FC2ブログ

scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(1)プロローグ

本日からまた小説の連載をします。本当は、今週は休暇中で、お返事ができないので「あらすじと登場人物」だけで逃げるつもりでしたが、連れ合いが風邪を引いてどこにも行けなくなったので、自宅でこの小説を書いています。で、せっかくなので、もう連載を開始してしまうことにしました。

この小説は、「ファインダーの向こうに」「郷愁の丘」に続く作品という位置づけになっています。「ファインダーの向こうに」を読まなくても「郷愁の丘」は問題なく読めるように書いたつもりですが、この作品に関しては先に「郷愁の丘」をお読みになることをおすすめします。少なくとも「郷愁の丘」のネタバレ対策は一切していませんのでご了承ください。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(1)プロローグ

Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Remember me to one who lives there,
For she once was a true love of mine.

スカーバラの市場へ行くのかい
パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム
あそこに住んでいるとある人によろしく言って欲しい
彼女はかつて僕の恋人だったから

Scarborough Fairより



 わずかに色を変えていく雲の裏側を見ながら、ジョルジアは落ち着かない心持になった。写真家としてあちこちを旅し、世界各地の夜明けの風景を目にした回数は一般的なアメリカ女性よりずっと多い。いま目にしている朝焼けは、おそらく平凡な方だ。《郷愁の丘》で見た人生を変えるほどの光景はもとより、おそらく先日ニューヨークのフラットのそばで見た夜明けよりも印象に残らない色合いだった。

 けれど、どこかたまらなく感じるのは、彼女の心が騒いでいるからだ。マリッジ・ブルーとは違う。違うと思う。彼女はこれまで婚約をしたことはなかったので、マリッジ・ブルーに対する経験が豊富というわけではない。だが、少なくとも隣に黙って座っているグレッグと人生をともにする事に対して疑問を持ったり不安に思ったりしているのではないことだけは確かだ。

 彼は、黙って広がる雲を眺めている。その下には彼が多感な時期を過ごしたイングランドの平原が広がっているはずだ。彼の心にはどんな想いがよぎっているのだろう。学会などのためではなく、本当に久しぶりに、彼は「帰る」ためにこの国を訪れるのだ。

 当初の予定では、二週間後に控えた結婚式のために、《郷愁の丘》からニューヨークへと直行するはずだった。その予定を変更して一週間ほど彼の育ったイギリスへ行く事を直前に決めた。彼が、それを必要だと思ったから。そして、ジョルジアもそれは正しいと思ったから。

 そして、それだけではなかった。彼女の心の奥に沈んでいる想いがあった。

 目の前のスクリーンでは、イギリスの観光地を案内するショートムービーがかかっていた。感情を抑えた男性の声で歌う「スカボロ・フェア」に合わせてイングランドやスコットランドの観光名所が次々と映し出される。

『パセリ、セージ、ローズマリー、タイム……』
愁いを帯びた有名なメロディが響く。
『とある人によろしく言って欲しい……彼女はかつて僕の恋人だったから』

 ジョルジアは、その歌詞に心乱された。自分の想いがくっきりと浮かび上がってきたから。

 彼の過去に対するわずかな好奇心。不安。この国にいた時に、彼がずっと若かった頃、その繊細な心を震わせた出来事。重石で蓋をしてしまわねばならなかったほどに苦しみ迷った若い青年の心の軌跡。知らないままでいた方がいいのだろうか、それとも、知りたくてたまらないのだろうか。

 昨夜ナイロビを発った機体は、地上よりも少し早く朝を迎えようとしていた。ジョルジアは刻一刻と色を変えていく窓の外の光景を眺めながら、飛行機がゆっくりと降下を始めた事を感じた。

 雲の中に入った途端、輝かしい朝の光は消え去り、灰色の暗く憂鬱な霧が窓の外に広がった。窓は斜めに軌跡を描く雨に覆われていく。機内は揺れ、ジョルジアは不安な面持ちで窓の外を見た。

