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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 2 (10)バルセロナ、フィエスタ -1-

さて、前回から数ヶ月の時間が経っていて、第一回目の『La fiesta de los artistas callejeros』当日です。場所はカルロスのお膝元であるバルセロナ。初めてのことなので、事務局長の稔は緊張しています。

大して長くはないんですけれど、一応二つに切りました。キリもよかったので。


「大道芸人たち 第二部」をはじめから読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(10)バルセロナ、フィエスタ -1-


 大道芸人の祭典に参加する大道芸人なのに、なんでこんな格好をしているんだろう。稔は首を傾げた。これはレストランで働くときの一張羅だ。レネや蝶子がいつもの大道芸人モードの服装なのでよけい腹立たしかった。しかし、開会宣言とテープカットをカルロスと一緒にやるためには、多少はったりのいった服装が必要だった。ちくしょう、この後すぐに脱いでやる。

 ふと横を見ると、やはりスーツに身を包んだヴィルが視界に入った。芸術振興会の理事たちのスノビズムを満足させるドイツの男爵様の役目を果たしているのだ。

 目をさらに遠くに飛ばすと、手を振っている園城真耶がいた。大道芸人の祭典に出演するにふさわしいとはいえないが、押し売りの飛び入り参加だ。その真耶の横には日本のテレビ局のクルーがいて、真耶の姿と、舞台の上の稔を録画している。

 蝶子に真耶からの電話が入ったのは一週間前だった。
「ねえ、蝶子。あなた来週スペインにいる?」

「いるわよ。どうして?」
「私、月曜日にマドリッドで演奏会なの、よかったら会いにこない?」
「死ぬほど残念だけど、その週はバルセロナを一歩も動けないのよ」
「どうして?」

「火曜日から、『La fiesta de los artistas callejeros』って大道芸人の祭典が開かれるの」
「まあ、そういう祭典があるの? 知らなかったわ。いつもバルセロナで開催されるの?」
「いいえ、第一回の今回はたまたまよ。メインの協賛者がバルセロナにいるから」

 それを聞いて、真耶の声のトーンが変わった。
「ねえ、その祭典って、誰が中心になって組織しているの?」

「『La fiesta de los artistas callejeros』事務局よ。国際色豊かな集団なの」
「たとえば、ドイツの男爵とか?」

「そうね。でも事務局長は日本人なの」
「三味線を弾く、大道芸人?」
「よく知っているわね」

 真耶の声は激昂した。
「蝶子! どうしてそういう大切な事をいつも私に黙っているのよ」

「別に隠していた訳じゃないわ。でも、真耶の活動とは被らない事だし、それに今回は第一回だから結構小規模なのよ。あらかじめ知らせるほどの事でもないじゃない? 無事に終わったら葉書にでも書こうかと思っていたのよ」
「つべこべ言うのはよして。とにかく、演奏会が終わったら、私も駆けつけるから」

 駆けつけてきたのはいい。飛び入りでヴィオラを弾いてくれるのも悪くない。稔は思った。
「だけど、なんでテレビ局が一緒にくるんだよ」

「だって、密着取材の最中なんですもの。一緒にバルセロナで取材させてくれるなら、マドリッドからの往復も局が持ってくれるんですって。フィエスタの宣伝にもなるし悪くないでしょ?」

 そりゃ、フィエスタのためには願ってもない宣伝だよ。だけど、園城よ、俺とお蝶が日本の家族に居場所がわからないようにしている身だって事、忘れていないか?

 稔は半ばやけっぱちで、テレビカメラの前でフィエスタに対する意氣込みを語った。テレビ局は真耶に紹介されたヴィルと蝶子がドイツの男爵夫妻だという事を知って、大喜びでインタビューをした。

「なんだか、思ってもいない事になっちゃったけれど、ま、いいわね。うちの家族や安田流の方々が真耶の密着取材の番組なんか観る訳ないでしょうし」
蝶子は肩をすくめた。

「日本の大道芸人もそういう番組は観ないかもしれないぞ」
ヴィルが冷静に言ったが、稔は首を振った。
「いや、俺はどっちかというと、協賛金集めに役に立つかなと思ってさ」 

「あら、じゃ、私が帰ったら、局のお偉方に吹き込んでおくわよ。そのうちに日本でやれば?」
真耶はニコニコと笑いながら言った。

 四人は顔を見合わせた。考えた事もなかったが、いつかは『La fiesta de los artistas callejeros』を日本でも開催できるかもしれない。

「じゃ、またあのお餅を食べられるかもしれませんね」
レネの心は既に日本の甘味処に飛んでいた。
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Category : 小説・大道芸人たち 2
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様です。

