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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】それは、たぶん……

この記事は、カテゴリー表示のためのコピーです。

scriviamo!


「scriviamo! 2018」の第四弾です。ポール・ブリッツさんは、プランBでもご参加くださいました。プランBは、まず先に私が書き、それに対して参加者のブロガーさんが創作作品や記事などを書いてくださる参加方法です。

ついでにプランBでもお願いします。最近自分でもエネルギーが抜け気味で、ショック療法のためにもきついの一発頼む(笑)


さて、他の方はあまり難しくならないように、いろいろと余地を残してご用意するのですが、ポールさんのご希望がこうなので困りました(笑)

何を用意しても「こんな簡単なの、やってられねえ」と思われると思うし、私ごときの頭脳では博識なポールさんを唸らせるお題なんか出せそうも無いので、単純にものすごく限定して自由のないお題を出させていただくことにしました。まず、私が時々やる小説の書き方をポールさんに強制します。

ここに貼り付けた動画は、スティングの「It's Probably Me」です。某映画のサントラにもなったようですが、この際映画のことは忘れてください。純粋に歌詞に沿った作品を書いてください。しかも、下に発表する作品を受ける形でお願いします。可能なら、対象読者は男性ではなく女性が「萌え〜」となる作品に仕上げてくださることを望みます。

なお、歌詞は、ここには書きません。ポールさんなら聴けばわかるでしょう。っていうか、著作権的に載せていいのかわからなかったので。まあ、ネットにいっぱい転がっていますからいいですよね。



Sting - It's Probably Me (Official Music Video)
Music video by Sting Feat. Eric Clapton performing It's Probably Me . © A&M Records. From Lethal Weapon III Soundtrack.

下にご用意した作品のアイリーンというキャラクターは、2016年の「scriviamo!」で発表した「ニューヨークの英国人」で名前だけ登場した女性です。この人は、今後もストーリー上では使う予定はありませんので、ご自由に料理してくださって結構です。申し訳ありませんが、それ以外のこのシリーズで名前のあるキャラたちは、発表していない設定がありますので重要な設定変更(くっつけたり、殺したりという意味です)をしないでいただけると有り難いです。あ、ポールの嫁に差し上げた美穂は、例外です。もうそちらのキャラですので、修羅場なり出戻りなり葬式なりどうぞご自由に。(もちろんポールと美穂は無理して使わなくていいですよ)

【1月17日 追記】
ポール・ブリッツさんが早くもお返しを書いてくださいました。

 ポールさんの作品 「パイプ椅子とビデオモニターと」

すごいですよ。あれだけむちゃを言ったのに、易々と書いていらっしゃいます。アイリーン、そうとうな波乱万丈になっていますが、これだけいい男に当たれば、文句はないでしょう。ポールさん、どうもありがとうございました!

【参考】
郷愁の丘「郷愁の丘」を読む
あらすじと登場人物

「ニューヨークの異邦人たち」
「ニューヨークの異邦人たち」




「scriviamo! 2018」について
「scriviamo! 2018」の作品を全部読む
「scriviamo! 2017」の作品を全部読む
「scriviamo! 2016」の作品を全部読む
「scriviamo! 2015」の作品を全部読む
「scriviamo! 2014」の作品を全部読む
「scriviamo! 2013」の作品を全部読む



それは、たぶん……
——Special thanks to Paul Blitz-san


 さっき転んだ時に笑った全ての男の頭に、シャンペンボトルを叩きつけたい氣分だった。いや、それよりも裸足の時を狙ってこの10センチの尖ったヒールで容赦なく踏みつけてやりたい。そうすれば、こんな拷問具みたいなものを身につけながら優雅に歩く女の努力と克己心にもう少し敬意が芽生えるだろうから。

 絶対に泣くものかと思った。マスカラが流れちゃうもの。アイリーン・ダルトンはショー・ウィンドウに映った自分の姿をちらっと眺めた。きちんとセットした髪が更に魅力的に見える様に完璧な角度に被った鐔の広い帽子、コチニール色のスーツは実際の彼女のサイズよりも一回り小さく、彼女の豊かな胸が下品にならない程度に強調される様になっている。この難しい色のスーツに同系統のハイヒールを合わせる勇氣はないので安全な黒、しかも磨き抜かれたエナメル。

 10センチのヒールに少し窮屈なスーツの組み合わせだと、体のあちこちが悲鳴をあげるので、自然と小さなことにも苛立つことになる。なぜ体のあちこちが痛むのかすぐに理解できないと言う人は、おそらくこの手の服装をしたことがないのだろう。従って大抵の男は、セクシーな服装をした女性とその氣まぐれとも言える振る舞いの相関関係には無頓着で、それが彼女を更に激怒させることになる。

 こういう場合に、絶対に言ってはならない最悪のセリフはこうだ。
「だからいっただろう。人間、大切なのは中身だ、外見なんかじゃないよ」

 アイリーンがニューヨークに渡ってきてから一年が経つ。彼女は、ロンドンでそれなりの仕事と社交を満喫していた……と言うわけでもないけれど、冒険がしたくてアメリカに渡ってきた。ロンドン郊外に一緒に住んでいた両親がウェールズの田舎に引っ越してしまったのを風の便りに聞き、もう帰るところはないと覚悟を決めてこの街に残った。

