FC2ブログ

scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(9)新しい家族 - 1 -

「霧の彼方から」の最終章『新しい家族』です。本当は五回に分けたかったのですが、そうすると年内に「十二ヶ月の歌」を発表できなくなってしまうので、無理矢理四回に分けました。

今年どういうわけか妙にたくさん出してしまったキャラクターであるアンジェリカが登場します。別にラスボスではないです(笑)

前作を読んでいない方のために簡単に説明すると、アンジェリカは元スーパーモデルであるジョルジアの妹アレッサンドラ・ダンジェロと、ブラジル人サッカー選手レアンドロ・ダ・シウバの間の娘です。両親が離婚しているので、二人の間を行ったり来たりしています。


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(9)新しい家族 - 1 -

 レアンドロ・ダ・シウバは、愛娘に何度もキスをして、抱きしめた。
「じゃあな、アンジェリカ。五月には会いにいくから、それまでのさよならだ。ああ、明日の試合がなかったら、あと三日は一緒にいられたのに。なあ、もう少し、こっちに居たくないか。パパと、またマンチェスターに戻ってもいいんだぞ」

「パパったら。そんな訳にはいかないのはわかっているでしょう。どっちにしても、来週には学校が始まるのよ。大丈夫よ、パパ。一ヶ月半なんてあっという間ですもの。ロサンゼルスで待っているわ」

 イースター休暇を利用して、マンチェスターの父親の元に滞在していたアンジェリカは、ジョルジアたちと共にアメリカへ帰ることになっていた。アレッサンドラからの連絡を受けたレアンドロは、愛娘を愛車に乗せてオックスフォードまで届けに来た。

 永遠に思われる「さようなら」の儀式を、ジョルジアとグレッグは顔を見合わせてから、何も言わずに辛抱強く待っていた。レアンドロの車は目立つし、そのオーナーはサッカーに興味がない人ですら記憶に残るほどの有名人だ。彼の娘がそこら辺にいるとわからないように、わざわざ五つ星ホテルのロビーで待ち合わせたのだ。

 それなのに、車寄せに見送りに行き、ドアマンだけでなくその場を通る一般人にも丸見えのところで二人は別れを惜しんでいる。

 やがて、レアンドロは、ジョルジアたちに簡単に別れを告げると、名残惜しそうに去って行った。

「三時間も乗っていたんですもの。車はもうたくさん」
車が見えなくなると、アンジェリカはぽつりと言った。レアンドロ自慢のスパイダー・ベローチェも彼女にとってはただの車にすぎない。娘が自分のようにドライブ好きだと疑わずに思っているレアンドロには氣の毒だが、マンチェスターからオックスフォードまでのドライブは、アンジェリカには退屈だったようだ。

 彼女は、くるりと振り向くと、父親と別れる寂しさで、真っ赤になった目元を伏せた。手元のビーズつきのハンドバッグからレースに縁取りされた薄桃色のハンカチを取り出して、目をぬぐい鼻をかみ、またバッグに投げ込んでパチンと閉じた。それから、にっこりと笑うと、グレッグに手を差し出した。
「初めまして。私、アンジェリカ・ダ・シウバよ」

「初めまして。僕は、ヘンリー・グレゴリー・スコットだよ。ああ、君はたしかにジョルジアの家族だね。とてもよく似ているよ」

 それを聞いて、ジョルジアは目を丸くした。アンジェリカも一瞬驚いたが、すぐに嬉しそうに笑った。
「そう言ったのは、あなたが初めてよ。みんなアレッサンドラ・ダンジェロそっくりっていうのに」

「ってことは……」
グレッグが自信無さそうに二人の顔を代わる代わる見た。ジョルジアが答える前に、アンジェリカは言った。
「もちろん知っていると思うけれど、私のママよ」

「僕は、君のママにはまだ会ったことがないんだ」
グレッグの言葉はアンジェリカには新鮮な驚きだった。
「ママを見たことないの? 雑誌でも?」

「アンジェリカ。グレッグは、ケニアの動物学者なの。アメリカの芸能雑誌は読まないし、スーパーモデルにはそんなに興味ないと思うわよ」
ジョルジアは少し慌てて言った。グレッグは、困ったように笑った。

 アンジェリカは、可笑しそうに笑った。ママの顔を知らないなんて人、はじめて。
「うふふ。そういう人もいるのね。最高。姻戚になる人の中で、絶対に仲良くなれそうと初日に思ったのはあなたが初めてよ。ねえ、私もグレッグって呼んでもいい?」

