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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(4)彼の問題 - 3 -

「彼の問題」の続き、三回に切ったラストです。

前回、予定を変更しアメリカへ行く前にイギリスを訪ねたいと提案したグレッグ。この小説では、彼が今まであまり語りたがらなかった子供時代や青年時代の話などを、口にしているのですが、今回はその最初です。既に前作を含めていろいろな方から、ご感想をいただいているのですけれど、実の親子にしては距離のありすぎる奇妙な関係です。ただ、親に虐待されていたというような形ではなく、あくまでかみ合っていない関係だったというのがスタンスです。

上手くいっている親子関係はもとより、親に虐待されている子供も、現実にこの世界にはありますが、そうした親子関係ではなく、この特殊な親子関係を選んだのは、関係そのものよりも結果としての彼の存在のあり方が私の小説テーマに上手くはまったからなのですね。

次章はようやくプロローグで着いたイギリスに話が戻ります。あ。もっとも来週は、別の小説を発表します。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(4)彼の問題 - 3 -

 彼は、すまなそうな顔をして彼女を見た。
「母は、正直言って僕のことにはほとんど関心がないから、そんなトピックに触れられるほど長く話ができるかわからない。だから、行く甲斐があるかも疑問なんだ。それに、アフリカだけでなくアメリカに対しても偏見があるので、もしかしたら君に失礼な態度をとるかもしれない」

 ジョルジアは首を振った。
「構わないわ。どうってことないわ。それに、お母様と話す時に、私が行かないほうがいいなら、一人で観光していてもいいし。あなたの育った街を見るのも楽しみだもの」

 彼は、チェストに置かれた写真立てを眺めた。以前《郷愁の丘》に滞在した時にはなかったもの。それは亡くなった父親スコット博士の生前の姿だ。

「本当は、母と話すのが必要なことか、よくわからないんだ。でも、父との関係を何とかしようとしたこと、あの行動を起こしたことは、僕の人生を大きく変えたんだと思っている。その、想いだけが空回りしていて、結局一人では彼と上手く話せなかったけれど。でもあの時、君が側に来てくれて、レイチェルも骨を折ってくれて、最後には彼に嫌われていたわけではないことを知ることができた。あの数日間に、『僕は誰からも嫌われる存在』ではないのだと始めて思えたんだ」

 ジョルジアは、思いやりを込めた瞳で頷いた。
「あなたもお父様のことを慕っていたんでしょう」

「わからない。ケニアに戻ってくるまで、僕にとって父は肉親というよりも養育費を払ってくれる他人みたいな存在だったんだ。どんな感情を持っていいのか、わからなかった。手紙もなかったし電話もしなかったから、銀行の振込金額でしか存在が確認できなかった。ずいぶん前にレイチェルが、僕と父の顔は似ているって言って、ドキッとしたよ。その時にようやく肉親として意識した感じなんだ。君は父に実際に会って僕と似てると思った?」

 ジョルジアは病床のスコット博士を思い出そうとした。
「ご病氣でとても痩せて、それに瞼を閉じていらしたから、確かじゃないけれど、マディとあなたの目元の辺りはとてもよく似ているから、それはお父様から受け継いだんじゃない?」

「いわれてみるとそうかもしれないな。母からは、父は僕には自分に似た所が全くないと、我が子かどうか疑っていたって言われてたから、レイチェルの言葉を聴いて、嬉しかったんだ。本当のところは、わからないけれどね。もっとも、母は僕によく言ったよ。『お前は本当に父親とそっくりだ』ってね」

「大きくなって似ているところが際だってきたのかしら」
「多分違うな。外見よりも、振る舞いが彼女の氣に入らないと、そう言ったんだ。こんな振る舞いをするのはあの男の血のせいだって言いたかったんだろうね」
「……」

「僕は、父の記憶がなかったから、そうなのかと思っていたけれど、成人してから再会した父は、僕みたいにぐずぐず考えてばかりではなくて、有言実行の人だったよ。だから、僕は少しがっかりしたんだ。本当に父から受け継いだところがあって欲しかったって」

