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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(12)計画 -2-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』の第12回後編をお届けします。

さて、人払いをして自分の婚活について話し出したレオポルド。まともな政治の話をしているようで、実はまたしても何かを企んでいました。

そして、『男姫ヴィラーゴ祭』のお約束、今日だけ許されたラウラのわがまま発動も、同時にここです。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(12)計画 -2-


「ルーヴランの時もそうだったが、グランドロン王が行列をなしてやってきたら、向こうは当然取り繕ってよい面しか見せないようにするだろう? トリネア港や市場なども本来の姿を見るのは難しい。ましてや候や姫と家臣の関係などはまずわからない。加えてヴェールをして取り澄ました当の姫が、蓋を開けてみたらわが母上そっくりの高慢ちきだったりしたら最悪だ」
「おっしゃる通りですね」

 レオポルドは身を乗り出した。
「そこでだ。余は一足先に行って、自らの目でトリネアをとくと見聞したいのだ」

 一同、思わず驚きの声を漏らした。

 フルーヴルーウーに到着するまでの旅だけではなく、またしても身分を隠しての旅を画策していたとは。しかも、このことを腹心であるフリッツ・ヘルマン大尉にまで隠していたらしい。もちろん予め口にしていたら、フリッツはこれほど早くここに来ることを全力で止めただろう。

 マックスは言った。
「陛下。お氣持ちはわかりますが、そういう情報集めは配下の方におまかせになった方がいいのでは」

「誰に」
「例えば、ヘルマン大尉は信頼のおける部下ではないですか」

「私は陛下のお側を離れるわけには参りません。ただでさえいつもよりも護衛が少ないのですから」
フリッツは仏頂面で口を挟んだ。

 レオポルドは「ほらみろ」と言わんばかりに頷いた。

「今回は人まかせにはしたくないのだ。ところで、余が道連れとして一番適任だと思うのはそなただ。そなたは平民としての旅に慣れている。一方、遍歴の教師としての資格を示せば、ある程度の貴族の家庭にも上手く入り込むことができる。さまざまな階級を少しずつこの目で見ることは余のかねてからの願いだったのだ。それに、どうだ。そなたもまた少し旅がしたいのではないか」

 マックスは、そう言われると嫌とは言えない。フルーヴルーウー辺境伯としての扱いと仕事にはようやく慣れてきたが、自由に世界を旅して回った遍歴教師時代の暮らしが懐かしくてたまらないのも事実だ。この機会を逃せば次いつ旅が出来るかわからない。
「そうですね。陛下のたっての仰せを無下にするわけにはいきませんかね」

 ヘルマン大尉は、よくも簡単に寝返ったなという顔をした。

 マックスは抜け目なく続けた。
「枢機卿との面会に立ち会えれば、ベッケム大司教への牽制になりますよね。そもそも聖バルバラの聖遺物について教皇庁の見解を文書としていただければ、後々の問題にもならないだろうなあ。謁見の際に、陛下の信頼篤い廷臣として同席し、そちらの話題をお許しいただけるなら、平民としての旅のご指南くらいはいくらでも」
「そなたも、かなりの狐だな」

 マックスまでがこのように行くと言い出してはもはやヘルマン大尉に止めることは不可能だった。
「では、私は部下たちに支度を……」

「待て。ゾロゾロ着いてこられるのは困る。やたらと護衛のいる平民一行なんてあるわけないだろう」
レオポルドが言うと、ヘルマン大尉はムキになって答えた。
「陛下が何とおっしゃろうと、私だけでもお伴いたします。これだけは譲れません」

「では、お前だけ来い。ただし、ひと言でも『陛下』などと言ったらその場に置いていくからな」
レオポルドは、諦めたように言った。

「私も一緒に参ります」
これまでずっと黙っていたラウラが突然言った。

 男たちはぎょっとして彼女を見た。
「何だって?」

「私も、皆様と一緒に参ります。トリネアまで」
ラウラは、子供に言い聞かせるようにはっきりと、しかし、有無を言わせぬトーンで言った。

 レオポルドはその声色をよく知っていた。書類に署名をもらうまでは後に引かぬと決意しているときの宮廷奥取締副官たるフルーヴルーウー辺境伯爵夫人はいつもこうだ。

 夫であるフルーヴルーウー辺境伯の方は、ラウラにこのように迫られたことはあまりないのか、意外そうに驚きながら反対意見を述べ始めた。

「でも、ラウラ。僕たちは身分を隠していくんだ。貴族などは一顧だにしない安宿に泊まらなくてはならないし、馬車ではなくて馬に乗らなくてはならない。そんな旅は城の中で育った君にはつらいだろう。それに、僕は君の身に危険が及ばないかとても心配だ」

「旦那様。私は、ルーヴの貧しい肉屋で子供時代を過ごしたのですよ。安宿ぐらい何でもありませんわ」
ラウラはきっぱりと首を振った。

「でも、徒歩で《ケールム・アルバ》を越えていくんだよ。とてもきつい旅だ。トリネアを見たいのならば、どちらにしても陛下の訪問の行列を装った空の馬車が行くのだから、それと一緒に来た方がいい」