 それを聞いて、グレッグはほっとしたように笑った。
「もちろん」

「アンジェリカ、お腹は空いている?」
「そうね。そんなに空いてはいないけれど、何か美味しいものが食べたいなあ。ソニアの料理って、あまり美味しくないんだもの。パパのウェイトコントロールのためだと思うけれど」

 ジョルジアは、小さいアンジェリカが父親の新しい妻にあまり歓迎されていないことを知りながらも、角が立たないように騒がず、氣丈に振る舞ったのを感じてそっとその手を握った。彼女は、伯母の愛情を感じて嬉しそうに笑った。

「だから、今日からジョルジアと一緒だって聞いた時、実をいうと、ほっとしたの。ねえ、グレッグ、あなたはものすごくラッキーだって知っている? ジョルジアみたいに美味しいご飯を作れる奥さんって、そんなにいないわよ」

 彼は大きく頷いた。
「知っているよ。ご飯づくりだけじゃなくて、君のジョルジア伯母さんは、何もかも素晴らしい人だ。僕は本当にラッキーな男だよ」

 ジョルジアは、彼がそんなことを言うとは思いもしなかったので驚いた。

「でも、今晩は、ジョルジアのご飯は食べられないのよね。どこか美味しいお店、知っている?」
ませた口調でアンジェリカが訊いた。

 グレッグは、少し考えてからジョルジアに言った。
「僕は、学生時代にはあまり外食をしなかったから、そんなに詳しくないんだけれど、とても美味しい料理を出すパプがあったんだ。もし君が反対でなければ……」

 ジョルジアは肩をすくめた。十歳の子供を連れて行ってもいいのだろうか。アンジェリカは、急いで言った。
「ジョルジア、お願い。私一度でいいからパブに入ってみたいの。でも、ソニアがいつも反対するんだもの。子供がお酒を出す店に行くものじゃないって」

 アンジェリカの言葉に、ジョルジアは少し困ってグレッグに訊いた。
「子供が入っちゃだめなの?」
「いや。キッズメニューがあるパブもあるよ。そこにはないかもしれないけれど」

 彼が行こうと考えるからには、酔っ払いがひどく騒ぐような店ではないのだろう。
「じゃあ、あなたのお薦めのそのパブに行きましょうよ。アンジェリカ、パパにどんなお店に行ったか訊かれたら、パブじゃなくてレストランに行ったと言っておいてね。教育方針に反しているかもしれないから」
「もちろん、黙っているわ。やった!」
関連記事 (Category: 小説・霧の彼方から)
  0 trackback
Category : 小説・霧の彼方から
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様です。

いよいよ終章ですか。感慨深いですねぇ。
サブタイトルから察するに、アンジェリカと合流したあとも、甘い夜を過ごしていたみたいですね、あの二人。
で、アンジェリカのラスボス感、ハンパないっすね。彼女が登場した途端に、雰囲気が華やかになったし。パパが彼女にメロメロなのはわかりますが、グレッグもジョルジアも完全にリードされてるじゃないですか。
それはそうと、グレッグって、アレッサンドラのことは、知らなかったんですね。さすがというべきか、らしいというべきか。芸能界に興味がないのというのは、まあそうだろうなと思いますが。

次話、アンジェリカのパブデビューですか。おいしい料理を食べ過ぎたアンジェリカのウエストが、ますます心配です(笑)
2019.11.27 11:20 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよ。ようやくこのシリーズとも本格的にお別れ……の予定です。
毎回そんなこと言っているような……。

そして、そういう「家族」じゃないですよ。甘い夜は無理です。寝ているとはいえ、ラスボスはドア一枚向こうの続き部屋にいるし(笑)
そもそもラファエーレが生まれたのは、このあと3年後。あいかわらずトロい誰かさんたちです。

アンジェリカが華やかと言うよりは、主役二人が地味すぎるんだと思います(笑)親子のお別れ劇場でも、じーっと待っているだけだし。このまま結婚式でも片隅でじっとしている予定。書いていませんが。

そして、そうなんです。浮世離れしているグレッグは「アレッサンドラ・ダンジェロ」なんぞ知らないんですよ。だから「お。アレッサンドラ・ダンジェロの妹か」的な、ジョルジアのコンプレックスになっている反応を一切しなかったのですね。

前作の構想段階で、「片想いの時に、ジョルジアの写真を持っていなかったので、かわりにどっかで見かけたアレッサンドラの雑誌をジョルジアに似ているからと言う理由で買って持っていたというエピソード」というのがあったのですが、それは普通にキモいのと、写真なんかなくてもイラストで描けちゃう能力を設定した段階でボツにしました。その代わりにジョセフの雑誌を買ってきてめちゃくちゃ凹んだエピソードを入れました。

