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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】夜の炎

scriviamo!


「scriviamo! 2019」の第十一弾です。山西 左紀さんは、「物書きエスの気まぐれプロット」シリーズの短編で再び参加してくださいました。ありがとうございます!

山西 左紀さんの『物書きエスの気まぐれプロット エニフ(仮)』

ほぼ毎年、この掛け合いで作品を発表しているので、常連の方はご存じだと思いますが、サキさんのところのエスと、私の「夜のサーカス」という作品の登場人物であるアントネッラ(ハンドルネームはマリア)はブログで小説を書いている友人ということになっています。アントネッラは、イタリアのコモ湖畔に住んでいます。本編は、完全な私の創作ですが、サキさんと「ブログでの創作活動」をメインに競作する時は、かなり私個人の創作秘話とリンクして書くことが多いです。

今回の掌編の「作中作品」が生まれたきっかけも、本当にここに書いてある通り、夢で見たものから書き起こした、つまりサキさんの作品とまたまたシンクロしているものを使ってみました。ま、私のは駄作だったのでボツったんですけれどね。


【参考】

「夜のサーカス Circus Notte」を読む「夜のサーカス」をはじめから読む
あらすじと登場人物

「夜のサーカス」外伝

「scriviamo! 2019」について
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夜のサーカス 外伝
夜の炎
——Special thanks to Yamanishi Saki-san


「まあ。面白い作品じゃない」
アントネッラは、頬杖をついて古いブラウン管式ディスプレイに見入っていた。彼女の創作仲間であるエスが、長編としてウェブ小説コンテストに出そうと決めている異世界ものの導入部分を読ませてくれたのだ。

 彼女が実際に見た夢をプロットとして書き起こし、それに肉付けしながら一つの作品に仕上げようとしているらしいが、出自や容姿にコンプレックスを持っていたヒロインが、その隠れた才能を開花させて王の側室という立場から影の軍師になっていく、異色のシンデレラストーリーだ。

 一話を発表する前に結末まで決定しているというのは彼女にしては珍しい。それに、ヒロインの容姿や作品の時代設定などは、これまでのエスの作品とは少し違っているようだ。容姿端麗で何もかも楽々とこなすヒロインや、彼女が得意なスピーディに展開するSF活劇はもちろん心躍るが、こうした悩みやコンプレックスを持ち苦悩しつつも人生を切り拓いていく話には、大きな深みがある。

 じっくりとエスの作品の続きを読んでいたいのだが、残念ながら、そうも言ってはいられない。そのコンテストにアントネッラも誘われたのだ。

「前回も苦手なジャンル、ファンタジーで書かされたし、今度は異世界。ジャンル違いだから、筆が全く進まないんだけれど」
そう断ったのだが、エスを始めとする創作仲間に説得されたのだ。

「とにかく、一部だけでも書いてみて、どうしてもピンとこなかったら最終的にエントリーを取り下げればいいでしょう」

 その締め切りもあと二週間ほどだ。のんびりとエスの話に浸っている場合ではない。

「エスみたいに、寝ているうちに話が勝手に生まれてきたらいいわね。もう行き詰まっているし、そのメソッドに頼ろうかしら」
アントネッラは、真面目に考えるのを放棄すると、コンピュータのあるデスクの上に渡したハンモックによじ登った。

 彼女は、コモ湖を見渡すヴィラを祖母から相続して住んでいる。けれど、そのヴィラをきちんと維持していくだけの収入はないので、まるで廃墟のように朽ち果てた状態のまま放置し、最上階の狭い物見塔に全財産を詰め込んでそこに住んでいるのだ。

 生来片づけが苦手なため、ほぼ足の踏み場もない状態だが、そのことはまったく氣にならない。ベッドを置くスペースはないので、天井に吊したハンモックの上で眠る。スペースの有効利用だけではなく、このハンモックにはもう一つの利点がある。窓から美しいコモ湖がずっと先まで見渡せるのだ。

