【小説】合同デート
「scriviamo! 2020」の第六弾です。ダメ子さんは、毎年恒例のバレンタインの話で参加してくださいました。ありがとうございます!
ダメ子さんの『お返し』
ダメ子さんは、かわいらしい絵柄と様々な登場人物たち、それに短いセリフで胸のど真ん中を突くストーリーの、ネガティブな高校生ダメ子さんを中心に繰り広げられる日常を描く人氣マンガ「ダメ子の鬱」でおなじみです。
さて、「scriviamo!」では恒例化しているこのシリーズ、もともとはダメ子さんのところに出てくる、「チャラくんにチョコレートを渡せない後輩ちゃん」をネタに書かせていただいたものです。後輩ちゃんを勝手に名付けてしまったアーちゃんだけでなく、付き添いで勝手に出したつーちゃんまでも、いつの間にかダメ子さんの「ダメ鬱」のキャラクターに昇格させていただいています。一年に二十四時間しか進まないのに、展開は早いこのシリーズ、今回はなんとお返しデート! モテくん、さすがモテる男は行動早っ。でも、デートにはモテくん来ないらしいので、相変わらずのメンバー……。
【参考】
私が書いた「今年こそは~バレンタイン大作戦」
ダメ子さんの描いてくださった「チョコレート」
ダメ子さんの描いてくださった「バレンタイン翌日」
私が書いた「恋のゆくえは大混戦」
ダメ子さんの「四角関係」
私が書いた「悩めるつーちゃん」
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合同デート - Featuring「ダメ子の鬱」
——Special thanks to Dameko-san
日曜の朝、私は決心した。なんとしてでもアーちゃんとチャラ先輩を二人っきりにする! そもそも、この大混戦になったのは、アーちゃんとチャラ先輩が二人っきりでちゃんと話をしていないからだ。いくら重度のあがり症とはいえ、休みの日に数時間二人っきりになったら、あの子だって、自分の想いを伝えられるだろう。
事の起こりはバレンタインデーだ。中学の頃から憧れているバスケットボール部のチャラ先輩に、アーちゃんはようやく手作りチョコを手渡した……っていうのかな。まあ、手渡したのは事実。ところが、あがり症でちゃんと告白できなかったアーちゃんの不手際が誤解を生み、チャラ先輩はそれをモテ先輩へのチョコだと思って渡してしまったらしい。
しかも、翌日に、改めて告白しようとしたアーちゃんに、先輩は「好きな人が誰かなんていわなくていいから」と言って去ってしまったそうな。「これってお断りってことだよね」とメソメソするアーちゃんに「誤解だと思う」とは伝えたものの、実際のところ私にもどっちなのかわからない。
私はこの恋はお蔵入りかなともう半分諦めていたのだけれど、なんとあのモテ先輩が手作りチョコのお礼で五人で遊びに行くことを提案してくれたらしい。モテる人って、ここまでマメなのか。私にはそういう世界はわからない。まあ、でも、次の作品の参考にさせてもらおう。
いや、私の萌えの話は、ここではどうでもいい。アーちゃんとチャラ先輩を二人っきりにする大作戦のほうが大事。
幸いそつのなさそうなモテ先輩だけでなく、ムツリ先輩もかなり察しがよさそうなので、私が上手に誘導したら、その場から上手に消えてくれるに違いない。そして、その後、私は上手にアーちゃんたちの後をつけて、必要ならアシストする。
私は、ワードローブを覗いた。うーん、何を着ようかな。適度に消えるとはいえ、しばらくはチャラ先輩の前にもいるわけだから、とにかくアーちゃんよりも目立つ服はダメだよね。もっさり系の服なんて、あるかな。
あったけど、このパーカー付き部屋着はダメだよね。「ベニスに死す」展でつい買っちゃったヤツだけど、ビョルン・アンドレセンの顔写真プリントされているのって、やっぱり外には着ていけない。チャラ先輩はともかく、ムツリ先輩に軽蔑されそうだし。あ、ムツリ先輩に氣に入られたいとか、そういうんじゃない。ほら、その、私服が変な子とか噂になりたくないし。
アーちゃん、かわいい系でいくだろうから、かわいくない感じの服にすればいいか。女捨てている感じだとこれかな、革ジャンとジーンズ。あ、この間買ったブーツ合わせちゃお。
待ち合わせした駅前に行くと、アーちゃんはまだ来ていなかった。きっとギリギリまで何を着ていくかで迷っているんだろうな。あ。ムツリ先輩、いた。
先輩は、私の服装をみて少し驚いたようだった。どうでもいいでしょう。私はどうせ付き添いだし。
「こんにちは。お誘いくださり、ありがとうございました。えーと、チャラ先輩とモテ先輩は……」
そう言うと、ムツリ先輩は頭をかいた。
「チャラはトイレ行っている。モテは来ない。チャラには言っていないんだけど、始めから言われてた。その方がいいだろうからって」
へえ。モテ先輩、よくわかっているんじゃない。って、ちょっと待って、ってことは、これはアーちゃんとチャラ先輩を二人きりにする絶好のチャンスなのでは? 私は、ムツリ先輩に近づいて宣言した。
「じゃあ、私たちもトンズラしましょう!」
「えっ?!」
あ、いや、ムツリ先輩と二人でどっかに行こうって意味ではなくて!
