FC2ブログ

scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】霧の彼方から(9)新しい家族 - 2 -

「霧の彼方から」の最終章『新しい家族』、四回に分けた二回目です。本当は五回に分けたかったところを無理矢理四回に分けているので、シーンとしては途切れています。まあ、でも、内容から考えれば妥当なところで切ったかな。

登場したパブは、オックスフォードでご飯を食べにいった「Turf Tavern」をモデルにしています。美味しかったなあ。

今回、はじめてアンジェリカの養父となるルイス=ヴィルヘルムの性格の話が登場しています。別に無理して書くことなかったのですけれど、彼女の境遇を理解するには、あった方がいいかなと。本題とはまったく関係ありませんし、フラグでも何でもありません。あしからず。

アンジェリカは「できる子」なので、後半は邪魔せずに大人しく寝てますね(笑)


霧の彼方から「霧の彼方から」を読む
あらすじと登場人物




霧の彼方から(9)新しい家族 - 2 -

「この店、素敵ね」
ジョルジアは、古いパブを見回した。

 ニスの黒変した木のカウンターや傷のついた椅子。ビールマシンのピカピカに磨かれた真鍮の取っ手。それは、ニューヨークで時折みる、古いパプ風にあえて古い木材やアンティークの家具をそろえて作った「それらしい」インテリアではなく、本当に何百年もの間に多くの学生たちが学び巣立っていくのを見つめていた年老いた店なのだ。

 若かりしグレッグや、リチャード、それにアウレリオたちも、ここでビールを飲み、将来の夢について語り合ったのかもしれない。

「この店についての思い出を聞かせて」
微笑みながら訊く彼女に、グレッグは小さく笑った。

「大した思い出はないんだ。リチャードが、誘ってくれたのでやってきて座るんだけれど、彼はほとんど全ての客と友達で、挨拶しに別のテーブルへ行き話し込む。僕は、その間、ずっと黙って座っていたな。やることがなかったから、メニューを開いていて、暗記してしまったっけ」

「それと同じメニュー?」
アンジェリカがメニューを開いて訊いた。

「いや、新しくしたみたいだね。もっとも、書いてある内容はほとんど変わらないな。このソーセージ&マッシュは、オックスフォードのパブの定番料理だけれど、ここのは秘伝のグレービーソースを使っていて美味しいよ」

 豚肉と牛肉の合い挽きで作った粗挽きソーセージが、クリーム仕立てのマッシュポテトにどっかりと載り、上からグレービーソースがかかっている。グレッグはチキンとマッシュルームのパイ包みも頼み、三人でシェアすることを勧めた。アンジェリカは、嬉しそうに両方の味を楽しんだ。

「明日は屋台のフィッシュ&チップスを食べてもいい?」
アンジェリカは、ジョルジアの反応を見た。伯母は笑って頷いた。
「パパやママに禁止されているものを、ことごとく試そうって思っているでしょう」

「そういうわけじゃないけれど、ママはそんなものは食べないし、今はなおさらよ。貴族って、屋台で買ったものを立ち食いしたりしないんですって。そんなのつまらなくない? グレッグは貴族なんかじゃないわよね」

 彼は答えた。
「僕の知っている限り全部遡っても、貴族は一人もいないな。もっともサバンナには屋台はないから、立ち食いしたくても出来ないよ」
「じゃあ、明日はなんとしてでもフィッシュ&チップスを食べなくちゃね」
アンジェリカは嬉しそうだ。

「ルイス=ヴィルヘルムは、とてもいい人だけれど、ハンバーガーが食べたいとか、コークが飲みたいとか、言い出せないところがあるの」
「どうして? たしなめられるの?」

 ジョルジアは、意外に思って訊いた。二年前の妹の結婚式を含めてまだ数回しか逢っていないが、ヴァルテンアドラー候家当主ルイス=ヴィルヘルムは、アレッサンドラだけにではなく、連れ子のアンジェリカにもかなり甘く接しているように見えたのだ。

 アンジェリカは首を振った。
「そうじゃないの。その反対。何でも叶えようと、大騒ぎしちゃうの。通りすがりのファーストフードに寄ってくれればいいだけなのに、夕食のフルコースのメニューを変えてなんだかすごいハンバーガーを用意させようとしたりして、コックさんを困らせたみたいなの。それで、ママが慌てて、用意してあるご飯でいい、いちいち私の我が儘に耳を傾けるなって」