 春の近いうららかな陽氣のなか、彼女は素晴らしい異世界のストーリーが降臨してくることを期待しながら瞳を閉じた。青白い湖面を大きな月が揺らめきながらゆっくりと渡っていく。昼間はトラックや車の往来が絶えない湖沿いの道にも、時折かすかに響く夜鳴き鳥と風に揺すられたマグノリアのざわめきだけが通り抜けた。

 そして、その平和で静かな夜に優しく包まれて、アントネッラは全くなんの夢も見ないまま熟睡した。いつものように。

 朝になった。曇って、素晴らしいことが待ち受けているようには到底思えない一日の始まりだった。少なくとも、異世界に関するストーリーのインスピレーションとは、ほど遠い散文的な朝だ。

 ハンモックから飛び降り、物に覆われていず床が見えるほんのわずかなスペースに見事に着地すると、アントネッラは何はともかく朝のエスプレッソを飲むために、キッチンと彼女が呼ぶ電氣コンロが二つあるだけのスペースに移動して古風なコーヒーミルに豆を投入した。

 少なくとも挽いたコーヒー豆から立ち上る香りだけは、本日もとてつもなく素晴らしい。
「さて。このまま素晴らしい夢を見る可能性に頼っているわけにはいかないわね。あっという間に二週間経ってしまうもの」

 アントネッラは、マキネットに入れたエスプレッソが出来上がるのを待つ間に、コンピュータの雑多な作品を突っ込んであるフォルダをあちこち開けて、異世界ものに流用できる没作品のストーリーはないか探した。そのうちに、ふと思い出したことがある。

「そういえば、二十年くらい前に没にした作品に、異世界ものが一つだけあったわね。まだ手書き時代だったから、デジタルデータではないけれど。もし見つかったら、あれを流用することができるかもしれないわね」

 アントネッラは、立ち上がると階下の、数十年前には祖父母がサロンとして使っていた部屋に向かった。

 床のタイルは剥がれ、どこも埃にまみれているし、部屋の隅には蜘蛛の巣すらあったがそれは見なかったことにした。一番奥に、引っ越してきた時に「とりあえず」置いたまま一度たりとも触っていない、もともとはバナナの入っていた段ボール箱が七つ積み重なっている。その上から二番目にマジックペンで「昔の作品」と書いてあるのを確認し、開けた。中には手書きのノートがぎっしりと詰まっていたが、彼女は三分ほどで目当てのノートを引っ張り出した。

「ほら、あった。偶然だけれど、この作品もエスと同じで、アラビア語の名前を持つヒロインの話だったわよね」

 燃え盛る劫火を見ながらライラは何もかもが嫌になった。ふと横を見ると、一点の曇りも迷いもなくあいかわらず「天上の美」をたたえた《光の女神》コンスタンスが生け贄の進むべき炎を見つめている姿が目に飛び込んできた。

 コンスタンスの存在は、それだけで一つの正義だった。この世を統べる者としての揺るぎなき潔癖さは、天地を支えている錯覚すらおこさせた。《光の女神》の称号は、あながち大袈裟とも言えなかった。コンスタンスの言葉は真言まことのり として全てに優先した。生まれも容姿も人格も全てが「女神」にふさわしいものだった。

 比較して考えると、ライラの《夜の女神》は明らかに単なる称号に過ぎなかった。コンスタンスに氣に入られ、その助け手としてこのように《天上人》の幕屋には居るけれど、所詮よそ者だと自分では思っている。称号はこそばゆく、「女神さま」などと呼ばれて跪かれることにもどうしても慣れることが出来なかった。

 ライラには、自分の存在意義が儚く思われた。そして《鍛冶の神》だの《軍神》だの、または《氷の女神》や《風の神》といったコンスタンスを崇拝する《天上人》たちに溶け込むことが出来なかった。コンスタンスは常に美しく、優しく、かつ公正だった。しかし、ライラは自らを《神》《女神》と呼ばせてなんとも思わぬ人々の「正しさ」に息苦しさを感じ得なかった。

