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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】黒い貴婦人

今日の小説は『12か月の建築』2月分です。このシリーズは、建築をテーマに小さなストーリーを散りばめています。

今月のテーマ建築は、カンボジアのコー・ケー遺跡です。同じクメール王朝による遺跡群ではアンコール・ワットやアンコール・トムの方が有名なのですが、もう少し見捨てられた感の強いマイナーな遺跡を探してここにたどり着きました。もちろんフィクションです。お間違いのなきよう。(そんなの当然って?)

なお、後半に登場したアメリカ人傭兵は『ヴァルキュリアの恋人たち』シリーズで『ブロンクスの類人猿』よばわりされている人ですが、まあ、誰でもよかったので出しただけで意味はありません。それにこの話もまたしてもオチなしです。すみません。


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黒い貴婦人

 香木の燻された煙が、湿った空氣に溶け込んでいく。ひどい頭痛のように感じられるのは、実際には痛みではなく、途絶えずに鳴り響く蝉の声だ。リュック・バルニエ博士は、ことさら神妙な顔をして老女を見つめた。

 スレイチャハと呼ばれるこの醜い女は、シヴァ寺院の神官のような役割をしている。他の村民たちの絶対的な信頼を受け、この女が頭を縦に振らなければ、リュックの計画している保護計画を進めることは不可能だ。

 村の長老と占い師の中間のような立場なのだろうが、中世フランスであれば、真っ先に薪の上に載せられて火をつけられたであろうと、リュックは表情に出さないように努めながら考えた。

 ヒンドゥー教に改宗するつもりはまったくないが、それでも村民たちとともに煙をくゆらす細い香木を捧げ、リュックは恭しくスレイチャハに寺院の内部に散乱する神像の破片を持ち出すことの許可を願い出た。

 コー・ケー遺跡は、カンボジアの一大観光地シェムリアップの北東120キロメートルに位置する遺跡群だ。80平方キロメートル以上の保護域の中に180を超える聖域が発見されている。そのうち、観光客が立ち入ることを許可されているのは20ほど、残りは深い熱帯雨林に埋もれ実態もいまだつまびらかになっていない。森には地雷の危険もあり調査は遅々として進まない。

 10世紀の終わりにたった16年ほどクメール王朝の都とされたこの地は、当時はチョック・ガルヤ、またはリンガプーラと呼ばれていた。リンガは男性器を意味する石柱でシヴァ神の象徴だ。コー・ケーはアンコール遺跡群と違い、仏教と習合していない純粋なヒンドゥー教寺院だ。アンコール王朝7代目の王ジャヤーヴァルマン4世が出身地に遷都し、息子のハルシャーヴァルマン2世と共にこの地にヒンドゥー教を中心とする王都を作った。

 アンコール王朝は、遺跡に見られる穏やかな微笑みとは相容れぬ王位簒奪と混乱の繰り返しで成り立っていた。簒奪者は実力で王位を手にすると、前国王の王妃や王女と結婚することでその正当性を主張したが、その度に己の実力を誇示し威光を確実なものとするために壮大な寺院を中心とした華麗な王都を建設した。

 コー・ケー遺跡もまた、かつてはヒンドゥー教世界の乳海を模した巨大な貯水池バライ「ラハール」周りに世界の中心である須弥山を模した巨大なピラミッドを持つプラサット・トム寺院をはじめとして、数多くの壮大な寺院を配置し、「ラハール」の水を使った灌漑農業で栄えていたという。

 だが、再び遷都されて王権が届かなくなった後は、次第に廃れて忘れられていった。盗掘や、自然の驚異による破壊だけでなく、15世紀以降にシャム王朝に併合されてからの破壊、また、西欧諸国の植民地時代の美術品の無計画な持ち出しによって、遺跡はかつての詳細な状態がわからないまでに荒廃した。

