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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】教祖の御札

scriviamo!


今週の小説は、「scriviamo! 2023」の第4弾です。

ポール・ブリッツさんは掌編でご参加くださいました。ありがとうございます!


ポール・ブリッツさんの書いてくださった 『ひたり』

ポール・ブリッツさんは、オリジナル小説と俳句、それに鋭い書評や愛に溢れた映画評論などを書いていらっしゃる創作系ブロガーさんです。毎年ポールさんのくださるお題は手加減なしで難しいんですけれど、今年もまためちゃくちゃ難しかったです。

ポールさんがくださったお題は、ホラーのショートショートです。このお話の解釈は人によって違うと思いますし、ましてやポールさんが意図なさったお話も、私のお返し掌編とはかけ離れているんではないかと思います。

とはいえ、せっかくなので私なりにつなげてみるとどうなるかにトライしました。オリジナルの記述とできるだけ違わないように考えたので設定にいろいろと無理がありますが、そこはご容赦ください。


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教祖の御札
——Special thanks to Paul Blitz-san


 部室の窓から道の向こうを見ると、落ち武者が立っていた。幽霊を見ることは珍しくないけれど、江戸時代からの筋金入りは、まず見ない。

 私は、落ち武者のそばに行くのが嫌で、裏門から帰ることを決めて、下駄箱に向かった。同じクラリネットの篠田理恵がブツブツと文句を言いつつ校門の方に向かう。
「コンクール優勝なんて、絶対に無理じゃん。ほんとうにあの顧問、頭おかしいんじゃないの」

 理恵にはあの落ち武者は見えないんだろう、そのまま横を通り過ぎた。落ち武者は、理恵に興味を持ったようで、そのまま理恵の後ろについていった。

「……なんかヤバいかも」
私は、理恵と後ろを歩く落ち武者の姿を見ながら震えていた。

「何がヤバいって?」
声がしたので振り向くと、そこには桜木東也が立っていた。

 彼は、クラスメートだ。私や理恵と同じ吹奏楽部に入ったのは最近で、しかも何の楽器も吹けない。顧問からは足手まとい扱いで、邪険にされている。なぜ入部したのか、他の部員は首を傾げている。でも、私は知っている。彼は理恵が好きなのだ。

「えっと、その……理恵に……いや、なんでもない」
ただの友人にだって、友達に落ち武者がついているとは言えない。普通の人には見えないのだから。ましてや理恵を好きな男の子に、そんなことを言うほど無神経ではない。

「篠田くんに、なにかが憑いているのかい?」
東也が訊いた。

「え。いや、その……」
「隠さないでいいよ。君が芳野教祖のお嬢さんだということは、僕知っているし」

 桜木くん、うちの信者だったんだ! 私は驚いた。

 新興宗教「御札満願教」の教祖の娘であることを百合子は高校ではひた隠しにしてきた。宗教法人は星の数ほどあるし、自慢すべきことでも恥じるべきことでもないが、たまたま弱いながらも霊能力を持って生まれてきた百合子からしてみると、自分の父親をはじめとして教団幹部はみな霊能力がゼロで、彼らのやっている教団のあれこれは単なる事業にすぎないことに氣がついていたからだ。

「なあ、君ならお父さんに頼んで、霊験あらたかな御札を用意できるんだろう?」
東也は熱心に言った。

 うわあ、この人、マジで御札のことを信じているよ。あれは、単なる墨書きの紙だよ。さっき、パパの書き損じを面白がって理恵にも1枚あげたけれど、それでも落ち武者が憑いていくぐらい霊験ゼロだよ。それを1枚20万円で売っているのはどうかと思うけどさ。私は、目を宙に浮かせた。

「あ〜、理恵なら、大したことないと思うから、心配しなくてもいいよ。もしなんかあったら、もちろん、私からパパに頼むから……、ね」

 私は、東也を宥めてから裏門から帰った。それから毎日のように、理恵の件で御札を用意しろと責め立てられることになるとも知らずに。

* * *


 急に寒くなったので、新しい防寒肌着をおろしたけれど、それでも効果がないほどの寒さだ。原田はマフラーを巻き直して雪の降り始めた通りを歩いた。

 教団にノルマとして課された御札の量が倍になったので、いつものように電話して信徒に売りつけるだけでは捌けない。飛び込みで販売する必要がある。

 教祖が交代してから半年、ノルマは厳しくなる一方だ。先代の作った御札は間違いなく悪霊退散の効力があると証言する信者が多く、連れられて入信も多かったのだが、先代が亡くなったときに指名したと言い張る今の教祖芳野泰睦は、どうやらまともな霊能力も無さそうだ。いずれにしても原田には何も見えないし感じ取れないので、糾弾するつもりもない。