 そして、今、豊穣の祭りのクライマックスで、一人の少女が《火の女神》ヘピュタイアによって炎の淵へと導かれつつあった。

 突然のアクシデントは、その時起こった。一人の少年が何かを叫びながら乱入し、たちまち衛兵たちに捕らえられた。縄をかけられ、そのまま少女と同じ火の淵へと連れて行かれた。

 ライラはぎょっとして、周りを見回した。天幕の中の《天上人》たちは誰一人として顔色一つ変えなかった。いや、《光の女神》の片腕である《太陽》イオンという青年だけはわずかに眉を寄せた。しかし、何も起きなかった。

 ライラは、その瞬間に自分の中で何かが発火したのを感じた。手を伸ばすとコンスタンスの目の前の玉璽をつかみ眼前のガラスをたたき割った。《天上人》たちは何が起こったのかを理解できなかった。ライラはそのまま火の淵へと走った。



「やはり、没にした作品ねえ」
アントネッラはため息をついた。何この陳腐な設定。そう思いつつも、結末を思い出すためにページを繰ると、ノートの端にメモが書き添えてあった。

「あら、すっかり忘れていたわ」
紛れもない自分の字で、この「夜の炎」という作品は、かつて見た夢の内容を書き写した作品だと注釈を添えていたのだ。

「夢で見た作品、もうずっと前に書いていたのね。でも、これじゃ、どうしようもないわよね。やれやれ、やはり、この企画、私はギブアップさせてもらおうかな」

 アントネッラは、色褪せたノートをパタンと閉じると、バナナ模様の描かれた箱に再び押し込み、ぎゅっと蓋をした。エスプレッソを飲むために階上に彼女が戻ってしまうと、部屋には空中を舞う埃いがいに動くものはなくなった。汚れて光を半分くらいしか透さなくなった窓から、早春のやわらかい光が入り込み、また放置が続くであろう七つの箱を照らしていた。

(初出:2019年2月 書き下ろし)

関連記事 (Category: scriviamo! 2019)
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Category : scriviamo! 2019
Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
よかった!アントネッラに面白いって言ってもらってる!
まぁ、作者としてはとりあえず一安心というところでしょうか。
アントネッラに言ってもらっているとおり、この作品はこれまでのエス(サキ)の作品とは毛色が違っています。
夢で見たと言う事もあって古典的な設定になっていますが、それなりに冒険した部分もありますので、こういうふうに分析をしてもらえると嬉しいです。

ところで、冒頭で夕さんの創作秘話とリンクすると書いてらっしゃいますが、ここに出てくる作中作は本物なのでしょうか?
それともこの作品のためにあらためて書かれた物なのでしょうか?
本当に一部分だけなのですが、アラビア語の名前を持つヒロインの登場や、夢が元になっているとか、シンクロの設定が見事ですし、一気に持って行かれて置いていかれた感が半端ないですし、色褪せたノートやバナナ模様の箱とか妙にリアルだし、どうなんだろうと思っています。
どうやらアントネッラはファンタジーや異世界物が苦手なようですが、夕さんはそんなことは無いのに、夕さんは自分の創作には厳しいなぁ。

でも、企画参加の件ではアントネッラに振られてしまいましたね。
没ですか~。残念!エス、可哀想。

でもアントネッラ、そろそろパソコンを買い換えないと、ウェブサイトも開けなくなっちゃいますよ。
2019.02.23 11:54 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

いやあ、サキさんの作品は、文句なしに面白いですよ。
ぜひこれで終わらせずに書いてくださいね!

