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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】大道芸人たち 2 (13)コンスタンツ、夏の湖

話はArtistas callejerosの四人に戻ってきています。

今回再登場したキャラクター、お忘れかもしれませんが、カルロスの前妻です。年齢不詳の絶世の美女。私の設定では35歳くらい。カルロスはなんだかんだといって手強い美人に弱いのです。


「大道芸人たち 第二部」をはじめから読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




大道芸人たち Artistas callejeros 第二部
(13)コンスタンツ、夏の湖


 セビリアからコンスタンツに動くとは、無駄な移動のし過ぎだとは四人とも思った。それでも車を走らせたのは、夏のアンダルシアの暑さを軽視していた事を認めざるを得なかったからだ。セビリアですごした最後の一週間は、外で稼ぐのは事実上不可能だった。電話で熱さを訴えたらカルロスは笑った。

「そこは La sartén de Andalucía アンダルシアのフライパン の近くですしね」
つまりスペインで最も暑い場所にいるのだ。

「こんなに暑い所をのろのろ移動しながらちびちび稼いだら、ガソリン代もなくなっちゃうわ」
蝶子が文句を言うとレネがワインの瓶を振りながら応じた。
「車だけじゃなくて僕たちのガソリン代も」

 南フランスやイタリアに行くのも暑さを避けるには中途半端だった。それに月末には再びミュンヘンに行かなくてはならない。それならばドイツに行ってしまおうと話がついた。

 スイスとの国境となっているボーデン湖に面したコンスタンツは中世の面影を残す明るい都市だ。

 湖にほど近い旧市街にはコンスタンツ公会議やヤン・フスの裁判が行われた頃と変わらぬ建物が残っているが、道往く人々はタンクトップ姿でアイスクリームに舌鼓を打っていて、当時の厳しさはまったく感じられない。

 四人は街をまわって、立地を確かめた後、大聖堂の前で稼ぐ事にした。夏のヨーロッパは東京などに較べればずっと過ごしやすい。けれど、その過ごしやすさに油断すると、強烈な日差しのダメージを受けてしまう。四人は適度な日陰を必要とした。もちろん観光客が足を止めてコインを置く氣になるほど立っていてくれなくてはならないので、自分たちだけが日陰になるわけにもいかない。しかし、観光客は陽光溢れるテラスなどを好むので、じめじめした裏道などには立てないのだ。

 大聖堂の前には、その難しい条件をクリアする素晴らしい空間があった。こういう立地を見つけられた時には、いい仕事ができることを四人は経験で知っていた。


「あら。どこかで見たような四人組じゃない」
スペインなまりの英語が聞こえてそちらをみた稔はぎょっとした。

 コブラ女登場! なんでこんなところに。

 それは、カルロスの前妻エスメラルダだった。三年近く見ていなかったが、相変わらず年齢不詳で、異様なほどに美しかった。人間の女というよりは、精巧な人形みたいだ。

 日本人ならまず試さないような大きな水玉のついた紺地のリボンをたっぷり使った白い麻のスーツ姿で、つば広の帽子を小粋に被り、八センチのヒールで優雅に闊歩している。以前と変わらずに若い男と連れ立っているのだが、この男というのがアルマーニのスーツに着られてしまっている、金はあっても脳みそはカケラもなさそうなボンボンだ。

 蝶子は完全に臨戦態勢に入り、満面の笑顔を見せて言った。
「まあ、なんて嬉しい偶然かしら。またあなたに会えるなんて夢にも思わなかったわ」

 エスメラルダは前回受けた屈辱などどこかに置き忘れたかのように傲慢に応戦した。
「すてきなヴァカンスを楽しんでいるみたいじゃない」
「おかげさまで」

 稔は亀のように首をすくめた。くわばらくわばら。空氣が歪んでいるぜ。

 それから、ちらっとレネの方を見た。レネは以前のときとは違って、平静に二人の女の静かな戦いをみつめていた。ってことは、本当にもう大丈夫なんだな。稔は多少意外な氣がした。

 エスメラルダはいつまでも蝶子に関わっているつもりはなかった。ヴィルの方を見ると、これまでとはうってかわった華やかで好意に満ちた笑顔を向けた。
「お久しぶりね。あなたには、逢いたかったわ」