 やがて揺れは収まり、新緑の絨毯がどこまでも広がるイングランドの平原が眼に入った。それは濃い霧に包まれてひどく秘密めいていた。

 彼女は、この旅の始まりについて想いを馳せた。
関連記事 (Category: 小説・霧の彼方から)
  0 trackback
Category : 小説・霧の彼方から
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。
昨日の今日でいきなり連載開始は、想定外でした。どちらかというと、嬉しい想定外ですけど。

さて、ロンドンに向かうグレッグとジョルジア。
大きな騒動はないとのことですが、情景描写や心理描写から、先行きの不安感は伝わってきますね。
ジョルジアもなにかすっきりしないというか、心にさざ波が立っているようだし。
グレッグにも青春時代の痛ましい思い出くらいはあるんでしょうけど、スカボロフェアの歌詞になぞらえているところを見ると、それはかつて恋仲だった女性にまつわる思い出ということなんですよね? グレッグをより深く理解するためには、必要な通過儀礼なのかもしれませんが、う~んジョルジアもMだなぁ(失礼)

ああ、ほんと、いろいろと心配です。
この二人、コミュニケーション力低いし、メンタルも弱いし。
今さら出番はないでしょうけど、ジョセフがいたら『時の流れの中に消えていこうとしているものを、いたずらに掘り起こすようなことはするべきじゃない』とか説教垂れそう(笑)

なかなかに妄想が膨らむプロローグでした。
連載、楽しみに追わせていただきますね。
2019.04.04 11:43 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
あはぁ、飛行機のシーンからスタートって素敵ですねぇ。
眼下に広がる雲、そこへ徐々に降下しながら突っ込んでいく様は、何度経験しても何かの境界線を越えていくような気がして、不思議な感覚に襲われます。
といってもサキの飛行回数は数えるほどなんですけれど・・・。
ジョルジアは雲の下にあるであろう風景を想像して不安な気持ちを抱いていましたが、それはこの先のグレッグの故郷での展開への予感のようなものなのでしょうか?

> それは濃い霧に包まれてひどく秘密めいていた。

さて、この先どんな風景が広がるのでしょう?
いよいよ始まりましたね!楽しみにしています。
2019.04.04 12:27 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

すみません、いろいろと行き当たりばったりで。考えたら火曜日に「明日から連載しますむって書けばよかったのに。

私の小説なので、例によってめくるめくロマンスもないし、ストーンヘンジ大爆破みたいな派手なこともないんですけれど、まあ、全く何もないとただでさえ退屈な文章が、もっと退屈に。

で、ジョルジアも「女の影を追うのがテーマ!」と張り切っているわけではないのですけれど、まあ、それもおいおい。

しかし、もうね、ジョセフに出てきていただいて懇々と説教していただきたいところですけれど、反対にジョセフが出てくると、別の意味でグレッグが涙目になって逃げていきそうな。いつものアレで。ほんとうにコミュ力もメンタルも弱いですよね。とくにシマウマ研究者の方。

そんなわけで、次回はR18シーンつきでございます。本当にこれ公開するんか。いや、大したシーンじゃないんですけれどね。

コメントありがとうございました。
2019.04.04 16:41 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

あ、そうそう、サキさんは飛行機好きですものね。

海外に行くストーリーに飛行シーンから始めるのって、ちょっとありきたりかなとは思ったのですけれど、「スカボロ・フェア」を無理矢理出すために、こうしました。ほら、《郷愁の丘》にはテレビないし……。

ジョルジア(やグレッグ)の不安要因は、この数回先、そもそも英国に寄ることにした直接の理由である出来事にあるのですが、それに加えてジョルジアは自分の中に彼の過去についての好奇心が育っている、という状況ですね。

で、次回が、問題のR18シーンになります。三回くらいに分けますけれど。あ、大したシーンじゃないのでご心配なく。(たぶん)

