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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(4)彼の問題 - 1 -

「霧の彼方から」の続きです。これまでは、ジョルジアが一人であれこれ考えていたのですが、今回はグレッグ側にスポットが当たります。プロローグで書いたイギリス行きの理由がようやくここで明らかになります。って大した話じゃないんですけれど。

今回もあいかわらず大したことはないR18的表現が入っています。苦手な方には申し訳ないですが、ここはストーリー上どうしても書かざるを得なかったシーンですのでお許しください。その代わり、この小説でのR18シーンはこれでおしまいです。

二つに切るか、三つに切るかまたしても迷ったのですが、二つだと後半が長すぎるので、やはり三回に分けます。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(4)彼の問題 - 1 -

 それはいつもの優しい舌使いとは違い、しごいて絞るような吸い付き方だった。ジョルジアは出産経験がないのでわからないが、まるで赤ん坊が母乳を飲むために母親の乳房に吸い付いているかのようだった。

 はじめはふざけているのかと思ったが、彼はその行為に耽り、まるで他のことを完全に忘れているかのようだった。彼の体重がのしかかり、腹部から下は圧迫されていたし、吸い付く力も強すぎて、快感よりも痛みが強かった。彼女は眉をしかめて呻いたけれど、彼はまったく意に留めなかった。

「グレッグ……。ねぇ、あの……」
彼女は、躊躇いがちに声をかけた。彼がそれでも反応しなかったので、彼女は不安になった。

 彼女は、手を彼の頬に当てて、少しだけ力を込めて押し返した。彼がびくっと震えて、動きが止まった。そして、彼は吸い付いていた口の力を抜き、彼女の乳首を解放してから起き上がった。

 暗闇の中で、数秒、何も動かなかった。彼女は、少し体を浮かせて、月の光で彼の表情を読もうとした。彼は少し震えていた。
「ごめんなさい。あの、ちょっと痛かったの……」

 彼は、はっと我にかえって、慌てて彼女の顔を覗き込んだ。
「すまない。僕は、その……」

 いつもの彼だ。ジョルジアは安心した。
「どうかしたの?」

 彼は、身を動かして半身分ほど離れた。ジョルジアは、彼が傷ついて自分の中にこもってしまいそうなのを感じた。それで、手を伸ばして彼の腕をとった。
「いいの。大丈夫よ。あなたのしたいようにしていいの。慣れていないやり方だったから、びっくりしてしまっただけなの」

 彼は、彼女の近くに戻ってきて、しばらく何も言わなかったが、やがて黙って抱きついてきて、しばらくそのままでいた。彼が声を殺して泣いているのがわかり、彼女は彼の背中をさすって落ち着くのを待った。

 その夜は、お互いにそれ以上のことをする氣は削がれてしまい、彼が落ちついてからそのまま眠った。

 夜明けに目がさめてから、二人はいつものようにルーシーと一緒に朝の散歩をした。ジョルジアは、昨夜のことには何も触れなかった。とても繊細な状態にある彼を急いで刺激しないほうがいいと思ったのだ。

 ジョルジアは、ジョンに傷つけられてしばらくクリニックに入院しなくてはならなかった時の、精神状態を忘れていなかった。今となってはありえないような奇妙な動作をくりかえし、側にいてくれた兄のマッテオは、狂わんばかりに心配した。それがおかしな行動だとは、あの時の自分は認識していなかった。彼女の心は違うところを彷徨っていたのだ。

 昨夜のグレッグは、おそらくどこか別の世界にいたのだ。もしかしたら、かつて愛していた人の幻影を求めていたのかもしれないし、そうでない何かに取り憑かれていたのかもしれない。それを無理に問いただしたりしてはいけないと思った。

「ジョルジア」
赤く染まったサバンナを眺めながら、彼が話しかけた。

「なあに?」
「昨夜は、すまなかった……。その……」

「いいの。氣にしないで。いま説明しなくてもいいの。もし、話したくなったら、その時に聴くから」
ジョルジアが言うと、彼は、こちらを見つめた。潤んだ瞳と、泣き出しそうな表情に、ジョルジアの心は締め付けられた。

「実をいうと、あの時、ほとんど意識がなかったんだ。自分でも、少しショックだった。その……もしかしたら、なんというか、医者にかかったほうがいいのかもしれない」
「お医者様って、なんの?」
「わからない。精神的なものかな」

 ジョルジアは、答えに詰まった。彼の落ち込んだ姿を見るのは辛かった。
「私は、専門的なことはわからないけれど、それほど病的だとは思わないわ。無意識に何かをするのは、時々あることじゃないかしら。疲れていただけかもしれないし」

「怖がらせたんじゃないか?」
心配そうに訊く彼をジョルジアは愛しいと思った。彼女は、そっと彼の掌を握った。
「心配しないで。大丈夫よ。だから、私が寝ぼけても、追い出したりしないでね」

 彼は、ほっとしてようやく小さな笑顔を見せた。

 ルーシーは、どんどん先へと歩いていく。二人は、いつものように会話をしながら、愛犬を追った。崖の下には、目覚めたばかりのキリンの群れがゆっくりと行進していた。いつもと変わらぬ、素晴らしい朝だった。
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Category : 小節・霧の彼方から
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