 アイリーンの容姿は、本人が自負しているほど突出しているとは言いがたい。10人の男たちにアンケートをとったらおそらく「美人だ」と判断するのは6人がいいところだろう。いつも流行のメイクアップとヘアセットを怠らず、決して安くはない服飾費に給料の大半をつぎ込んでいるにもかかわらずだ。服装を農家の娘と取り替えたら、その内の3人は意見を変えるかもしれない。一方で「美人ではない」と判断した4人のうち2人は「少なくとも足は綺麗だ」という意見には同意するだろう。

 彼女は、少し扱いにくい性格をしていた。そこが、服と化粧を取り除くとほぼ同じ外見の双子の妹と、大きく違うところだった。つまり、妹のクレア・ダルトンはとても現実的で、たとえば「偶然すれ違ったレオナルド・ディカプリオやジョージ・クルーニーが自分に一目惚れしたようだ」というような確信は一度も持たなかった。実際にそうしたスターたちは、間違いなく一度もクレア・ダルトンに夢中になったことはなかったし、そのことでクレアが不幸だと感じたこともなかった。

 でも、アイリーンにとっては、それはどうでもいいことではなかった。彼女の魅力に一度は屈したはずの男たちが「ところで、あなたはどちらさまですか」などと言い出すことが繰り返されたら誰だって弄ばれたのではないかと悲しい心持になるだろう。しかも、セレブの横に立つのにふさわしくなるために、快適とは言えない窮屈な服装で出かけていったあとにそう言うことを言われるのは嬉しくない。

 ところで、今日「ところで、僕たちどこかでお会いしたことがありましたっけ?」というセリフを口にしたのは、有名なハリウッドスターではなかった。先日知り合ったどっかの男が「君は有名人なら誰でもいいんだろう」と言ったけれど、それは全く失礼なもの言いでしかなかった。アイリーンの(あくまで自ら認識している)美にノックアウトされるのは、有名人も一般人も関係あるはずないではないか。

 アイリーンは、うずくまりそうになる前の最後の力を振り絞って、角を曲がり、妹の勤めている骨董店《ウェリントン商会》のガラスドアを押し開けて中に入っていった。

「アイリーン! 久しぶりね、どうしたの」
クレアはヴィクトリア調の椅子から立ち上がって、双子の姉を迎えた。非常にコンサバティヴな服装を好む妹は、このままデボン州かなにかのの小さい骨董品店にテレポートした方がいいんじゃないかと思うような服装をしている。灰色の長いスカートに黒い細いリボンをあしらった白いブラウス。ニューヨークとはいえ、ここも骨董店なのだからそれでもいいのかもしれない。

 クレアは、そもそもアイリーンを探しにニューヨークにやってきたのだが、そのままこの骨董店で働くことになりアメリカに残っている。この店の三階に、広くて心地のいい部屋を借り、近くのダイナーに行きつけてはたくさんの仲間を作り、アイリーンよりもずっとここに順応していた。それに、そもそもアイリーンに夢中だったはずの、ここの店長であるクライヴ・マクミランはどういうわけか今ではクレアを崇拝しているらしい。自分以外は、誰も彼も世界とうまく折り合いをつけているようで、アイリーンはほんの少し居たたまれなく思うのだった。

「足が痛くなってしまったの。今日は、わざわざミートパッキング・ディストリクトまで出かけていったのよ。とあるDJと会う予定があったから。それなのに、彼ったら私なんて見たこともなければ話したこともないなんて見え透いた言い方で私を厄介払いしたのよ。ひどいわ」

「ミートパッキング・ディストリクトって、マンハッタンの、クラブがたくさん集中しているところね。まあ、アイリーン。あなたったらまたよく知らない人と恋に落ちてしまったの?」
「よく知っている人と、突然恋に落ちるわけないでしょう」

「そうね。あなたの言う通りだわ。でも、そろそろわかってもいい頃よ、10センチヒールを履かないと実りそうにもない恋に時間をかけるのはやめた方がいいってことに。マンハッタンからの帰りにここによらずには帰れないほどあなたの足を痛めつけちゃダメだと思うの」
クレアは言った。

 アイリーンはため息をついた。
「そうはいっても、3センチヒールは、あなたみたいなコンサバティヴな服装ならいいけれど、私の服には合わないもの。それはともかくお茶を頂戴。あなたとマクミランさんのところには、少なくともまともなティーセットとショートブレッドがあるもの。少しだけお茶の時間をとって、私の悲しくも辛い話に耳を傾けてちょうだい」

 クレアは、仕事中だからダメというつもりで厳しい顔をして見せたが、奥から店長のクライヴが「もちろんいいですよ。ちょうど僕も、クレアと一緒に一息いれたかったところなんです」と声をかけたので「まったく」といいたげに天井を見上げた。

 お茶を飲み終わる頃には、ハイヒールによる足の痛みは少し薄らいでいるに違いない。でも、それは根本的な解決ではないのに。でも、彼女に必要なのは、私のような平穏で波風の少ない人生じゃないんだわ、きっと。静かにボーンチャイナのティーセットを用意しながら、クレアはため息をついた。

(初出:2018年1月 書き下ろし)


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