fc2ブログ

scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】心の幾何学

今日の小説は『12か月の建築』5月分です。このシリーズは、建築をテーマに小さなストーリーを散りばめています。

今月のテーマは、モロッコの『リアド』とそれを彩るモザイク『ゼリージュ』です。

実は、モロッコはアフリカ大陸内のスペイン領セウタに行ったときに、半日ツアーで行ったことがあるだけなのです。なので、美しいリアド滞在はまだ未体験。めちゃくちゃ憧れているんですけれどね。


短編小説集『12か月の建築』をまとめて読む 短編小説集『12か月の建築』をまとめて読む



心の幾何学

 ナナはスークを急いで横切った。この市場には、これまでに5度ほどしか訪れたことがない。観光客が土産物を探すマラケシュのスークなどと違い、観光客のさほど多くないこの町は、地元民の生活に即した品物のみが置かれ、大半が屋根のない露天だ。足下の乾いた埃っぽい土が舞い上がり、そこここに放置されたゴミを踏まずに進むことと、スリに注意することで神経をすり減らす。

 ベルナールが言うように、リアドに隠っていればいいのかもしれない。何かあったら、彼に対処してもらわなくてはならない。彼はため息をつきながら「だから、言っただろう」と子供を諭すように言うのだろう。

 でも、今日は『彼』に食事を振る舞うつもりなのだ。それにザタールがないなんて、あり得ないもの。ナナは、買ったスパイスを抱えて急いで帰路についた。

 ザタールはモロッコの万能ふりかけと言うべきミックススパイスで、塩、タイムの一種、白ごま、スーマックという赤い果実を乾燥させた粉などが入っている。肉を素焼きの壺で長時間煮込んだタンジーヤの付け合わせとして添えるパンはプレーンでもいいのだが、ナナはザタールをかけてから焼いたものが一番合うと思っていた。

 埃っぽく、灰色で、異国情緒もへったくれもない街角を、なんとか迷わずに進み、ナナはくたびれたピンクの壁がつづく一画の一番奥に向かった。それから、重い扉についた手の形をした取っ手を操作しながら解錠した。

 それまでの世界と、まったく違う光景が広がる。柔らかな円やくびれたカーブが優美なアーチ。透明ガラスと装飾が幻想的な陰影を作り出すランプ。細かい紋様のモザイクタイル。そして、金銀の刺繍で彩られた鮮やかな布の襞が織りなすオリエンタルな影。

 東京で過ごした子供の頃に読んだ「アラビアンナイト」の絵本にあった王宮さながらだ。フランスで知り合ったベルナールが「モロッコで暮らさないか」と誘ってきたときに想像していた世界そのものだ。

 大きな中庭を持つ古い邸宅を改装した宿泊施設として、日本をはじめとして世界の観光客にも人氣なリアドは、もともとはアラビア語で「邸宅」を意味する言葉だった。その意味で、ここもまたリアドには違いない。

 12世紀から15世紀に、レコンキスタが進むイベリア半島から逃げてきた有力者たちが建てたアンダルスとモロッコの建築様式が融合した邸宅の多くは、21世紀には観光客向けのエキゾチックな宿泊施設として生まれ変わった。

 このリアドも、かつてはそのブームに乗ろうと、水回りをはじめとして宿泊施設らしく改修されたが、マラケシュやフェズのように観光に適した町ではなかったので経営に行き詰まったらしい。ベルナールは、二束三文で売りに出されていたのを見つけたと自慢げに語った。

「僕はね。このリアドを完璧な状態に修復して『千夜一夜物語』の世界を再現したいんだ」

 パティオには、星形の噴水が置かれ、棕櫚やバナナの木が美しい木陰を作っている。2階はバルコニーがパティオを囲むようにあり、5つのテイストの違う部屋があった。

 ナナが使っている部屋は、ターコイズ・ブルーをテーマにした部屋で、とりわけバスルームの壁とタイルが美しかった。

 ベルナールに、モロッコ移住を提案されたとき、ナナは彼とここに住むのだと思っていた。実際には、常にここに住んでいるのはナナ1人で、ベルナールは年に2か月ほど滞在する以外は、月に3日ほど訪れるだけだった。

