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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】殻の名残

scriviamo!


「scriviamo! 2019」の第十弾です。limeさんは、素敵な掌編小説で参加してくださいました。ありがとうございます!

 limeさんの書いてくださった『やさしいゲイル』

limeさんは、繊細で哀しくも美しい描写の作品を書かれるブロガーさんです。小説において大賞での常連受賞者であるだけでなく、イラストもとても上手で羨ましい限りです。

これまでの「scriviamo!」には、イラストでご参加くださったのですが、今年は掌編小説でのご参加です。読んでうるっときてしまった、この優しくて悲しいお話は、こんなお約束のもとで書かれたそうです。

この掌編は、以前、
*誰かの誕生日
*必ず、常識的に「汚い」と思えるものを「美しく」描いた表現を入れる
*文字数は2000字以内。
という縛りを仲間内で作って、創作し合った作品です。


limeさんのお話に、余計な茶々を入れるのも嫌だったので、お返しは単純に、私もこの縛りにしたがって何かを書くことに決めました。

またしても、同じ世界観が出てきたのは、私がこだわっているからではなく、私の周りに自然科学に詳しい子供と園芸が趣味の母親というバターンが他にいなかったというだけです。



【参考】
郷愁の丘「郷愁の丘」を読む

「ニューヨークの異邦人たち」
「ニューヨークの異邦人たち」


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殻の名残
——Special thanks to lime-san


 少年は庭の一角でしゃがみ込んでいた。雨上がりの午後、優しい光に照らされて、母親が情熱を傾ける庭は、生き生きと美しく輝いていた。薔薇と芍薬は、互いに競いながら庭の女王の座を得るべく開き始めた蕾を戴き枝を伸ばしていた。

 菊のようなアストランティアや、黄色く控えめなハゴモグサは行儀よく並び、ネギの仲間であるアリウムも紫の丸い花を咲かせていた。アイリスの花にも丸い雨の雫が揺れている。彼は、ゆっくりと庭園を歩きながら、ひんやりとした清らかな空氣を吸い込んだ。

 家の奥からは、ティーンエイジャーたち特有の抑えの効かない笑い声が響いている。パーティはたけなわのようだった。再婚相手の娘であるナンシーの誕生会が行われることを母親は教えてくれなかった。パーティがあると知っていたら、理由をつけて一日遅く来たのに。彼は、誰からも話しかけられないでいる居心地の悪さを紛らわすために、一人庭に出た。

 彼は、中等教育を終えて、まもなく大学進学資格を得るAレベル試験の準備のためシックス・フォームの寄宿学校に入る。それまでいた寮にずっといることは出来ず、新しい寮にはまだは入れない。それで、この二週間をバースにある母親の再婚相手の家で過ごすことになった。

 十歳になるまで過ごしたケニアにわずかでも帰りたいと思ったが、その旅費を出して欲しいと父親に頼むことができなかった。寄宿学校の費用も決して安くはない。それを父親が出してくれなければ、彼はこの家に居候するしかない。到着して一日でもう疎外感を感じるこの家に。彼は、何かを期待するのはやめようと決心し、黙って応接間から歩み去った。

 庭の片隅、イチゴが赤くなり始めている一角も、雨の後にしっとりと濡れて瑞々しく輝いていた。彼は、ゆっくりと蠢く珍客を見つけて、観察をするためにしゃがみ込んだ。

 Limax maximus。レオパード・スラッグだ。オーガンジーのような半透明の柔らかい体に、豹のような文様が整然と並んでいる。三インチほどの長さで、緩やかに進んでいた。彼によって出来た影を感じるのか、ゆっくりと身を反らした。

 サバンナの俊敏な狩人である豹とは、似ても似つかぬ動きで、むしろ彼はその角の形状からユーモラスなキリンの姿を思い出して微笑んだ。

「ヘンリー!」
後ろからの声に驚いて彼は立ち上がった。
「母さん」

「あなたここで何をしているの? 皆さん、もうテーブルについているのよ」
彼は、困ったように下を向いた。
「僕が、いなくてもいいんじゃないかと思って。その、招待されたわけではないし」

