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Posted by 八少女 夕

【小説】Filigrana 金細工の心(1)新しい腕輪

今日から『Filigrana 金細工の心』の連載を開始します。本当は、123456Hitのリクエストをすべて発表してからと思っていたのですが、大人の事情で(単に書き終わらなかっただけ)こちらを先に上げます。

第2作『Usurpador 簒奪者』は主に30年ほど前の事情を取りあげていましたが、この作品は、第1作『Infante 323 黄金の枷 』の直接の続編という位置づけです。ただし、前作のヒロインだったマイアは、今回の記述を最後にヒロインの座を明け渡し、表舞台から引っ込みます。最後なので、サービス(誰への?)で、沐浴シーンです(笑)



『Filigrana 金細工の心』を読む「Filigrana 金細工の心」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Filigrana 金細工の心(1)新しい腕輪

 その夜、23の髪を洗っている時にマイアがふざけて突然腕を出した。23はとっさにそれをよけて脇にどいた。バスタブに落ちそうになったマイアを支えようとして、結果として23は大量の湯を跳ねさせてしまい、服を着たままのマイアはびしょ濡れになった。2人は顔を合わせて愉快に笑った。
「着替えてくるね」

 23は泡だらけの髪を指して「このまま?」と訊いた。
「だって、このままじゃ風邪引いちゃう」
マイアが重くまとわりつく服を見せると、23はマイアの腕を引っ張った。
「お前も一緒に入ればいいじゃないか」

 マイアは顔を真っ赤にして「えっ」と言った。彼にはマイアが今さら恥ずかしがる理由が全くわからないようだった。最終的に彼女も23のいう事に理を見出して、「後ろを向いていてね」と念を押してから、濡れた服を脱いで広いバスタブの23の横にそっと滑り込んだ。

「お風呂、2人で入るの、はじめてだね」
マイアがいうと、彼は彼女の肩に腕をまわしてそっと顔を近づけてきた。
「そういえばそうか」

 いつもよりずっと長くなってしまった入浴を終えて、その後、びしょびしょになっていた浴槽の周りを2人で笑いながらピカピカにしてから、ベッドに横になったのは11時近かった。

 23の胸にもたれかかるように眠っていたマイアは、彼が身を起こすのを感じて目を覚ました。
「どうしたの。私、重かった?」と目をこすりながら訊いた。

 23はマイアの唇に人差し指を置いて、それから部屋のずっと先にあるドアに向けて声を掛けた。
「何があった」

 するとドアの向こうからメネゼスの声がした。
「このような時間に誠に申しわけございません、メウ・セニョール。大変恐れ入りますが、至急お越しいただきたいのです」

「すぐに支度するので、待ってくれ」
そう言うと、23はベッドから出ると服を着て、ドアの方に向かった。途中で引き返してくるとマイアに言った。
「待たずに寝ていていい。遅くなるかもしれないから」

 それから耳に口を近づけてメネゼスに聞こえないように言った。
「寝間着は着ておいた方がいいぞ」

 マイアは真っ赤になって頷いた。23が出て行き、2人の足跡が階下へと消えていってから、マイアは急いで寝間着を着た。それからシーツをかぶりながら考えた。こんな時間にどうしたんだろう。今までこんなこと1度もなかったのに。窓の鉄格子から月の光が射し込んでいた。寝ていいと言われたけれど氣になるな。彼女は寝返りを打った。

 それでも、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。目が覚めたのは、階段を上がってくる2人の足音を聞いたからだ。
「朝、またお迎えに参ります」
「お前は何時に起きるんだ?」
「いつも通り5時に」
「では、6時に起こしにきてくれ」
「かしこまりました、メウ・セニョール」

「それから、朝一番で24とアントニアに知らせるように」
「かしこまりました」
「クリスティーナはしばらく業務から外してやってくれ。必要ならマイアに手伝いを」
「かしこまりました。朝、ミゲルに連絡をしてマティルダにも手伝いにきてもらうように手配いたします」
「そうしてくれ」
「おやすみなさいませ、メウ・セニョール」