「まあ」
「私のはまだいい方よ。結婚してわりとすぐの頃だったけれど、ママと一緒に別の貴族のお城に招待されたんですって。それでママがお世辞でそのお城を褒めて、こういうところに住んだら素敵でしょうねって言ったら、そのお城を購入して喜ばせようと、本氣で交渉し始めかけたんだって。ママは、それに懲りて、慎重に発言するようになったって」


* * *


 続き部屋の扉をそっと閉めて、ジョルジアはもうベッドに入っているグレッグに微笑みかけた。

「アンジェリカは、今夜一人で寝られるのかい? 寂しがっていないかい?」
小さい声でグレッグは訊いた。

「いいえ、大丈夫よ。あの子、両親の間を行き来して、時にこうやってどちらもいないところで寝るのに慣れているのね。あっさりと寝息を立てだしたわ。彼女のませた口調にびっくりした?」
「いや。とてもいい子だね。君とやり取りしている様子、微笑ましいよ。君の家族、とても仲がよくて信頼し合っているのがよくわかる」

 彼の言葉にはほんの少し哀しみが混じっている。ジョルジアは言った。
「グレッグ。もうすぐあなたが私の家族になり、私の家族はあなたの家族になるのよ」

 彼は、瞳をあげて言った。
「そうだろうか。そうだとしたら……いや、そうなんだ。ずっと望んでいた、暖かい家庭を、君とすぐに僕は持つことができる。夢ではなくて、本当に。そして、君の素晴らしい家族は、もうすぐ僕の姻戚になるんだ。とても嬉しいよ」

 窓の外ではずっと風が木の枝をしならせている音がしていたが、いつの間にか雨音に変わっていた。心地のいい寝室で、その雨音を聴きながらどれほどロンドンやバースで聞いた雨音と違っていることだろうと、ジョルジアは思った。
関連記事 (Category: 小説・霧の彼方から)
  0 trackback
Category : 小説・霧の彼方から
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様です。

大学生のころ、講義の合間の時間に、近所の喫茶店でいろんな談義をしていたことを思い出しました。ときには一日まるまるいたことも。迷惑だっただろうなぁ。

さて、今回も読んでいてお腹が空いてくる、飯テロ話。
そして、リチャードの放置プレイ(笑) なんのためにグレッグを連れて行ったのやら。グレッグもメニューを憶えるより、ほかにすること……なかったんでしょうねぇ。

ルイス=ヴィルヘルム、いい人なんだけど、いわゆる「残念な人」ですね。
レアンドロへの対抗心みたいなものがあるのかないのかわかりませんが、そんな言葉尻の一つ一つに過剰反応されたら、息が詰まりますよね。アンジェリカ、なんだかあちこちに気をつかっているんだなぁ。健気な子だ(感心)
グレッグとアンジェリカの反りが合うのが、なんとなくわかった気がします。

なるほど、サブタイトルはグレッグとジョルジアの二人のことでしたか。
カペッリ家のことを羨ましがっているグレッグですが、後日談を見るかぎり、彼らのスコット家も、うらやましがられる家族になっていくようですね。うん、良かった、良かった……って、あと二話あるか(笑)
楽しみにしています。
2019.12.04 10:58 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

ああ、私も高校生の時、やったなあ。今から思うと、本当に迷惑の極み、しょーもない客でした。

お、お腹空いてくださいましたか。イギリスにもあるんです、「やればできるじゃん」な料理(ひどいいいよう)
「フィッシュ&チップス」は実のところ、本当に美味しいのかはアレですけれど、アンジェリカは滅多にできない経験が嬉しいみたい。

グレッグは、今もそうですけれど、若かりし頃はもっといじけていて、リチャードに友だちを紹介してもらって自分も輪に加わるなんてことはできなかった模様。リチャードはグレッグとも座ってちょっとは飲み食いするのですけれど、次々に入ってくる友だちとすぐに話し込むので、グレッグは九割方放置プレイでした(笑)

でも、おそらく誘ってくれたのはリチャード一人。一応、面倒見はいい人なんですよ、リチャード。調子いいけど。

ルイス=ヴィルヘルム、位も高いし資産家だし、なのに今ひとつ残念な人なんですよ。
浮世離れしているのかな?
前妻の子であるヨハン=バプテストは、コミュニケーション力に問題があるし、なんかダメな家系?
でも、アレッサンドラとは、この人が一番長く続いたようです。

