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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】Filigrana 金細工の心(2)悪夢

『Filigrana 金細工の心』の2回目です。

ええと。この回はR18指定すべきかなと思う内容なので、読みたくないという方はお氣を付けください。とはいえ、この記述をしないで書くのは、ぼんやりした話になってしまうので、あえてこうなりました。前作では、23がマイアにソフトに語るという形で説明した24のやっていたことが、少し具体的に記述されます。

ここまで具体的な描写は、今後ほとんどないと思いますので、ご安心を。



『Filigrana 金細工の心』を読む「Filigrana 金細工の心」をはじめから読む
あらすじと登場人物





Filigrana 金細工の心(2)悪夢

「……ママ。ママ。かわいそうなママ……。あいつがあなたを苦しめているんだね」
その声はすぐ近くで聴こえた。終わりのない悪夢は彼女を休ませなかった。疼痛よりも針が近づいてくるその瞬間が怖かった。ベッドに縛り付けている手錠に電流を近づけてくる時の、狂った笑顔が恐ろしかった。どれほど懇願しても、絶対に逆らわないと誓っても彼は信用しなかった。声が出ないようにかまされた猿ぐつわに手をやり「このなめらかな肌に食い込む枷が美しい」と囁いた。

 乳房をねじ上げられ、苦痛に歪む顔を見て、青い瞳は輝いた。それから彼は欲望のままに、抵抗できない彼女に覆い被さり激しく腰を動かして囁いた。
「ああ、ママ。かわいそうな、ママ。あなたは、あいつに犯されて、苦しんでいる。いますぐに、僕があなたを救ってあげる。こうして、あなたの中からあいつの穢れた体液を搔き出してあげる……僕の存在で満たしてあげる……」

 その声が、次第に大きくなると、彼女の膨れ上がった腹がめきめきと割けて、中から血まみれの赤ん坊が顔を出した。口が裂けて、尖ったギザギザの歯を見せて奇声を発した。彼女は声にならない悲鳴をあげた。

 いつの間にか彼女は自由になっていて、必死で逃げた。暗闇の中、足が縺れ、何度も怪物につかまりそうになり、滑る足元によろけながら、彼女は走った。どこからか、ピアノの音色が響いてきた。彼女は、音のする方へと走る。そこへ辿りつければ、彼女は怪物から逃れられるのだと、そう信じて走った。

 彼女はベッドから起き上がった。体中が強張り、震えていた。喘息の発作のように激しく呼吸をしていた。ピアノの音色はしていなかった。

 汗でネグリジェは、ぐっしょりと濡れていた。ドアがノックされて、妹マリアの声が聞こえた。
「ライサ? どうかした? うなされていたみたいだけれど……」

 ライサは、息を継ぐと答えた。
「……夢を見たの。ごめんなさい、大丈夫」
「そう。わかったわ。おやすみなさい」

 マリアの足音が去り、隣の部屋のドアが閉められたのとを聞くと、ライサは首の付け根に手をやり、汗を拭った。夢……。夢だとわかるようになるまでにどれほどの時間が流れたか、彼女の記憶は欠けていた。ピアノの音色が彼女の救いとなったのもいつだったか憶えていない。

 あの悪夢は、かつては現実だった。彼女が愛し、自身で望んで一緒になった男が、もう1つの顔を見せたとき、その悪夢が始まったのだ。それがあまりにも長く続き、救いが見えなかったので、彼女の精神は現実と夢の境界を失った。肉体の痛みと精神の痛みは交錯してねじれた。胎内の奥深くに挿入された電動の器具が、彼女に快楽を強要しても、彼女には苦痛との違いを感じ取れなくなった。薬品が彼女の現実を壊した。昼と夜は逆転し、愛と憎しみも入れ替わった。