「このまま、私たちが姿を現さなければ、あの二人のデートになるんですよ。そうなったら、さすがのアーちゃんでも、誤解を解けるかと! 私たちは、こっそり後をつけてアシストするんです」
「あー、そういうこと」
ムツリ先輩は、氣のない返事をした。名案だと思ったんだけれどなあ。
「わかった、じゃあ、隠れるか。って言っても、どこに」
ムツリ先輩と見回す。
「あ、あの駅ビルに大きい窓が。あそこから様子を見ましょう」
私たちは、急いでその場を離れ、広場に面した駅ビルの中に入っていった。
「ところで、今日って、どこに行く予定なんですか?」
ムツリ先輩は首を傾げた。
「チャラに任せたから知らないんだよな」
えー、チケットとか買ってあったりして。
駅前広場を見下ろすウィンドウについて改札の方をみると、出てくるチャラ先輩が見えた。辺りを見回している。そして、私が予想したとおり、アーちゃんはこのビルの横の歩道橋を渡って現れた。おお、ピンクのワンピース。私には絶対に着られない甘い服。よく頑張った!
しかし、二人きりで慌てているのか、ものすごく挙動不審だ。普段の私が集合五分前には必ず行くので、まさかいないとは予想もしていなかったに違いない。チャラ先輩は、スマホを手に取って操作している。
「あ。チャラからだ」
見ると、ムツリ先輩がスマホを見ている。
「今どこ、だって」
「私が遅れているので、拾って行くから先に行って欲しい、どこに行くか知らせろって返事してください」
「君、策士だね」
ムツリ先輩は、メッセージを書き込む。すかさず電話がかかってきた。
「よう。俺? ええと、俺もトイレ行こうと思って。うん、つーちゃんからメール来た……いや、バックレないよ、行く行く。うん、アーちゃんにも言っておいてって。……わかった。じゃ、後で」
改札前のチャラ先輩がアーちゃんに説明している。彼女はますます挙動不審の慌てぶりだ。何やってんのよ、せっかくチャンス作ってあげているのに。
「えーと。このビルの五階、サンジャン・カフェで待っているって」
ムツリ先輩が言った。
「ええっ。そんな普段っぽいチェーン店? どういうチョイスなんですか?!」
「っていうか、最上階の映画館にいこうとしているらしい。でも、俺たちが来るまで待つらしい」
むむ。そういうことか。いずれにせよ、私が遅れている設定なので、見つからないようにどこかで時間を潰す必要があるわね。
ムツリ先輩と私は、二人と鉢合わせしないように急いで階段を昇り六階に向かった。そこはフロアの半分がゲームセンターになっている。その奥にある催事場でしばらく時間を潰そうと横切っていった。
ふと振り返ると、ムツリ先輩がプリクラゾーンのど真ん中で突っ立っている。ちょっと待って。まさかプリクラ撮りたいわけでもないでしょうに、なぜそんなところに引っかかるのよ。少し戻ると先輩はプリクラ機を見ているのではなく、その奥の誰もいないようなくらいゾーンを見ていた。
のぞき込むと、どうやら格闘ゲームのコーナーらしい。ゲームセンターは友だちとワイワイ行くところなので、プリクラとか音ゲーとかは行くけれど、格ゲーはやったこともない。
「なんですか?」
「いや、今聞こえた音楽……」
そう言いながら、そちらに吸い寄せられていく先輩を追った。他の場所と較べて明らかに閑散としているコーナーの一番奥に、先輩のお目当てはあったらしい。
「げ、本当に『時空の忠臣蔵』だ……」
「なんですか、それ」
「え。ああ、四年くらい前にあちこちのゲーセンにあったんだけれど、マイナーですぐに入れ替えられちゃった格ゲーなんだ。ここにまだあったのか」
「えーと。好きだったんですか?」
「ああ、うん。出てくる敵とか設定にツッコミどころが多くて、やっていても飽きなかったというか……」
へえ。どうツッコミどころが?