 彼らの祖先が大切に守ってきた寺院は仏教を信じる異国出身の王に破壊され、大切な神像もハイエナのような西洋人たちに持ち出され、狂信的なクメール・ルージュに打ち壊された。そして、荒廃した寺院の中を熱帯の植物たちが根や枝を蛇のようにくねらせて打ち砕いていく。

 コー・ケー遺跡に限らず、カンボジアのクメール王朝による遺跡には謎が多い。これほど壮大で精巧な遺跡を短期間で作るには高度な技術者と多くの建設に関わった人間がいるはずだ。一説によると当時は35万人もの人びとが現在のアンコール遺跡群のあったあたりに住んでいたはずだという。

 だが、そうした高度な文明の担い手たちは、どこへいってしまったのだろう。

 ここコー・ケー遺跡でも、神々を拝む人びとは、神殿を覆い尽くす熱帯雨林の浸蝕から彼らの神像や神殿を守ることができない。つい最近まで内戦があり、文化遺産の保護どころか治安維持すらままならぬ状態だったカンボジアでは、政府とともに保護活動を進めているのは「アンコール世界遺産国際管理運営委員会」を中心とした国際的な支援チームだ。

 リュックは、子供の頃にアンコール・ワットを紹介するテレビ番組でクメール王朝のことを知った。そして、残された仏像や王の肖像の微笑みに魅せられた。なんと謎めいた美しい微笑みだろう。それが今日の専門へと導いたのだ。これらの遺跡を破壊から守り、謎を解き明かしたい。若き学者として、彼は志を持ってこの地に赴任した。

 西欧の先進的な技術とメソッドは、自分の情熱とともに、きっとこの国の文化遺産をあるべき姿に戻すのに役立つ。そう考えて彼は仕事に臨んだ。だが、実際に赴任してみて、彼の尊い仕事がさほど簡単に進まないことや、ものごとがそれほど単純ではないことにも氣づきはじめた。

 クラチャップ寺院やクラハム寺院の修復のためには、一度倒壊した神像を搬出して工房で修復する必要がある。だが、世界遺産保護プロジェクトが国の許可を得て遺跡の一部を移動させることは、住民たちにとっては神を盗み出すことと見做されることもある。

 リュックは、スレイチャハや村民たちがよそ者を信頼していないことを感じていた。遺跡を守りかつての威容を再現するための修復だと説明しても、信頼できない。かつて、彼らの神は「国を支配する者」によって否定され完膚なきまでに破壊された。熱帯雨林には多くの地雷が埋められ、人びとはいまだに恐怖と背中合わせで生きている。

 スレイチャハは、平たく潰したような口調で呪文を唱え、丁寧に細い香木をリンガに備えた。それは根元から折れてしまっており、台座であった部分にもたせかけるように安置してある。

 ニエン・クマウ寺院。その名は『黒い貴婦人』を意味する。塔の表面がおそらくは山火事で焼かれて黒くなっていることに由来するといわれている。だが、もしかしたら山火事ではなくてクメール・ルージュ撲滅の焦土作戦で焰に晒された結果なのかもしれない。

 リュックが、コー・ケー遺跡の調査に初めて参加したとき、前任の調査員は「ここは奇跡的に破壊を免れた」と説明した。だが、本尊であるリンガがこのように無惨な状態になっているのを「破壊を免れた」と表現することには疑問が残る。

 このリンガを修復のために搬送することが最終目的だが、今日のところは散在する神像の破片の搬出に同意してもらい、信頼関係を築きたい。それに同意してもらうのもまた一苦労だ。

 既に政府の主導する学術保護チームがプラサット・ダムレイやその他の遺跡群から瓦礫と区別もつかずにいた女神像やヤマ神像などを搬出し見事に復元したのだが、それらは現在博物館で展示され、倒壊を待つようなコー・ケー遺跡には戻されていない。その意味を理解してくれる住民たちもいるが、少なくともスレイチャハとその信奉者たちは、西洋人たちが政府と結託して彼らの神を盗み出していると感じているようだ。