 パリにあるモロッコのインテリアを売る店は繁盛しており、彼はこれまで通りに2国を行き来して暮らすのだろう。

 彼が、電話で話している姿を見て、彼は離婚もしていなければ、ナナを正式なパートナーにしようとも思っていないことを知ってしまった。これは、日本でいうお妾さんにマンションを買い与えるのと変わらない事なのだと氣がつき、がっかりした。

 それは、日本で母親が受けていた扱いと同じだった。私生児だから、ハーフだからと受けた仕打ちには負けたくなかった。だから、フランスに渡り自分の力で生きていこうとした。けれども、フランスではナナは今度はアジア人として扱われた。1人前の仕事をさせてもらえなかったのは、人種差別のせいだとは思いたくなかったけれど、実力が無いと認めるのも悲しかった。しかも、結局、自分もまた愛人として囲われることになってしまった。

 日本やフランスに戻って、地を這うような生活をしながら独りで生きていく決意はまだつかない。このアラビアンナイトのような美しい鳥籠と、その外に広がる厳しい現実の世界の対比はナナを億劫にする。

 細やかな刺繍の施されたフクシアピンクのバブーシュを履く。ただのスリッパと違い、足にぴったりと寄り添う滑らかな革のひんやりとした肌触りが好きだ。足下には星や千鳥のように見えるタイルが敷き詰められている。何も知らなければただの床だが、ゼリージュ細工の仕事を知るナナは、足を踏み出すごとに畏敬の思いを抱き歩く。

 コンコンという、規則正しい音がする。ナナは、音のする方へと向かった。ホールの隅で、『彼』が働いている。ゼリージュ職人であるアリーだ。

 細かくカットしたタイルを組み合わせて、幾何学模様のモザイクを作り出す装飾をゼリージュと呼ぶ。古くからイスラム圏で広く使われていたゼリージュは、その膨大な手間から現在ではほぼモロッコだけに継承されている。

 白、黒、青、緑、黄、赤、茶の釉薬を塗って焼いた伝統的なタイルを、360種ほどもあるという決められた形に割っていく。組み合わせるときに、他のタイルとのあいだに隙間が出来ないように、それぞれを完璧な形にしていかなくてはならない。それは氣の遠くなるような作業だ。

 アリーは、そうした技術を継承した職人だ。ベルナールの依頼で、この邸宅の装飾を修復するために時おり通ってくる。

 ナナが、話をすることが一番多いのが、このアリーだ。掃除を請け負うファティマや、グロッサリーを搬入してくれるハッサンとも定期的に顔を合わすのだが、この2人は英語もフランス語も話さないため話し相手にはならない。

 ナナは、パティオの奥に設けられた木陰の読書スペースで本を読んで過ごすことが多い。日本にいたときには積ん読になっていた多くのシリーズものは、この木陰で何回か読破した。

「それは、中国語?」
そう訊かれて、顔を上げたのが、アリーとの最初のコンタクトだった。訛りはあるがフランス語だ。

「いいえ。日本語よ」
「ああ、君は日本人なのか」
「半分ね。でも、東京で生まれ育ったの。読むならフランス語よりも日本語が楽なのよ」
「そう。面白いね。本当に縦に読んでいくんだ。ああ、右から左に進むんだね」
「そうよ。アラビア語もそうよね」
「まあね。横方向にだけど」

 たわいない話だが、ベルナール以外の人と、ごく普通の会話をするのは久しぶりだった。単語だけでようやく意思疎通をするだけのファティマたち。買い物の時にフランス語が達者な売り子と話すこともあるが、ぼんやりしていると高いものを売りつけられたりスリに狙われたりするので世間話に興じることはほとんどない。

 アリーは、それ以来、籠の中の鳥のように暮らすナナにとってこの世界に向けたたった一つの窓のような存在だ。何かを売りつけるためではなく、雇用主として阿るわけでもなく、ただその空間と時間を共有する相手として接してくれる。そんな彼と話す時間を、ナナは心待ちにしている。

 それは、不思議な感覚だ。

 パリにいたとき、ナナはベルナールとの逢瀬を渇望していた。彼の妻よりも、ずっと彼を愛していると思っていたし、モロッコ行きを決めたときには愛の勝利に酔いしれた。4つ星ホテルの空調の効いた部屋での情交も、このリアドで格別に選んだターコイズ・ブルーの居室での睦みごとも、ベルナールとの強い想いと絆の当然の帰結だと感じていた。

