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Posted by 八少女 夕

【小説】Filigrana 金細工の心(11)『Canto de Amor』 -2-

『Filigrana 金細工の心』の11回目「『Canto de Amor』」の後半をお送りします。

アントニアが17歳(つまり23は16歳ですね)の頃の回想の続きですね。23のギターラ、『愛の歌』という有名な曲を聴いて、「恋をしたこと、ある?」と訊いたのが前回の更新でした。



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あらすじと登場人物





Filigrana 金細工の心(11)『Canto de Amor』 -2-

 アントニアの問いに、弟は黙り込んだ。彼女ははっとして、瞼を上げた。自分のことにばかり意識がいっていたが、いつもひとりでいる23には、酷な質問をしてしまったのかと思ったのだ。

 だが、弟は、彼女をしばらく見つめた後で、意外な返事を返してきた。

「恋なのか、わからない」
「わからないって、どういうこと?」
「友だちのことを、とても大切に想っているだけなのかもしれない。よく夢にも出てくる」

「夢? 普段見かけるんじゃなくて?」
「この屋敷の中にはいない」
「いない? 想像の女の子? それとも雑誌や映像で見ただれか?」
「そんなんじゃない。それに、どうでもいいだろう? 俺は、ドラガォンが命じたままにここにいるし、何もしていない。そんなことを聞き出すために、わざわざ入ってきたのか?」

「そうじゃないわ。でも、ギターラの響きが、とても優しいだけでなくとても悲しく響いたから。私の心を代弁してくれるみたいで、もっと聴きたくて」
「……。恋に悩んでいるのは、お前なのか?」

 23にストレートに訊かれて、アントニアは戸惑った。ほとんど口もきいたことのない弟と、こんな話をするとは思ってもいなかったから。けれど、今、抱えきれないほどにまで膨れ上がっている彼女の重荷を分かち合ってもらえるのは、この弟しかいないとどこかで直感が告げていた。それで、ため息をつくと頷いた。

「あなたと違って、私はもっと自由なのに、どうしてこんなことになってしまったのかしら……」
「こんなこと? 《星のある子供たち》じゃない男?」
23が訊いた。アントニアは、彼が何を言っているのか一瞬わからなかった。けれど、すぐに彼の推測が至極まともだと氣がついた。

「だったら、まだよかったんだけれど」
「なぜ? 《星のある子供たち》なら、ドラガォンがいくらでも後押ししてくれるだろう? お前は、この館でも外でも好きな所に行けるんだし。それとも父上や母上が反対するような男なのか?」

 アントニアは、顔を手で覆い、震えだした。反対どころの次元ではない。彼は、近親者であるだけではない。母親のかつての恋人であり、憎みながらも今でも一途に想っている男なのだ。両親どころか、誰に打ち明ける事もできない。誰かに助力を求める事もできない。

「すまなかった。立ち入りすぎた」
23の謝罪を聞いて、彼女ははっと顔を上げた。弟は、恥じ入るように顔を背けていた。

 アントニアは、彼を混乱させてしまったのだと思った。こんな所に入り込んできて恋の話などをすれば、彼は話を聴いてもらいたいのかと思った事だろう。それなのに、何も言おうとしなくて、かえって彼に罪悪感を植え付けてしまったと。彼は、家族に頼られて、打ち明け話をされた事などなかっただろうから。

「そうじゃないの。ごめんなさい。私にもわからない。でも、わかってもらえるのはあなただけだと思ったの」
「24ではなくて? あんなに仲がいいのに」

 アントニアは、首を振った。
「あの子は、とても明るくていい子だけれど……」
「?」
「時々思うの。あの子は、私の事には興味がないんじゃないかって」
「なぜ?」

「あの子自身の幸福と楽しみに直結していない事には、すぐ興味を失ってしまうのね。話していても、急に話がそれてしまったり、そんなことよりって言われてしまったりするの。だから、深い事、哲学的な事、どうしようもない事などは、あの子に話しても、何の答えも返ってこないの」

 23は、肯定も否定もしなかったが、そのことで彼もそう思っているのだとわかった。
「アルフォンソは?」
「彼はダメよ。いつどんな形で、お母様やお父様、それにメネゼスたちに伝わってしまうかわからないし。それに、彼には話を聴く時間なんてないもの」

