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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(7)恩師 - 1 -

「霧の彼方から」の続きです。

母親レベッカ・マッケンジーと短く言葉を交わしたのみで、グレッグは母親との関係改善をすることもなく、バースを後にしました。大学時代の恩師から「イギリスにいるのならぜひ会いたい」との連絡を受け、ジョルジアを連れて学生時代を過ごしたオックスフォードへと向かいます。

この作品を書き出した時点で、私はオックスフォードに足を踏み入れたことがなかったので、かなり「これでいいのか」と首を傾げながら書いていました。三月に縁あって無事ロケハンにいけたので、その頃よりは「まあ、こんな感じかな」と思いながらの発表です。でも、とんでもないこと書いているかも……。

この章も三回に分けます。恩師、出てきていないじゃん orz


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(7)恩師 - 1 -

 バースから乗り換えを含めて一時間半ほど電車に揺られ、オックスフォードについたのは昼に近い時間だった。駅を出たところは、ごく普通のビルが建ち並んでいたが、橋を渡った辺りからは赤茶色と白の煉瓦で覆われた、歴史ある町並みが現れた。マグノリアが咲き乱れ、街をさらに華やかにしている。

 まずは、ホテルに向かい荷物を預けることにした。ホテルの名前を告げたところ、グレッグは困惑した表情を見せた。かなり有名な五つ星ホテルだったからだ。
「その……部屋の料金は確認したのかい?」

 ジョルジアは肩をすくめた。
「昨日、私が予約したホテルはもっとリーズナブルだったんだけれど、それじゃダメだって、アレッサンドラが、このホテルを指定してきたの」

 ニューヨーク到着を遅らせて、イギリスに滞在することを兄マッテオから聞いた妹アレッサンドラから懇願の電話がかかって来たのは、ケニアを発つ二日前だった。

 イースター休暇を利用して、マンチェスターの父親の元に滞在する娘アンジェリカを当初はアレッサンドラが迎えにくる予定だったが、夫の生家で不幸があり彼女はドイツで伝統に基づく葬儀に参列しなくてはいけなくなったのだ。レアンドロは、試合があってアメリカまで娘に付き添うことは不可能だった。そんな時に、ジョルジアが偶然イギリスに行くというのは神からの救いの手に思えたのだろう。

 予定では二日後に、バースにレアンドロが連れてくることになっていたが、もしかしたらマッケンジー家に滞在することになるかもしれないと考えていたジョルジアは、滞在先を着いてから連絡する取り決めをしていた。オックスフォードに移動することになったので、同時に予約したホテルを知らせたところ、アレッサンドラがあっという間に予約変更をして連絡してきたのだ。

「だったらアンジェリカの来る前の二日間だけ、安いホテルに泊まるって言ったんだけれど、有無を言わさずにホテルを変えられちゃったわ。前のホテルのキャンセルも終わっているって。また全額払われてしまったわ、困っちゃうわね」
「そうか、姪御さんの安全問題かな……。そのくらい自分で払うと言えないのは歯がゆいけれど、そういうことなら贅沢させてもらうか」

 金モールのついた外套を着用したドアマンに丁重に迎えられるような経験は、二人とも滅多にしたことがなかった。そのホテルは灰緑のどっしりとした石造りの外観で、中心地に位置するにもかかわらず、中に入ると静かで落ち着いていた。

 早い時間だったにもかかわらず、すぐに部屋に案内された。天蓋のついたベッドのある広い部屋で、二人は思わず顔を見合わせた。
「こちらのドアで、続いているお隣の部屋へと直接入ることができます」

 どうやらアンジェリカが泊まる予定の部屋は、二日も到着しないにもかかわらずすでに押さえられているらしかった。

 サザートン教授にはお茶の時間に招かれていた。ジョルジアは、グレッグの母親を訪問したときと同じスーツに着替えた。ホテルのレストランで食べるほどはお腹がすいていなかったので、二人は街を歩いて、書店に入り、その二階のティールームで軽食を食べた。

 それから、サザートン教授に花かチョコレートを買うために少し街を歩いた。

「ワインか何かの方がいいのかしら?」
ジョルジアが訊くと、グレッグは首を傾げた。
「ワインを飲んでいる姿は見たことがないな。もっとも、僕がカレッジのバーにも寄りつかなかったからでもあるけれど」

「カレッジにもバーがあるの?」
ジョルジアは驚いた。

 オックスフォード大学では、学生は街に散らばる38のカレッジのどれかに所属し、大学の学部とカレッジの両方で指導を受けるというシステムを取っている。

 カレッジが、それぞれの講堂や教室、図書館などの他に、礼拝堂や食堂などを持っていることはグレッグの説明でジョルジアも知っていたが、酒を出すところまで揃っているとは思ってもみなかった。

「ああ、C.S.キャロルとJ.R.R.トールキンが一緒に通っていたことで有名な『The Eagle and Child』みたいに、普通のパブを大学が経営している場合もあるんだけれど、それとは別に大学の学生食堂のような感じで校内にバーがあることもあるんだ。普通は、外のパブよりも安く酒を飲めるので、通う学生は多いよ」

 結局、二人はチョコレートとポートワインを買った。彼の母校であるベリオール・カレッジのある街の中心部に戻ろうとしている時、不意に彼が「ここは……」と言って立ち止まった。

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Category : 小節・霧の彼方から
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