 でも、いつの間にかベルナールに1日でも多く滞在してほしいという願いはなくなっていた。嫌いになったわけではないし、離婚するつもりがないことに対して怒っているわけでもない。ただ、彼の存在が、日々どんどんと希薄になっていくだけだ。

 ベルナールがやって来て、滞在するとき、ナナは彼を精一杯もてなす。店員が上得意客をもてなすように。覚えたモロッコ風の料理は、ベルナールを満腹にした。赤い部屋、オレンジの部屋、緑の部屋で楼閣に住む娼婦のように、彼を悦ばせた。それは、『アラビアンナイト』の世界に住まわせてくれる主人に対するナナの義務だと感じていた。

 そして、彼が去ると、ナナはどこか安堵している。再びひとりに戻ったことに。そして、中庭に響く静かな水音の向こうから聞こえてくるゼリージュ・タイルを作る規則正しい音に、心が震えるのだ。

 小さなタイルが組み合わされる。それは単なる装飾やパズルあそびではなく、自然を手本とした幾何学の魔法だ。シンメトリカルに広がる多様性。シンプルと複雑さの絶妙な組み合わせ。そして水の揺らめきや木漏れ日の揺らぎまでが計算され尽くしたかのように美しさを倍増する。

 大量生産があたりまえのこの時代においても、ゼリージュのタイルはすべて手作業で作られる。粘土を乾かし、釉薬を塗って焼いたタイルを1つ1つ蚤を使って小さなパーツに切り取っていく。ごく普通のセラミックタイルの300倍もの値段がすることに驚愕する人も多いが、この手作業を目で見たら納得するだろう。

 ゼリージュのタイルを使ったインテリアは、パリでは金持ちの贅沢だが、ここモロッコでは1000年以上も受け継がれてきた伝統であり、創造主たる神への讃美と感謝でもある。イスラム世界のほとんどで失われてしまったこの伝統を、モロッコのゼリージュ職人たちは黙々と受け継いできた。

 アリーの茶色い手が、なんでもないようにタイルを組み合わせ、それを固定していく。繊細な作業をしているようには見えないのに、出来上がったタイルの組み合わせは完璧だ。それは、自然の造形と似ている。1つ1つは好き勝手に育っているように見えるのに、光景となった時にはすべてのパーツがきちんと収まるべきところに収まり、調和し、美しく、畏敬を呼び起こす。

 ナナは、彼が働いているときには黙ってそれを見つめる。息を殺し、身動ぎもせずに、世界のパーツが正しい位置に納まっていくのを待つ。

 学生の時、図書館で「千夜一夜物語」の訳文を読んだことがある。后であるシェーラザードが1001夜にわたって夫である暴君に話をすることになったきっかけは、もともとシャフリヤール王の后が奴隷と浮気をしていたからだった。王の后となったのに、浮氣なんかしなければいいのにとその時は単純に思ったけれど、いまならその后たちに少し同情することができる。

 ここのように美しい、それとも、もっと煌びやかな王宮に閉じ込められた后は、ハーレムを戯れに巡回する夫君がいつやって来るのかも知らない日々を過ごしていたのではないだろうか。ちょうどナナにとってのベルナールと同じだ。そして、王は自分は自由に複数の女性を楽しみつつ、后が他の男に抱かれているのを見たら憤り、その首をはねた。そして、女性不信から生娘と結婚しては翌日に殺すということを繰り返したのだ。

 ナナは、絶えず聞こえている水音と、棕櫚の枝を揺らす風を感じながら、ひたすら働くアリーの手元を見ていた。アリーとの間に、后と奴隷との間に起こったような展開はない。おそらくアリーはナナに対して女性としての興味は持っていないだろう。ナナにしても、この感情をどう捉えるべきなのか、はっきりとした定義はできない。

 わかっていることは、今のナナにとって、訪れに心躍るのはもうベルナールではなくなっているという事実だ。

 アリーが仕事の合間の休息をとるとき、ナナは淹れたての甘いミントティーを持っていく。銀のティーポットから金彩の施された小さなガラスの器に熱いお茶を注ぐ。このポットの取っ手は素手で持つのは難しい。最初の時に、鍋つかみを持ってきてあたふたしていたら、アリーは笑って代わりに注いでくれた。それ以来、お茶を注ぐのはアリーだ。

 そういえば、正しいモロッコ風ミントティーの淹れ方を教えてくれたのもアリーだった。初めて持っていった午後、一口飲んでから黒目がちの瞳をナナに向けた。
「これ、どうやって淹れた?」