「何を言っているの。いるのが分かつているのに、一人だけ別の食事をさせるわけにいかないでしょう。早く来なさい。いったいそこで何を見ているのよ」

 近づいてきた母親は、ようやく彼が観察していたものが見えたらしかった。
「まあ! ナメクジじゃない! さっさと殺して!」
 
 彼は、ショックを受けて一瞬ひるんだが、あえて口を開いた。
「庭の片隅で懸命に生きている生命だよ。殺すなんて」

「当たり前でしょう。汚い害虫だもの」
「虫じゃないし、汚い生き物なんてないよ。軟体動物門腹足綱は、陸に生息する巻き貝の一種だよ。サザエやアワビの遠い親戚だし、遠く辿れば真珠を作るアコヤガイや聖ヤコブの象徴ホタテガイとだって同じ祖先をもっているんだ」

「何をバカなことを言っているの。ナメクジは庭を荒らすし、危険な病氣を媒介するのは常識です。もう、役に立たない子ね。くだらない屁理屈ばかり言って実用的でないのは、あなたのお父さんそっくりだわ」

 母親は、近くの園芸小屋から塩の箱を持ってくると、あっという間にマダラコウラナメクジの上に撒いた。体を反らして苦しむ生き物から、彼は眼をそらした。

 母親は、その場に心を残している息子の手首を強引に引いて、彼女の自慢の家へと戻っていった。
「すぐに手を洗うのよ! 早くしなさい」

 塩をかけられたマダラコウラナメクジからは、どんどんと水分がしみ出した。艶やかだった豹斑を持つゼリー状の肌は溶けるように消えていった。そして、人のいなくなった美しい庭を午後の日差しがすっかり乾かす頃には、白い塩の山も水分と共に土に混ざりわからなくなった。

 マダラコウラナメクジのいた場所には、小さな白い楕円形のものが光っていた。真珠のように七色の光を反射するそれは、かの生き物が体の中に隠し持っていた、遠い先祖が巻き貝だった頃の殻の名残だった。

 女主人が長い時間をかけて作り上げた庭園には、醜いものや不都合なものなど何もなかった。彼女が丹精込めて育てた花や整然と美しく並ぶ樹木が、その完全な幸福を象徴するように、穏やかな風の中にそよいでいた。

(初出:2019年2月 書き下ろし)

追記

1959字。ギリギリでした……。

Limax maximus shell
参考: Limax maximus shell レオパード・スラッグの体内に埋もれている殻 
出典 wikimedia.org
関連記事 (Category: scriviamo! 2019)
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Category : scriviamo! 2019
Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
執筆、お疲れ様でした。

limeさんはハエで、こちらはナメクジでしたか。
どちらもしっかりと観察したことはないんですけど、書きようによって綺麗に表現できるもんですね。
で、気になったのでちょっとググってみましたが……で、でかい。こんなのに遭遇したら、ふつうに怖いんですけど(爆)

ナメクジもですけど、雨上がりの庭の描写も、なんだかキラキラしていて素敵です。
グレッグさんは、まあ、まだあのお話の前で、地味ですけどね。

母の仕打ちを残酷に思わせる書きっぷりはさすがですが、普通は彼女の反応になりますよね。あ、あくまでもナメクジに対して、ですよ(笑)
2019.02.12 10:22 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
人間にとって常識的に汚いものを美しくって、けっこう深いお題ですよね。
limeさんのお話とは視点が違っているので、童話感が消えて生々しいです。
この作品に登場するレオパード・スラッグを美しいと感じる人間はそう多くは無いのでしょうが、グレッグは当然その1人だったのですね。
こういう生物ってパーツごとはとても機能的だったり、デザインされたように美しかったりするのですが、全体的に見たり、動いていたりすると、人間の常識からは外れていて、醜く感じたり、時には悪寒を覚えたりしてしまうんですよね。
サキはなるべく人間の常識を外れた視点からそれらを観察するようにして、できれば可愛さや美しさを発見しようとするのですが、それでも無理な種族は存在してしまいます。
limeさんのお話と同じように、このお話のデンディングもけっこうショックだったのですが、冷静に考えるとやむを得ないことなのかもしれません。
キャベツに付いた青虫は退治されてしまいますもの・・・。
見つけたのが女の子たちだったらキャーキャーともっと大変なことになったのかも・・・。
これも運命といえばそうなのでしょうが、グレッグにとってもレオパード・スラッグにとっても運が悪かったということになるのでしょうか。
彼(彼女?それとも両方?)の残した貝殻の余韻が見事でした。
よくこんなアイデアが出てくるなぁ。
タイトルも素敵です(イシグロさんみたいだけど・・・)。
2019.02.12 12:15 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