 彼は、自嘲するように笑った。確かに23は、いつも1人だから秘密が漏れる心配もないし、時間もたくさんあった。

「でも、だからここに来たわけじゃないわ。同じ音だと思ったから」
「何と?」
「叔父さまの出す音と」

 23は、瞳を閉じた。そして、記憶をたどっていた。
「よく階段に隠れて聴いた。すごい音だった。胸がかきむしられるみたいだった。近くに寄って、もっと聴かせてほしかった」
「そうなの?」

 アントニアを上目遣いに見ながら、彼は言った。
「お前が羨ましかった。彼にピアノを教えてもらっていたことが」

「どうして自分にも教えてほしいって言わなかったの?」
「もっと聴かせてほしいと言って断られた。だから、それ以上近づけなかった」

「私も、ものすごく邪険にされて、断られたわよ。でも、めげずにしつこく押し掛けたの。彼は根負けしたんだと思うわ」
「そうか。俺もそういう図々しさを持てばよかったんだな。もう、遅いけれど」

 23の言っている意味が、アントニアにはわかった。彼女は、『ボアヴィスタ通りの館』に押し掛けて行って、またピアノを習う事ができる。けれど、23はここからは出られないのだ。新しい世代のインファンテが同じように閉じこめられる日まで。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

ほう、思っていたより23の受け答えはちゃんとしていましたね。
というか、マイアですよね、23の想い人は。しかも、マイアが誤解することになる23とアントニアの関係がここで作られたわけですよね。ホント、第一作目のぐるぐるはなんだったんだろ(笑)

アントニアが来たことも、あんなことを尋ねたことも、23にとってはドラガォンのシステムが動いたように思えたんですね。まあ、閉じ込められてるし、さもありなんですね。
そして、そうそう、そこが気になっていたんですよね。アントニアの恋のこと、カルルシュやマヌエラはどう思っているんだろう? さすがに気づきますよね。とすると、娘の恋を応援してあげたいのはやまやまだけど、相手がねぇ……とならないのかな?

22と23は、あのときに22がもうちょっと「大人」な対応をしていたら、もっといい関係になっていましたよね。残念だなぁ。

いずれにせよ、この面倒な関係がこれからどう動いていくのか、楽しみです。
2021.04.07 08:25 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

そうですね。23、あんなですけれど、べつにコミュニケーションが嫌いなわけではないので、受け答えはけっこうまともです。
で、言っているのは、もちろんマイアのことなんですけれど、自分でも「恋のわけはないよな」的な「?」な時の話ですね。
遭ったとき、マイア10歳児でしたから。自分は成長して、想像のマイアも少しずつ成長している感じなのですが、「それに『恋』とかドン引きじゃん」と、セルフツッコみしている段階。本人が登場してから、ちゃんと恋になりますけれど。

『Infante 323 黄金の枷 』のマイアのぐるぐるは、ええ、笑ってやってください。

23は、この時点ではアントニアの片想いの相手が22だとは、つゆほども思っていません。それこそドン引きですよ。23も親世代の話は知っていますし、いくら閉じ込められているとはいえ、ティーンの23にとっては恋愛対象の年齢差はそんなに広くないですから。でも、これがきっかけでアントニアの話を聞いているうちに、やがて誰だかわかって愕然としたという裏話があります。

で、最初にわかったのは23ですけれど、この引きこもり君はもちろん誰にも言いませんでした。でも、アントニアのところにはモラエスもいるし、あれこれだんだん皆にわかっちゃいます。でも、みんなドン引きな上、事情が事情だけに誰もツッコめず、腫れ物に触る状態で現在に至ります。