「ちょっと、やってみてくださいよ」
「え、いいの? じゃあ、ちょっとだけ」
オープニングが流れ、元禄15年12月14日つまり討ち入りの当日、仲間とはぐれている早野勘平が吉良上野介の屋敷に急ぐことが告げられる。ところが、次から次へと邪魔が入ってなかなか屋敷まで進めないという設定らしい。
「ほら出た」
すぐに出てきた敵キャラ。でも、それはイノシシ。えー、人じゃないの?
「この辺はまだまともなんだよ。『仮名手本忠臣蔵』では勘平は猟師として暮らしていて、イノシシを撃とうとするエピソードもあるんだ」
へえ。先輩、詳しい。すごくない?
その次に出てきた敵キャラは「義父を殺して金を奪った斧定九郎」というテロップが出た。先輩は慣れた様子でそのキャラも倒した。
「設定がおかしくなるのはこの後から」
次のキャラは、打って変わり立派なお殿様っぽい服装だ。「何をしている」と言って出てきたけれど、名前を見ると浅野内匠頭って、えーっ、ご主人様じゃん。なのに戦うの? っていうか、この人が松の廊下事件を起こしたあげく切腹したから討ち入りに行くことになったんじゃなかったっけ?
「よっしゃ。次」
ちゃっちゃと主君を倒した勘平は角を曲がる。次に出てきた腰元女キャラ。え。お軽って……それは恋人じゃ……。
その後、将軍綱吉の愛犬や新井白石、桂昌院など変な敵と戦った後、なぜか将軍綱吉まで倒して先を急いで行く。なんなのこれ。
そして、次の敵は、まさかの堀部安兵衛。ちょっと仲間と戦うってどうなのよ。ムツリ先輩は慣れた様子で堀部安兵衛との戦いを始める。えー、やるの?
「もう、つーちゃんったら!」
その声にギョッとして振り向くと、後ろにアーちゃんとチャラ先輩が立っていた。
げっ。なんで? ムツリ先輩も予想外の事態に呆然として動きが止まった。その隙に、堀部安兵衛はあっさりと早野勘平を倒し、エンディングテーマが流れる。
「命を落とした早野勘平は、討ち入りに参加することは叶わなかった……」
チャラ先輩はニヤニヤ笑っているが、アーちゃんは激怒に近い。
「もしかしたらここじゃないかって、先輩が言っていたけれど、私はそんなはずはないって思っていたのに!」
えーっと、謎の格ゲーに夢中になっていたら、けっこうな時間が過ぎていたらしい。
「あ、いや、ついてすぐにサンジャン・カフェに行こうと思ったんだけど……」
「じゃあ、なぜカフェより上の階にいるのよ! もう」
アーちゃんのいつものあがり症は、怒りでどこかへ行ってしまったらしい。
チャラ先輩は、ムツリ先輩に近づくと言った。
「映画、始まっちゃったよ。次の回は夕方だけどどうする?」
「う。申し訳ない」
私はアーちゃんに小声で訊いた。
「で。先輩と沢山お話できたの?」
誤解は解けてちゃんと告白できたんだろうか? 仲良く二人でここにいるって事は、そうだと願いたい。
「いっぱいしたけど、主につーちゃんたちが今どこにいるかって話よっ!」
ありゃりゃ、だめじゃない。策略、大失敗。
結局、映画は次回にしようということになり、そのままゲームセンターで遊ぶことになった。氣を遣う私は、アーちゃんとチャラ先輩がプリクラで一緒に収まるように誘導する。まず男同士、女同士でさりげなく撮り、先輩方が微妙な顔をしているところに提案をした。
「私は、ムツリ先輩と撮りますから、先輩はアーちゃんと撮ってくださいね」
もとのあがり症に戻ってしまったので、喜んでいるのかはいまいちわからないけれど、とにかくあのプリクラはアーちゃんの宝物になるだろう。
問題は私の方。ムツリ先輩とのプリクラ、どうしたらいいのかしら。無碍にしたら失礼だからちゃんと持って帰るけど、捨てるのもなんだし……でも、これずっととっておくのかしら、私。先輩はどうするんだろう。うーん、もっと可愛い服着ておけばよかったかな……。
(初出:2020年2月 書き下ろし)
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