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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(3)新しい生活と不安 - 2 -

「霧の彼方から」の続きです。三回に分けた二回目ですけれど、ここも少し中途半端な区切りだなあ。まあ、いいか。

もしかすると、幻の風来坊男であるアウレリオ、初登場? ま、勿体ぶって出さなかったわけではなく、本当にいつもいないんだ、この人。

さて、これまで細かくは説明していないのですが、グレッグと腹違いの妹マディは十歳離れています。「郷愁の丘」本編と「最後の晩餐」という外伝で、十歳だった彼が両親の離婚に伴いイギリスに引っ越したという事情を書きました。(そんな詳細はどなたも憶えていらっしゃらないと思いますが)つまり、レイチェルの存在と妊娠が契機となって、別居中だったグレッグの両親は正式に離婚したのですね。もっとも、ジェームスはその後もマディのことを正式に認知しなかったようです。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(3)新しい生活と不安 - 2 -

 買い物のためにヴォイへ出てくることを知ったマディは、ランチに招待してくれた。グレッグとマディの父親、故ジェームス・スコット博士の臨終と葬儀の時にしばらく一つ屋根の下で過ごして以来、ジョルジアはマディやその家族とすっかり仲良くなった。

 グレッグと父親は実の親子にもかかわらず、奇妙なほど他人行儀な関係しか築いてこなかったのだが、それを補うようにマディとその母親のレイチェルが、グレッグとジョルジアを新しい家族として受け入れてくれたのだ。

「やあ。ジョルジア、久しぶりだけれど、去年逢った時と変わらないね。ニューヨークからの長旅、お疲れ様。あのサバンナのど真ん中で、こいつと二人っきりだなんて、退屈していないかい」
立て続けにしゃべりながら、迎え出たマディの夫アウレリオが抱擁してきた。

「チャオ、アウレリオ。なかなか面白い冗談ね」
ジョルジアは、兄が持たせてくれた最高の出來のスーペル・トスカーナ・ワインを渡しながら苦笑した。

 グレッグとは学生時代からの付き合いであるアウレリオは、イタリア人らしい罪のないジョークをよく飛ばす。当の本人がそれを冗談とは受け止められず、軽口の返答も返ってこないことには無頓着だ。

 そうはいっても、ジョルジアも氣の利いた返しや、大げさな惚氣まじりの反論を口にすることが出来ない。

「アウレリオったら。この二人はこう見えても新婚ほやほやなんだから、くだらないことを言わないの」
キッチンから出てきたマディが、助け船を出してくれたので、彼女はほっとした。

「新婚ねえ。僕たちの蜜月はずっと濃いし、まだずっと続いているよね。愛しのマレーナ」
アウレリオは、マディを後ろからぎゅっと抱きしめて、豊かな栗色の髪に口づけをした。

「オックスフォードで始めて出会った時のことは生涯忘れないな。あの日、僕の人生は光り輝くようになったんだ」

 マディは夫の言葉に苦笑いした。
「ありがとう。アウレリオ。残念ながら、私はその日にあなたと会ったこと、全く憶えていないんだけれど」

 ジョルジアは、おもわず「え?」とつぶやいた。マディはウィンクをした。
「ママに初めてヘンリーと引き合わせてもらった日らしいんだけれど。一度も会ったことのない腹違いの兄にやっと会えるって緊張していたんだもの、他の人なんて目に入っていなかったわ」

 ジョルジアが確認するように見ると、グレッグはわずかに笑って頷いた。
「レイチェルが特別講義でオックスフォード滞在している時に、マディが訪ねてきたんだ」

「そうなの。夏休みに入ってすぐだったわ。どうしても行きたいって、ママに頼んだのよ。私だってヘンリーと知り合いたいってね。ヘンリーに会うのもドキドキだったけれど、あのベリオール・カレッジのディナーっていうのも嬉しくて、途中で逢って挨拶した人のことまで憶えていなかったの」

「ひどいな。運命の出会いよりもお皿の中のことを憶えているって訳かい?」
アウレリオは、妻のことしか見えないという風情で微笑みかけた。
「だって、観光客でも入場できるホールじゃなくて、オールド・コモンルームでのディナーだったんですもの。1200年代からの格式あるダイニング・ルームにケニアから来た十五歳の小娘が行けるなんて夢みたいでしょう」