 ヴィルは返事もしなければ表情も崩さなかった。エスメラルダは勝手に続けた。
「噂を聞いたのよ。大道芸人っぽくないと思っていたけれど、貴族なんですって? やっぱり、違いがでるのねぇ」

 稔は笑いをこらえながら言った。
「おい、そういう噂は届くけど、そのお貴族様が結婚したのは知らないのかよ」

 エスメラルダはつんとして答えた。
「知っているわよ。でも、そろそろレベルの低い女に飽きる頃じゃない?」
「あなたは、それで、カルちゃんに飽きられちゃった訳?」

 蝶子が馬鹿にしたように言うと、エスメラルダは大して怒りもせずに答えた。
「なんとでも言いなさいよ。そのうちにカルロスにも、その人にも追い出されるのはあなたの方なんだから」

 それから再びヴィルの方に満面の笑顔を向けると言った。
「じゃあ、また近いうちに逢いましょう。私はインゼルホテルに泊まっているの。よかったら連絡してね」

 インゼルホテルの宿泊料を払っているだろうに完全に蚊帳の外に置かれた男の腕をとると、女は颯爽と立ち去った。
「すげえな、あの現金ぶり。あんな女、本当にいるんだな」
稔は心から感心して言った。ヴィルは頭を振った。

「悪い氣はしなかったんじゃないの? 好みのタイプなんでしょ?」
蝶子はヴィルにケンカを売ったがヴィルは全く取り合わなかった。稔とレネはゲラゲラと笑った。

「お前、本当に大丈夫になったんだな。言葉を信用していなかった訳じゃないけどさ、ちょっと驚いた」
稔がそういうと、レネは頷いた。
「僕も、本当にこんなに大丈夫だとは思いませんでしたよ」

なぜあの女にあんなに惹かれたのか、レネは自分でもさっぱりわからないと思った。そして、ひとつの決意を持って、目についた宝飾店に入っていった。
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Category : 小説・大道芸人たち 2
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
なんだろうね。。。
恋には熱があるものさ!!
(=゚ω゚)ノ

ってことですね。
熱さ忘れると憎しみや妬みに変換されてしまうものですかねぇ。。。
円満に別れることは難しいものですねえ。。。
2018.11.21 10:15 | URL | #- [edit]
says...
更新、お疲れさまでした。

セビリアはアンダルシアのフライパンですか。そりゃ、暑そうだ。
なんか、容赦のない陽光を感じますね。

ボーデン湖がリゾート地だというのは、あのあたりの地理を調べていて知ったのですが、山の湖って感じのコモ湖とはちがって、解放感のある湖という感じですよね。

で、フライパンの中から、南ドイツのリゾートに逃げ込んだ一行ですけど、えらい人物が待ち受けていましたね。
コブラ女って、稔は面倒な女性は爬虫類化一択ですね(笑)
エスメラルダ、意味深なことを言っています(たんなる負け惜しみ?)が、なんだかひと悶着ありそうな気配が。レネはもう大丈夫みたいですけど、今度の犠牲者は、だれなんだろう?
え、そんな話じゃない?

次話も、楽しみです。
2018.11.21 14:11 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうですねぇ。まあ、この二人に関して言えば「熱かった」ことは一度もないのですけれど。

いずれにしても、頭がよくても、相手のことがよくわかっていても、コンピュータのように冷静に振る舞うことはなかなか難しいのかもしれませんね。

コメントありがとうございました。
2018.11.21 15:22 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

そうなんですよ。「アンダルシアのフライパン」っていい方、その暑さが即伝わる表現ですよね。
異様に暑いんだそうです。

さて、ボーデン湖はコモ湖よりもかなり大きい上、三カ国にまたがって広がっています。またアルプス山脈までの距離も遠いのでずっと開放的な感じがしますね。

>
> ボーデン湖がリゾート地だというのは、あのあたりの地理を調べていて知ったのですが、山の湖って感じのコモ湖とはちがって、解放感のある湖という感じですよね。

さて、エスメラルダ登場です。稔はこの手の女が苦手なので、は虫類でも最大級にひどい名前つけていますね。
一悶着ですか? ははははは、そんなわけないでしょう……。あ、言っても無駄か。