 ドアが開き、23がしっかりした足取りで入ってきた。マイアは23の側のサイドテーブルの電灯をつけた。時計の文字盤が見えた。針は2時半を指していた。
「どうしたの」

 23は口を一文字に閉じたまま、サイドテーブルに鍵の束を置いた。マイアはびっくりした。彼が鍵を持つことを許されたことはなかったから。このような鍵の束をメネゼスがいつも使っていた。

 不安そうに見上げるマイアをじっと見つめると、23は服を着たまま突然ベッドに載ってきてマイアの胸に顔を埋めた。マイアは、えっ、こんな時間にするの、寝間着を着ろと自分で言ったのに、と思ったが、彼はそのまま肩をふるわせていた。やがて絞り出すような声が漏れてきた。
「アルフォンソ……アルフォンソ……」

 寝間着に涙が沁みた。マイアにも何があったのかわかった。ドン・アルフォンソが亡くなったのだ。とっさに彼女の右肩をつかんでいる23の左手首を見た。黄金の腕輪の手の甲の側、これまで何の飾りもなかった所に1つ青い石が増えていた。

 マイアは鍵の束の意味を理解した。23は、たった今ドン・アルフォンソになったのだと。
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Category : 小説・Filigrana 金細工の心
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
執筆、おつかれさまでした。そして連載開始、おめでとうございます。
いよいよ第三作のはじまりですね。

今回は、さらっとプロローグ的なお話ですね。
冒頭のサービスシーン、楽しませていただきましたよ。
なんだよ、このバカップル……と思いながらも、前作のしんどさに比べて、マイアの「お花畑」を久しぶりに拝読できて、ちょっとほんわか気分になりました。
深夜の急な呼び出し、特別な人間にした持てない鍵束……このときから、23とマイアは新しい人生に踏み出していったわけですね。
そして、それは、隠棲を決め込んでいたドイスにも、なんらかの影響を与える出来事だったと。
これは先が楽しみです。
2020.07.22 09:13 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

さて、今回バカップル(本当にしょうもないですよね)から始めたのは、舞台が前作の続きであることを思い出させるためでもあったのですが、実をいうと、この次から出てくる話が地味で暗かったりするので、プロローグくらいしょーもないところから語ってみようかなと。

『Usurpador 簒奪者』のラストで、かなり重症だったアルフォンソが、ついになくなってしまった時点がストーリーの起点になります。
そのこと自体は、今回のメイン人物たちの人生にはあまり影響を与えたりはしないのですけれど、その時系列、ちょうどマイアが1人で迷走していたあの時期から現在にかけて、マイアにとっては知らないお屋敷であった「ボアヴィスタ通りの館」の方で何が起こっていたのかを綴っていく予定です。

この作品もかなり自転車操業なんですけれど、見切り発車です。
(っていうか、TOM−Fさんのリクエストが難航しているので、同時進行です)

頑張りますので、また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。


2020.07.22 22:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
連載開始おめでとうございます。
いつも書いている馴染みの小説を再び開始するのも緊張しますよね。
私も解決警部を掲載するときには、
「みんな楽しんでくれるだろうか・・・。」
・・・と心配になりながら、掲載しております(笑)。

プロローグは今までの雰囲気と打って変わって
甘い展開でのスタートですね。
まあ、その背景には色々あったのは分かりますけど、
その背景があって、今回の甘い展開があるのが良い味になってますね。


かなりどうでも良い話ですけど、
起こしてくれる人がいるってありがたいですよね!!
私の勤務は早出・日勤・遅出・夜勤とあるので、
遅刻しないか心配しながら寝ております(笑)。
2020.07.23 12:23 | URL | #- [edit]
says...
あ、こっちが始まったのですね! 
ほんとだ、なんかほのぼのと始まってる、と思ったら……いきなり雰囲気が変わりましたね。あ、そうか~、そういう始まりなのか~となんか納得しながら読ませて頂きました。
でも、バカップル状態は健全なようで、マイアのお花畑状態は続いていたのね! ちゃんと責務を果たしているし(って、そういう読み方しちゃいけないかな)。何が「私重かった?」だよ~(^^;)とか突っ込んでいたのは私だけではないはず!
マイアは「なんか分からないけれど、そこそこ幸せに生きているよ」状態でいてくれたら読者も気を抜くところがあって逃げどころがあるような気はするけれど、どうなっていくんでしょう。もともと明るい話方向ではないと聞いていたので、それなりに覚悟してついていくことします。
2020.07.23 16:58 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