 ものすごいスピードで育つガジュマルやその他の植物、氣の遠くなるような湿氣、どこにあるかわからない地雷の数々。彼らの祖先の作った文化遺産を守るためには、早急に修復が必要だ。スレイチャハらが忌み嫌う観光客たちは、そのための費用を生み出す金の卵でもあり、修復した神像をクーラーの完備した博物館で展示することにも意味がある。そう伝えても、彼女らは決して納得しない。

「それで、次の修復ですが……」
片言のクメール語を使い、スレイチャハに話しかけようとすると、老女はそんな声などどこにもしなかったかのごとく無視した。そして、後ろの方を見て「トゥバゥン」と言った。

 すると、信奉者である男たちを搔き分けてひとりの女が寺院の中に入ってきた。リュックは息を飲んだ。この辺りの村で、今まで1度も見たことのなかった女だ。若く、漆黒の美しい髪を後ろに長く伸ばしており、金糸の多い紫の上着と黒い長いスカートをはいている。そのスリットからしなやかで長い足が歩く度にリュックの眼を射る。

 観光客に清涼飲料水を売りつけたり、村で農作業に明け暮れている類いの垢抜けない女とは明らかに一線を画している娘だ。娘から目を離せないでいるリュックを見て、スレイチャハは意地悪な微笑みを見せた。

「トゥバゥン。このフランスの学者さんはお疲れのようだ。あちらでもてなしてやっておくれ」
スレイチャハが言うと、娘はひと言も口をきかずにリュックの手を取り、その場から連れ出した。香木の香りがきつく、頭が割れるように痛い。

 寺院から出た途端、蝉の鳴き声が倍ほどの音量で降り注ぐ。蒸し暑さと、日差しの暴力にリュックは目眩を感じた。

 娘は、彼を半ば崩れた寺院の中に誘った。彼女に勧められるままに、崩れた石の1つに腰掛けて目を閉じた。彼女からは、スレイチャハが焚きしめていたのと同じ香木の強い匂いがしている。そして、その吐息が異様なほどに近くにあるのを感じて困惑した。

「その昔、『黒い貴婦人ニエン・クマウ』と呼ばれた王女が、この地に封じ込められたのです」
娘が囁いたのはフランス語だと氣づいたのはしばらくしてからだった。リュックは、それすらもわからぬほどに混乱していた。

「そこで暮らすうちに、この地の出身の高僧ケオの噂を聞き、この世の悲喜についての教えを請うために彼の庵を訪ねました。そして、師に敬意を表するためにごく近くに寄ったので、師の身体のすべてくまなく知ることになりました」

 リュックはぎょっとして女の顔を見た。具合が悪く相づちもまともに打てていなかったので、自分が何かを聞き違えたのかと思ったのだ。

 トゥバゥンの顔は、不自然なほどにリュックの近くにあった。瞳は暗闇の中で漆黒に見える。艶やかな黒髪は、『黒い貴婦人』の容貌がこうではなかったのかと思わせる。

「そう。そして、ケオ師は還俗し、ニエン・クマウ王女と塔の中でいつまでも愛し合ったのです」
そう囁くと、トゥバゥンはリュックの理性をいとも簡単に崩壊させてみせた。

 さして遠くない寺院で村民たちが祈りを捧げていることも、彼が仕事上で大切な交渉の途中であることも、リュックは半分以上忘れ去っていた。頭はまったく働かない。暑さと湿氣にやられたのか、それともまとわり付くような薫りの香木に何か仕掛けがあるのか。

