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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】悩めるつーちゃん

この記事は、カテゴリー表示のためのコピーです。

scriviamo!


「scriviamo! 2019」の第十二弾です。ダメ子さんは、毎年恒例のバレンタインの話で参加してくださいました。ありがとうございます!

ダメ子さんの『四角関係』

ダメ子さんは、かわいらしい絵柄と様々な登場人物たち、それに短いセリフで胸のど真ん中を突くストーリーの、ネガティブな高校生ダメ子さんを中心に繰り広げられる日常を描く人氣マンガ「ダメ子の鬱」でおなじみです。

さて、「scriviamo!」では恒例化しているこのシリーズ、もともとはダメ子さんのところに出てくる、「チャラくんにチョコレートを渡せない後輩ちゃん」をネタに書かせていただいたものです。後輩ちゃんを勝手に名付けてしまったアーちゃんだけでなく、付き添いで勝手に出したつーちゃんまでも、いつの間にかダメ子さんの「ダメ鬱」のキャラクターに昇格させていただいていて、妙に嬉しい私です。で、年に一度、24時間ずつしか進まないという、相変わらずの亀っぷりですが、これってどうなるんでしょうね?


【参考】
一昨年私が書いた「今年こそは~バレンタイン大作戦」
一昨年ダメ子さんの描いてくださった「チョコレート」
昨年ダメ子さんの描いてくださった「バレンタイン翌日」
昨年私が書いた「恋のゆくえは大混戦」


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悩めるつーちゃん - Featuring「ダメ子の鬱」
——Special thanks to Dameko-san


 今朝、私はメールを見て固まった。無理、絶対に書けない!

 私が、ある種の特殊な趣味を持っていることを知る友人はそこそこいる。海外のモデルなどを想定した非常に麗しい少年や青年が、心の痛くなるような美しい展開の末に結ばれるタイプの小説やマンガを愛好しているのだ。

 でも、実際に自分でも書き出したことを知っている人は、学校にはまだいない。親友のアーちゃんにすら言っていない。だって、さすがにドン引きするかなと思って。それに、万が一「読ませて」と言われたらさすがに恥ずかしい。どうひいき目に見ても、まだ下手くそだし、それにちょっと際どいラブシーンもあるし。具体的にはどうやるのか、いまいちわからずに書いているのがなんだけれど。

 長い銀髪の青年とか、青い瞳と薔薇色の唇を持つ少年のことを書くのは、全然抵抗がないのだけれど、キャラクターが日本人となると、途端に筆が進まなくなる。それを私は「ジャンル違い」だと思っていた。

 問題は、いつもお世話になっているネットサークルのイベントで、お題に合わせた作品を提出することだ。このサークルの主催者であるペケ子さんは、いつも私の作品を読んでコメントをくれるし、以前は彼女のサイトで紹介までしてくれた。お陰で私のサイトに定期的に来てくれる人が増えたのだから、彼女のお願いは断れない。

 これまでのお題は、どれも私の好きなタイプの小説を書いてなんとかなったけれど、今朝のメールによると、今回は「(過去または現在の)学生生活で実際に存在する身近な人たちをモデルにした作品」で書かなくてはならないらしい。ええ~、うちの学校なんて、無理!

 「ジャンル違いなのでパスさせてください」って言えたらいいのだけれど、新参者の分際でそんなことを言うのは、少し怖い。努力だけしてみるかしら。

 私は、今日は授業も上の空で、とにかく誰と誰を主人公に据えるかだけでも決めようと、頭をフル回転させていた。

「つーちゃん、つーちゃんってば!」
はっと意識を戻すと、アーちゃんが立っていた。
「そんなに熱心に校庭を見てどうしたの?」

「え?」
私は、廊下から窓の外を眺める形で立っていたのだが、もちろん校庭なんて見ていなかった。
「あ、ちょっと考え事をしていただけ。あれ、アーちゃん、どうしたの? 眼が赤いけど」

「あ、うん。今、チャラ先輩とお話ししたんだけれど……また、誤解が解けなくって、っていうか、誰が好きか言わなくっていいからって、言われちゃった。これって遠回しのお断りだよね」
アーちゃんは、またメソメソし出した。えー、チャラ先輩、そんなことを言ったの?