さて、この作中作ですが、リードにある通り本物です。作品のタイトルもまんま「夜の炎」です。
二十年前に書いて、ワープロで印字したたった一冊の作品集(五本の掌編集)を物置スペースの一番奥、「作品集」という名の黒歴史置き場から引っ張り出してきて、冒頭部分だけを入力したのです。この作品ではノートの端書きに「夢をもとにした」と書いてあったということにしていますが、実際の冊子では、後書きの解説部分に夢で見た話を元にしたと書いてありました。

ラウラと似ていますが、ラテン語の「月桂樹」を意味する言葉から来たラウラと違い、ライラはアラビア語圏でごく普通の女性名で「夜」を意味します。この作品を書いた頃、私の興味対象は大学で専攻していた東洋史(中東)だったので、この名前はとても身近だったのです。

ただし、バナナの空き箱は私とは関係ないです。バナナの空き箱は、こちらでは引越の定番なんですよ。大きくて頑丈でスーパーに行けばいつも無料でもらえるからだと思いますが。「バナナの空き箱がいつまでも積んである」というのは、ようするに引越の片付けをしないズボラな人の象徴みたいなものなのですね。

アントネッラも、私も、ファンタジーや異世界は苦手です。たとえ設定をそうしても、結局「黄金の枷」や「森の詩 Cantum Silvae」のようにかなり現実に近い世界でしか話を進められないようです。

あー、パソコンもディスプレイも、たぶん本当にお釈迦になるまでは買い換えないと思います。まあ、エディターとチャットとブラウザくらいしか使わないみたいだし、それでいいのでは(笑)

二度目のご参加と、コメント、どうもありがとうございました。

2019.02.23 21:42 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
私も没にしたものはデータとして、
一応残しております。
昔あった子どもの頃の小説?(落書き)を一応データ化しております。
没になった作品も多いですからね。
まあ、陳腐な設定であっても、アイデア次第でどうにかなりますからね。
残しておりますね。
(*´ω`)
2019.02.24 02:48 | URL | #- [edit]
says...
執筆、お疲れさまでした。

アントネッラ(マリア)とエスの交流、もうすっかり名物になった感じですね。
そして、創作仲間に誘われて、渋々ファンタジーを書くことになったアントネッラ、毎年ご苦労さまです。

八少女夕さんの創作裏話とのことですが、過去の黒歴史作品、私も身に覚えがあります。そういう作品が書かれた大学ノート数冊が、某引っ越し業者の段ボールに入ったまま、物入れの奥で眠っていますよ。あるある、ですよね~(笑)

ところで、「夜の炎」は、この先に続きがあるんですね? そして、ちゃんと結末を迎えて完結している、ということですか。
う~ん、設定、陳腐かなぁ。ボツにしたのは、ご自身のお眼鏡にかなわなかったからだと思いますが、ちょっと残念ですね。

P.S.誤字脱字のご報告です。
「アントもネッラ」→「アントネッラ」
「少年が何かを歩叫びながら」→「少年が何かを叫びながら」
「『女神さま』などど」→「『女神さま』などと」
2019.02.25 03:59 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

そうなんですよね。
発表できんわ、そう思った駄作でも、捨てられないんですよ。
当時ののめり込みが思い出されて……。

「森の詩 Cantum Silvae」のように作り替えで復活することもあるので、確かにまだ分かりませんよね。

コメントありがとうございました。
2019.02.25 20:21 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
わあああ。もう、本当にいつもいつもありがとうございます! 助かります。
やはり慌てるといっぱいやらかすなあ。

さて、アントネッラは、ジャンル違いばかり強要されるので辟易しているみたいです(笑)
エスみたいに器用に乗り切れないですからね、この人は。

あ、段ボール仲間! TOM−Fさんもですか。
そうなんですよ、開けませんよね(笑)

「夜の炎」はかなり短い作品です。結末はありますけれど、「なんだこりゃ」ですよ。
もし万が一使うとしても「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」並みに大改造しないと無理ですね。
それより前に「書く書く詐欺」の死屍累々をなんとかせねば(笑)

コメントありがとうございました。
2019.02.25 20:36 | URL | #9yMhI49k [edit]

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