アンジェリカ、出てくる度にウエストの危機ばっかりですよね。作者がそんなことばっかり考えているからだろうな……。ははははは。
今度のパブは、オックスフォードの主要ロケ地でした(またか……)

コメントありがとうございました。
2019.11.27 21:44 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
話が反れますが。
日本に外国人がやってきて、
紹介するお店は居酒屋がお勧めらしいです。
メニューが豊かで、刺身、焼き鳥、お好み焼き、、、。。。
などなど。日本の特融のメニューが一度に頼めるから。
・・・ということらしいですね。


最近は法律の関係で。
日本では店内は喫煙禁止になり、
居酒屋もファミリー層をターゲットを狙ってメニューを入れ替えているらしいですよ。
夕さんのところはどうなっているんでしょうかね。
2019.11.28 09:30 | URL | #- [edit]
says...
アンジェリカが登場すると物語がサクサクと進行するように思えます。
小さい子なのに活発で社交性があって、安定感も抜群です。
例の2人だとなかなか進まないことも、勢いよく進んで片付けて行ってしまいます。
彼女のもって生まれた資質もあるのでしょうが、家庭的に不幸な部分や、若さゆえに不足する部分は周りが暖かく包んで補っているんですね。
それなりに悩みも抱えているようですが、幸せな子だなぁ。
レアンドロと別れを惜しむ「さようなら」の儀式のシーンは、ジョルジアたちが一歩引いて待っている様子等が想像できて楽しかったです。
車で3時間もドライブするのは退屈だったようなのに、パパとの別れはやっぱり悲しいんですね。アレッサンドラが本当に泣いていたのにはちょっと驚きましたが、切り替えも早いです。
新しい親戚、グレッグはどちらかというとレアンドロ側の人間で、しかもケニヤの偏屈生物学者ですからね。アレッサンドラのことを知らなかったのも全然不思議なことじゃありません。彼はきっとアンジェリカにとって興味深い存在になるでしょう。
だって、いきなりパブですもの。空気を読んでよ!グレッグ!
あたふたするジョルジアの様子が可笑しいです。
次回どんな騒動が起こるのか。楽しみに待っています。
アレッサンドラとの出会いも楽しみになってきました。
2019.11.28 11:31 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

居酒屋は、私の連れ合いもとても喜んでいました。
日本の方は「おもてなしするなら、お寿司やすき焼きか」みたいな高いところでと考える方が多いのですけれど、中途半端な専門店でたまたまその方の苦手なものに当たるよりは、居酒屋であれこれ頼む方が喜ばれたりしますね。居酒屋のお刺身でも、うちの連れ合いは喜んでいましたし、洋風なものも含めておつまみ系が少しずつ頼めて楽しかったようです。

ヨーロッパは、すでに十年以上レストランなどでは原則禁煙です。
日本に戻ったら、まだ喫煙のできるところが多くて驚いた記憶がありますよ。
私は吸わないので、禁煙の方が有難いですが、喫煙者は冬は大変みたいです。外は寒いんですけれど、外でしか吸えないので。

コメントありがとうございました。
2019.11.28 21:30 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

アンジェリカは、ませているので初対面だと驚く人が多いようです。
グレッグとは、割合相性がよかった模様。
一生懸命に会話をつなげてやらないといけないタイプだとグレッグには荷が重いのですが、自分からパキパキ進めてくれるので。

アンジェリカは、そうですね。両親や母親の三番目の夫、それに伯父と伯母の愛情を受けているので、かなり幸せな子です。
ませて強がっているけれど、本当に大人なわけではないので、たまに寂しさは垣間見えますが、なんとか跳ね返しているようです。

グレッグは、実はレアンドロのことも知りませんでした。レアンドロは「なんだよ、この俺を知らないなんて、どこの田舎もんだ」と思ったようです(笑)

パブは、日本人の感覚からすると「子供はダメでしょう!」なんですけれど、実は子連れで行く人もあるんですよ。
酒飲み用の色が強いところもあるので、どこでもOKというわけではないのですけれど。
でも、ソニアはアンジェリカを忌々しいと思っているので、アンジェリカのやりたがることに可能な限り理由をつけて反対したりするのでした。

そういえばアンジェリカとグレッグの初対面シーンはないですね。
ま、書いても大して面白いシーンにはならないでしょう。

コメントありがとうございました。
2019.11.28 21:44 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/1754-f84ac8a3