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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

ハイジ展と中島順三さんのこと

先週、日本から浜松市美術館の「ハイジ展-あの子の足音がきこえる-」展の関係者の皆さんが渡瑞され、牧下りなどを一緒に楽しんだのですが、関連する話を何回かに分けて記事にしようと思います。

ハイジ展パンフレット

2022年7月9日(土)から9月11日(日)まで、静岡県浜松市、浜松市美術館にて「ハイジ展-あの子の足音がきこえる-」が開催されました。テレビアニメーション『アルプスの少女ハイジ』とヨハンナ・シュピーリによる原作『ハイジの修業時代と遍歴時代』の双方からアプローチした魅力あふれる、それにめったに見ることのできない貴重な資料を集めた展覧会でした。

今回渡瑞なさったチームは、作者シュピーリ自筆書簡や原作の挿絵をはじめとする日本初公開の貴重な資料を返還するためと、スイスやドイツで開催される『ハイジ』の展示に関する打ち合わせなど、超ハードスケジュールの日程でいらしたのです。

私は、部外者ながらもグラウビュンデン州においての(ほんのちょっぴりですが)協力者という立ち位置で、こうしたアニメ『アルプスの少女 ハイジ』関係の方がいらっしゃるときにはお目にかかる機会が多いのです。今回は、我が家ではなくて、プレッティガウの牧下り祭と、マイエンフェルトでの打ち合わせに参加させていただき、軽くご案内と通訳まがいのことをしてきました。って、一緒に遊んだというだけですけれど……。

ハイジの九谷焼

いらっしゃるとわかって、わがままと知りつつ以前から欲しかった九谷焼の小皿とレンゲを購入して持ってきていただきました。これ、とっても可愛いですよね。展覧会の会場でも販売したそうです。

今回の「ハイジ展-あの子の足音がきこえる-」展は、上記にあるように日本初公開の貴重な資料、小田部羊一さんの描かれたお下げだった構想当時のハイジの絵や、48年前のロケハンの写真やメモ、アイデアスケッチ、本物のセルなどめったに見ることのできない貴重な資料が一堂に会したすごい展覧会だったのですが、関わった面子もすごくて今回ならびに以前スイスでお目にかかった日本のハイジ研究者がほとんど関わっておられる他、アニメ『アルプスの少女ハイジ』のプロデューサーだった中島順三さんと、キャラクターデザインを手がけた小田部羊一さんが企画段階から全面協力し、オープニングでも対談をなさっていました。

このお2人、我が家にもお見えになっていて、一緒にバーベキューをさせていただいています。

その中島順三さんが、8月14日に急逝されました。展覧会に水を差すことを氣になされたご家族のご意向で、このことは展覧会が終わるまで伏せられていました。ショックでしばらくなにもする氣がおきませんでした。

お目にかかったのは数回ですが、そのお人柄には毎回感服していました。『アルプスの少女ハイジ』以外にも『母をたずねて三千里』『あらいぐまラスカル』『フランダースの犬』などの誰でも知っているアニメ制作に関わられ、日本だけでなく世界に知られたアニメをたくさん送り出した大人物にも関わらず、いつも謙虚で周りの人のことを立てられる全く偉ぶらない素敵な方でした。

お目にかかる時に、どれほど偉大な方なのかをうちの連れ合いに説明はしましたが、日本的な敬意の示し方を全くわかっていない連れ合いが、友達のように氣易く話しかけてもニコニコなさって、連れ合いの家業であるオールドタイマー二輪車をいろいろと眺めながら楽しく話をなさっていたことも印象的でした。

お目にかかって感じたのは、「表現者としての哲学が作品を作る」ということでした。『アルプスの少女ハイジ』をメインとなって作ったのは、プロデューサーとしての中島順三さん、総監督の故高畑勲さん、キャラクターデザインの小田部羊一さんと、画面構成の宮崎駿さんでした。この4人は日本のアニメ界を長らく牽引してきた功労者であると同時に、みなさん強い哲学を持って作品に関わってこられた方だというのは、私がここで書かずともみなさんご存じだと思います。

子供たちにいい作品を届けたい、その想いが数々の名作を生み出してきましたが、実際に中島さんや小田部さんとお目にかかり創作当時のあれこれを伺って思うことは、創り手の心の中が作品にきちんと表れているのだということです。

現在の世にあふれた作品を見るとき、全てが好ましい作品であるとは思えません。少なくとも日曜日の夜に、小さな子供たちが楽しみにして見るような作品というのは、あまり多くないと思います。アマチュアの表現者ならば、「何を表現しようが勝手だろう」という意見もあると思います。プロとしても「表現の自由がある」「売れることも大切だ」という意見もあるかもしれません。

中島さんは、もちろんおひとりではありませんが、プロデューサーとしてあの作品を作られました。お目にかかって直接感じたあの方のまっすぐで優しい、そして心の中にしっかりと哲学をもたれた姿勢が、あの作品を作ったのだと感じました。

