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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(8)もう一人のマデリン - 6 -

「霧の彼方から」の続きです。『もう一人のマデリン』六回に分けた最後です。ようやくこの章も最後、長かったですね。

この連載の開始前に公開したPR動画での台詞、氣になさっていらした方もあるようですが、たぶんこの回のアレじゃないかしら。予想通りの意味合いでの台詞か、それとも全然違う意味合いを想像なさっていらしたのか、ちょっと興味があったりします。

さて、少しだけ別小説を挟んだ後、この小説もついに最終章に入ります。今年ももうすぐ終わり。妙に早いなあ。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(8)もう一人のマデリン - 6 -

 グレッグは、瞳を閉じてうなだれた。
「僕のために……僕はなにも知らずに、誰にも受け入れてもらえないといじけていたのか」

 ジョルジアは、彼の髪を梳き、そのまま顎髭に指を絡めて優しく撫でた。
「でも、あなたは、彼女の期待に応えたわ。ちゃんと卒業して、立派な学者になった。そして《郷愁の丘》で、望む仕事ができるようになった。アトキンスさんは、それを知ったらとても喜ぶと思うわ」

「そして、ケニアでシマウマの研究をすることができたから、君と出会うこともできたんだ」
瞳を上げて、彼はジョルジアを見つめた。

「僕は、こんな歳だけれど、今までこんな密接な関係を誰かと持ったことがない。愛想を尽かされて去られることを怖れて、ちゃんとした関係を築く努力をしてこなかったんだ。君と上手くやっていきたいし、不快な思いはさせたくないけれど、おそらく僕はまた失敗をたくさんすると思う。嫌だと思ったことは言って欲しい。そして、僕に自分を変えるチャンスをくれないか」

「グレッグ。それはそのまま、私の言葉よ。私たち、お互いにそうやって一緒に歩いて行ける、そう思わない?」

「ありがとう。ジョルジア」
「それに……」

「それに?」
彼女は、彼を愛おしいと思うと同時に、心からの憐憫を感じた。この旅で知ったのは、彼女が想像していたようなノスタルジックで甘い過去ではなく、彼のあまりにも寂しい半生だった。

「あなたはもう一人じゃないわ。私では代わりにはならないのはわかっているけれど、でも、これからは、私があなたを抱きしめて暖めるから。お祖父さまやご両親の代わりに。ジェーンの代わりに。アトキンスさんの代わりに……」

 彼は雷に打たれたように、ビクッと震えた。そして、彼女の言葉を遮った。
「君は誰かの代わりなんかじゃない」
彼の少し強い調子に、ジョルジアは驚いた。彼は、じっと彼女を見つめて言った。

「そうじゃない。君を、誰かの代わりに仕方なく抱きしめるなんてことはない。絶対に」
「グレッグ」

「そうじゃないよ。反対なんだ。僕はこれまでの人生、ずっと君を探し続けていたんだ。まだ君を知らなかったから、その代わりにあちこちで、違う人に間違った期待をかけて、断られて、困惑していたんだ」

 ジョルジアは、再びそっと彼の頬に触れた。彼はその手を暖かい手のひらで包んだ。
「長老の言葉を、僕は間違って解釈していたみたいだ」

 彼女は首を傾げた。彼は笑って続けた。
「『答えはお前とともにある』と言われたのを、僕は答えを自分で知っていると言われたと思っていた。でも、そうじゃなかった」
「そうじゃなくて……?」

「僕が人生をかけてずっと探していた問いの答えが君なんだ。そして、君は本当に今、僕の側にいてくれる。ここまで来る必要なんかなかったんだ。僕の求めていた愛情も、探していた温もりも、見続けていた夢も、理想の女神の形をとってここにいるんだから。愛されなかった過去に苦しむ必要なんかもうないんだ。君が愛してくれたから」

 ジョルジアは、彼の胸に顔を埋めて呟いた。
「私は、ここに来て良かったと思っているわ。あなたのことを知りたかったの。知り合うまでのあなたの人生を理解したかったの」

「僕は、知られることに不安を持っていた。いつも、何か上手く行きかけると、後からやはりダメだったと落胆することばかりで、今度もそうなるんじゃないかと怖れていた」

 ジョルジアは、彼の瞳を見上げた。
「私も怖れていたわ。あなたが、私が理想の女神じゃないと知ったら、きっと離れていってしまうって。でも、あなたは、私の肉体や精神の欠点を知っても変わらずに愛してくれた」

 グレッグは、ジョルジアの頬に優しく触れて答えた。
「それは君の欠点なんかじゃないよ。確かに君は他の人とは違う外見を持ち、別の行動をするだろうけれど、それは単なる違いなんだ。僕は模様のないロバの毛皮もいいと思うけれど、シマウマの縞模様のことをとても美しいと思う。君の服の下に隠れている肌も、僕にできないことを瞬時にやってみせる好奇心も、君が君である全てを僕は愛しく思う。そして、君が情けない僕のことも、こんな風に愛してくれるのも同じ理由なんじゃないかと思うんだ」

 ジョルジアは、彼の言葉をその通りだと感じた。
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Category : 小説・霧の彼方から
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