 ナナはポットを指さして答えた。
「お茶っ葉とミントを入れて、熱湯を注いだの」

 アリーは、彼女をキッチンに連れて行った。そして、正しい手順を見せてくれた。

 まずポットに茶葉を入れる。1人用ポットなら小さじ2杯。もう少し大きいポットは3杯だ。そこにやかんの熱湯をグラス1杯分だけ注ぎ、すぐにグラスに戻す。かなり濃いお茶だ。
「これはお茶のスピリットだから、あとでまた使う」

そして、浸る程度の熱湯を再びポットに入れるけれど、そのお茶は捨ててしまう。これを2度行う。
「これで苦みを取るんだ」

 そして、そこに大量のミント、小さじ大盛り3杯の砂糖、そして、とっておいた「お茶のスピリット」を入れてからお湯を注ぎ、それを中火にかける。そうやってお茶とミントをしっかりと煮出す。

 出来上がったお茶の底に砂糖が固まっているように思われたので、スプーンでかき混ぜようとしたら再び笑われた。
「こうするんだよ」

 彼は、そのままグラスにお茶を注いだ。少しずつポットを持ち上げ、最終的にはかなり高いところからお茶を注いでいる。そして、グラスに入ったお茶を再びポットに戻す。これを何度も繰り返すことで中の砂糖は均一に混じるらしい。

 それ以来、ナナは正しいモロッコ式ミントティーアツァイ・マグリビ を作るようになった。最初は抵抗があって砂糖を少なめにしていたけれど、アリーと一緒に飲むために彼に習った量を入れるようにしてみたら、苦みとのバランスがよくその強烈な甘さにも慣れてしまった。高いところからお茶を注ぐのでミントの香りが辺りに広がる。

 添えたデーツをかじりながら、しばらくさまざまなことを話して過ごす。
「日本でもお茶を飲むんだろう?」
「ええ。でも、お砂糖は入れないのよ」
「へえ」
「それに、いいお茶は、60℃ぐらいの温度で淹れて、苦みを出さないようにするの」

 同じ植物を使っていても、ミントティーと玉露は、まったく違う飲み物だ。ナナにとって障子と畳のある部屋で居住まいを正して飲む玉露は、もうとても遠い飲み物になってしまった。色鮮やかなゼリージュと中庭の棕櫚や椰子の木、噴水の水音と木漏れ日の中で飲むミントティーこそが、いまのナナの現実そのものだ。

 ティーグラスを持つアリーの茶色い手を見ながら、ナナはこの午後が永久に続けばいいのにと願う。共にいたい相手がベルナールでないことに思い至り、心の中で自分を嗤う。

 ベルナールにとって『千夜一夜物語』の具現であるリアド。経年で崩れていた細部を修復する魔法をかけに来るアリー。甘言と欺瞞の満ちた華やかな籠の中で王への忠誠を失った后の物語。人の心もまた小さなパーツで織りなされるモザイクだ。

 金彩の輝くグラスには今日もまた、なんと名付ければいいのかわからない強烈な甘さと苦さが満ちている。

(初出:2023年5月 書き下ろし)

追記


せっかくなのでゼリージュの作り方を紹介した動画を貼り付けておきますね。


FROM CLAY TO MOSAICS
関連記事 (Category: 短編小説集・12か月の建築)
  0 trackback
Category : 短編小説集・12か月の建築
Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
ゼリージュっていうんですか、タイル細工。
裏から止めるんですね。
面白いです。これは見とれる。
2023.05.24 09:25 | URL | #em2m5CsA [edit]
says...
執筆、お疲れさまでした。

ストーリーといい、情景といい、まるで白昼夢でも見ているような印象でした。
ナナのどこかアンニュイでデカダンな、いささか現実離れした暮らしが、埃っぽくて荒んだ外界とドア一枚で隔てられた、ゼリージュに彩られたリアドそのもののように思えます。
ベルナールにしてみれば、アラビアンナイトの世界にいっときの夢を見に来るようなものなんでしょう。東洋のエキゾチックな女性をかこっているというだけで、じゅうぶんに満足しているんでしょうね。
そして、ナナもまた、ベルナールとの関係がどうにもならないことも、いずれどこかで破滅的な終焉がくることも予想していて、それでもこの夢のような庭園から出ることもできない。そのはざまで揺蕩っているように思います。
アリーがタイルを刻む単調な音が、繰り返されるアラベスクの幾何学模様のような時間の流れを感じさせました。
2023.05.24 12:15 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