お題じゃなかったら、生涯ナメクジをこんなふうに形容することはないかと(笑)
レオパード・スラッグの姿の写真を貼り付けるのは自主規制しましたよ。
でも、これ、うちの近くに普通にいます。
斑があるのはちょっと珍しいので、連れ合いは殺しませんが、普通のナメクジ(やはりデカい)は川に投げちゃっています。
私は、触れません……orz

このやたら綺麗な庭、春から連載予定の「霧の彼方から」の伏線というか、同じモチーフを使って書いています。
庭や家は素晴らしく整えているのに、親子関係はなんだか上手く整わないんですよね。
母親のものの考え方は、TOM−Fさんもご指摘くださったように、かなり「普通はそうだよね」な部分を含んでいるんですよ。
グレッグは両親からいわゆる虐待を受けていたわけではないのです。
なのにどうしてかうまくいかない。その辺を感じ取れるような方向に持っていきたいと思っていました。

ナメクジやヨトウムシは、そりゃ庭仕事をする人は、即抹殺ですよ。
でも、こうやって書くと、いかにも母親が残酷みたいに見えますよね。うむ。

コメントありがとうございました。
2019.02.12 21:34 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよ。これ、いろいろと考えさせられるお題です。
それに、今回はこうやって書いていますけれど、私もナメクジを美しいと思ったことは……ないかな。まあ、某昆虫Gほどは毛嫌いしていませんが。

limeさんのお話との一番の違いは(もちろん技量は別としてですけれど)、私の方には「優しさ」が全然含まれていないことでしょうか。
私の連れ合いはレオパード・スラッグや蛾のことを「きれい」と表現することがあります。私の中には最初に「不潔」という印象があったので、最初は驚いたんですけれど、その「おや」が、この作品の出発点になっているかもしれませんね。

グレッグは「美しい」とは思っていないかもしれませんが、「不潔」「害虫」というような色眼鏡はかけずに、動物学者的なものの見方を既に始めています。まだ16歳なんですけれどね。

で、母親の行動も、別に格別ひどい女性というわけでなく、庭を持っている人ならほぼ全員こうするはずです。ナメクジは野菜の大敵ですし、寄生虫を媒介するので、本当に氣を付けなくてはいけない存在でもあるからです。

でも、グレッグは、一瞬の心の慰めだった存在を急に殺されてしまったので、悲しかったでしょうね。

最後に殻のなれの果てを出したのは、グレッグの主張や、汚いはずのナメクジに美しい貝に似通う何かがあることを端的に証明するためですけれど、それを誰も見ないんですね。これ意図的に「もやっとした読後感」を作れたらいいなと思って書きました。

コメントありがとうございました。
2019.02.12 21:47 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
タイトルの殻の名残りが作中に出て来た時、ぞわ~っと鳥肌が立ちました。
なんていうのかな、文中には描かれていない、その虫の尊厳というか、歴史のようなものが具現化されたようで。
まったく、このグレッグの継母の言う事はもっともだし(嫌いなタイプだけど)、ナメクジを駆除したくなるのを咎める事は出来ないんだけれど、そんな人間の身勝手を、殻の名残りが表してるようで。

あのお題に夕さんもトライしてくださるとは思っても居なかったので、こんなお返しもあるんだなあと、にんまり。
すごくリアルなお話だったけど、グレッグの物言わぬ抗議のような視線がすごく印象に残って、好きです。

