回ってしまうことも。彼は、どうしてだかわからないけれどある映像記憶を使って、家に帰ってから黙々とスケッチを描いています。

さて、ジョルジアの写真と、グレッグのスケッチには明確な違いがあって、前者は表現であり、後者は記録なんですね。ジョルジアにとっては何をどう効果的に撮るかはとても重要で、構図を考え、絞りや露出を決定し、感度を選び、シャッターを押すまでにすでに彼女の意図が全て形になっているわけです。一方で、グレッグは自分の好きなものを好きなように描くのではなく、シマウマたちの生態や状態を正確に記録することが大切なわけです。
もちろん、どこをスケッチにするか選ぶ時点で、わずかに彼なりのフィルターがかかっていますが。

この二人の世界への関わり方の違いが、恋愛の進め方でも意味をもってくるのですよね。グレッグは、「この人には好きな人がいるからしつこく迫るのは迷惑だ」と動かないのですが、ジョルジアの方はもっともがいています。

> あくまで「対象」から自分の陰影を確認していくという作業。
> これも、写真家らしいですよね。

これ、ほんとうにそうなんです。というのは、自分で自分は撮れないじゃないですか。
で、これまでは、キラキラな兄ちゃんや妹や、あっけらかんとしたキャシーなどなど、対極にいるような人の陰影を撮っていたのですが、はじめて自分に近い人間を撮ろうと決心したわけです。もっとも、これまた苦労するんですけれど。

まあ、でも、この写真の件は、あまり大したオチはないです。(いいのかそれで)

次回もますます生殺しがひどいですが、また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2017.07.28 22:44 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
教育があって知性が高くて、しかも限定的とはいえこれだけの社交性のあるサヴァン症候群……。

「君たち、ハネムーンとして世界一周旅行に行かないかい? ロシア、中国、インド、ブラジル、きっと楽しいと思うよ。北朝鮮や中東に行けないのが残念、いやなんでもない。費用についてはラングレー、じゃなくて会社(カンパニー)が援助しよう」(待て)
2017.07.29 14:16 | URL | #0MyT0dLg [edit]
says...
こんばんは。

この能力、映像記憶っていうらしいですが、サヴァン症候群だとは限らないそうですよ。
三島由紀夫や谷崎潤一郎も持っていたようですが、ああやって使えば意味もあるでしょうけれど、グレッグは写真撮れば済むことに使っているだけですからねぇ。社交性はいまいちだと思いませんか。

結婚するとしても新婚旅行で世界一周なんて死んでもしないだろうな。
「調査に穴が空くし」とか堅物発言がでてきそうです。

っていうか、こんな堅物に何をやらせようとしている?

コメントありがとうございました。
2017.07.29 21:58 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
グレッグの能力、とても羨ましいです。
サヴァン症候群のような、別の部分に何らかの症状を持っている人とは、やはり違うように見えますね。

これは並外れた集中力のなせる業なのでしょう。あるいは、その一点に興味を持ちすぎて……。
その状況や時間を忘れるほど夢中になって集中できるって、本当にうらやましいです。
けどそのことが、普通の社会生活と、人付き合いに支障をきたしてしまうのだろうなあ。

だけど、そういうデメリットも含め、ジョルジアはこの時点でほんとうにまるごと、グレッグを受け入れたんでしょうね。
なんだか、さーーっと道が開けた感じがしました。

そうか、ジョルジアはグレッグを被写体に選んだんだ。
意外な展開でした。
2人の関係性が、また一歩進んだようで、この後の展開が楽しみです。

……と言っても、急にラブラブなんてことには、なりそうもないですけどね^^
2017.07.30 03:31 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
おはようございます。

この能力、私もとても羨ましいです。
どういう原因で映像記憶を持つことになった、もしくは保持し続けることになったのかはわかりませんが、そのことによる若干のデメリットというか、脳のある部分を使うことで他の部分の出番をなくしているのか、「大人は普通はこうする」ということがちゃんとできないようです。そのことが「周りとうまくやりたいのにできない原因の一つでもある」ことは本人もわかっているのですが、自分ではどうしようもなくて悩んでいるという設定です。

たぶんジョルジアは、その「分かっていて、マズイと思っているけれど直せなくて、申し訳なく思って誠実に謝る」ところまで理解することができた最初の(悠長な)女性なのだと思います。それは多分、彼女自身もここまでひどくはないけれど、かなり似た部分があるからなのですね。

さて、被写体の件ですが。これまでの作品集と違って、あたらしいモノクロームの写真集は、彼女のパーソナルな部分をモデルの中から浮かび上がらせるという試みなのです。でも、キャシーや、マッテオ、アレッサンドラなど、どちらかというと彼女には対極にある人を撮っていたこと自体、まだ若干の守りだったのでしょうね。自分そのものは物理的に無理ですが、自分に似ている人を撮ることで、攻めに入った、という感じでしょうか。でも、まあ、この写真集の話は、さほど深くは掘り下げませんが。

