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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 2 (10)バルセロナ、フィエスタ -2-

『La fiesta de los artistas callejeros』の話の後編です。今回、一人新しいキャラクターが追加されています。この人は、今後よく出てくるようになります。準々レギュラーくらいの立ち位置でしょうか。

さて、今回の『La fiesta de los artistas callejeros』で四人が披露した音楽は、第一部の執筆当時に私が聴きまくっていたクロード・ボリング(ボーラン)の『ピクニック組曲』でした。この人の音楽にはよくフルートが使われるのですけれど、アルバムで演奏しているのはジャン=ピエール・ランパル、日本の童謡のアルバムを出す親日家です。もちろんそのアルバムも買ってしまった私です。脳内では、勝手に蝶子やヴィルのヴィジュアルで演奏を聴いてしまうあたりが、またイタいんだな、これが。


「大道芸人たち 第二部」をはじめから読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(10)バルセロナ、フィエスタ -2-


 五日間続くフィエスタは、最高の天氣に恵まれた。会場にはたくさんのテントが張られ、メインステージでは各国からの芸人たちによるショーが次々と繰り広げられている。

 Artistas callejerosはグエル公園の常連たちの歓声のもと『銀の時計仕掛け人形』を披露し、また別の日には彼らのもう一つの顔であるレストランでの演奏をメインにしたショーも披露した。メインステージにはピアノやドラムが用意されて、真耶をはじめとする音楽家たちの演奏も喝采を浴びた。ジャズやマリアッチやブラスバンドの楽団が楽しげにバラエティ豊かな音楽を響かせ、馬乗りの少年たち、火吹き男、コントーションの少女たちに人々は驚愕の叫びをあげた。

 ほかのテントでは、タパスや軽食、セルベッサなどを人々が楽しみ、その周りではステージにすぐに立つ必要のない芸人たちが勝手に芸を披露しては人だかりを作っていた。

 四人がこの半年に出会って声を掛けてきた多くの芸人たちが参加してくれていた。また、たくさんの参加者から「あいつらにきいたんだ」といわれ、大道芸人たちの口コミの力を思い知らされた。

「次はいつやるんだ? ヨーロッパでやるなら、どこへでも行って絶対に参加するからさ」

 稔は、次回が出来る確信を得て嬉しそうに頷いた。
「半年以内には決定する。インターネットのサイトはここだ。ここで告知するから。事務局はミュンヘンで、俺の携帯にかけてくれてもいいけれど、このメールアドレスの方がいいかな」
定住者ではなく、しょっちゅう国境を越えているもの同士で連絡を取り合うのはかなり難しい。

「あの、ちょっと、いいですか?」
おずおずと声を掛けてきたのは、雲をつくような大男だった。蝶子はふりむいてぎょっとした。

「はい、なんでしょう」
「さっき、ボリングを三重奏していましたよね」

 見かけと英語の発音から察するにスカンジナビア人のようだ。背中を丸くして、居心地悪そうな様子で話しかけるので、どんな文句がでるのかと蝶子は身構えた。

「ええ。『ピクニック組曲』から……」
「その、僕は、ダブル・ベースを弾くんです。でも、なかなか合奏する機会がなくって。ボリングはピアノ・トリオのための音楽をたくさん書いているから、もしかしたらダブル・ベースが必要になる事ないかな、って……」

 蝶子は目を丸くした。男は、慌てていった。
「いいんです。言ってみただけですから。こういう祭典に行けば、もしかしたらそういうメンバーを探している人もいるかもしれないなと、思っただけなんです」

 そういって踵を返し、丸い背中をさらに丸めて立ち去ろうとした。
「お、おい、待てよ!」
横にいた稔があわてて声を掛けた。

 蝶子も我に返って笑った。
「まだ、あなた、自分の名前も言っていないわよ」

 びっくりして振り向いた男は、その弾みに自分の右足に左足が絡み付いて、転びそうになった。そして、ばつが悪そうに笑いながら言った。
「すみません。ヘイノ・ビョルクスタムって言います。ノルウェー人です」