ふむふむ、グレッグが得た「答え」は、それでしたか。こういうふうに言われたら、ジョルジアは感動しますよね。

しかしマサイの長老、微妙というか、どのようにでも受け取れる言葉を発したものですね。これ、どんな結果になっても「当たり」ですよね。いまの状況どおり、ジョルジアが共にいてくれる、でもいいし、仮に振られていても、グレッグ自身のなかに答えはある、でいいわけだし。親切なんだか、くわせ者なんだか。

なんにせよ、この二人、ここに来て良かったということは間違いないですね。あのままでも、うまくはやっていたと思うし、いずれ似たような対話で理解はしあっただろうと思いますが、やはりグレッグの過去に直接的に触れたことは、より深い理解へと導いてくれたわけでしょうから。

次回からは、豪華客船帰りのアンジェリカが合流ですかね?
終章、楽しみにしています。
2019.11.06 06:30 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
『答えはお前とともにある』
たしかにそのとおり、意味深ですよね。
どうとでも解釈できると考えればそれまでですが、グレッグがずっと探していた、と考えればそれはそれで納得のいく結果になったということなのでしょう。
「君は誰かの代わりなんかじゃない」彼の気持ちを正確に伝えるいい言葉です。
 ジョルジアはまだ一歩引いて考えてましたからね。この台詞で思い切って前に進めるでしょう。グレッグにしてもです。ロバとシマウマのたとえはアレですけど・・・。
でも、こんなに上手く行くことって、運命の出会いって、現実にはそう簡単にはないと思うんですよ。
でもとっても自然にここまで連れてこられました。
これが小説ってものなんでしょうね。
よかったって、心底思えますもの・・・。

2人はここ、オックスフォードを一生忘れることはできないでしょう。
あ、ようやく素敵な夜が・・・。
2019.11.06 12:51 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

はっきり言って「イギリスまで来なくてもそのくらいわかるだろう」 な内容ですけれど、一つ一つの過去の引っかかりを歩いて確認することで、ちゃんと結論付いた、という感じなのかもしれませんね。


長老は、もちろん食わせ者です(笑)
この人、どんなことをどんな風にいえば尊敬を得られるのかちゃんとわかっている感じ。さらにいうと、お礼も重々しく受け取りますが決して辞退しません。もらって同然的な。

とはいえ、白人社会からほぼ忘れられている窓際学者のグレッグのことをそれなりに心にかけていて、折々に助言してくれています。
ジョルジアを連れていったときも、ズバッと背中を押すことをいっていましたよね。

で、いずれにしても二人にとっては、意味のある旅になりました。
これ、グレッグにとってだけではなく、ジョルジアのモヤモヤも解消する、それぞれの心の旅になっていたわけです。
また、小説としては二十年間くらいかけてごちゃごちゃわかり合うよりも、こういう形をとった方が、ストーリーとしてわかりやすくなりますしね。

あ〜、アンジェリカ。実はまだ拓也が入っていて……というのは冗談で、豪華客船帰りではなくマンチェスター帰りで登場します。
今度はここまで長くならない予定です。また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2019.11.06 22:00 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

本当に長老の言葉なんて、適当に言ったと解釈しても構わないのです。それをどう受け取るかが、グレッグの心の決着の付け方って事になるのですよね。

グレッグにとってのジョルジアと、ジョルジア自身の自己評価はかなり乖離していて、彼の言葉はそれをはっきりとさせているようなところがあります。

婚約者をロバとシマウマに喩えるなんてどうかと思うでしょうが、これは彼の専門に関わっている動物なのです。
ロバとシマウマは種としてかなり近いのですね。スワヒリ語でも「縞のあるロバ」という意味の「プンダ・ミリア」といいますし。
彼は大学時代はロバの研究で卒業論文を書きました。
で、シマウマの縞は本当に美しい模様なのですけれど、ジョルジアのコンプレックスになっている肌のこともそれと同様に美しいと思っているようです。あばたもえくぼみたいな感じでしょうか。

素敵な夜は……どうでしょうかね。
もうしつこいので、その辺の描写はすっ飛ばしてしまいました(笑)

コメントありがとうございました。
2019.11.06 22:09 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
う~~む。
これが愛を育む・・・。。。
・・・と感じます。
(*´ω`)

旅行で、新しいものを発見することはありますよね。
新婚旅行にしても、二人で旅行にしても。
今までデートでしか見れなかった部分を再発見して。
惚れ直したり、あるいは、そこで喧嘩になったり(笑)。
とっても大切なことですね。

2019.11.08 00:20 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

内容が内容なので少し小っ恥ずかしいですが、そういうテーマなので腹をくくって書きました。

本来ならば、普通の生活の中で会話をしたり
小さな出来事の積み重ねで理解し合っていくものでしょうが
小説でそれをやると長くて退屈なものになります。
それで今回は(今回も?)物理的な旅を使って
精神的にも旅をさせた、という構成にしてみました。

いずれにしても再発見と相互理解はとても大切ですよね。
どんな関係性でも。

コメントありがとうございました。
2019.11.09 00:17 | URL | #9yMhI49k [edit]

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