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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(13)森の道 -1-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』の第13回前編をお届けします。

レオポルドの計画にマックスも乗り、結局フリッツ、ラウラ、アニーの5人でトリネアまで身分を隠して旅をすることになりました。

今回からは、具体的な旅がしばらく続きます。一体いつになったらトリネアにつくんだろうか……。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(13)森の道 -1-


 マックスから旅立ちの話を聞かされたフルーヴルーウー城家令のモラは、いつもの冷静さを失うほどの驚きを見せた。ただの旅ではなく平民のなりをして馬や徒歩で《ケールム・アルバ》の険しい山道を行くというからだ。

 フリッツに国王の計画を聞かされた護衛の兵士たちも、はじめは信じることができなかった。彼らは、国王がヘルマン家の馬車で身分を隠して旅してきただけでも酔狂だと思っており、よもやそれ以上のことを企んでいたとは夢にも思っていなかったのだ。

「よいか。そなたたちは、余がまだこの城にいるかのように振る舞っていればいい。誰かが訪ねてきたら、余とフルーヴルーウー伯爵夫妻は夏風邪で伏せっているとでも答えておけ」

 周りの反対と心配をかわし、一行は出発の準備をした。国王、辺境伯夫妻としての豪華な衣装を脱ぎ、それぞれが用意させた平民の服を用意した。レオポルドは裕福な商人デュランとなり、その秘書マックス、護衛兼従者フリッツ、そして、それぞれの妻とともにトリネアへ買い付けに向かっているということにした。

 フリッツとアニーは初めは夫婦の設定に難色を示した。
「いくら何でもこんな子供みたいな娘を妻というのは嘘っぽくありませんか」
「私は、ラウラさまの女中ってことにすればいいじゃないですか」

 レオポルドは鼻で嗤った。
「自分で服も着られない高貴な奥方さまが、商人の秘書と結婚するわけないだろう。それに、お前もだフリッツ。うるさいことを言うなら、ここに残ってもいいんだぞ」

 フリッツとアニーは顔を見合わせてから、仕方なくその役柄を受け入れた。

「陛下も、その口調をまず改めてください。余なんて言う商人はいませんからね」
マックスに言われて、レオポルドもしばらく商人らしい口調の練習をしていた。

 そうして、ようやく商人デュランの一行は、旅に出発した。マウロは当然ながらレオポルドとマックスがいつもの愛馬を連れていくものと思っていたが、マックスは笑った。

「悪いが城下町で平民に買える手頃な馬を3頭調達してきてくれ。こんな立派な馬を連れていたら、いくら変装していても目につきすぎる。来月まで陛下の馬の世話は頼んだぞ。どっちにしても空の馬車とともにトリネアに来てもらうことになるしな」

 護衛兼従者夫妻ということになっているフリッツとアニーが乗馬するのはおかしいのだが、荷物を運ばせるためにもう1頭いるといえば奇妙に思われることはないだろうとマックスは3頭で行くことを提案した。誰も見ていない行程では全員が乗っている方が速く進めるという利点もあった。

「この馬で、《ケールム・アルバ》を越えてトリネアまで行けるんですか?」
フリッツは、痩せて年老いた馬を見て首を傾げた。

「弱ってきたら、途中の村で払い下げてまた似たような馬を買って乗り継ぐんですよ」
マックスは、かつての旅でいつもそうしてきた。荷物も可能な限り少なくして、必要なものは旅の途上や目的地で買いそろえる。

 ラウラが大量の服を持って行くと言い出さなかったのはさいわいだった。馬に背負わせるとはいえ、刺繍入りのビロード胴着などはひどく重いし、ヴェールやさまざまな装身具の類いも非常にかさばる。

 ラウラはアニーに助言を求め、さっぱりとしたリネンの中着と汚れの目立たない長袖の上着を用意した。換えは1着のみで普段つけている左腕の覆いの代わりもスダリウム布だけにして他の用途にも使えるようにした。

 マックスは、全員にしっかりとした毛織物のケープ付きの長衣も持って行くように言った。
「いまは十分暑く感じられますが、夏とはいえ山の上の朝晩はとてつもなく寒くなりますから、重ねて着られるように準備してください」

 こうして、旅の準備を終えた一行は、心配そうに見送る家来たちにひとときの別れを告げて山へと足を向けた。
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Category : 小説・トリネアの真珠
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