私も、どうやって作るのか考えたこともなかったのですが、すごいですよね、これ。
今だったら、機械化してとか3Dプリンターとか、いろいろと方法があると思うのですが、千年前からこうやって作ってきているのってすごいなと思いますし、そうやって作られたタイルの数々を見るとずっと感慨深くなります。

コメントありがとうございました。
2023.05.24 21:16 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

今年の建築シリーズでは、まず最初に扱いたい建築物を決めて、それに合わせて話を作っているのですが、私の印象の中でのモロッコのリアドって、まさに「白昼夢」みたいな非現実的な存在なんですよ。
モロッコの1日ツアーで見た、現実の世界と観光客を悦ばせるアラビアンナイト的な世界のギャップがひどく心に残りました。

非現実的な逃避でしかない日々を過ごすナナですが、まあ、どう考えても一生こんなぬるま湯のまま生きられるはずはありませんよね。
でも、自分から建設的なステップを踏み出す現実的な能力も氣概も、彼女には欠けているようで、1日延ばしをズルズルとつづけているんでしょう。

アリーの単調作業は、それらと対照的に、確実に何かを作りだしていき、地に足をつけてしっかりと生きている、その象徴でもありますね。
それにしても、ゼリージュ、出来上がったときにはさぞ誇らしいだろうなあと思う、素晴らしい工芸ですよねぇ。

コメントありがとうございました。

2023.05.24 21:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
若干スケールは小さいですけれど、現代版千夜一夜物語ですね。
こういう世界観、サキは大好きなのでたっぷりと浸らせていただきました。何と言ってもこの謎めいた町(住んでいる人にとっては日常なのでしょうが)が素敵なんですよね。そして、アラビアンナイトを思わせるナナの置かれた環境、異国の地モロッコにたった一人・・・うっかり憧れてしまいそうですが、自ら選んだ結果だとはいえ、こんな状態はきっと不安でたまらないんだろうなぁ。

ここで登場するゼリージュって、きっとサキがアルハンブラ宮殿で見たあのタイルの壁がそうなんだろうなぁ。感動して何枚も写真を撮っていたので見返してみましたが、どうも同じもののようです。見事に組み合わされているのですが、人間がこうやって作るんですね。人の手が生み出すその僅かな誤差が、現代の技術で作られた壁では得ることのできない味のようなものを生み出しているんじゃないかと思いました。
アリーはどんな気持ちでナナに接しているのだろう?ナナもしかり・・・。
ナナが次の一歩を踏み出せるように祈っています。
2023.05.26 11:22 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

若干どころかめちゃくちゃスケール違いますけれど(笑)
ただ、リアドっと「わー、アラビアンナイト」という感想がまず出てくる宿泊施設ですよね。
一度は泊まってみたいミーハーな私ですが、チャンスはあるのか……。

この町は、どこと決めて書いたわけではありませんが、セウタからの1日観光で見たテトゥアンやその周辺の光景をモデルにしています。
モロッコに限ったことではありませんが、旅行パンフレットに必ず載るようなところと、そうではないところにはギャップがあり、今回リアドの中だけの話にしなかったのは、現実逃避をしているナナと、アリーをはじめ実際に地に足をつけて生きる人びとの対比を感じさせたかったからです。

とはいえ、建築をテーマにして書こうと思ったときに「絶対に外せない」と思ったくらい、このリアドは素敵だと憧れている宿泊施設です。スペインのパラドールも素敵ですが、リアドの方が個人的な感じですね。住んでいるような錯覚をさせてくれる感じかなあ。

ゼリージュはイベリア半島のイスラム建築にも多用されていますよね。当時はムスリム国の多くでこの技術者がたくさんいたのでしょうが、現在ではほぼモロッコだけがこの技術の継承者を輩出しているらしいです。まさかあんなごついハンマーで1つ1つ切り出して作っているなんて想像もしていませんでした。3Dプリンターなどで作ればもっと簡単に大量生産できるのかもしれませんが、それでは、サキさんがおっしゃるように、あのえもいわれぬ尊さは作り出せないのでしょうね。

アリーは、まあ、特別な感情は持っていないでしょうね。「有閑マダムかよ」と思っているかも。
ナナは、自分から一歩を踏み出すのは難しいでしょうが、どうにもならない破滅が来る前に、自分で道を見つけられるといいですよね。
(自分で書いておいて、なぜ人ごとなのか……)