そうなんだよな~。私の物語は、語りすぎるんだよな~と、反省もしました。
語らずに、この殻の名残りで、いろいろ感じさせる夕さんの手法に、改めていろいろ考えさせられました。(語らずに終える。これ、課題だな)

このレオパード・スラッグ、一度見てみたいな。
こんな殻を持つなんて、本当に神秘的。
ぜったい、何か主張してますよね。自分もちゃんと歴史を持ってるんだぞって。
知ることができて、うれしいです。

いや~、もう、今年も本当に、参りました!と言わざるを得ません。

こんな短い時間に、こんな素敵な物語を書いてくださった夕さん。
本当にありがとうございました!
2019.02.15 01:07 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
うう…悲しい…
害虫でも好かれてる虫はいるから
湿った感じなのが気持ち悪がられる原因なんでしょうか
ナメクジが好きでも構わない気もするけど
周りになじめなくなりそうな気もするし…
2019.02.15 13:57 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。

わー、なんかこんなのですみません! と思いながら書いていました。
二千字って本当に難しいですね。しかも、お題が難しい。
どうしてもlimeさんの作品に引きずられてしまうし……。

何か一般的に汚いと思われているものを探して、結局ナメクジを選んだのですけれど、その理由として自分が本当に心底から苦手なものはどうやっても美しく書けないというのがありました。例えば頭文字Gは、無理でした。ナメクジに関しては、殻があるカタツムリはわりと大丈夫なのにどうしてあそこまで嫌われるんだと思って調べて、コウラナメクジに行き当たったというわけです。それに私は触れないんですけれど、連れ合いはけっこう平っちゃらで、このマダラコウラナメクジに関しては「これは保護されているんだぜ、綺麗だろ」みたいな、私には「は?」という発言をしたこともあり、脳内に残っていのたです。(いるんですよ、これ、身近に! デカいです)

さて、第一稿では少年グレッグがウンチクをたれるところはなかったんです。でも、どこかにナメクジが巻き貝から進化した生き物で、貝の美しさと共通のものを保っているという前提条件を書かなくちゃ、後で殻の名残が出てきても読者には意味がわからないなと思いかえしました。それで、あの説明台詞を書き足しました。やはり、何をどのくらい書いて、何を控えるかっていうのはとても難しい問題だなと思いました。台詞ではなく平文で書くと、なんだかいかにも説明みたいになるので台詞を選びましたが、グレッグ、ちょっとTP0をわきまえないでわけのわからないことをいっている感が……。

コウラナメクジはカタツムリなどの殻が退化する段階で殻が残っているタイプらしいです。体外によく見るとわかるタイプもいるし、このマダラコウラナメクジのように完全に体内に埋もれているモノもいるようです。ちょっと神秘的ですよね。しかも、追記につけた写真(ナメクジそのものは苦手な方もいらっしゃるので自粛しました・笑)を見る限り、「ええ、こんな綺麗なモノが埋まっているんだ!」って感動しますよ。

この掌編では、グレッグの疎外感とマダラコウラナメクジからみた理不尽をシンクロさせた形で書いているので「この母親ひどい」感が増していますが、ネットで調べる限り、まあ、食事前にナメクジと戯れるのは真面目に危険で、母親の指導は正しいし(言い方がなんですが)、さらにいうとイチゴはナメクジがいると全滅しますしねぇ。

なんだか、多少自己満足の掌編になってしまいましたが、この作品、実は春からの連載のエピローグ的な位置づけになっています。

コメントと、素晴らしい作品でのご参加、ありがとうございました。
2019.02.16 12:24 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