コメントありがとうございました。
2019.04.04 16:56 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
新婚のイチャイチャラブラブムフフな話
なのかと思ってたけど(思ってない)
そういうわけでもなさそう…
グレッグさんに元カノ?
そんな人がいるとは本当に思ってもみなかったです
2019.04.05 13:50 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。

ラブラブだけのはお腹いっぱいかなーと(笑)

元カノなんかなさそうですよね。
真実はいかに(笑)

コメントありがとうございました。
2019.04.06 09:50 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
確かに、新生活?っていうと
喜びと同時に不安もありますよね。
どっちが、どっちの家に行くかってこともありますからね。
元々も生活が変わらないのはあまり不安がないですけど。
どこかに嫁ぐ(男性の場合でも)、
何がしら不安はありますよね。
新しい場所に行かないといけないですから。
マリッジブルーとはよく言ったものですね。
色々なものを含めて。
2019.04.07 07:33 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうですね。
「めでたしめでたし」だけで終わってしまうようなものではなくて、それが始まりでもあるわけですから。

まあ、どこで生きていくのかという問題は、本人の適応力さえあれば大して大きな問題ではないと思うのですけれど。
普通の引越とあまり変わらないわけですから。
一方で、これまで一緒にいなかった人と一緒に暮らしていくわけですから、そちらの方が大きな変化なのかなと思います。

コメントありがとうございました。
2019.04.07 21:36 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おお!?
新連載が始まってる!?
連載再開おめでとうございます。
そしてまた、よろしくジョルジア、グレッグ。

なるほど〜今回は婚約中のエピソードですか!
なんとなく、結婚まで直行というイメージがあったので
こうやって段階を刻んで丁寧にキャラの心情を掘り下げてくださるのは
とっても嬉しかったりしました。

イギリス行きは直前に決まったということですが、
その辺りの経緯も気になりますね。

ジョルジアはグレッグの過去について好奇心が育っているということですが、
その中に女性の影もある、ということでしょうか。
そしてこの、相手の心の中にある異性の影ですが、
思えば当初はジョルジアも心の中にがっつりあの方の影あったのですよね。
で、グレッグはそれとずっと向き合ってきたのですよね。
そういう意味で、今度はジョルジアが彼の過去に向き合う番なのかな、
なんてことも思ってしまいました。

なんとなく不安な始まりですが、次はR18シーン!?
二人が心を通わせるのに大事なシーンなのでしょうね、
そちらも含めて、二人の行方を楽しみにお待ちしておりますね。
2019.04.08 04:19 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

ええ、グズグズ引き延ばしていましたが、さすがにもう連載しないと(笑)
こちらこそ、またどうぞよろしくお願いします。
でも、なんか、今回のは、あまり面白くないかも。なんかあまり驚きもないですしねぇ。
って、私の話、もともと驚きはほとんどないですけれど。

で、この続編を書くことにしたのは、前回書かずに逃げたところを「ちゃんと書け」リクエストがあって、それを書くなら裏設定をちゃんと書こうかなと思ったのですよね。

で、あらすじに書いたまんまの話なんですけれど、こう書くとめちゃくちゃつまんない話みたいだなあ。

イギリス行きが決まるまでの事情なんですけれど、異様に長いかも。

それとは別にジョルジアは心の中にもやもやと好奇心を育てています。
グレッグの方は、ジョルジアの過去について実はあまりあれこれ考えたりしません。
というのは、ジョルジアが某ジャーナリスト様のことを自らペラペラしゃべってしまったので「どんな人なんだろう」とか考える必要もなく。
ジョルジアはその反対で、全然わからないので不安になっているという感じでしょうか。
そういえば、前もアマンダとの仲を勝手に想像してぐるぐるしていましたよね。しょーもない女だな。

さて、次回はリクエストにお応えしてのシーンでもあるのですけれど、これがまたジョルジアの好奇心のきっかけになるので必要なシーンなのですよね。ま、といっても、本当にどうってことのないシーンです。

というわけで、新連載、よろしくお願いします。

コメントありがとうございました。
2019.04.08 19:51 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/1681-b64cb48d