 悪夢は、常に彼女を襲い続け、それが終わる希望など持っていなかった。けれど、そのピアノの音が聴こえるようになって以来、明らかに何かが変わっていた。悪夢にインターバルが訪れるようになっていた。誰かが、優しく彼女の肌や髪を洗っていた。女性の明るい笑い声が近くですることもあった。食事に味がする。時には熱く、ライサは吐き出した。それを誰かが片付け、優しく口元を拭いてくれていた。それが悪夢の男とあまりにも違うのでライサは混乱した。

 やがて、彼女はベッドに座り、誰かが彼女に食事をさせてくれていることに氣がついた。そこはとても居心地がよかった。誰もが優しく、彼女を傷つけたりしなかった。どこからか、ピアノやヴァイオリンの音色がしていた。それを耳にしながら、ライサはここは安全な世界だとゆっくりと理解したのだ。

 それから、ある女性がよくベッドの側に座るようになった。その女性の落ち着いた声は、ライサには心地よく響いた。言葉の意味が分かるまでにはやはり長くかかった。長い心地のいい夢を見ているようだった。ゆっくりと、ぼやけていた画像のピントが合っていくように、ライサはその女性のいる心地いい夢が現実なのだとようやく信じられるようになった。その頃から、その女性にどこかで逢った事があるように思いだした。

「ライサ。今朝の氣分はどう?」
女性は、穏やかに訊く。親しげで優しい。それが自分の名前だと、ある朝、突然わかった。この人は、私に問いかけているのだ。そう思って、ライサは女性の顔を見た。彼女の表情が、つかの間、驚きに変わり、それから笑顔になった。
「ライサ?」

「あなたは……誰?」
ライサは、声を絞り出した。かすれていた。自分の声なのだと、後からわかるほど現実味がなかった。いや、しようと思った事が、できる事、声を出し質問したら、その通りに聞こえた事が驚きだった。

 女性は、微笑んだまま答えた。
「アントニアよ」

 アントニア? 知っている誰かの名前。どこで聞いたのだろう。アントニア。……ドンナ・アントニア……。

 突然、世界が回りだした。石造りの重厚な建物、どっしりとした家具、輝くシャンデリア。『ドラガォンの館』に集う、高貴なる一族。そして、恐ろしい悪夢。震えて泣き出しそうになるライサに、女性ははっとして、それから首を振った。
「心配しないで。あなたは、もう安全な所にいるの」

 その言葉が、ライサを現実に戻した。「安全な場所にいる」心で確認したがっていた言葉を、彼女が口にした。
「ここは……ここはどこ?」

 ライサが、『ドラガォンの館』から連れ出されて、アントニアの住む『ボアヴィスタ通りの館』で療養していることを理解するまでにはまだしばらくかかった。彼女の精神の混乱は、それほどに根深かった。だが、やがて彼女は、朝になり目が醒めると、必ず同じ場所にいて、悪夢が襲いかかってこなくなるという事を信じられるようになった。怖いのは夜眠っているときだけだった。そして、彼女を朝の安全な世界に導いてくれるピアノの音は、『ボアヴィスタ通りの館』で実際に奏でられているのを知る事となった。

 ライサは、ずっと同じ部屋にいた。彼女を世話してくれる使用人が、シンチアという名前で、ライサ自身と同じくドラガォンに雇われている存在である事も理解できるようになった。時々もっと若いルシアという女性が代わる事もあった。ライサは、自分でスプーンやフォークを持って食事をしたり、タオルで顔や手を拭く事もできるようになった。1人で浴室を使えるようになるまでは、もう少しかかったが、やがて、密室に1人でいても、眠らない限り悪夢は襲ってこない事が理解できるようになった。

 階下から聞こえてくるヴァイオリンとピアノの2重奏についてシンチアに質問した。
「ああ、あれはメウ・セニョールのヴァイオリンにドンナ・アントニアが伴奏なさっているのですよ」

「メウ・セニョール?」
その響きに彼女が怯えているのを見て、シンチアは、急いで言った。
「ドンナ・アントニアの叔父上です。亡くなられたドン・カルルシュの弟の Infante322です」