新しい犠牲者……そんな話です(笑)

コメントありがとうございました。
2018.11.21 15:43 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
日本滞在、おつかれさまでした^^
いろいろ後片付けとか大変だと思いますが
休めるときにお身体休めてくださいね。

「アンダルシアのフライパン」って例えいいですね。
ヨーロッパの夏って日本に比べると湿気は少なさそうですが
また東京などとは違った暑さなのでしょうね
大道芸ともなると室内音楽と違って気象条件も
売り上げに影響するのですね。それだけに場所選びは神経を使うところなのですね。

さてさてトカゲ女の次はコブラ女ですか笑
そうですね、今になって思うとなぜレネは
夢中になってたのか?
って思いますよね。

なんだかピリピリした空気です。
ヴィル様にちゃっかり唾?
をつけてる感じがヴィルファンとしてはぐぬぬぬ……
って感じもしましたが笑
でも、ここまで貫き通していると却って清々しい感じも
しますよね。

って新たな犠牲者?
気になるなぁ……
宿泊先を告げて去っていってるのでまたどこかで
合流しちゃうのでしょうか?
2018.11.25 12:18 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

滞在中は、色々とありがとうございました!
昨日、無事に帰国し、先ほど23キロある荷物を二つ(つまり46キロ分)を開けて、あれこれしまい、というのを終えた所です。
お菓子が異様にたくさんあることに苦笑い。
そして、明日から仕事なんですけれど、ああ、行きたくない。なんて言っても無駄ですよね。

さて、連載の続きです。
スペインの夏は、スイスの夏と違ってかなり容赦のない暑さです。
アンダルシアのフライパンは、50℃近くなったりなんてこともあるらしいです。
でも、日本の不快さとはちょつと違うかもしれませんね。

大道芸は、外で長時間やるものなので、例えば真夏の日本だったりするとかなり厳しいかもしれませんね。
ヨーロッパでも、やはり少し過ごしやすい所の方がいいかも。

そして、エスメラルダの再登場です。
蝶子との爬虫類同士の戦いは、前回の通りですが、二人とも少し楽しんでいるかもしれません。
ヴィルに限らず、利用価値のありそうな男には、どんどん近づくのがこの手の女性のお約束でして、この女は紛れもない「高級寄生虫」なんですね。

またどっかで合流……はははは。ここで出てきているんだから、まあ、二度と出てこないなんてことはないかなー。
どこで再会するか、楽しみにしていてくださいね。

コメントありがとうございました。
2018.11.25 21:44 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
アンダルシアはそんなに熱いんですね。フライパンでジリジリやられたらそりゃ~たまったもんじゃないですよ。
サキ達が訪れたのは秋だったので爽やかな印象しかないんですけれど・・・。
で、爽やかとは言い難いコブラ女登場ですか。トカゲ女とコブラ女とのせめぎあい。読んでいて怖い怖い。
空気が歪んでいるという稔の発現が本当にピッタリですね。
4人にとってそれぞれにいい印象は無いようですが、エスメラルダ、登場したからにはこの後色々と4人にかかわってくるんだろうなぁ。
ちょっぴり(かなり?)不安な気持ちです。

さて、今回は大丈夫だったレネですが(環境が変化していますものね)、ひとつの決意を持って?宝飾店?さてどんな決意を持って宝飾店に向かったのでしょうね。
2018.11.26 12:17 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

アンダルシアそのものも、ヨーロッパの中では夏に暑いんですけれど、特にセビリアの近くのとある場所が「アンダルシアのフライパン」として有名だそうです。

蝶子とエスメラルダ、会う度に戦っていますが、実はこういう方が問題は少ないのかもしれません。
二人とも、どれだけひどい扱いをしても相手はへこたれないことがわかっていますからね。

この後、エスメラルダはこの話にしっかりと食い込んでくる予定です。

でも、まあ、レネはもう問題ないでしょうね。
っていうか、四人の中の他の誰かがヤバい、というような話でもないんですが。

コメントありがとうございました。
2018.11.26 23:08 | URL | #9yMhI49k [edit]

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