 今日は定期的に御札を買ってくれる信者の家に行ってみよう。原田は、とぼとぼと歩いた。

「こんにちは。原田です」
つとめて明るく声をかけると、中から女が出てきた。

「ごめんなさい。今日は家に上げられないわ」
原田は、頷いた。この家は、まだ夫が入信していない。名簿上は既に信徒になっているが、それは本人には内緒だ。原田としては、この女が定期的に御札を購入して夫や子供たちも信徒としてカウントすることに署名してくれればそれで十分だと思っていた。

「大丈夫です。こちらも先を急ぎますので。それで、新たにありがたい御札が届きまして……」
原田が鞄から大きめの封筒を取りだしていると、女は小さい声で遮った。

「ねえ、原田さん。前に購入させていただいた御札なんだけど……」
「なんですか?」
「家内安全、交通安全、学業成就、3ついただいたけれど……」

女は、とても言いにくそうにしていたが、やがて意を決したように原田の顔を見て口を開いた。

「あれから逆のことばかりが起こるのよ。夫と姑との喧嘩は絶えないし、天井は落っこちてくるし、舅は当て逃げに遭うし、娘は留年よ」

 原田は思わず息を呑んだ。これで今週3度目だ。教祖の御札を買うと効果がないどころか真逆の災禍に見舞われると、多くの信者が思い始め、クレームが増えている。

「信心が揺らいでいることを試されているのかもしれませんよ」
こういうときに、原田はこう脅すように教育されている。巧みに責任を回避して、新たな御札を2枚ほど売りつけることに成功したが、原田の中の疑問も膨らむばかりだ。

 女の家の戸が閉まると、原田は鞄からまだ100枚ほど残っている御札入りの封筒のうち、1つを取りだして眺めた。
「交通安全……かあ。きたねえ字だな。でも、ただの和紙に書かれた墨書きだ。効力がないのは別として、少なくともこれで事故が起きるわけないだろう」

 原田は、昼頃に教団に戻って集めた金を出納係に渡した。それから、タクシー会社に出勤した。彼の本業はタクシーの運転手だ。これから深夜までタクシーで市内を巡回し、場合によっては客の悩みを聞きつけては「御札満願教」に勧誘する日々だ。

 20時頃には、市内の塾に立ち寄り、教祖の娘である百合子を届ける役目もある。

「お嬢さん。お待たせしました」
塾の前に立っていた百合子は「どうも」といって後部座席に座った。それから、変な目つきで助手席を見た。

「どうかなさいましたか?」
原田が訊くと「……うん」と言って眼をそらした。

「原田さん、今日、父さんの御札、直接、手に取った?」
しばらくして百合子が訊いた。

「え? ええ。1枚だけ。交通安全の御札でしたけれど、なぜですか?」
原田は訊いたが、百合子は答えなかった。それから、急に「止めて」と言った。

「どうなさったんですか?」
「なんでもないの。悪いけど、私、歩いて帰る。今日はありがとう」
 
* * *


 百合子は、昨日起こったことを考えながら歩いていた。父にもらった悪霊退散の札の封筒を、桜木東也に渡した。

 理恵がずっと休んでいること、誰かに後をつけられているとノイローゼになっているという級友の話を聞いて、とにかく御札を用意しろとうるさかったのだ。それが何の効力も無いことを知りつつも、信者である東也の圧力には耐えられず、百合子は父親に御札を1枚もらえないかと頼み込んだのだ。

「ありがとう。僕、届けてくるよ。これがきっかけで篠田くんと知り合えるかもしれないし」

 そう言って、東也は封筒から御札を取りだし、まじまじと眺めていた。
「でも、これ、交通安全って書いてあるよ?」

 百合子は驚いた。
「なんですって? 悪霊退散って頼んだのに、パパったら、取り違えたのね。明日、今度こそちゃんとしたのを持ってくるから。それは、桜木くんにあげるわ。持っていても悪くないでしょ?」

 東也は笑った。
「もちろん。ありがたい御札には違いないからね。」

 歩き去って行く東也の後ろを、どこからともなく現れた虚無僧姿の男が歩いて行くのが見えた。なんで?