「あるわ。あなたもお父様と同じように立派な動物学者じゃない」
「父は確かに一流の学者だったけれど、僕は違う。でも、怒り任せだった母の言葉は、僕に根拠のない自信を抱かせたのかもしれない。父に似ているのならば僕も立派な動物学者になれるだろうと、大学を卒業するまでなんとなく思っていた。そうじゃなかったら、もっと早くに諦めてしまったただろうね」

「お父様は、あなたが自分と同じ動物学者になってくれて、嬉しかったんじゃないかしら」
「どうだろうね。でも、彼が祖父のトマス・スコットを心から尊敬し誇りを持って同じ職業についたいたことは知っている。だから、僕が同じ道に進むのを嫌がらないでくれてありがたかったよ」

「あなたはお母様にも似ている?」
ジョルジアが訊くと、彼はわずかに間を空けてから口を開いた。
「似ている所はいくつかある。髪の色が同じだし、あまり背が高くないのも母の方からもらったかな」

 だが、彼は氣質の相似点については、全く口にしなかった。


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Category : 小節・霧の彼方から
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

前回のコメントでマザコン発言をしましたが、考えてみれば、グレッグは母親どころか両親の愛情を受けずに育っちゃったから、巨大な心的欠損をどう埋めるかという問題があるんですよね。
父親とのことは、なんとか折り合いをつけたわけですが、母親の方がまだですからね。ただ、母親と面会することで、なにかが変わったり、折り合いがついたり、というふうになるには、あまりにも心の距離が開きすぎているようにも思えますので、グレッグの台詞どおり『よくわからない』というところでしょうね。
とはいえ、グレッグは何かを受けいれるためのキャパがかなり増えているでしょうから、これは大きなチャンスかもしれません。

ところで、母親との件はともかく、もうひとりの女性の件も気になりますねぇ。なんかすっかり母親の方に話が行ってしまっていますけど、そっちのカミングアウトはいつなんでしょう。

来週は別の小説なんですね。
「十二ヶ月の・・・シリーズ」でしょうか? 楽しみにしています。
2019.06.12 09:18 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
どうなんでしょうね。
親子の関係っていうのは、千差万別。
人それぞれで違うと思いますし。
一般論で正解と一括りにできることでもないですからね。
答えがないからこそ難しいところですよね。

医療職をやっていると、複雑な親子関係なところもあるから。
その辺の関わり合いは結構難しい。。。
( 一一)
2019.06.12 10:38 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよね。おそらく、ファザコン&マザコンでもあるのかも。同時に、アダルトチルドレン。
他の人との距離感がどう考えてもおかしいのは、人生の最初の社会関係で妙なことになってしまったからですけれど、この小説では、彼を巡る(少ないけれど)けっこう重要な人間関係が次々と開示されていきます。まあ、その一つが例の祖父や長老でもあるんですけれど。あと、リチャードたち、レイチェルとマディも。

父親とのことは、「これでいい」というわけでもないのでしょうけれど、もう亡くなってしまったので,どうやってもこれ以上縮まることはないのですよね。ただ、ギリギリで少しだけ前進したことを、本人は「よし」としているようです。

母親の方は、生きているんですけれど、でも、父親よりもちょっと難しい。
ジョルジアはまだ知りませんが、TOM−Fさんをはじめ読者の皆さんは、レベッカを知っていて二人の仲直りに関しては「ダメだこりゃ」と思われているのでは。

さて、ジョルジアの引っかかっていた方の「女の影」は、どうなるでしょうね。
っていうか、こうやって思わせぶりに書いているのに、全く触れないなんてことは……。

というわけで、もう少々お待ちください(笑)

あ、来週は六月分です。その後、ポルトに行くので,小説を発表するかどうか,ちょっと迷っています。ううむ。

コメントありがとうございました。
2019.06.12 21:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

ああ、お仕事で親子と関わることって、他の仕事よりも多いのかもしれませんね。
「親だから、こうするかも」「子供だったら、そう反応するだろう」と
決めつけたりできないところが難しいですよね。

