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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(2)はじめての夜と朝 - 1 -

「霧の彼方から」の続きです。

私の小説ではかなり珍しいのですけれど、この「はじめての夜と朝」には明確に性的描写があります。近年の中学生が読んでいるマンガに比べても大したことのない描写ですが、それでも、苦手な方はいらっしゃると思うので、氣を付けてください。なお、この回を飛ばしても読めないことはないのですが、どうでしょうね。先を読む意味はないかもしれませんね。

三回にわけます。今日の部分は前作で一番盛り上がった部分のおさらいですね。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(2)はじめての夜と朝 - 1 -

 それは、二人の関係が変わった、あの夜に始まった想いだ。二人のつながりが決定的になり、人生をともに生きる事も現実的になった夜。抽象的な感情が、肉体的なつながりと統合された特別な夜と朝。彼女のコンプレックスが、霧や塵のように彼によって拭われて消えていった。

 ジョルジアは、旅先のイタリアから彼の住むケニア《郷愁の丘》へと向かった。そして、その行動によって二人のあいだの楔は取り除かれ、新しい扉が開かれた。もうとっくに不自然になっていた「ただの友達」という覆いを取り去って、お互いの中にある強い思慕を表明することになった。

 キスをして、抱き合い、笑い合うところまでは、あっけないほどに簡単に進んだ。ジョルジアが来るとは知らずに午睡をしていたグレッグは、目の前に突然現れた彼女を夢と間違えて、ずっと隠していた情熱を形にしてしまったから。

 そんな形で、関係が急激に進んでしまい、恋の歓びにただ浮かれていたので、夜が来てジョルジアは現実的な問題を認識して青ざめた。そもそも、彼に愛されている事を知りながらずっとはぐらかしていたのは、彼女の肉体問題に触れずに済むからだった。その問題はあまりにも深く彼女を傷つけていたので、口にすることすらできなかった。

 彼女の左の脇から臍にかけての広範囲に生まれながらにしてある、赤褐色の痣。十代の終わりに施した手術の後、それはゴツゴツと立体的になり、それまでよりももっとグロテスクな様相を示していた。十年以上前に、恋愛関係になりかけていた男にひどく傷つけられて捨てられて以来、彼女は肌を誰かに見せることも、恋愛関係を持つこともできないでいた。

 夜の帳が降りて、満天の星空が《郷愁の丘》を包んでいた。以前のように二人はテラスでワインを飲んだ。以前ジョルジアが滞在した時と違ったのは、二人の座る位置だった。テーブルを間に挟むことなく並んで座り、彼はそれまでの遠慮を取り払い彼女の手に彼の掌を重ねた。彼女は、時折、彼の肩に頭をもたせかけ、サバンナが月の光に照らされて秘密めいて輝くのをともに眺めた。

 ワインが空になり、二人の会話はわずかの間、途切れた。彼は、微かに躊躇いながら言った。
「すっかり遅くなったね。疲れているだろう」

 二人共、どこで眠るのか、その話題をその時点まで延ばして触れないようにしていた。ジョルジアは、うつむいた。突然、ジョンに素肌を見せることになった、あの苦しい思い出が脳内に蘇った。浴びせられた罵倒と、心底嫌がっている歪んだ表情の残像が十年以上の時を飛び越えて襲ってきた。彼女は震えた。

 それでいながら、すぐ横にいる傷つきやすい繊細で善良な恋人の願いのことも考えた。彼女のために三年間も想いを抑えつけ続けてきた彼に、いま再び拒絶することの残酷さをも考えた。彼女が拒否してはならないと、魂が訴えていた。拒絶するのは彼の方でなければフェアではないのだと。

「明日も早いのよね。もうベッドに行かなくちゃ……」
彼は、彼女の言葉にぴくっと震えた。

 彼女は、グレッグを見あげて硬く無理に微笑んだ。
「シャワー、使っていい?」

「もちろん。タオルやバスローブを用意するよ」
まだどちらも、どの部屋で、一人で、または二人で一緒に眠るのかという話題には触れなかった。

 彼女は、シャワーを浴びながら、考えた。恥ずかしいと言って、電灯を全部消してもらえば、少なくとも今夜はあれを見せずに済むかもしれない。

 それから、自分の掌が脇腹に触れて、そのゴツゴツとした肌触りを感じて絶望した。ダメだわ、隠せるはずなんかない。こんなものに触れたら、ぎょっとして何ごとかと思うはずだもの。