「十五歳?」
ジョルジアが問うと、グレッグは頷いた。
「そうだったね。あれは、イギリスにいた最後の年だった。僕と母がケニアを離れて直に生まれたって話を祖父から聞いていたけれど、実際に逢ったらティーンエイジャーになっていたのでびっくりしたよ」

「僕が、あの綺麗なお嬢さんに紹介してくれって頼んだのに、渋ったことは忘れないぞ」
アウレリオが笑って言った。グレッグは苦笑いした。
「もちろん。マディの見かけは大人びていたけれど、まだ子供だと思ったし、軽く恋愛ゲームをする対象にされたら困ると思ったんだ。それに妹といっても、会ったばかりで、それほど親しいって訳じゃなかったし」

「でも、橋渡ししたの?」
ジョルジアが訊くと、マディが笑って答えた。
「ヘンリーは紹介するつもりがないのに、私と会うどこにでも勝手についてきたのよね」

「そうさ。紹介せざるを得なくしたんだよ。でも、お陰で僕たちはこうしてここにいるんだからね」
アウレリオは胸を張った。笑いながら、ジョルジアはいかにもアウレリオらしいと思った。全く躊躇せずに、自分の道を切り拓いていける。それはこの人の才能の一つだ。

「もちろんアウレリオは特別だと思うけれど。でも、あなたたちを見ていると、婚約中ってなかなか信じられないわよ」
マディの言葉にジョルジアは笑った。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

アウレリオさん、いままで名前があがっていたけど、出てくるのは初めてですか。
マディとの噛み合っていないやりとりが愉快です。
初めての出会いのときを、アウレリオはしっかりとおぼえているのに、バタバタしていたとはいえマディがぜんぜん憶えてなかった件とか、なんていうか、このカップルもいい味をだしていますね(笑)
オックスフォードでのエピソード、ロケハンの成果が出ていそうですね。オールド・コモンルームでのディナー、どんな雰囲気だったんだろう?
しかし、アウレリオの押しの強さ、意中の女性を落とすにはこれくらいのパワーが必要ですよね。そう考えると、ほんとグレッグとジョルジアは、運がいいというか縁があったんでしょうねぇ。

さて次回は、オックスフォード時代のグレッグのあれやこれやがぽろぽろと、なんてことになりそうで、楽しみです。
2019.05.15 07:29 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
ま。
人と人との出会いなんてそんなものですよね。
片方は運命の出会い!!
って思っていても、もう一人はそう思っていないわけで。
どっちかが片思いで、どっちかはそうでもない。
そっから、熱烈に・・・って感じになりますからね。
愛されるより愛したい。
愛するより愛されたい。
・・・・色々考えますね。
"(-""-)"
2019.05.15 14:11 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよ。「アルルの女」か、ゴドーかって感じてだったアウレリオ、ついに出てきちゃいました。

アウレリオは、チラ見して恋に落ち、憶えてすらもらっていないのに、そのままストーカー化。
十五歳の娘についた虫ですから、よくレイチェルがたたき落とさなかったって感じですよ。
で、粘り勝ちで結婚に持ち込んだようです。

カレッジには「コモン・ルーム」と呼ばれる部屋がいくつかあって、学生は「ジュニア・コモン・ルーム」教員は「シニア・コモン・ルーム」を使うところまではよくわかっていたのですけれど、調べたところベリオール・カレッジはいろいろな部屋を貸していて、「オールド・コモン・ルーム」もその一つに名前が挙がっていたのですね。で、グレッグと一緒にご飯を食べたのは、ここにしようと決めました。ま、私はそこに入っていないんですけれど。

実際には、ロケハン後にはさほど大きな設定変更はしていなくて、まあ、「行かなくても書けたんじゃない?」程度の記述ですけれど、それでも何カ所かに、取材の影響を受けた記述が混じっています。ま、まだずっと先ですけれど(笑)

アウレリオは、フラフラした人なんですけれど、マディへの熱愛っぷりは半端じゃありません。あ、一筋って意味ではないけど、でも最愛。
パワーも半端でないし、そもそも行動力がどっかのシマウマ研究者とは違いますね。
グレッグが結婚まで持ち込めたのは、ひとえにジョルジアに他の選択肢がなかったからだけかも。

オックスフォード時代の話は、もう少し後に出てきますので、少々お待ちくださいね。次回はジョルジアの話に少し戻ってきます。

コメントありがとうございました。
2019.05.15 20:55 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