ラブラブ……。御察しの通りです(笑)まだまだ生殺しが続きます。

コメントありがとうございました。
2017.07.30 08:47 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
十分ラブラブに見えまするぞ~。なんだかこそばゆい会話に思えたのは私だけじゃないはず! と思うのですが、どうでしょうか。いや確かに表面上は学術的だったり芸術についての論議だったりするけれど、でもこれはラブラブな会話なのでは~。いえ、言葉には出ていないし本人たちも気がついてないかもしれませんが、心地よい時点でもうできあがっているとしか言えませんよね~

サヴァン症候群が話題になっていますが、そもそも自閉症やアスペルガーといった発達障害はスペクトラム疾患なので、典型的・extremeなものから、ちょっとそうなのかも程度のものまであるのが普通。ちなみに、うちで発達障害の勉強会があったときに、なぜかうちの職員(特に男性)の出席者が多数。なぜか?「いや、俺もそうかもと思って」だって。結構男性は自分もちょっとそんな気があるかもなぁと思っているみたいだったです。
多かれ少なかれ素因がある人が、環境によっては極端に出る人がいるんだろうなって思います。グレッグもそんな感じなのではないですかね。
ちなみにこの景色を写真のように記憶しちゃう子、私の回りにも何人かいます。本当に、後でその現場を見ないで絵を描いても、細かいビルの窓の数とかまで合ってるんですよね。でも記憶に脳内のどこかを激しく使っていると言うことは、何かが欠けることはあるのかも。ちなみにうちの真もこの系統なんです。だから人の顔を覚えるのがかなり得意。ただ、彼の場合アウトプットがマズいので記憶しても絵は描けません^^; そうか、グレッグとお友達かぁ。

このシーンは、かの『貴婦人の十字架』の地味な主人公二人の連想ゲームのシーンみたいな(会話の中でわかり合っていく)、そんな印象でした。
2017.07.30 16:09 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

ええ、この「シマウマたち」がラブラブですか?
「朝焼けの家」の食事シーンは見方によっては……と思ったけれど。
でも、なんかですね。誰かさんの方が一生懸命我慢したり、一喜一憂したりしているんだけれど、それをわかっていない人の視点から、なんとか滲み出したらいいなあとか思いながら書いていたりして。

あ、スペクトラム疾患っていうんだ。私が「グレーゾーン」とか言葉足らずながらに感じていたこと。
そうなんですよ。実は私の連れ合いもおそらくどこかの段階の発達障害だと思うんです。でも、「はっきり障害」と言えるような症状と違うので、かなり生きにくい感じで、反対に例えば「盲腸が炎症を起こしているので切ったら治る」みたいなのと違って、診断して治療してもらったからといって「完治!」みたいなものとも違うのかなと。子供だと周りが理解してあげることで、向いた道を探せるなんてこともあるのだとは思うんですけれど。その一方で、私自身が「完璧な健常者」ってわけでもなく、発達障害の症例を読んで「え、これって私も」なんて思い当たることもあったりで。でもだからこそこういうストーリーばかりを書いているんじゃないかとという話も。なんて話はさておき。

それに、映像記憶のこと、この話を書く時に調べてわかったんですけれど、自閉症のサヴァン症候群だけでなく、事故などで脳を損傷したというようなはっきりとした要因がなくても(数は少なくても)存在するとわかって、「あ、破綻していない」と確認して使うことにしました。一方で、発達障害の特徴の多くがグレッグに当てはまる、当てはまる。「ありゃ、もしかしてかなりグレーゾーンだわ」って思いました。

で、彩洋さん のお墨付きいただいて一安心。

そして、お揃い! 真も映像記憶の持ち主かあ。彼の仕事には顔を速攻で覚えられるのは大きな利点ですよね。
グレッグは……今時写真で撮れば問題ないことかも。でも、彼は子供の頃からこればっかりやっていて、他にセールスポイントない……。
だから、他でもないジョルジアに褒めてもらえてめちゃくちゃ嬉しかったと思います。

そして、『森の詩 Cantum Silvae 貴婦人の十字架』のあのシーンを思い出して頂きましたか。
実は、このストーリーでは、特に会話や手紙文に重点をおいて書いています。二人が同時に体験すること自体は大したことは起きないのですが、過去の人生で得たことをコミュニケートすることで近づいていく、という体裁をとっていんですけれど、あまり書いたことのないメソッドでけっこう苦労しました。

うまく納得のいく会話や手紙になっているといいんだけれど。

コメントありがとうございました。
2017.07.30 18:50 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
一瞬最終回かと思ってしまいました><笑
よかった、まだまだ続くんですよね??

これからジョルジアが撮影するであろう写真がどんな出来になるのか,どんな言葉で表現されるのか、ものすごく楽しみです♪
2017.08.08 16:02 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

この章の終わりというだけで、まだまだ続きます。っていうか、いい加減少しは進めって感じかも(笑)

あはははは、ジョルジアの写真、結構あっさりと表現していますよ。
でも、たしかに象徴的に写真の話題があちこちに出てきます。
その視点で読んでいただけると、もしかしてわかりやすいかも。

明日また続きです。読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2017.08.08 22:30 | URL | #9yMhI49k [edit]

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