* * *


「おい。バルニエ博士。おいったら」

 氣がつくと、リュックは1人、寺院の瓦礫の上に横たわっていた。懐中電灯の光が眩しくて思わず手のひらで遮った。

「大丈夫か。宿舎で騒ぎになってんだけどよ」
ゆっくりと起き上がりながら、リュックは呻いた。

 声の主がわかった。マイケル・ハーストだ。単なる宿舎の護衛としてだけでなく、地雷除去の経験もあるというので重宝されているアメリカ人傭兵だ。

 辺りはすっかり暗くなっていて、蝉の声はもう聞こえない。代わりにカンタンの鳴き声がやかましい。

 懐中電灯の灯に目が慣れてハーストの表情が見えた。いぶかしがっているようだ。視線を追うと、自分の上半身のボタンはすべて外され、胸が完全に露出している。視線をおろすと下半身はかろうじて露出を免れていた。いったい、どうなったんだ……。

「……。女は……?」
リュックは、辺りを見回した。ハーストは、目を細めて「やれやれ」という表情を見せた。

「ったく、あんたたちフランス人は、あいかわらずお盛んだな。こんなにボロいけどさ、ここは、一応あいつらの寺院なんだぜ。わかってんのか」

「いや、そういうんじゃない」
あわてて否定してみせた。

「はいはい」
ハーストは、リュックの弁解をまったく信じていないようだ。

「熱中症か、それとも、あの香木に酔ったのか。とにかく、午後から記憶がないんだ。……もしかして、大変な騒ぎになっているのか?」
リュックは、立ち上がるとシャツのボタンをはめて身支度をした。

「大変ってほどじゃないけどさ。あんたが、あの婆さんと交渉に行くと息巻いて出て行ってからちっとも帰ってこないから、何かあったんじゃないかって。女を買うなら、宿舎に戻ってから普通に村に行けよ。こんなところで夜に迷って、地雷だらけの密林に迷い込んだらバラバラになるぞ」

 女としけ込んだと断定されてしまい、心外だったがそれ以上反論するつもりにもなれなかった。本当にそういうつもりではなかったのか、自分でも定かではない。

 あの女、トゥバゥンは何者だったのだろう。あれだけのフランス語を話す女なら、本来通訳として皆に知られているはずだ。だが、見たことも聞いたこともなかった。まるで女の話していた『黒い貴婦人ニエン・クマウ』の幽霊が現れたかのようだ。

 リュックは、ふらつきながら寺院から出て宿舎に帰ろうと歩き出した。

「違う。こっちだ」
マイケル・ハーストに首元を掴まれた。

「俺が来なかったら、本当に明日になる前に死体になっていたかもな。何週間いようと、熱帯雨林に慣れたつもりにはなるな」
リュックは、ぞっとして周りを見回した。

 ガジュマルが絡みつき、今にも崩れそうな寺院が目に入った。月明かりの中で、木々は昼よりもずっと邪悪に見えた。根は蠢き、絡みつき、その力で人間の作りだした文明という名の驕りを簡単に壊していく。

 リュックは、スレイチャハとの交渉について考えた。具合が悪かったとはいえ、彼女の神事を途中で放り出して礼を尽くさなかった。また、あの女とのことを騒がれたらプロジェクト全体も止まってしまうかもしれない。いずれにしても、彼の立場は今朝までと較べてかなり危うくなっている。

 神像の微笑が浮かび上がって見えた。それは、子供の頃にテレビで見たときのような穏やかで柔和な表情ではなかった。ガジュマルの根でじわじわと締め付ける密林の笑い声がどこからか響いてくるようだった。

(初出:2023年2月 書き下ろし)
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Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
執筆、お疲れさまでした。

これ、完全にハニートラップじゃないですか。フランス男の理性のハードル、低くいですねぇ(笑)
まあ、スレイチャハの見事な遣手婆っぷりに、まんまとしてやられたわけですが。これで、交渉の際に、足元を見られるのは間違いないですね。
それにしても、真面目で有能な学者でも簡単に落としてしまうトゥバゥンの魔性、フランス語ペラペラな点を考えても、この世の者とも思われませんね。スレイチャハなら、そういうモノでも召喚しそうだし。
クメールの微笑みのようにミステリアスでエロティックなお話、じゅうぶんに楽しませてもらいました。
2023.02.22 07:41 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