どうもグレッグは、なにかに夢中になると、完全に周囲から自分を遮断してしまうようですね。
もっとも、アレはジョルジアの分析のように、無意識での異常行動という感じですよね。本人も、そういうクセがあることを、知らなかったようですしね。
やはり、母親からの愛情を不足に感じていて、その代償行為でしょうか。幼児の指しゃぶりと同じ?
それとも、スカボロフェアの彼女と、なにかがあった影響で、とか?
次話が待ち遠しいです。
2019.05.29 08:57 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

そうなんです。グレッグのこの傾向、前作の七時間放置もそうでしたけれど、いい方向に解釈すると「とんでもない集中力」なんですけれど、要するに他のことが全部抜けちゃうみたいですね。これまでは、彼女もいなかったので、特に問題はなかった……というか、そんなこんなで約束もすっぽかしたりするものですから、「彼女ができるわけないだろう」でもあるわけです。

で、今回の行為については、全然自覚がなかったようです。
幼児の指しゃぶりは、かなり近い行為かも。
どこかに欠如しているものがあって、こうなっているのでしょうけれど、本人も未自覚なので論理的な理由があるわけではないのですね。
で、それをきっかけに、イギリスへ行き、いろいろなことに折り合いをつけていく……みたいな話ですね。

「スカボロフェアの彼女」……っているんかいな(笑)
ジョルジアが例によって勝手にグルグルしている話ですからねぇ。

コメントありがとうございました。
2019.05.29 23:19 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
女性はどうか分からないですが。
男性は、そういうゾーンに入る、というか。
周りを見向きもしないぐらいに集中力が先鋭化するときがありますからね。
それがどのような行為にしても。
のめり込む、ということが一番語弊がないかな。。。
( 一一)
2019.05.29 23:24 | URL | #- [edit]
says...
まぁグレッグが抱えているものを晒し出しているのは、悪いことではないと思うんですよ。
ジョルジアだって隠していたものを晒したのですから。
すべてを晒してしまうことは無理だと思いますが、隠していることが少ない方が、あとあと上手く行くかもしれませんもの。
グレッグはどういう状態になっていたのかよくわかりませんが、この後明らかになるのでしょう。
R18はどこまで書いていいのか、なかなか難しいのですが、2人の関係がここまで来ているんだ・・・と改めて思ってしまった回でした。

やっぱりルーシーがナイスジョブです。
2019.05.30 14:47 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

おお、そうなんですね。
まあ、この場合のグレッグは、「やるぞー!」というモードから、つい別の状態に没頭しちゃったみたいですけれど。

なんにせよ、集中力が高いのっていいなあと思う、注意力散漫な私です。
関係ないですけれど。

コメントありがとうございました。
2019.05.30 16:17 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

たぶん、グレッグも緊張がほどけてきているんだと思います。ジョルジアがいてくれることに慣れてきて、カチコチで対応していたのから、わりと自然に共同生活ができるようになっているのかも。で、氣を抜いたら違うモードにうっかり入ってしまった模様。

《郷愁の丘》には(ルーシー以外)邪魔に入るものもいないわけで、二人で過ごしていると、かなり頻繁に「営み」をしているようで、初々しかったジョルジアも「慣れないやり方で」みたいな発言をするようになってきているのですね。とはいえ、あとはそんなに必要もないし、これでR18的シーンはおしまいです。

ルーシーは、大好きな飼い主二人と散歩できて、尻尾振りまくりです。
もっとも二人の結婚式兼新婚旅行は、レイチェルのところでお留守番。怒るかしら?

コメントありがとうございました。

2019.05.30 16:40 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
今回はジョルジアさんの方が落ち着いてる感じですね
イチャイチャは熱心にする方が色々気にしてしまい
されてる側は案外冷静とかなんでしょうか?///

そんなに胸が好きなんて母性に飢えてるとかなのかな…
いずれにしても我に返ってあわわ…状態に><
でも男の人はみんな胸が好きらしいのでたぶん…
たぶん大丈夫です///
2019.05.31 13:49 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

ははは。ジョルジアの方はどうでもいいグルグルなので、何かあるとすっかり忘れてしまう程度です(笑)
それに、あれですよ、我を忘れるほど感じていると、女性側もあれこれ考えたりしないんですけれど、あ〜、その、いまいち……な感じだと「なんだよ、これ」と冷静にあれこれ考えたりするらしいですよ。でも、大抵の女性は優しいので「ちょー下手くそだね」なんて指摘はしなかったりするみたいですけれど。

それと。そうですね。グレッグも自分で「母性関係の問題かも」と分析したみたいです。

ところで。
清純な高校生であるダメ子さんが「男はみんな胸が好き」なんて情報をどこから?!
隣のお兄さんに、あまり乙女の夢を壊すようなことを吹き込まないでくださいとお願いした方がいいですよ!

コメントありがとうございました。
2019.05.31 20:31 | URL | #9yMhI49k [edit]

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