 ジョンに見られた時のあのカタストロフィを避けられないことがわかり、彼女は全身から力が抜けて、ひどく震えてくるのを感じた。それから、突然、もう何年も起きなかった、眩暈と悪寒が起き、世界がぐにゃりと歪んでいった。

 シャワーの水滴が針のように彼女を襲った。タイルの壁は冷たく非情な監獄になり、彼女は息ができなくなった。彼女は、何かにつかまろうとして、反対にあらゆるものを倒しながら床に崩れ落ちていった。大きな音をさせて落ちたシャワーヘッドは蛇のようにうごめいた。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

おお~これはいわゆる、しょ、しょ……落ち着け!
なんかすごくいい雰囲気が盛り上がっていますよね。グレッグはなにも演出はしていないけど、ロケーションがいいですよね。すごいアドバンテージだわ、ここ。
で、いい大人同士が、さんざん盛り上がっておいて、そこでどうしていいかわからない、みたいな展開。いやもう、微笑ましくすら、ありますね。
読者としては先のことを知っていますから、「上手く」いったことはもうわかっているわけですけど、ジョルジアにとってあれは、生半可なトラウマじゃなさそうですし、パニックを起こすのもしかたないか。
このあとのオトナなお話のなかで、実際にどんなふうにしてジョルジアが救われたのか、次話を楽しみにお待ちします。
2019.04.10 09:07 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

あはは、そうなんですよ。いわゆる、アレです。それにジョルジアはもう一つの「しょ、しょ……」だし(笑)

ロケーションですけれど、以前ジョルジアが二週間もここに泊まり、しかも邪魔者もなく、逃げる心配もなかったのに「なにもなし」のていたらくだったことがありましたよね〜。何やってんだこいつら。

で、この後に及んで「さて、どうしよう」なんですよ。まったく期待通りのていたらくです。

そうなんですよ。この後、婚約どころか、数年後には子供まで生まれているので、上手くいっているのは確定です。
で、この夜にちゃんと上手くいったことも確定なんですけれど、その過程を三週に延ばす極悪な私です。
で、本当に大したシーンじゃないので、引き延ばして『詐欺!』と言われるかも。
もっとも、そっちのシーンとしてではなく、コンプレックスの解消には、少なくともジョルジアには大切な夜だったかな。

コメントありがとうございました。
2019.04.10 16:21 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
シリーズ再会ですね。
そうか、このシーンから始まるわけですね。
きっとグレッグはジョルジアを受け入れるだろうし、何も心配はいらないんだけど、ここまでの経緯がとんでもなく慎重な二人だっただけに、朝チュンと言う訳にもいかないですよね。
ジョルジアのコンプレックスがとけて無くなる瞬間と、ちょっと男らしいグレッグが見れるのか……。(あ、変な意味ではなく><)
続きをじわじわ楽しませてもらいます♪
2019.04.11 00:51 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
わぁ!待っていました。
タイトルが直接的で、夜はもちろんですが朝の方も楽しみ。
ひょっとしてサキがこのシーンがどうなったかを気にしていた事が、この作品を書かれるきっかけのひとつになったのでしょうか?
そして彼女、もうひとつのしょ・・・だったのか!彼女のトラウマから考えたら当然なのに、なんとなくそうは思っていなかったことに思わぬ衝撃。
本当にジョルジアがどのように心(体も)を開き、グレッグが彼女をどのように受け入れたのか、ずっと気になっていたので、ドキドキです。
彼のことですから絶対に大丈夫、という確信はあったのですが・・・。
そして話の展開から上手くいくことはわかってはいるのですが・・・。