 そして、今朝、学校に来てみたらクラスは大騒ぎだった。昨夜、桜木東也が交通事故で亡くなったと。

 一方、篠田理恵は、すっかり元気な様子で普通に登校してきていた。百合子は、その理恵の両脇に虚無僧と東也の2人が立っているのを見た。落ち武者はいなかったので不思議に思っていたが、理恵がお寺の住職にお祓いしてもらったと言っていた。そうか、ちゃんとお祓いしてもらったんだね。また、くっついているけど。

 東也は、百合子のことなど目に入っていないようだった。虚無僧に負けないように、必死で理恵にまとわり付いていた。

 それからの数時間、百合子は生きた心地もしなかった。塾でも、勉強はまったく頭に入らなかった。ようやく終わり帰って寝ようと思ったら、今度は迎えにきたタクシー運転手の原田にも異変が起こっていた。

 百合子は、原田のタクシーには座っていられなかった。助手席にはのっぺらぼうの花魁が座っていた。
 
 今までほとんど見たことのなかった江戸時代のお化けをやたらと目撃するようになったことと、父親の書いた御札とは関係ないと思いたい。でも、これだけ重なると氣分がよくない。

 桜木くんも、理恵も、パパの御札を開いて直接手に取った後から、あの幽霊たちに魅入られたし。原田さんまで、「交通安全」の御札を手に取ったなんて言うし。

 原田さん、大丈夫かなあ。うちじゃなくてちゃんとした霊能者にお祓いしてもらうように、言った方がいいかなあ。そうか、理恵に紹介してもらおう。明日忘れずに頼まなくちゃ。

 また雪が降ってきた。雪に慣れない都会の運転手たちが、ノーマルタイヤでもスピードを変えない危険な運転をしている。百合子は、家路を急いだ。

(初出:2023年2月 書き下ろし)
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Category : scriviamo! 2023
Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
執筆、お疲れ様です。
真冬のホラーですか。ここ最近の寒気もあって、ちょー肌寒いです。
ポールさんのお話、解釈が難しいところがありますが、このお話のようなことが背後で起きていたというのも、ありそうですね。
百合子の父親、霊能力のない人物だけならまだ無害ですけど、お札を通して人に災厄をもたらすとなると、ちょっとまずいですね。まあ、たんなる偶然という可能性もありますが、これほど重なると無関係とはいえないような。原田氏や理恵が、無事ならいいのですが……。
時事ネタをうまく盛り込んだお返しの一篇、楽しく拝読しました。
2023.02.01 07:31 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

先日は、名無しの権兵衛でコメントしてしまい、ごめんなさい!
あの日、なぜか名前が消えてどこでも名無しの権兵衛しまくっていたようです。

さて。
ホラー、苦手なので、全然書けないんですけれど、あのお話に上手くお返しする方法が他に考えつかなくて……。
百合子の父親たちがやっているのは、完璧な霊感商法で、別に悪いことが起こらなくても御札1枚に20万円とか、完璧に犯罪ですよね。

私の所の人物はともかく、ポールさんのところの「あたし」は、ラストかなり危険な感じでしたね。
物の怪がいようがいまいが、雪に慣れていない人たちの運転は、本当にホラーなんですよ!
こっちの百合子も危なかったりして。

コメントありがとうございました。
2023.02.01 23:05 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
今日本では特定の新興宗教が叩かれていますが、やっぱりぼったくりは駄目ですよね。
おまけに御札の効力までが怪しいどころか逆効果じゃぁ駄目でしょ。不幸を呼び込む御札じゃないですか。悪い噂でもたったら信者も減りそうですが、そこは宗教法人、優遇されていますからね。
桜木君は最悪でしたね、理恵だって不幸から逃れられたのかどうか怪しいもんです。原さんにも不幸の兆しが・・・怖い怖い。

本当に教祖としてやっていけそうなのは百合子の方じゃぁないかな?本人にやる気はまったくなさそうだけど、彼女がやる気になったら事業としても面白いかも・・・なんて思っちゃいましたよ。

ポールさんのイレギュラーホラーへのお返し、楽しませていただきました。
2023.02.02 10:36 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

ノルマを課しているってことは、ただの金儲けですからね。
脅してお金をぼったくるということでも犯罪と変わりませんし。
加えて、教祖にはどうも負の霊能力が? 困ったものです。