コメントありがとうございました。
2023.05.26 23:23 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
動画を拝見いたしましたが、あんなにピッタリ綺麗にできるものなのですね。
完成品を見てびっくりしました。とてもハンマーで削っているとは思えない……
こういう細かい手作業をコツコツ積み重ねる職人になりたかった時期が私にもありました。
いや、ただの憧れでそっち方面に進む努力は一欠片もしてないのですが。

でも、こういう手作業を間近で見られる環境って良いなあ。
再就職も、日本語とフランス語が出来るのだから、どうにでもなりそうな気がするんだけどな。
若しくは、アリーに家でできる副業を紹介してもらったりは出来ないのかなあ。
そも、最初に相手が不誠実なんだから、ベルナールは利用するだけ利用して捨てちゃえばいいと思いますよ。
既婚者と知っての点で、結局は同罪かもしれませんが、目が覚めたんだから引っ張らずに新しい道を選べばいいと思います。
でも、以前上手く行かずに自分に自身をなくしてしまっているのなら、たしかに勇気を出すのは難しいかもしれませんね。
そのために、まずは副業! そこからステップアップして、日常会話もスムーズに出来るようになって、もっと治安のいい場所で暮らすとか。
ツテが出来れば、フランス語と日本語ができるのも更に生きてくるんじゃないかな。

等と、前向きに考えてみましたが、やっぱり安定と自信喪失の組み合わせは、停滞を生み出す最強コンビでしょうね。
そりゃ今まで得た技術や知識がないわけじゃないけど、それで食っていけるほど優れてるかって言われると……
就職できてもブラックだったり。仮にそこそこでも、条件よくないのはやっぱり嫌だし。
あー……これは先延ばしにするわー……
今が良くなる希望より、今より悪くなる不安のほうがどうしても大きくなりますよね。
それでも、好転することを祈るばかりです。
2023.05.30 13:26 | URL | #yl2HcnkM [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

すごいですよね、この動画の技術! 私も感心してみていました。
道具のごっつさと、パーツを作る繊細さがまったく合っていないと思うんですけれど、プロってすごい。

私も手工業には心惹かれます。自分に手に職がないから、よけいそう思うのかも。
その憧れから、この12か月の○○シリーズには、時おりそうした職人たちを登場させています。

ナナがアンニュイにこのリアドに留まっているのは、ほぼ「だらけている」だけですね。
滞在ヴィザがいるので、たぶんベルナールの会社の現地スタッフみたいな扱いになっていると思いますが、そうした一連の手続きも含めて衣食住が足りてしまっていると、地に足をつけた再出発などは億劫になるのかも。
でも、こんなフラフラした生き方、壊れるときにはあっという間ですからねぇ。何か動き出した方がいいとおもいますよね。

コメントありがとうございました。
2023.05.30 22:47 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ううむ、毎回同じコメントになってしまうのですが、
夕さんの、この異国の情緒あふれる描写と、その中で生きているキャラというのは、
とても秀逸に出来ていて、とても勉強になるなあ、と思いながら読んでおります。

私ってば、狭い日本の中で生きているからなあ、
って思ってしまうところがある。
異国は煌びやかに見える、されど、人間が生きている。
ってところが上手く描写されているところは、
流石の描写と感じます。


2023.06.02 07:51 | URL | #- [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

実は、私の大学でのゼミは東洋史学科イスラム専攻、だったのでムスリム文化については少しだけ他の地域よりも思い入れがあったりします。
といってもものすごく詳しいというわけではないのですけれど。
そこからエジプトの民間信仰について卒論を書き、やがてアフリカ旅行をして、なぜか紆余曲折の果てにスイスに着地しているので、この辺りのことを書くのは自分の人生と重ね合わせることもあります。まあ、ナナのような経験はしていませんが(笑)

思うんですが、人間というのは物質的な環境だけが満たされていても、決して満足しない生き物だと思うんですよね。
加えて、ナナのように他力本願でいれば、もちろん満たされることはないでしょうね。
満たされないのはわかっていね、でも、一歩踏み出して荒波にもまれるのも怖い、そんな逡巡がいまの状態かも。

お褒めに与り恐縮です。

コメントありがとうございました。
2023.06.03 19:50 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/2159-194bf652