私自身も、完璧なアマチュアですが、自分は表現者の端くれだと思っています。そして、私の作品の中には、何をどう弁解しようとも、私という人間そのものが表れるものだと思うようになりました。作品と作者は全くの別物ではなく、それを送り出すことは、ある種の覚悟と世界に対する責任が必要なのだということを中島さんから学んだと思っています。

最後にお目にかかったのは2019年にスイスにいらした時に、小田部羊一さんと一緒に我が家にお越しいただきバーベキューをしたときです。80歳を超えているとはとても思えないお元氣さでした。仲良しの小田部さんと久しぶりのスイスを楽しまれているご様子が頼もしく、なんとなくこのまま100歳まででもこうしていらっしゃるんだろうなと思っていました。

コロナ禍が始まってからも、幸いお元氣だということを人づてに伺い安心していましたし、展覧会のオープニングにも小田部さんと登壇なさったと伺っていたので、まさかたったの1か月で急逝なさるとは夢にも思っていませんでした。

またお目にかかってお話がしたかったと思います。それから、もの知らずで失礼な私たち夫婦のことを笑って受け入れてくださったことに対してのお礼も言いたかったです。スイスにこんなに日本人がやって来て、その人たちがスイス人たちからも好意的に受け取られる大きな橋を架けたのは、間違いなくアニメ『アルプスの少女ハイジ』です。

数回お目にかかっただけの私でもこれだけショックなのですから、ご家族はもちろんのこと、半世紀にわたって親しくしてきた小田部さんや宮崎駿さん、そしてずっと『ハイジ』の研究に関わって親しくされてきた皆さんは、大きな喪失感と悲しみを抱えていらっしゃると想像します。

中島さんのご冥福をお祈りすると同時に、ご家族や関係者各位の悲しみが1日も早く癒やされることを遠くスイスからお祈りします。
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Comment

says...
『アルプスの少女ハイジ』というアニメに携わった方々が、いかに良い仕事をなさったのかがよくわかりました。八少女夕さんが仰るように、子ども向けのアニメ作品としても優れているし、日本とスイスの掛橋にもなっていますよね。そいった貢献をなされた方が亡くなるというのは残念ですね。

作品には表現者の人格が現れる、というのは同感ですね。どんなジャンルであろうと、どんなストーリーであろうと、そこには必ず表現者の思想のようなものが現れるのだと思います。深刻に考えすぎる必要はないでしょうけど、ある程度の責任と覚悟は必要なのでしょうね。
2022.10.19 04:47 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
亡くなられてしまったんですね…
でも直前まで旅行できるぐらい元気ってのはいいのかも

人柄が作品に現れていたんですね
ハイジちゃんと見てみたくなりました
2022.10.19 12:46 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

あの作品、原作との違いを読み解くと、創り手の哲学が浮かび上がってくるんですよ。
日本人にはアニメの方が馴染み、ファンが多いのはその改編に秘密があるように思います。

日本の創作は、いろいろな意味で優れていると思いますが、無垢な子供に勧めたい作品となると、最近の作品はあまり浮かびません。
技術はものすごく進んだのに、不思議ですよね。
創り手として、ずっと同じ哲学を持ち続け、亡くなる1か月前まで心を砕かれていた方の存在はとても大きいと思います。

表現の自由があり、それは抑圧されるべきではないとは思いますが、それは「私が」どんなことでも表現すべきだ、ということではないと思っています。私は、私の書く内容に責任と覚悟を持つべきであり、それを中島さん(や小田部さん)に教わった一番大切なことだと思います。

コメントありがとうございました。


> 『アルプスの少女ハイジ』というアニメに携わった方々が、いかに良い仕事をなさったのかがよくわかりました。八少女夕さんが仰るように、子ども向けのアニメ作品としても優れているし、日本とスイスの掛橋にもなっていますよね。そいった貢献をなされた方が亡くなるというのは残念ですね。
>
> 作品には表現者の人格が現れる、というのは同感ですね。どんなジャンルであろうと、どんなストーリーであろうと、そこには必ず表現者の思想のようなものが現れるのだと思います。深刻に考えすぎる必要はないでしょうけど、ある程度の責任と覚悟は必要なのでしょうね。
2022.10.19 19:39 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

そうなんです。
お話ではハイジ展の開会セレモニーでは、車椅子でご参加されたということなんですが、そんなにすぐに亡くなられるとは誰も思っていなかったとのことです。
最後まで、「ここをこうしたら、もっとよくなるんじゃないか」「この方のすごさをもっと前面に出したらどうか」と積極的にハイジ展のことを語っていらしたと……。

原作は、もうちょっと説教臭くて、さらにいうと一部のキャラクター(とモデルになっている人たち)にけっこう辛辣な味付けになっているんですが、アニメはもっと日本の親も子も温かい気持ちでのめり込めるつくりになっていると思います。むこうの「ハイジ村」で第1話がかかっていて、懐かしくてじーっと見てしまいました(笑)

コメントありがとうございました。

> でも直前まで旅行できるぐらい元気ってのはいいのかも
>
> 人柄が作品に現れていたんですね
> ハイジちゃんと見てみたくなりました
2022.10.19 19:53 | URL | #9yMhI49k [edit]

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