22は、こじれていますからねぇ。「大人」な対応なんて無理無理(笑)
でも、あの時のことをさっぱり忘れているわけではないのです。ちゃんと後から出てきますよ。

この面倒くさい雰囲氣の中、話が進んでいきます。大した展開ではないのですけれど、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2021.04.07 22:11 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
なるほどぉ。
やっぱりマイアは、あの出逢いからずっと彼の心の中で重要な位置を占めていて、少しずつ熟成されていたんですね。
マイアは10歳から彼の中で彼と一緒に成長していたんだ・・・。そしてマイアの中で23も・・・。ほんと運命のカップルですね。他の恋愛に比べてなんと純粋で単純なことか・・・。
わからない・・・のは彼の特殊な環境や超限定された人間関係からしてもしょうがないと思いますが、夢に出てくる?これはただの友達では済んでいないということですよね。
アントニアにしたらここだけ聞いても何のことやらわからないでしょう。23の妄想だと思ってしまうだろうなぁ。アントニア、後に23とマイアのいきさつは認識できたんでしたっけ?
でもこれがきっかけで23とアントニアのコミュニケーションが成立したなんて、ちょっと驚きでした。それまでは本当に疎遠だったんですね。
お姉さん相手に「お前」なんて言っちゃってるし・・・。

ここでの会話やアントニアの態度からすると、アントニアの思い人が誰なのかは、自ずと浮かび上がってくるような気もするのですが、この時点の23がそこに思い至るのは無理でしょう。まさかのまさか・・・ですから。
アントニアがあのギターラから受けた印象はまさに正解。彼は真摯に向き合ってくれそうですもんね。
あ、アントニアの気持ち、だんだんばれていくわけですね?
そりゃぁドン引きの腫れ物ですよ。
アントニアはこの状態のまま大人しくしているのでしょうか?
2021.04.09 14:19 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

23とマイアには、大きな違いがあって、それは関わる人の数の違いからきています。
マイアの方は、もちろん環境ごとに出会いがあってその度に23のことは薄まっていき「そういえば昔そんな人がいたな」的な記憶になっていますが、23の方は他に出会いも友人もないので、想像の中のマイアがますます重要な存在になっています。
でも、23はわりとバランスの取れた考え方をする人で「彼女がまたドラガォンにやってくるとか、そんなわけあるか」とセルフツッコミをしつつ、諦める決定的な要因もないのでどこかで待っている、くらいの感じでしょうか。
というわけで「運命の恋愛」という言い方をするなら、おそらく「23→マイア」はそうかも知れませんが、「マイア→23」はライサの件がなくてドラガォンに来なければ、普通に誰かほかの人(もしかしたらジョゼとか?)とくっついていたかも知れません。ま、先に《星のある子供たち》産まなくちゃくっつけないですけれど(笑)

23がアントニアにちゃんとマイアとのいきさつを話したのは、この時点より、もっとずっと後ですね。
マイアが実際にドラガォン勤めになってからは、実はアントニアに訊かれて状況は白状しています。
まあ、2人っきりでコソコソ話していたことの大半はライサの件でしたけれど。

「お前」は、あっちの言葉では「tu」です。ヨーロッパの言語では、日本語と違って、年上、年下と兄弟姉妹(や、両親を含めた身内、さらにいうと神様も)に対する言葉遣いは変わりませんので、これを脳内で日本語変換させて記述するときに、23の場合は「お前」を使っています。マイアに対してもそうですね。キャラクターによって「あなた」「きみ」と「tu」の脳内訳語を変えているので、こうなります。ただし両親は「お前」と脳内訳すると日本語として違和感ありありなので「父上」「母上」としてもう少し敬語っぽく記述しています。

アントニアのいい方で、相手が誰か23が予想するのは、この時点では困難です。
23は食事時間以外は居住区に閉じ込められていて、アントニアがどんな《星のある子供たち》と知り合っているのかは知りませんし、さらにいうとほとんどアントニアと話もしたことがないのでなおさらです。そして、16歳の彼にとっては恋愛の対象範囲に親の世代は入っていませんから。

アントニアは、ええと、大人しくはしていませんね。
同居まで追いかけていったわけですから。
ただ、さすがに、「私を恋愛対象にして」と迫るようなことはしていません。
していないけれど、バレバレで、お互いに知らんふりをしている。
周りも、両親を含めて、どちらにも「こうしたらどうでしょうか」なんてうかつにいえない、デッドブロック状態で今まできていたわけです。
そこにライサが預けられて、均衡が崩れた。というのがこのストーリーの根幹ですかね。

コメントありがとうございました。
2021.04.09 20:16 | URL | #9yMhI49k [edit]

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