フィエスタ、始まりましたね。
小規模だとのことですけど、飛び入りのビッグな観客のせいでテレビ局付なんていうおおごとになっちゃいましたね。真耶なら即興演奏とかもOKそうだし、コラボ演奏、あるのかな? ちょっと期待しておきます。
普通なら宣伝になってラッキーというところでしょうけど、稔と蝶子にとってはひやひやもの。これ、なんか話題になって、蝶子や稔の家族が見ちゃいそう。で、一悶着とか、あったりするのかなぁ(わくわく)
最近では日本でもあちこちでフェスが行われていますけど、もし『La fiesta de los artistas callejeros』が実現すれば、蝶子も稔も故郷に錦を飾る凱旋ということには……ならないよなぁ。レネは、あぶり餅にありつければいいんでしょうけど(笑)
2018.09.19 10:32 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

あっという間に当日です(笑)
コラボ演奏はさすがに合わせる時間がなかったでしょうから、今回はないですけれど、いずれは……。

本来だったら、日本のテレビクルーなんて絶対に来なかったでしょうし、日本で『La fiesta de los artistas callejeros』をなんてことも考えもしなかったでしょうが、実際に行っちゃうことになります。
というのは、既に外伝「郷愁 - Su patria que ya no existe」で(笑)
あの時にはさらっと書きましたが、日本側の窓口は真耶と拓人のマネージメントをしているクリエイティヴ・アーツだったりします。
(もちろん私以外誰も憶えているはずはないんですが)

で、番組が波紋を引き起こすことは……あったりして。あはははは。

レネはのんきなものです。
日本各地で甘いものを堪能した思い出に浸っているだけですし。
私も、同じく!

コメントありがとうございました。
2018.09.19 21:07 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
きっとですね、稔のスーツ姿決まってるんだと思うんですよ。
そうでもないのかな?
もちろん男爵夫妻がその地位にふさわしい威厳を漂わせているのは当然なんですが・・・。
そして真耶が参加している時点で躍動の予感。
やっぱりテレビクルーを引き連れての参加なんですね?しかも日本の。
それに超美人の日本人を妻に持つドイツの男爵(しかも夫婦で大道芸をこなす)や、色々と調べると面白い事務局長(しかも彼も日本人)とか、テレビ受けのしそうなネタが満載ですよ。テレビ屋さん張り切ったろうなぁ。
これでもうこのイベントの日本での知名度はかなりUPしますよね。

あのお話、覚えてますよ。
美南ちゃんでしたっけ?
3年になるって書いてありましたから、第3回(4回?)は早くも日本での開催ということになるんですね。
バルセロナの回も楽しみですが、日本での展開も楽しみにしています。
レネには日本のスィーツが約束されているというわけですね。
2018.09.20 12:16 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
おはようございます。

くすくす、どうでしょうね。本人はそろそろ似合うようになってきたと思いたいかも。
ヴィルの方が立派に見えるのはいつものことですが。

真耶は飛び入り参加しました。そして稔はばっちりテレビに映ってしまいました。

テレビクルーにしてみれば、別に大道芸人の日本人二人についてはどうでもいいでしょうが、真耶のドキュメンタリー番組が単調でなくなるので大喜びだったと思います。

Artistas callejerosのことは、だから一般の日本人には全く有名になぞならないと思いますが、関係者は反応示すかもしれません。

あ、外伝覚えていてくださいましたか。日本で開催するフィエスタはまだずっと先ですが、これはちゃんとした記述もあります。

レネはどこでも甘いものばかり食べていますね(笑)

コメントありがとうございました。
2018.09.21 05:42 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
大道芸フェスタですね~~。
私も一度は見てみたいですね。
日本での大道芸の集まりも見たことないですからね。
そういうのを観るのも楽しそうですね。
(∩´∀`)∩
2018.09.21 08:34 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうですね。大道芸人の多い所は何度か見たことがありますが、組織して行うお祭りには、私も行ったことがないです。
でも、けっこうあるみたいですよ。日本にもあるのではないかしら。
人混みが嫌いだと、なかなか行けないですけれど。我が家みたいに(笑)

コメントありがとうございました。

2018.09.22 15:05 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
今回は前回から数ヶ月後なんですね!
前回がこのお話の「陰」の部分だとしたら
今回はまさに「陽」という感じがしました。

さてさて、テレビクルーですか!
宣伝には持ってこいですけどこれがきっかけになって
波紋を呼ばないか心配です。
稔の懸念が本当になっちゃったりして……

密着取材系の番組ってスイスでもあるんですか?
日本では「情熱大陸」あたりがその手の密着ものとしては
メジャーな気がします。
真耶が取材を受けてる番組がどれくらいメジャーかにもよりますが、
稔、やけになってもろに顔出ししちゃって大丈夫かな~?