たしかに「出会った瞬間に運命を感じた」といっても、両方がそう思っているとは限りませんよね。

最終的に、どちらも「一緒にいたい」となった場合には、きっかけが何にせよめでたいですし。

コメントありがとうございました。
2019.05.15 21:08 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ラテン系の男性の言動にはだいぶ慣れてきたつもりだったのですが、アウレリオもやっぱりですね。
民族性といったらそれまでなんでしょうけれど、このサービス精神は少しだけでいいので(たくさんはいりません)分けてほしいくらいです。
今回のお話で、なおいっそうこの物語の人間関係が見えてきましたが・・・ということはアウレリオは10歳くらい年下の15歳の少女に一目ぼれをして恋を貫き(最愛の評価は変えずに)、結婚まで行った。ということになるのですね。
なかなか半端無い情熱です。
マディもその情熱に弾かれていったのかも・・・。ドラマです。
ジョルジアたちとはまったくタイプの違った夫婦の登場とジョルジアの反応は楽しかったです。グレッグは諦めてる?
そしてその2人の出会いのエピソード。15歳の少女と熱を上げる青年の気持ちのすれ違いにも興味をひかれますね。
どんな甘い言葉を囁いたんだろう。
マディはどんな顔でそれを聞いたんだろう?
どちらかと言えばマディたちのほうが一般的なのかもしれないですけれど。
2019.05.16 11:51 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

アウレリオとマッテオ、若干キャラが被る面もあるのですけれど、イタリア系は必ずそうかというとそうでもないです(笑)
でも、日本人よりもこの傾向の人の数は圧倒的に多いですね。
マッテオと違ってアウレリオは(多少のおイタはするでしょうが)妻を熱愛しています。
でも、軽い人で、ペラペラ簡単に約束するけれど、守れないことが多いかも。とくに記念日デートなどは、いやしないということの方が多いようです。

アウレリオは、グレッグより少し歳下なので、十歳は離れていないのですけれど、大学生が高校一年生に懸想したようなものです。
ただ日本のよくいる十五歳と違って、ずっと大人っぽいですね。
で、周りも「どうせ軽い恋愛だろう」と思っていたら、あっさり結婚してしまったという感じですかね。

マディの方は、最初は「何この人」くらいだったのでしょうね。
グレッグに対する興味はあって、「私も知り合いたい!」とわざわざやってきたくらいですが、そこら辺の軽そうな男にいちいち運命を感じているほどヒマじゃないというところでしょうか。

それでも、しつこく口説かれると、そのうちにまんざらでもなくなっていったのかもしれませんね。
それに、風来坊のアウレリオと、結婚後もそれなりに上手くやっているところを見ると、なんだかんだいってお似合いの夫婦なのかもしれません。ジョルジアとグレッグとは、全く別のあり方ですけれど、それはそれで。

コメントありがとうございました。
2019.05.16 21:49 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
アウレリオ、初めての登場なのですね。やっぱりイメージしていた通り、親しみやすい人でした。
ジョルジアが、あれくらいの冗談に「なに言ってんですか~w」くらいに返せるようになるのは、もっと年月がかかりそうですが、でも、みんないい人たちで良かったです。
そうか、アウレリオはマディにこんなにメロメロなんだ。
マディも、ちょっと軽くあしらってるけど、大好きなんだろうな。
グレッグは、近くでこの夫婦をずっと見てるけど……アウレリオの様に愛情を表現することは、この先も無さそうですね^^。
(されたら逆に、ジョルジアがびっくりしてしまうか)
2019.05.19 06:35 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんばんは。

そうなんです。いつも羽が生えたみたいにどっかへいってしまうキャラなので、いたこと自体が奇跡みたいな(笑)
で、悪氣は全くないんですけれど、発言に相手がこっそり傷ついていても、全く意に介さないタイプです。
そして、確かに妻を熱愛しているのですけれど、でも、時々おやつはつまんでしまう困ったタイプかも。
で、怪しまれてもいないのに、変に更に家族サービスをして、やぶ蛇でバレて怒られる、の繰り返しです。
かなり歳下ですけれど、そのマディに完全に尻に敷かれています。

ジョルジアとグレッグは、全く違ったタイプの夫婦になるでしょうね。
彼は少なくともアウレリオやマッテオのような愛情表現は、何十年経ってもしないでしょう。
相手がジョルジアなので、それでいいのかも。

コメントありがとうございました。
2019.05.19 15:40 | URL | #9yMhI49k [edit]

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