 それが24ではないとわかって、彼女は安堵した。それから、あのピアノを弾いていたのは、ドンナ・アントニアだったのねとひとり言をつぶやいた。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

ちょ、24……それはいけません。
まあオトナの男女だから、少々のお遊びプレイはスパイスってなものですが、完全にやりすぎっしょ。しかもなんか、24が冬彦さんっぽいし。あれ、ネタですかね、それともマジ? マジだとほんとヤバいですよね。
そりゃあそんなことの相手をさせられたら、ライサもたまりませんよね。
24の異常性、ライサの錯乱した様子と、今回は濃厚で迫力のあるシーンの連続でしたね。そしてライサが保護されてから、22のヴァイオリンと、アントニアのピアノに導かれるように回復していく様子との対比が、読み応えがありました。
え、R18? そこまでの描写はないと思いますけど、苦手な人はやはりダメなんでしょうね。ま、ワタシはダークサイド作者なので、全然オッケーですけどね(笑)
2020.08.19 11:17 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

ええ。あきまへんな。
プレイの域はとっくに飛び越して犯罪の方なのですけれど、実は、法律でも裁けないかも……ってくらい、この方、実は壊れております。
なんだろう。人格割れちゃっているのか、それともそうではないなのか、専門家ではないので私はわからないのですけれど。
普段見せている顔と、全く違う顔が、密室の中でのみ出ていて、そのせいでライサがああなるまで、誰もそこまでひどいとは分かっていなかった……という設定です。で、最初にライサのSOSを聴き取ったのが、たまたま隣の居住区で引きこもりライフを送っていた23。流産をきっかけに、23に頼まれたアントニアが強引に居住区から連れ出して検査をさせてようやく何が起こっているかわかり、他の中枢部メンバーも蒼白になった……というわけです。

ちなみに、24は父親カルルシュ(と、彼にそっくりな23を混同して)を敵視、母親とライサ(マヌエラに似ているという設定)を半分同一視して慕っています。特に書いていない裏設定ですが、閉じ込められ出られる見込みがない運命を受け入れられずに、おかしな妄想に逃げ込むようになった(本来は、自分が外にいるべきなのに不当に苦しめられていると信じ込むようになった)

マイアは超お子様だったのでヤバい描写は何一つせずに済んだのですが、こちらは……。とはいえ、この程度までですので、ご安心ください(何を?)

さて、ライサは誤解していますが、ヴァイオリンの伴奏をしているときのピアノはアントニアですが、独奏の時はアントニアとは限りません。なんか不穏な始まりとなりましたが、続けて読んでくださると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2020.08.19 21:09 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
何を勘違いしたのか24とアントニアノの組み合わせを勝手にイメージしていました。
すみません。
24とアントニアで展開させるより、22とアントニアの組み合わせなら一応同居ですし、色々ありそうですものね。
サキならとても書けないような複雑・ドロドロの展開を期待しています。

さて冒頭シーンですが、ウムム・・・けっこう刺激が強いぞ!です。でもこれをちゃんと書かないと24の性格が上手く伝わらないと思いますし、実際ダイレクトに伝わってきたと思います。きっとこういう環境で精神的に追い込まれ、親の世代の面倒事も引き受け、鬱屈してしまったらこんな風になってしまうんだろうな、それにしてもこれは酷いぞ!と・・・。
23が比較的健全だったのはたまたま?マイアとライサ、運命の分かれ目です。
そうそう、彼女はライサでしたね。まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかったようなので、これはきついです。
この描写からするとライサは完全に精神崩壊です。こうなると助けを求めることも出来なくなるみたいなんですよね。
アントニアがいてよかったなぁ、そしてよくここまで戻ってこれたなぁ、と思いますし、少しずつでも社会に戻っていけている様子に安心もしました。
まだまだ油断は出来ない状態のようですが、例のブラックカードの件も知っていますので、幸せになっていくのは確定・・・ですよね?
こういう展開も書いてみたい気はあるのですが、なかなか難しいです。
2020.08.20 11:42 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