そうです。めっちゃハニートラップ(笑) 何やってんでしょうねぇ。仕事中に。

文化財の保護って、政府やNGOなどと現地の人びとが必ずしも一枚岩で同じ方向を向いているわけじゃないんですよね。
「助けてやっている」的な驕りがあったり、「これでポケットを膨らまそう」という人たちがいたり、「保護なんて要らない」と思う人がいたりと
なかなか進まない裏には、そういうあれこれがあるのが常だと私は考えています。
で、スレイチャハにしてやられたと(笑)

この話の原点ですけれど、私自身のクメールの文化遺産に対する感じ方の変化というものがあります。
日本に以前やって来た、ジャヤヴァルマン7世の頭像などを見ていたときは「なんて穏やかで達観した微笑みなんだろう」と
ある意味宗教的に完成した人びとをイメージしていたんですが、実はその裏にものすごく血みどろな権力闘争があったんですよね。
そして、きれいに修復されてクーラーの効いた展示会で見るそれらの文化遺産と、超高温多湿でガジュマルに侵食された現地の寺院を見るのとではまったく印象が違うはずだと思ったこともあるのです。
残されている逸話を読んでも、たぶん後者の方がその世界観に近いんだろうなと思いました。

ミステリアスな熱帯雨林の雰囲氣、感じていただければ嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2023.02.22 23:25 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
そういえば若い女性の幽霊の元に夜な夜な通う怪談があったっけ
まさか本当に黒い貴婦人の幽霊が…
なんてことはなく反対派の罠だったんですね
こうやって志を持ってたとしてもやさぐれてしまうのか…

最近話題になってる限界集落と地域おこし協力隊の関係にも
ちょっと似てるように思いました
2023.02.24 12:49 | URL | #- [edit]
says...
運び出した遺物は修復され保存に最適な環境で保管公開、遺跡は修復され、遺物はレプリカを遺跡に戻して観光客に公開、お金も稼げるし、ほら!ウィンウィンでしょ。
・・・と言われても、先祖代々ずっと遺跡とともに生きてきた人々にとっては「はいそうですか」とはとても言えないですよね。
合理的に判断すればリュック博士の考え方がベストと我々は考えてしまいがちですが、スレイチャハ達はそうは考えていないようです。このまま静かに遺跡とともに暮らし、遺跡とともにゆっくりと崩壊して滅んでしまうという考えもあるのかもしれません。

そしてなんとも不思議なトゥバゥン、彼女は伝説の王女の霊なのか、香木の煙による幻覚か、あるいは本当にそんな女が存在するのか・・・。部族に男を取り込むために一族の女性を使う話は、幾つか読んだことがあります。
いずれにせよスレイチャハは主導権を握ったようですが、さて、この難題にいったいどのような結論が正しいのだろう?
考えさせられましたが、結論なんか出るわけないですよね。

本当にこのような高度な文明の担い手たちは、どこへいってしまったのだろう?
熱帯雨林に行ったことのないサキはルソーの描いたような密林を想像しながら途方に暮れるのでした。
2023.02.24 14:09 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
執筆お疲れさまです。

それこそ香木のように作品からゆるゆる醸し出される怪しさに反して、熱気と香木で弱っているところに何処かへ留学にでも出していた隠し玉をあてがったってところだろう。
フランス人の理性などあってないが如しと何故か冷静に受け止めてしまったのは、乱暴に言うと、修復と保護の意味を個人的にあまり見いだせなかったからかもしれません。勿論、それが正しいとも思いませんが。
結局、如何に重要だと主張されたところで「美術品」や「学術」的な他人にとっての価値であって、自身の「信仰」としては博物館に飾られたところで、ありがたみもないんですよね。
信仰面でも歴史的な価値や、維持することに意味がない訳では無いでしょうが、最悪、壊れ、朽ちたところで必要ならば作り直せばいいと根本が異なる印象を受けました。
人間の思惑がどうあろうと、時間は無情に流れて止まることはなく、自然は一切の考慮などせず、あるがままに動く。
そしてどちらが先に仕掛けたなど理屈はどうあれ、やってしまったことは取り返しがつかないので、尻尾を巻いて逃げるなり更に交渉を続けるなり、考えないといけないでしょうね。