やはりあの「ねとっ」とした感じが嫌がられるのでしょうね。
殻があるとないとで、カタツムリとの待遇の違いも、アレですね。

まあ、ナメクジと戯れているところを見られると、それはそれであまり好ましくない扱いを受けるかもしれませんね。
それまたどうかと思うんですが、世の常というか……。

コメントありがとうございました。
2019.02.16 12:28 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
limeさんとはまた切り口が違いますが、お二人とも
常識的に「汚い」と思えるものを美しく描写されるのが
本当にお上手でいらっしゃる。
夕さんの場合、グレッグ少年をそのフィルター役として
登場させたのがうまいなあ、と思いました。
グレッグの学者的視点はこのころから健在で
そのことがお母さんとはまた違った視点を生み出しているのですね。
確かに、お母さんは虐待をしてるとかじゃないんだけれど、
こういった微妙なすれ違いがグレッグをあんな性格に
してしまったのだなぁ、とその「微妙さ」というのも
よく伝わってくるようでした。
最後の描写を見て、「汚い」ってなんなんだろう、って
改めて考えさせられました。
美しい庭の維持にとってはもちろん、ナメクジは害虫以外の
何者でもないんですけど、それすらも「庭」という人間が
作り出した模式美に対しての不都合な存在ということですものね。
ナメクジの汚さも害虫さ加減も、「人間」というフィルターを
通すからこそ生まれてしまうのなのかもしれないですね……
2019.02.18 00:55 | URL | #- [edit]
says...
ふうむ。。。難しい問題だなあ。。。
私もそうなんですよね。
害虫が出ても、あまり殺さない。
捕まえて、外に出す。。。というのが普通なんですよね。
「お前の生きる場所はここじゃないよ~~」
と言いながら、外へ出します(笑)。
2019.02.18 03:53 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

実際に不潔かどうかは別として、そもそもキンバエもナメクジも、ものすごく醜い造形というわけではないと思うんですよ。
もちろん拡大すると、顔が怖いというのはあるとしても、例えば蝶が美しくてキンバエが汚いという認識は、本当は間違っていると思うんですよね。でも、窓から入ってきたら「汚い!」ってなってしまう、これはcanariaさんもご指摘くださっているように、人間の都合から生まれた感覚なんでしょうね。

さて、グレッグです。日本の高校一年生がこんなウンチクをたれたら、ドン引きだと思いますが、ヨーロッパの大学に行くような子供はかなり早くから何を学びたいかをわかって努力していますので、二年以内にAレベルの試験に合格してオックスフォード大学への入学切符を手にした設定のグレッグが、このくらい生物学の知識を持っていたのはあり得るかなと思っています。しかも彼は友達が居なくて、いつも図鑑を眺めているような子ですし。

で、母親です。これは「郷愁の丘」のプロットを立て始めた頃から一貫している母親像なんですけれど、本当に悪い人ではないのですが、独自の価値観以外を認めない頑固な人です。何よりも息子がどんなことに傷ついているのかについてほとほと鈍感な人なのですね。

グレッグは、ものすごく自己否定が強く、周りの人々のほぼ全て、両親にすら嫌われていると感じています。実際には両親とも嫌っているわけではないのですが、マッテオ兄ちゃんのジョルジアに対する「もう好きで好きでたまらない」的な熱い愛情は持っていません。で、グレッグは自分が愛されないことに「自分のどこが悪いのだろう」と悩み傷ついているわけですが、存在だけで毛嫌いされるナメクジに、一種のシンパシーを感じているわけです。だから一生懸命に弁護をしたりするのですが、完全否定されて塩かけられちゃったわけです。

母親は、そうやって間接的にグレッグを苦しめたことを全く理解できない、想像力に欠けた人なんですね。
この丹念に手入れされた庭、隙のない美しい邸宅、ぴっちりと整った接客マナー、ありとあらゆることが表面的には「完璧な幸福」の象徴で、彼女は自分のことを「よく出来た立派な母親」だと信じているわけです。

このラストは、この親子の「永久にわかり合えない虚しさ」をそういう文言を書かずに表そうとした試みでもあります。

それと同時に、人類の身勝手な価値観への皮肉もこめてあります。

なんだか「もやもや」した読後感が残ったなら、成功かなと思います。

コメントありがとうございました。
2019.02.18 21:48 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

そうですね、そうやって生かしてあげるのが、本当はいいと思うのですけれど、実際には殺してしまう生き物もいますよね。
蚊やハエ、それにものすごい勢いで増える害虫など……。

実際には、地球規模で見たら、人類が一番害のある生物なのかもしれません。

コメントありがとうございました。
2019.02.18 21:54 | URL | #9yMhI49k [edit]

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