それにしても、稔とヴィル様のスーツ姿ですよ!
さらっと描写されてますがこれ、これ、絶対絵的にかっこいいですよ!
テレビに映っちゃったりしたら日本にもファンが増えてしまいそうです。
ううん、波紋が広がる材料がたくさん転がってる気がしないでもないですが、
これは、ひやひやしながら続きを待つしかなさそうですね(^^*)
2018.09.23 11:53 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうなんです。実は前回の部分をあえてあそこに入れたのは、この「陽」の部分だけを公開し続けていると、そのうちに来る部分での落差がおかしくなるかなと思ったからなんです。書いている時は「それでもいいか」と思っているわけですけれど、公表し始めると皆さんのコメントの反応が引っかかってくるんですよね。

かといって、暗雲が垂れ込めているだけの話でもないのですよ。それが今回のような感じになるわけで。

さて、テレビのドキュメンタリーの話ですけれど、そうですね、スイスにもドイツにもあります。
ただ、日本のドキュメンタリーと違って、あまり予定調和な感じにはしないことが多いかも。
たとえば、料理店を追ったドキュメンタリーだと、取材先に恥をかかせるようなことは日本だとあまりしないじゃないですか。
こちらの番組は容赦ないですね。それに「そ、それ、スポンサーは怒らないの……」みたいなことも時々。

この小説のテレビクルーは、日本から真耶を追ってきているだけなので、稔がどうなろうと知ったこっちゃないでしょう(笑)

ヴィルは、まあ、あいつは性格はああですけれど、きっと絵的にはかっこいいでしょう。
稔は、ええと、どうでしょうね。
ヤツは五つ紋付きの羽織袴だとビシッと決まるのは間違いないですが、スーツはねえ(笑)
蝶子とレネはラフな格好でヘラヘラしているでしょう。

もともとクラッシック音楽家の密着番組だから、それほどの大評判にはならないと思いますが
よりにも寄って、な人が放送を観ちゃうというのは、この世の常ですよね。
まあ、こういうのがいろいろと関連し合って話が進む予定になっております。

また読んでくださると嬉しいです。
コメントありがとうございました。
2018.09.23 17:18 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ついにフィエスタ当日ですね。
稔、正装が凄く不満そう(笑)こういうところ、まだちょっと子供っぽいのかな^^
でもきっと似合ってますよね。

そうか~、日本のテレビクルー!
これは予想外でした。稔や蝶子の家族が観る確率はどれくらいでしょうね。
いやいや、最近は日本のバラエティはネタに困ってるので、美しい日本人が海外で大道芸をやってるなんておいしい情報にはすぐに食いつきますから。
世界の果てまで日本人を探していく番組がすごく多いんです。
注目されたら逆にヤバいかも。

でも、もしも日本でこのフィエスタが開催されたら、またいろんな展開が想像できて、それも楽しいです^^
レネは日本のスイーツが好きなのですね。いっぱい食べさせてあげたい~。
2018.09.25 07:18 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんばんは。

稔、スーツが似合わない自覚はあるんですよ。
五つ紋つき羽織袴だはビシッと決まる自信はあるんですけれど。

まあ、蝶子の家族は観ないでしょうし、見てもどうということはないんですけれど、問題は稔(笑)
ヤツは、一応失踪中。もっとも一度日本で逢って以来、母親とは連絡取れているので、ライトな失踪中なんですけれど。

> 世界の果てまで日本人を探していく番組がすごく多いんです。

そうなんですか。
今は、いろいろな所で活躍している日本人がいますものね。
今回の取材は、あくまで真耶がメインなんですが、四人はクラッシックぽいものを演奏したりもするので
番組の趣旨にもあまり外れず、真耶が飛び入りで演奏したりもしたので少なくとも数十分はこのフェスタ関係になったでしょうね。

実は、このフェスタを日本で開催するという前提で外伝を書いています。
まだずっと先の本編にフェスタを日本でやるという記述があるので書いた外伝なんですよ。
でも、そのシーンはまだ全部書き終わっていないので、がんばります。

レネは、世界中のどこへ行っても甘いものばかり食べていますが、日本のスイーツには魅了されちゃっていますね。
もちろん私も。食べるぞー!

コメントありがとうございました。
2018.09.25 20:48 | URL | #9yMhI49k [edit]

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