いやいや、続編作ると決めていたら、こんなに登場人物がわかりにくい名称の設定にはしなかったのですけれど……、すみません。
22、23,24って、わかりにくいですよね〜。
しかも、22と24って容姿がめっちゃ似ている設定なんですよ。年は違いますけれどね。

さて。なぜこの刺激的な冒頭になったかというと、ストーリー上どうしてもなぜライサがちゃっちゃと回復して出て行けなかったのかを理解していただく必要があったのですね。しかも、他の人には「ちょっと変なヤツだけど」くらいに思われていて、あそこまで壊れていることも長いことバレていなかった……という点もありまして。

23と24の状態に差が出てしまったのは、もちろん個人差もあるでしょうけれど、23の場合はまず肉体的なダメージを受けていて、そこで1度諦める心構えができています。
それから、閉じ込められてわりと直に知り合ったマイアの存在がありました。そして、ものすごく重要だったのは、22に示唆されて音楽を自分で奏でてみようというつもりになり、ギターラと靴作りが精神的な支えになったという事情もあります。

24の方は、末っ子であったことと、後ろめたさを生涯拭えなかったカルルシュが22と似た容姿を持った24を溺愛したことから、自己中心的でわがままな性格に育ってしまいました。最初に閉じ込められた兄の23をバカにして精神的優位性を求めていたのに、自分もまた閉じ込められ、さらにいうと23と違って出られる可能性はほとんどないことを悟り、そこで自己防衛のためにありもしない妄想に逃げ込んでいくことになりました。

さて、それまでの女性たちとの失敗経験から狡猾になった24によって、半年以上も巧妙に秘密裏に虐待を受けていたライサですが、たまたま24が薬を使うのを忘れたまま朝食に出かけ、1人で取り残されて意識が戻った時に、混乱したまま窓の外に叫び声を上げました。それを耳にしたのがもうひとつの居住区にひきこもっていた23で、24の虐待に最初に氣付きアントニアに相談しました。で、流産騒ぎに乗じて彼女が中心となって救出し、その時にライサの精神状態と虐待の事実がわかり上層部は蒼白になりました。そこに救いの手を差し伸べる形で、アントニアが自分住む館で預かることにしたわけです。

で、腕輪を外されて妹マリアや家族のもとに帰るまでに回復したのは、ご存じの通りです。今回は、もうその後(船旅からも帰ってきた後)ですね。

『Infante 323 黄金の枷 』と違って、わかりやすい一直線な話ではないのですけれど、読んでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2020.08.20 22:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
年を取ったからかな。
私も昔の、学生時代の夢を見たりとかしますね。
結局、大人になると自分のテリトリーの夢を見ることが多くなるのだろうか。
私なんてトラウマになるような体験はないですけど。

けど、そういうなんだろうな。
犯罪とかトラウマになるような出来事に巻き込まれた人は。
定期的に、それこそ、終わらない悪夢としで夢に出るんだろうな。
ってことは感じますね。
自分の無意識に入り込んで、忘れかけていた記憶でも、
夢で見るとまたフラッシュバックしますからね。
そこは辛いですよね。
2020.08.21 01:30 | URL | #- [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

私自身は、最近はあまり怖い夢を見ない……というか見た夢をおぼえていることがほとんどないのですけれど
昔は、そうだなあ、足下が急になくなって落ちる系の夢を見ましたねぇ

つらい経験が覚醒中にしろ、寝ているときにしろ、フラッシュパックとして襲ってくるというのは
よく聞きますよね。
ご本人としたら、戻ってきてほしくないのでしょうけれど。
時間が解決してくれる場合もあるようですけれど、どちらにしてもそれまではつらいので
お気の毒だと思います。

今回の描写は、もちろん私自身の経験ではなく、読んだり聞いたりしたことをもとに書いています。

コメントありがとうございました。
2020.08.21 21:30 | URL | #9yMhI49k [edit]

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