誘われた持て成しを受けただけだと、厚顔に突っぱねるのが出来るのかわからないし、出来なさそうだけれども。複数の意味で。
逃げたら逃げたで学者としての立場が不味そうですが。
色々正念場だと思うので後悔のないよう、頑張るしか。
これも経験、ではすまないんだろうな。
2023.02.26 00:31 | URL | #yl2HcnkM [edit]
says...
こんばんは。

私の小説によくあるパターンですが、どっちともとれるように書いてあります。
まあ、幽霊ではないでしょう、きっと。
本人は「いいことをしてやっている」つもりでいても、必ずしも「自分が正しい」とは限らないんですよね。
いずれにしても、甘く見すぎたんではないかと思います。

> 最近話題になってる限界集落と地域おこし協力隊の関係にも
> ちょっと似てるように思いました

あ、そういう対立の話が日本にもあるのですね。
興味深いです。

コメントありがとうございました。
2023.02.26 20:32 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

これって、キリスト教徒のフランス人にとっては単なる文化遺産ですけれど、現地の人たちにとっては神像で「レプリカでいいじゃん」ではないんですよね。そのことをリュックは理解しているつもりでも、心の底から思っているわけではないんですよね。
キリスト教徒にとってのキリスト像やマリア像は15世紀のものでも、最近作られたものでも本質的には変わらないのかもしれませんが、それがすべての宗教の信徒に当てはまるとも言えないし。なかなか難しい問題です。

カンボジアの場合は、長いあいだに西洋人が彼らの大切な神像を好き勝手に持ち去った過去もありますし、タイなどの異国の王朝に支配されたことよって破壊された、またはクメール・ルージュという自国民の狂信者たちに破壊されたという経験もあります。そして、自然もまたどんどんと神殿や神像を壊していく。それから守れないことはスレイチャハたちもわかっていると思うのですが、それでも他人に渡すこととは意味が違うと考えているのかもしれません。

トゥバゥンは、まあ、ハニートラップのために送り込んだ現地の娘……でしょうね、たぶん。
どっちともとれるように書いてありますけれど、まあ、幽霊ってことはないでしょう。
香木や熱さのせいで、実際よりもミステリアスに感じている可能性はありますよね。

クメール文明は、わかっている以上に謎が多いんだそうです。
それに、いたはずのないステゴサウルスのレリーフなんかもあるんだそうですよ。
まだ見つかっていない地下都市もあるとか。
今後あたらしい発見があるかもしれませんね。

コメントありがとうございました。
2023.02.26 20:45 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

世の中のことに、「絶対的な正解」なんてものはないのかもしれませんね。
今でこそ、他の民族の文化を尊重すべきという声がけっこう大きくなってきましたが、かつての西欧文明からやって来た人たちはやりたい放題やっていましたし、いまだに「こっちが正しいことを知っている」「助けてやっている」と上から目線な人たちも多いのですよね。
そんな中で、油断したリュックはちょっとやられてしまったのかも(笑)

「15世紀の美術品」というようなとらえ方をしている人と、「今、必要な本尊」と捉えている人との間に妥協点はないように思います。
いずれにしても、自然の脅威はそのどっちにも肩入れしないでしょうし。

今回のことでリュックの今後がどうなるのかはわかりませんけれど、いずれにしてもこの遺跡のプロジェクトからは離れていくのかもしれません。
フランスに帰って、無害なフランス女とよろしくやっている方がいいかも。

コメントありがとうございました。
2023.02.26 22:37 | URL | #9yMhI49k [edit]

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