「で、普段はどこにいるの?」
「夏はノルウェーで仕事をします。冬になると、南ヨーロッパをまわっているんです。太陽が全然あたらないと、精神的に不安定になるんで」

「へえ。それで、本職は?」
「コントラバス弾きですよ。オケで弾いたり、室内楽に誘ってもらったり、ジャズ・バーで働いたり、いろいろやってます」
「ボリングは弾いた事あるの?」

「ええ。といっても、『室内楽のための組曲』しか、舞台では弾いた事ないんです。でも、それで好きになったんで、個人的に楽譜を取り寄せたりしました。楽譜があれば、すぐに弾けると思いますよ。お氣に召すかは保証できませんけど……」

 稔は笑って言った。じゃあ、今晩、もう一回『ピクニック』やるから、その時に加わってみろよ、いいだろ? テデスコ」

 ヴィルは黙って頷いた。ヘイノの顔はぱっと明るくなった。
「ところで、ドラマーもそうやって寄ってくるともっといいんだけどな」
稔が周りを見回した。今のところ、ドラマーは申し出てこないようだった。
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Category : 小説・大道芸人たち 2
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

いやぁ楽しそうですよね。いかにもお祭りって感じで。
大道芸人どうしのコミュニティというか、ネットワークもできてきて、どんどん広がりを見せていきそうですね。その中心に四人組がいることが、なんか嬉しいなぁ。

で、なんか超内気な新メンバーの登場ですね。
コントラバス奏者ですか。オケの仕事だけじゃ、なかなか食べていけないんでしょうね。でもこんな弱腰で、大道芸人なんてやっていけるのかな? あ、でもレネもそんな感じか(笑)
稔、ドラマーを探しているみたいですけど、変則編成のジャズバンドでもやるつもりなのでしょうか?
新入りメンバーの活躍、楽しみに読ませていただきますね。

≫脳内では、勝手に蝶子やヴィルのヴィジュアルで演奏を聴いてしまうあたりが、またイタいんだな、これが。

え、それって普通じゃないんですか? 私なんて、しょっちゅうやってますよ、そういうこと。でないと描写なんて書けませんって(笑)
2018.09.26 09:31 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

このフィエスタは、みんな純粋に楽しんでいますよね。
チョリソーや、ハモン・イベリコや、チュロスなんかも屋台で出ていて……あ、そっちの話は訊いていない?

単純にいろいろなことから逃れて、自由に放浪しているのも良かったのだけれど、それだけではなくて何かを作り上げているという充実感や、いつまでにこれをやるという計画の存在など、ある程度の目的をもって何かを続けるのって人生のエッセンスになるかなと思うんです。別に仕事や勉強ではなくても、例えばリオのカーニバルや、三社祭りの御神輿担ぎ、オクトーバーフェストなど、何でもいいんですけれど。で、それに向けて盛り上がると。四人もただ楽しく旅をするだけでなく、こういう段階に来たのかもしれませんね。

で、新しいキャラです。
もともと大道芸人としては、弱腰でも内氣でもぼっちでやっている分には問題ないでしょうけれど、仲間に入れてもらおうと思うなら大変ですよね。

レネは、当たりは柔らかいですが、もう少しコミュ力がありますね(笑)
あと、女性には積極的にお仕えするし!

ヘイノは普段はノルウェーで仕事をしていて、季節労働的にArtistas callejerosに関わることになります。ですので、しばらくは出てきませんが、また出てきたら「あいつだ」と思い出してくださいね。