てっきり人目を盗んで忍び込むつもりかと思いましたが、なるほど、商人になりすますという手がありましたね(既視感w)
要人が身分を隠して旅をするときの格好の隠れ蓑として、商人というのはいろいろと都合がいいですよね。主従関係にある多人数が連れだって他国を旅するのも自然だし、行く先々で人と接触しても怪しまれにくい。これで堂々とトリネアに入り込むことができるわけですね。
かつて諸国を旅したマックスの経験が、こんなところで役に立っていますね。
フリッツとアニー、偽装夫婦に難色を示してますが、これはもしかしたら瓢箪から駒ということもあるかもですね。
2022.11.16 14:55 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

裏設定ですけれど、レオポルドの当初の計画は、遍歴教師と同行する友達、みたいな感じでした。でも、どんどん同行者が増えて女が2人持ついてくることになったので、しかたなく設定変更した(笑)、というわけです。

マックスは、フルーヴルーウーさえ離れればもともとの旅する傍観者に簡単に戻れるのですが、他の人間はその界隈は素人ですので、いろいろと面倒くさいはずです。

フリッツとアニーは、旅の間中、こんな風に小競り合いを続けます。ええ、お約束通りですので安心してお楽しみください。
(なんだそりゃ)

コメントありがとうございました。
2022.11.16 19:45 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
まさにヨーロッパ版、水戸黄門ですね。
途中で「控えおろう」なんてやりださないでしょうね(^^♪
どんな旅になるやらです。
2022.11.20 03:11 | URL | #- [edit]
says...
ついに出ましたデュラン様。
まわりは随分と迷惑そうですが、こうでなくちゃ始まりませんね。
フルーヴルーウーに残る面々が上手く隠しおおせるかどうかがちょっと心配ですが、ま・・・モラがいますから上手くやるでしょう。
で、なかなか面白い設定じゃないですか。デュランが商人でマックスが秘書、そしてその妻までは既定路線なのですが、フリッツとアニーが偽装夫婦?これは面白くなってきましたよ。夕さんがコメントされている遍歴教師と同行する友達、というある意味気楽な設定よりずっと面白くなりそうです。
そうか、ラウラは純粋に平民として生活した経験はないんですね?もちろん聡明な彼女の事ですから我儘なんて言わないで平民として上手に振る舞うのでしょう。
この二人はまぁ心配ないとして、残りのメンバーのデュランと偽装夫婦、どんなやり取りが展開されるのか、本題とはまた別に楽しみにしています。
え?“お約束通り”??
2022.11.20 13:59 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

くすくす。「控えおろう!」はないですけれど、大人しく見ているだけということもなさそうです。
馬と徒歩とでアルプス山脈もとい《ケールム・アルバ》を越えていきます。

コメントありがとうございました。
2022.11.20 19:16 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ようやくこのストーリーの本題に入ったところですよ。5人旅、始まりました。
フルーヴルーウー城そのものは、どうせいつも領主様いないので、いないならいないで何とでもなるのですけれど、滞在中の王様がいないことにするのは大変でしょうねぇ。まあ、何とかなるでしょう。いずれにしても20日もしたら騎士の皆さんたち(&王都からの応援の皆さんたち)は、王様が乗っていることになっている空の馬車と一緒にトリネアに向けて旅立つはずなので、それまでの辛抱ですね。

男3人、女2人、そのうちフリッツは融通が利かなそうなので、あまり現実とは違う役を割り振れない。そんな理由で、商人とその使用人的な設定にしました。アニーを単独で商人の女中にするのはちょっと無理があるんですよね。馬車の旅ならいいですけれど、こんな過酷な旅に女中を連れ歩くのは奇妙ですし。それでむりやり夫婦設定です。

ラウラは幼い時代を貧しい肉屋の娘として貧民暮らしを体験していますので、貧しさや過酷な状況には耐性がありますが、王都ルーヴ暮らしでしたので田舎の旅が初めてなのです。いずれにしても文句を言うような性格ではありませんよね。

まあ、いろいろありますが、あまり引っ張らずにトリネアにたどり着いてくれるように頑張ります。

コメントありがとうございました。
2022.11.20 19:57 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
陛下はウキウキだなあ。
この辺の描写は「水戸黄門」より「暴れん坊」の類だろうか。
いや、旅に出るんだったら「水戸黄門」か。。。
時代劇好きな夕さんだったら、ブレンドしているか(笑)。

こういうのは時代背景を考えながら脚色するのが楽しいですよね。



2022.11.22 11:29 | URL | #- [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

あはは、時代劇は大好きですが、この一行は毎週悪を成敗したりはしませんよ(笑)
単純に物見遊山ですね。

当時のいろいろな風俗や習慣などを調べて組み込んでいます。
ストーリーとはあまり関係ないところも多いかもしれません。
流し読む感じでついてきていただければ、嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2022.11.23 21:06 | URL | #9yMhI49k [edit]

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