いくつかある「書く書く詐欺」のうち、ようやく2つほど完結にもちこめる……そう思って書いています。

今回出した、前作のヒロインはいつも1人だけ「お花畑脳」でヘラヘラしておりましたが、これにて退場ということで、いつも通りに出してみました。

起こしてくれる人、ありがたいですよね。
私も、執事に起こしてもらいたいですよ。
一般人なので、望むだけ無駄ですけれど(笑)

コメントありがとうございました。
2020.07.23 22:40 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

あはははは。実は、この水曜日に公開できるものが、これしかなかったという消去法での発表になりました。orz

このプロローグ、実は、他の章とは異質なんで外すことも考えたのですけれど、まあ、続くシーンがちょっとしんどい感じなので、はじめくらいバカップルによるサービスシーンでもいいかと。それに、このバカップルだけ外伝にされても、みなさん「……」って感じかなと。

マイアはですね。宣告直後から1人だけ浮かれていて、関係者たちは脱力状態ですよ。
でも、そうなんです。ドラガォン的には、マイアはミッションクリアーに向けてちゃんと「やることやっている」状態なのですよ。
他にも、マヌエラやアントニアがやっていた対外的なお仕事をいずれは引き継がなくてはならないのですけれど、それはまだ少し先の話です。

かなり自転車操業的な連載になりますが、また読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2020.07.23 22:47 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ワ~イ!!!このお話ではマイアはもう主人公では無いと聞いていたので、思いがけない甘々シーン、とても嬉しかったです。
マイア、さすがに初々しくて可愛いですね。23の胸で眠ったマイアは幸福だったんだろうなぁと思います。
あ、初々しいって書いちゃったけど“えっ、こんな時間にするの”なんて考えてるんですから、まぁ、それなりに・・・なのでしょうか。

そして、とうとうアルフォンソが亡くなってしまったんですね。
いくらお花畑のマイアでもこの先どういうことになるのか、理解しているし、ある程度の覚悟も持っているようです。
重大な任務を引き受けないといけないときがいずれやってくるのでしょうが、23はある意味最適の伴侶を手に入れたんだと思います。打たれ強いというか・・・案外上手く采配を振るいそうです。
そんなマイアを見たかった気もするのですが、でも、アントニアがヒロイン?これはこれで楽しみです。
そしてあのドイスが主人公なのですか?これは波乱の予感が・・・。そして、ちょっと暗い展開の予感も。
たまには23(アルフォンソか)やマイアの様子も書いてくださいね。
2020.07.24 11:11 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

実は、マイア視点で話が語られるのは、これが最後になります。
23視点は前作でもなかったのですけれど、登場人物としての彼は後ほどもう一度出てきます。

マイアは、表も裏もなく、ひたすらルンルンしているところですね。
この辺りは、実は1つだけ外伝を書こうとしていて、そこでも周りが脱力するくらいルンルンです。
「えっ、こんな時間にするの」は、ええ、そうです。やることはやっていますね、この2人は(笑)

さて、アルフォンソが亡くなり、23がドン・アルフォンソになりました。
鍵を持っていることでわかるように、彼はもう居住区から自由に出て行けるようになりました。
でも、マイアはこのままでは1年間はここから出られないのです。当主と結婚すれば出られるのですけれど。
それで、マイアだけを閉じ込めたくない23が、すぐにプロポーズして急遽結婚することになった、という裏設定があります。
で、結婚したからには、マイアには当主夫人のお仕事が降りかかってくるわけですが
(以前、アントニアがカルちゃんに「私が代行していた役目をすべき人が正式に決まりました」と言っていたのが、このことなのです)
マイアは、マヌエラのようにはじめからちゃんとできる……わけはありませんよねー。
ただ、23がカルルシュよりはかなりマシな当主になると思うし、マヌエラやアントニアやクリスティーナのバックアップもあるので
なんとかなるでしょう、きっと。

さて、今回のヒロインは、おっしゃる通りアントニアです。
そして、一番中心にいるのは22です。ええ、前作のマイアみたいなお花畑な登場人物は今回はいませんね。
今回もお付き合いいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2020.07.24 21:30 | URL | #9yMhI49k [edit]

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