恩師、出てませんね(笑)
それは次話以降の楽しみとして、今回も取材の成果が出ている感じですね。
そっか、大学にパブまであるんだ。
私が通っていた大阪の某大学には、そんな施設はなかったですね。代わりに、駅から校門もでの間に、パチンコ屋やら雀荘やらゲーセンやら居酒屋やら喫茶店やら……と娯楽のオンパレードでした。通称、親不孝通り(爆)
オックスフォードだと、パブでも学生同士が、学問のあれこれを熱く語り合っていたりしたんでしょうね。

泊る客もいないスイートルームを予約してしまうなんて、さすがにスーパーモデルは太っ腹ですが、姫君はジョルジアと同室を希望するんじゃないかなぁ。そうなると、グレッグはだだっぴろい部屋でひとり寂しく、なんて姿を想像してニマニマしてしまいました。

さて、グレッグが足を止めた場所、どんな思い出があるんだろう。
次話が楽しみです。

P.S.イタリア旅行とグリルパーティの疲れが出ませんように。
2019.09.04 13:42 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

シマウマの回に続く、「題名に偽りあり」シリーズ(笑)

さて、この章は一番ロケハンでゲットした情報がたくさん使われていると思います。
子供の頃にほんの少しだけ済んだバースと違って、いくら引っ込み思案でも学生時代を過ごしたという設定上、グレッグの説明にはかなり具体性を持たせなくてはいけなくて、一番苦労した部分かも。でも、わざわざ行った甲斐のある文がいくつかあるんですよ。どれとは言いませんけれど。

大学のパブの情報は、現役大学院生がバイトでガイドしてくれるウォーキングツアーで仕入れたネタで、ハリ●タで有名な某カレッジのバーは結構広かったのですが、グレッグの出身校と設定したベリオール・カレッジのは、パブと言うよりはコーヒーも飲める売店の延長線みたいな感じでした。しかし、大食堂の方はすごかったですよ。正装して晩ご飯食べるんですものね。

カレッジによっては、大学の建物といわゆる寮が遠く離れていて、寮の方で飲みまくりながら熱く語る、みたいな事もあるらしいですが、どうやらベリオール・カレッジは歴史がやたらと長いため、オックスフォードの正に中心地にある構内に学生寮と先生の住まいがあるらしいです。ただし、全学生が寮に入るわけではないようで、しかもカレッジ直営の寮は高いとガイドさんは教えてくれました。グレッグは貧乏故にわりと早めに安い寮に引っ越し、そこでリチャードやアウレリオと知り合ったという設定にしてあります。

TOM−Fさんも、大学時代には「親不孝」にいそしんだりなさったのでしょうか(笑)
大阪の親不孝通りって、聞いたことありますよ。親不孝に飲むときも、やはり粉もの食べるんだろうか……。

さて、この超高級ホテル、モデルはマクドナルド・ランドルフ・ホテルといいます。「ロケハン」という名目で、中に入ってお茶してきましたよ。ただお茶しただけですけれど(笑)

一人寂しく寝るグレッグは、似合いすぎですけれど、どうでしょうね。まあ、そうでなくてもドアを隔てた向こうに子供がいるとなると、さすがに「情熱の夜」は難しそうですよね。あはははは。

さて、グレッグが通りかかった場所、若かりし頃の何かを思い出したようです。
どんなところなのかは、次回……。

いろいろとお氣遣いありがとうございます。休暇の残り数日をひたすらダラダラして過ごしています。

コメントありがとうございました。
2019.09.04 21:20 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
流石にロケハンをされただけあってオックスフォード、リアリティありますね。
ホテルの件は面白かったのです。もちろん姉の新婚旅行だという事や、アンジェリカの事もあったのでしょうが、これってアレッサンドラにとっては至極当然のことで、姉貴何やってんだ・・・なんて感覚もあったんじゃないだろうか、と想像しています。
教授との再会も楽しみなのですが、アンジェリカとの合流も楽しみになってきました。
彼女、かき回すのかなぁ・・・。
おや?ここは・・・って、なんだなんだ?
2019.09.07 13:26 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

ここに関しては、ロケハンの甲斐がありましたね。
ものすごくどうでもいいことですが、二人がランチを取ったことになっている場所(書店の二階)にカフェテリアがあるなんてことも、目にしたからかけたことですし。

この名前は書いていないけれど、明らかにマクドナルド・ランドルフ・ホテルに泊まらせようと思ったのは、ロケハンの前でした。それで、このホテルの駐車場のことが知りたくて、それでオックスフォードへ行ったようなものだったりして(笑)わざわざ行ったので、お茶してきましたよ。

アレッサンドラにしてみたら、「ここに泊まるから」と言われた星二つくらいの安いホテルは論外だったようですね。なんせ前夫がスパイダーベローチェに乗って乗り付けてくるので目立ちまくりですし、その夜、警備も野次馬を遮る手段もほとんどないところで、その手の迷惑行為になれていないジョルジアたちがアンジェリカの子守をしつつ泊まるなんて無理に決まっていると。で、彼女はお金ならいくらでもあるので、二室続きのけっこうなお部屋をさっさと予約してしまったようです。

アンジェリカは、最終章で出てきますよ。あそこはかなり楽しんで書いたなあ。

そして、グレッグが足を止めた場所。あまり観光客などは足を踏み入れない一角のようです。
どんなところでしょう。

コメントありがとうございました。
2019.09.07 20:41 | URL | #9yMhI49k [edit]

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