 アーちゃんは、中学の時から好きだったチャラ先輩を追ってうちの高校に入ったのに、どうも存在すら氣付いてもらっていなかったらしい。今年はようやくバレンタインデーのチョコレートを、直接ではないものの渡すところまではいったのに、モテ先輩へのチョコと誤解されて昨日も泣いていた。そして今日は誤解を解きにいって、遠回しに断られちゃったってこと?

 っていうことは、もしかしてこれまでも、氣付いていないというのは演技で、遠回しに断っていたのかなあ。アーちゃん、かわいいし、チャラ先輩って、女の子はウェルカムっぽいのに、実はお断りなのか。うーん、もしかして。もしかすると、チャラ先輩、BLこっち 側?

 って、ことは、もしかしたら書けるかも。主人公は、チャラ先輩をモデルにして、相手役はやはり美形のモテ先輩かなあ。いや、モテ先輩はないか、彼女が途絶えたことないみたいだし。絵的にはけっこうイケているんだけれどなあ。

「つーちゃん、つーちゃんってば」
私ははっとした。しまった、アーちゃんを慰めなきゃいけなかったのに、すっかり妄想モードに。学校でこれはまずいでしょう。

「ごめん、アーちゃん。私の見たところ、チャラ先輩ってそんな繊細なお断りのしかたが出来るタイプには見えないから、たぶん、絶望的に鈍いだけじゃないかな。だから、希望を捨てちゃダメだよ」

 アーちゃんは、私のとってつけたような慰めに疑問を持ったらしい。
「つーちゃんの方がずっと悩みが深いみたいだけど、どうしたの?」

 す、鋭い。メソメソしていても、ちゃんと見ているんだなあ。
「う。ごめん。ちょっと、切羽詰まってて」
「もしかして、つーちゃんも、バレンタインで誰かにチョコあげようか悩んでいたの? 私、自分のことに精一杯で、氣が付かなかったけれど、もしかしてそのせいでチャンスを逃しちゃったの?」
「え? あ、いや、そういうことは全くないから。私は、どちらかというと2.5次元の方が……」

 アーちゃんは、一瞬だけ微妙な顔をしたが、すぐにいつもの優しい表情に戻った。彼女はレギュラーにはほど遠い存在ながらもバスケ部に入るくらい健全な精神の持ち主なので、腐った世界には全く興味がない。でも、とてもいい子なので、私の好きなことを否定するようなことは絶対に言わない。

 そのアーちゃんの大事なチャラ先輩をモデルに腐った話を書くなんて、私ってなんて極悪非道なんだろう。まあ、いいや、とにかく設定をいろいろと変えて、万が一にでもアーちゃんやチャラ先輩が氣付いたりしないように書かなきゃ。

 やっぱり部活に行くと去って行ったアーちゃんの背中を見送り、私は帰路についた。さっさと帰って、適当なストーリーを考えなきゃ。やっぱり部活で芽生える愛のストーリーかなあ。でも、モテ先輩が相手役じゃないとしたら、誰にしたらいいんだろう。

 うーん、順当なのは、いつも一緒にいるムツリ先輩だよねー。っていうか、なぜ先にこっちを思い浮かべなかったかな。その方がずっと自然だし……。でも、変だな。全然萌えないや、何でだろう。

 そう思って歩いていたら、向こうからなんと本物のムツリ先輩が歩いてきた。げげげっ。

「あ、昨日は、どうも」
昨日? ああ、昨日って、あの半額になっていたチョコを買って交換したことね。
「いや、こちらこそ、その、えーと、ありがとうございました」

 私は、邪なストーリーを考えていた後ろめたさで、まるでアーちゃんみたいに上がってしまった。しかも、何で顔が赤くなるの?!

 ムツリ先輩は、自分でもわかる私のあからさまな挙動不審ぶりをみて、おやという顔をした。しかも、若干嬉しそうに見えるんですけれど、ちょっと待って。いや、私は先輩と会ったからとか、チョコの交換が嬉しかったからとかの理由で、こうして真っ赤になっているわけではないんだけれど。でも、そうじゃないと説明するのも厄介すぎる。

 なんだか、だんだん妙な泥沼に引き込まれているような氣がする。二日前に、アーちゃんの付き添いで、バレンタインチョコをチャラ先輩に渡す手伝いをした時は、まさかこんなことになるとは思っていなかったんだけれどなあ。

 結局、昨日別れた角まで、ムツリ先輩と並んで歩きながら、私は軽い頭痛とともになぜか心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。

(初出:2019年2月 書き下ろし)


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