さて、音楽の脳内変換ですけれど、うちにあるCDの大半が「これは拓人の演奏」とか「これは蝶子」とか裏設定のものばかりになりつつあるところがなんとも……。

コメントありがとうございました。
2018.09.26 22:20 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
グエル公園の様子を思い浮かべながら読ませていただいています。
きっとあの自由に出入りできる部分を使って開催されているんでしょうね。
許可なんかも大変そうですが、カルロス様がいらっしゃいますからねぇ。
実際そこにはギター弾きがCDを売っていたりして、サキも購入していますから大道芸自体はOKなのかな?。
購入すすると何曲か弾いてくれて、そういう経験はしたことが無かったので嬉しかったですよ。
こんなシーンがあの公園のあちこちで繰り広げられているのを想像すると、ワクワクしてきます。
実際開催されているのに遭遇したら楽しいだろうなぁ。
あ、でも団体旅行なんで時間が無いから指をくわえて通り過ぎなきゃならないんでしょうけれど。残念!!!

さて、新しい登場人物、ヘイノですか?
楽器、ダブル・ベース(コントラバスの事?)や風貌等、他の4人と被る部分も無さそうだし、登場の機会は結構ありそう。
2018.09.27 11:27 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

ええっ。また大型台風ですか。今年は本当に大変ですね。
皆様がご無事でありますように。

さて、『La fiesta de los artistas callejeros』の会場ですが、どことは決めませんでしたがグエル公園内ではないです。
もともと人での多い所ですし、多分貸し出してはくれないように思うので。
今回の最初の文にあるのは「グエル公園での大道芸で常連として見ていてくれた人たちがやってきた」という意味です。

団体旅行は効率よくたくさんの所を見られる利点はありますが、途中でものすごく面白そうなイベントにバッタリ巡りあっても止まれないんですよね。うむうむ。


そして、ヘイノです。
コントラバスとダブル・ベースは同じ楽器なんですが、クラッシック音楽で使う時はコントラバス、ジャズなどの時には英語でダブル・ベースということが多いです。四人が弾いたボリングは、どちらかというとジャズ・トリオなどの曲が多いので、そういう表現になっています。
サブキャラ的扱いですが、また出てきたら思い出してくださいね。

コメントありがとうございました。

2018.09.27 20:10 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ふうむ・・・大道芸は難しいですよねえ。。。
それだけで生計をたてるのは無理に近いですし。
趣味でやるにしても。、遠方までいくのでかなりキツイ。。。
「人を喜ばせる」というのはあるものの。
それだけで生きていくのは覚悟がいりますねえ。。。
( 一一)
2018.09.29 06:05 | URL | #- [edit]
says...
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.30 13:12 | | # [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

そうですね。
大道芸だけで生計を立てられる人というのは本当に限られていると思います。
大抵は『●●の足しに』程度の収入かと。

この話の主人公たちは、少し特殊例ですけれど、普通は自由が好きというだけではなかなか生きられませんよね。
それに所有物を捨てるというのもなかなか難しいようです。

コメントありがとうございました。
2018.09.30 19:46 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

稔にしろ蝶子にしろ「ま、いっか」と思っていられるのは、犯罪の下手人として逃げているからではないし、「見つかったらそれでいいか」と軽く考えているからですね。とくに稔は日本で母親と再会した後、一度連絡をとって弦を送ってもらったりしていますし。

『La fiesta de los artistas callejeros』は、最初なのでコンパクトにやったのですが、それでも自分たちだけだったりしたら悲しいじゃないですか。そうじゃなかったことにほっとしているというか、これなら次回も出来るなって、安堵した感じですね。
ちょうど、私が最初の「scriviamo!」を開催した時、誰からも反応なかったらどうしようとドキドキしていたのが、たくさんの方に遊んでいただけたとの同じ感じでしょうか。

新キャラは北欧から来た人なんですけれど、北欧に限らず北ヨーロッパは例えば東京や大阪などと比べると緯度が高いので夏と冬の日照時間の差がはっきりしているのです。で、北欧辺りになると冬は常に真っ暗という感じになるのでやはり落ち込みがちになります。

それに寒くて動きたくない、眠くなるので動かなくなるといった行動が冬季のうつ病の引き金になることは多いようです。あと、メラトニンの分泌が少なくなるのは日照時間が少ないかららしいです。冬季うつ病の治療には、日焼けサロンみたいなところで照射するらしいですよ。