まったく「無関係」で通すこともできないでしょうしね。

コメントありがとうございました。
2019.06.12 21:12 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
グレッグさんがまたヘタレてる
男の人は女の人とゴニョゴニョすると自信がついて
なんでも上手くいく的な謎理論があるらしいですが
やっぱりそんなことはないんですね

でもお母さんに会いに行くってことは
やっぱりちょっと自信がついたってことなんでしょうか?
2019.06.13 10:27 | URL | #- [edit]
says...
サキはグレッグとスコット博士との関係はありえるものだと認識しています。
上手くはいっていませんでしたが、実際にもこういう関係は存在しそうですし、スコット博士の心の内もなんとなくですが納得できています。

親子って取り替えられないものですから一度関係が破綻してしまうと大変です。
スコット博士なんか、グレッグが行動を起こさなかったら、というかジョルジアがきっかけを与えなかったら、あのまま終了だったんですよね。考えさせられます。
今、チェストの上に写真を置いておけるようになっただけでも、なんだかホッとしています。

今度は母親の番ですが、描かれる母親像がはたしてどんなものなのか、今まではとてもひどい関係でしたが、それがそのままの印象で終わるのか、スコット博士の時のように変化するのか、楽しみにしています。
母親との氣質の相似点?それにジョルジアが気にする女性の影、気にりますね。
2019.06.13 11:59 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

ヘタレは彼のデフォルト状態ですから(笑)
母親にも会いに行けないヘタレって、どんなだ……。
そんなこんなで、行くようです。

ごにょごにょすると自信がついてまではわかりますが、何でも上手くいくんですか?! 
あ、そしてゴニョゴニョの失敗は、けっこうなダメージになるって,誰かが言っていました。
清純な私は、そういうことには詳しくないのですが。

こんど隣のお兄さんに、くわしく取材しておいてくださいね!

コメントありがとうございました。
2019.06.13 20:18 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

お、梅雨に入りそうで、まだなのですね。
少し先に伸びるといいですね。

さて。
スコット父子の関係は、欧米的にはかなり特殊だったかもしれません。
とくに、ジェームスは認知はしていなかったのに、マディとはちゃんと親子をしていたのですから。

ジェームスは、我が子ではないのではと疑って、もともと仲の悪かったレベッカを激怒させ、別居&離婚以降グレッグとほとんど関わりを持たなくなりました。そして、グレッグが母親側について自分を毛嫌いしていると思い込んでいた節があります。要はコミュニケーション不足で、母親とも上手くいかずに悩んでいたなんてことは夢にも思っていなかったようです。自分が言いたいことはハキハキ言うタイプなので、何も言わないのは言いたいことがないからだと決めつけたのですね。

グレッグが,もう少しオープンに訴えかけたら、もしかしたら遠く離れていたとはいえ、ジェームスとの関係は改善していた可能性はあります。

反対に、母親との関係は、近くにいても少し難しかったと思います。「腹を痛めた我が子なんだから」的に、母親がこんなに冷たいのは奇妙だと感じる方もいらっしゃるかと思いますが、実はこの母子像は私のものすごく身近にモデルがあります。日本人親子ですけれど。

グレッグ視点から見ていると、どうしてもレベッカが悪い人間のように感じてしまうと思うのですけれど、彼女は悪人ではありませんし、虐待をするような女性でもないのです。むしろ「なぜ我が子に虐待をするようなひどい人間がいるんだろうか」と堂々と言ってしまうようなタイプの人です。つまり、グレッグが何に傷ついて,ああしたタイプに育ってしまったか、全く理解できない人なのですね。

マッテオ系の家族愛に慣れているジョルジアには、ちょっと考えられない関係ですよね。

さて、「女性の影」ですが、全く出てこない……なんてことは、この流れではあり得ませんよね。次回からようやくイギリスが舞台です。お楽しみに。

コメントありがとうございました。
2019.06.13 20:41 | URL | #9yMhI49k [edit]

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