そして、夜がふけるまでの二人の様子、とっても初心くて、とても素敵なシーンでした。どちらも心に抱えるものがあるだけに、もう一歩が踏み出せない心の動き、なんとなくわかるような気もします。そりゃそうだよなぁ・・・。
電気を消しても触れればあきらかに異常とわかるジョルジアの痣、残酷ですがとてもよく考えられた設定です。
でも、夕さんは強制的にそこへ持っていきそうな様子。
シャワーヘッドが立てた大きな音は二人にどのようなきっかけを、そして変化を与えるんでしょう?この二人、なにか強制的にきっかけを与えた方が踏み出せるんですよね。
ちょっと待ち遠しいサキでした。
次こそはあのシーンですよね?
ワクワク!
2019.04.11 13:25 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

このシーン、R指定が入るので、『郷愁の丘』では書かずに逃げたのですよ。
朝チュンどころか、いきなり視点変えて翌日以降、みたいに。
でも、「そこをちゃんと書け」という趣旨のコメントをいただき、「えー、でもブログで掲載するのには」とかブツブツ言いながら書いてみたら、全く大したことのない記述になったので「これならアップできるかも」となったわけです。

ただ、そのシーンだけ書いても意味がないので、その後の「グレッグの過去への旅」も含めて続編を書いてみようと思いました。

という経緯があるので、なぜかこのどうでもいいシーンが詳細に記述されているわけです。

男らしいグレッグ……まあまあかなあ。ううむ。惚れ惚れするほど男らしいかどうかは別として、少しだけいつもよりも頑張っています。同時にいつものヘタレなグレッグも両方楽しめます(笑)

今作も読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2019.04.11 16:36 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ええ? サキさんのところのサクラは今咲いているんですか?
それとも、どこかの学校? おめでとうございます、かな?

さて、ええ、タイトル、そのまんまですね。
二人にとってでもあるし、ジョルジアにとっては……。

そして、もちろんこのシーンは、サキさんのご要望で書き出したものですよ。
ただ、ご要望の通りかな。ううむ、結局肝心な記述で逃げたような……ま、いいか。

ジョルジアは23歳の時に「今夜は……」的な心づもりで臨んだのですが、その時に肌を見られてジョンに捨てられています。だからその先はまだなのですよ。

もう外伝で「子供いる」を書いてしまったので、間違いなく通過儀礼は終わったのはご存じだと思いますが、それだけでなく、本当にこの晩にトラウマを乗り越えています。

日程的にそれ以外あり得ないのですよ。なんせ翌日にはレイチェルから電話がかかってきて、二人でレイチェル宅に行っていて、その時にはもう婚約を告げていたのですから。もっともプロポーズシーンは、またしても書いていません。冗長なだけでなく、かなりどっちらけなシーンなのでない方がいいかなと思いました。

さて、もともと二週間も自宅に好きな人と二人っきりでも手も握らなかったグレッグですので、そう易々とベッドには連れ込めません。それができたら前作は三分の一で済んだわけですし。この時点でグレッグの視点は出てきませんが、おそらく「これって、OKってことかな、それとも僕の希望的観測だけかな。どうやって意思を確かめよう」とかグルグルしているはずです。で、それどころじゃなくなってしまうわけですが。

それで、ええと、来週はですね。切りのいいところが、ごにょごにょ……。お楽しみに。

コメントありがとうございました。
2019.04.11 16:52 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
まあ、子どもは子どもで盛り上がるんでしょうけど。
大人は大人で盛り上がる。
・・・というのが、愛欲なんでしょうけど。
かといって、空想に浸れる程子どもではないですから(笑)。
結局、現実的なことを考えないといけないのも憂鬱。。。
ってところが色々描写されていて個人的に面白いですね。
愛ってそんなものですよね。
夢にも浸れるし、現実にも戻らないといけない。。。
( 一一)
2019.04.13 07:45 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうですね。
「めでたしめでたし」で全部終わり、というわけにはいかないのが現実ですよね。

ここではコンプレックスの問題が取りあげられていますけれど
仕事のことも考えなくちゃいけないし
家事もあるし
その他諸々もあって、その間に時おり「めくるめく瞬間」みたいなものがあるのですよね。

「めくるめく」は一時横に置いています(笑)

コメントありがとうございました。
2019.04.13 17:45 | URL | #9yMhI49k [edit]

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