ヘイノとレネがキャラ的に似ているというご指摘がありますけれど、実は、この二人コミュ力に大きな差があります。
それにレネの方が惚れっぽいし、その分振られても傷が浅いです。
真面目なので、コントラバスはそれなりに上手だと思いますよ。

マイキャラソング集は、まとめて公表できるくらいあれこれありますが、出せば出すほど「こいつ、イタすぎ」と皆さんが遠巻きにしそうです。でも、時々我慢できなくなって公表しちゃうんですけれど(笑)


コメントありがとうございました。
2018.09.30 20:08 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
すっかりコメントが遅れてしまいました。帰国してから、公私両方のスケジュールをこなすのが精一杯で(;_;) 遊びほうけていてはいけない、ということですね(;_;)(;_;)
こちらはアメリカで拝読していたのですが、なんだか大道芸人たちの成長というのか、表舞台にできたというのか、そういうのが感じられて、新しい展開を楽しませていただきました。あ、でも、そもそも大道芸って「表」でするものですよね。むしろコンサートホールの方が裏かも。たくさんの人の目に触れて、日常の中に音楽がある、そういう景色を広げていこうという彼らの活動にどんな未来が待っているのか、楽しみです。
新しいメンバーも加わりましたね。あ、でも、季節労働者なのか。でもそんなファジーなところもこの世界ならありですね。やっぱり北の方は寒いし、冬は仕事が激減するし(というのか、どうすることもできない)、出稼ぎに行かなくちゃね。
三味線の大会でも、個人戦の上の方の参加者たちは、大会で知り合って、いつの間にかユニットになって活動していたりします。出会いの場、ですね。

そして、脳内変換^^; 分かるわ~。私も今回、少しお年を召したロシア出身のピアニストの演奏を聴きにいいって、70歳になっても慎一も弾いてるだろうな~。こんな感じの『熱情』になるのか~。やっぱ、若者とは違うよな~、若者の演奏はそれはそれでいいんだけれど、時々お腹いっぱいになるからなぁ~、これだよ、これ。なんて、勝手に脳内で遊んでいました。
映画を見ているときも、たまに、ここ、相川探偵ならどうする?的お遊びをしています。私たち、多かれ少なかれイタい人種なのですね^^;
2018.10.10 00:41 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは。
時差ぼけ、大丈夫ですか! あっち方面行くのは、きついんですよね。
私は、日本に行く時があっち方面なので、毎回、戦々恐々です。
歳と共につらくなっていくということなので、ますます日本に行くのが憂鬱になるこの頃。

そして、そうなんですよ、この人たち、イレギュラーに室内での仕事などもやっているんですけれど、そもそもの結成は大道芸人です。
彼らは、自由の象徴として「大道芸人として稼ぐ」ことに結構こだわっているんですけれど、それ以外の収入の方が体は楽だし安定しているし、どうしてもそっちに重心が寄りがちになります。んなもので、矜恃をかけて、こんな祭典の運営を始めたのかも。

新しいメンバーは、いつも行動を一緒にするのではなくて、冬の室内で稼ぐタイプの仕事に参加するようになります。
四人との親しさも、だから半分くらいかな。三味線の人たちもそうかもしれませんけれど、クラッシックでも、芸能界の歌手たちも、ユニットAとユニットBとそれぞれに参加して活躍するみたいな感じもありますよね?

大道芸の方は、きっともっと自由なんだろうと思います。

さて、脳内変換で、自キャラを全年代にするとか、やりますよねー。
それに、いろいろとキャラがいると、遊ぶ機会も多くて。中世だとマックスたちで遊ぶし、平安だと次郎たちがしゃしゃり出で来るし、外人キャラも多いので世界各国で遊ぶ所が……。
ええぃ、誰にも迷惑をかけていないし、イタくてもいいですよね(笑)

コメントありがとうございました。
2018.10.10 19:47 | URL | #9yMhI49k [edit]

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