アンジェリカとグレッグは、こんな感じで知り合ったので、8年後に短期お手伝いさんとして雇われても、二人とも問題なく過ごせたというわけです。

そして、そうです。「新しい家族」は主にグレッグの新しい家族のことですね。去年のクリスマスに発表した「クリスマスの贈り物」でも書いたように、グレッグは子供の頃から「暖かい家庭が欲しい」と願っていたのですが、この章がそのアンサーになっているというわけですね。

あと二回ですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2019.12.04 21:30 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
余談ですけど。
私もファミレスで5時間ぐらい粘りますね。
図書館でも勉強できないので、
ファミレスで1時間置きに何かを頼みながら。
昼から夕まで勉強して。
それが思い出で、人生の糧になるんですよね。
(#^^#)
2019.12.05 12:30 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

あ、ファミレス。あそこも(混んでいなければ)居座れるかも(笑)
でも、蓮さんは、お勉強で長い滞在だったのですね。さすが。

しかもちゃんと注文を繰り返されて、立派です。

こちらだと、紅茶やワイン一杯ずつ、ゆっくり頼みながら居座るのもありです。
あ、混んでいない事の多い田舎ですから。

コメントありがとうございました。
2019.12.05 22:29 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
 新しい家族とはもちろんジョルジアのことを指すのでしょうが、それ以外にもグレッグがこの旅で出会ったこれから姻戚になる人々も含まれるのでしょう。
 ジョルジアの家族は個性的でアクが強い人が多いですが、基本的にオープンですから、結びつきは強くなりそうです(グレッグの親戚関係者は早々にその中から外れてしまいましたが・・・)。グレッグにとっては初めての経験であり、とても嬉しいことなんでしょう。そしてこれから誕生する新しい生命もそこに加わるのでしょう。

 おお、こういう本場のパブは行ってみたいですね。イギリス料理は美味しくないって聞いていますけれど、こういう食べ物なら美味しいに決まっていますもの(ウナギのパイだけは遠慮したいかな?)。
 あまりたくさんは飲めませんが、本場のパブで飲むギネスはまた格別なんだろうなぁ。フィッシュアンドチップスを食べてみたいというアンジェリカの意見には賛成です。
 こういう機会ですもの、甘々だけど節度のある叔父さんと叔母さんに甘えて、おもいっきり羽を伸ばして、溜まったストレスを発散しておくのはいいことだと思います。普段はけっこう大変みたいですもの。
 ルイス=ヴィルヘルム、彼のことは放っておきましょう。彼は彼なりに愛情を表現しようとしているようですから。
 夕さんの“アレッサンドラとは、この人が一番長く続いたようです”というコメントは気になりますが・・・。
2019.12.06 11:47 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

コメ返、遅くなってごめんなさい。

そうですね。このサブタイトル、グレッグにとってはアンジェリカに代表されるジョルジアの親戚一同が含まれていますし、ジョルジアにとっては主にグレッグ、それにレイチェルやマディ達も含まれていますね。でも、レベッカサイドは実感がないでしょうね。

実は、私が問題なくパブには入れるようになったのは、前回のロケハンが初めてです。その前に行ったときは、入ったんですけれど注文方法を知らなくて「放置されている」と思い込み玉砕しました(笑)前回はロケハンだったので、リサーチもしていき、ちゃんと頼めました。美味しい料理もあるのですよ。(ひどい言いよう)

ウナギに関しては、蒲焼き以上の食べ方はないかもしれませんね。まあ、余り美味しくない方が絶滅に寄与しないのでいいのかも……。

私はビールが苦手なので一切頼みませんが、ビール好きにも黒いギネスなどを絶賛する方と、苦手な方と別れるようです。フィッシュ&チップスも、まあ、実をいうと胃がもたれるし、死ぬほど美味しいものではないと思うのですけれど、食べてみたいのに食べられないと『食べたい!」ってなる心境を書いてみました。

ちなみにルイス=ヴィルヘルムとアレッサンドラは、外伝で計算すればわかりますが、少なくとも八年は続いているわけです。それだけで最長(笑)その後も仲良く暮らしたかどうかは、全然設定していないのでわかりませんが、まあ、八年続けばたいていは大丈夫ですよね。

コメントありがとうございました。
2019.12.07 18:59 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/1757-310013d5