「今日が何の日かお忘れになっていませんか」
「え?」

男姫ヴィラーゴにちなんだ祝祭の今日、フルーヴルーウー伯爵夫人である私は、夫君であるあなたにどんな命令でも下せるのですよね」

 マックスはぎょっとした顔をし、成り行きを見守っていたレオポルドは破顔して笑い出した。
「そなたの負けだ、マックス。奥方さまは何が何でも我々と一緒に旅をしたいらしい」

 ラウラは微笑んだ。
「森を越えて、いつか遠くへ旅をしてみたい。あなたと同じようにいろいろな世界を見て回りたい。ずっと夢だったんですもの。どうぞ私もお連れください。お邪魔にならないようにいたしますから」

 アニーが叫んだ。
「では、私も参ります! 殿方には、ラウラさまのお世話はできませんもの」
ヘルマン大尉は、ムッとしたようにアニーを見たが、貴婦人の世話は出来ないことは間違いなかったので反論しなかった。

「これ以上、同行者が増えると困るから早く話を進めよう。準備が整い次第、ここを発つぞ」
レオポルドは、ため息をついた。
関連記事 (Category: 小説・トリネアの真珠)
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Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

あああ、そうなりましたか。言われてみれば、城下町遊びくらいで済むはずがないですよね。
陛下の狙いはわかりますし、なんといっても自分のパートナー選びだし、国にとっても重大な案件ですからねぇ。人任せにはできないか。……って、完全に陛下の術中に嵌ってるし(笑)
マックス、陛下を諫めるどころか、嬉々として賛同してるし。ラウラの「命令」にはさすがに度肝を抜かれたようですが、彼女の願いを聞いちゃったら断れないですよね。
「水戸のご老公」一行ならぬ、「暴れん坊将軍」ご一行のトリネア漫遊記、いよいよ開幕ですね。楽しみです。
2022.11.02 08:28 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよ。フルーヴルーウー城で遊ぶことなんか、はじめから目じゃなかったんです。
目的はマックスに案内させて、マックスがやっていたみたいな旅をすることでした(笑)
パートナー選びは、けっこう口から出任せだったかも。でも、行くからにはチェックしておこうみたいな。

マックスは、ずっと「堅苦しいよ。また旅に出たいよ」とおもっていましたが、いちおう我慢していたんですよね。で、ちょうどいい口実ができちゃったので、渡りに舟です。まさかラウラまでついてくるとは思っていませんでしたが。

というわけで、ようやく本題の旅に出ます。本題までが長すぎるし、そもそもヒロインはどこだ(笑)

コメントありがとうございました。
2022.11.02 23:58 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おお、ついにご一行様の誕生ですね。
レオポルドもマックスも同じ穴の狢じゃないですか。本来の姿を見たいとか、ベッケム大司教への牽制になるとか色々言い訳をしていますが、2人とも羽目を外したくてウズウズしているみたいです。
ご老公ではなくて暴れん坊将軍の方ですけれど。トリネア漫遊記、これは楽しそうです。
ラウラが加わるのはある程度予想していましたが、ここであのお祭りの「命令」が生きてくるとは・・・なぁるほど。
そしてアニーまで参加するとは・・・フレッツとのドタバタなど、ますます楽しみになってきました。
ヤレヤレ、フレッツも巻き込まれちゃって可愛そうに。責任は重大ですしいい迷惑でしょうが、役回りとしては面白そうです。
レオポルドの暴走を楽しみにしています。

あ、サキが気になっているフェリパ、何処かで絡んでくるのかなぁ。
2022.11.05 10:23 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

ここにきてようやく本題ですよ。この5人の旅がこのストーリーの要でございました。後半のトリネアの話も大切なんですけれど。

レオポルドもマックスも、あれこれ領地のことや政治のことを考えている体裁は整えていますが、結局、自由な旅がしたいだけです。

ラウラ1人を紅一点で、という案も考えたのですがちょっと不自然なので、アニーとフリッツも含めた5人旅にしました。
レオポルド、あまり暴走はしないかも。というか、国王がこんなことをしている時点で十分暴走か(笑)

フィリパも、出てきますよ。ご期待ください。

コメントありがとうございました。
2022.11.06 00:11 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
陛下ノリノリだな(笑)。
まあ、これぐらいフットワークが軽い方が良いのでしょうか。
行動力がある方が良い時と、
ずっしり座っている方が良い時とありますが。
向き不向きがありますからね。
こういう陛下の在り方もありなんでしょうね。

2022.11.10 11:46 | URL | #- [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

この人、あれこれ理由はつけていますけれど、実はマックスみたいな旅がしたくてたまらなかった模様です(笑)

自分の好きなことばかりはできないとは百も承知で、国王としてはそれなりに振る舞っているようですが、一生に1か月くらいは楽しいお忍びの旅行をしてもいいだろうと思ったんでしょうかね。これが某時代劇のように、毎週のように事件を解決して回られると、ちょっと臣下も困るでしょうが。

コメントありがとうございました。
2022.11.11 23:25 | URL | #9yMhI49k [edit]

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