ホラーはもともと読むのも苦手なので、書くとなるとかなりダメダメなのですが、とりあえず頑張って書いてみました。
東也と百合子、どちらかを「亡くなった吹奏楽部員」にしようか考えていたのですが、百合子にすると後に理恵に粘着する動機を考えなくちゃいけなかったので、単純に理恵が好きな男の子にしました。そんなキャラにされて氣の毒です。
理恵となづけた「あたし」も、タクシー運転手もポールさんのオリジナルに登場したので不幸の兆しはどうしようもなかったんですけれど、そもそもなぜ「あたし」があんな目に遭ったのかも、解釈はいろいろあって他のパターンも書けるかもしれませんよね。

私の書いた話の中では、霊能力があるのは百合子1人ですけれど、彼女は見えるがゆえに教団に対する拒否感があるみたいですね。祭り上げられるのがいやなので、見えることはきっとひた隠しにしていそう。

ダメダメなホラー、読んでいただきありがとうございました。
2023.02.04 00:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
お上手ですね。さすがです。一気に読了しました。
物語をつないでいき、最後のオチに持って行く。難しいですね。
自分もショートを書いてみたので、よく分かります。
勿論恥ずかしいので自分のは公開できませんが(^^♪
2023.02.05 05:14 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

お褒めいただき嬉しいです。
今回のホラーをはじめ、あまり得意ではないので自分からは書かないジャンルが多いのですが
この催しでは、どんな方面から剛速球が飛んでくるのか毎回わからず、
必死になって打ち返すうちに、下手なりにも少しずつ上達したらいいなと思っているところです。

ミドリノマッキーさんもお書きになったなら、ぜひ読ませてください!
そして、お嫌でなかったら、ついでにこの催しにもご参加くださいね。(もちろん普通の記事やマンガでもOKですよ)
私も10年前にこのブログに小説を公開したときは、「こんなの公開しても……」と思いましたが、いつの間にかこんなに厚顔無恥に次々と公表するようになりましたよ!

コメントありがとうございました。
2023.02.05 19:53 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
え~、そんなにあっさり死んじゃう?と急展開にびびっていた私ですが、読む順番を間違えました^^;
ポールさんのお話を後から読んで、あ、そうかと納得。
それにしても、ポケットの中に入れたビスケットが2つになるって感じで背後霊?守護霊?ただのストーカー?が増えるのって、知らぬは本人ばかりなり、ですね。でも結果的には、不幸をちゃんと引き受けてくれたストーカーくん?単なるうじうじくん?も、生死は別にして、結構良い立ち位置におさまったようで。

思ったことと反対のことになるってお札はそれはそれでかなり霊験あらたかってことなのかしら? てことは、反対のことを書いておくとか(家内危険、交通事故、不合格)あるいは逆さまに貼っておくとか、そうしたら、結構上手くいくんじゃないかと思ったり。
なんか違う意味ですごいことなのかも? 
ちなみに私、一瞬、原田氏の車が桜木くんをはねてしまったのかと思ってしまいました😅
2023.02.17 10:28 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは。

ええ、そうなんですよ。
原作(?)であっさりクラスメイトが亡くなっているんで、誰かがあっさり死んじゃう以外になくって……。
私はホラーも探偵ものもめったに書かないんで、こういうのを自然に書き込むの下手くそです。

ポールさんのところの真意は実はわからないんですけれど、わたしの設定では和尚さんの除霊はちゃんと機能していたのに、ストーカーくんが自分に憑いている霊まで連れて行ったということにしています。だって「ふたり」だし。

でも、彩洋さんがおっしゃるように東也はちゃんとストーカー的守護霊として頑張るかも。
私の中では、原田のタクシーはこの後、ポールさんのところのように理恵にツッコんでいくんですが、もしかしたら東也が守ってくれて助かるかもしれませんよね。

百合の父親はダメダメ教祖なので、まあ、この宗教も長くないかも。
逆さの御札を書いたら、いい結果になるかもしれませんが、そんな御札買ってくれる信者、まずいないだろうし。

> ちなみに私、一瞬、原田氏の車が桜木くんをはねてしまったのかと思ってしまいました😅

これ、時系列わかりにくいですよね。すみません。
悩んだところなんですけれど、まあ、ネタばらしを最後に持って行きたかったので、あえてこう書きました。

コメントありがとうございました。
2023.02.18 19:54 | URL | #9yMhI49k [edit]

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