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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(21)修道院 -1-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第21回『修道院』をお届けします。今回は2回にわけます。

人狼と思われていた男トゥリオを救ったため、村人たちに報復される可能性のある道を避け、一行はジューリオと名乗った少年の案内で聖キアーラ女子修道院へと向かっています。レオポルドは本来の身分と名前を隠したまま修道院長マーテル・アニェーゼと知り合えると目論んでいます。

この修道院ならびにマーテル・アニェーゼは一度外伝でも登場しましたが、モデルは中世ドイツのヒルデガルト・フォン・ビンゲンです。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(21)修道院 -1-


 森の道は、半刻ほど登り坂のままだった。それからわずかに下り勾配となった。足下が崩れやすいので、1歩ごとの時間がそれまでよりもかかった。道幅が広く、歩きやすくなってしばらくしてから、かなり大きい灰色の建物が木々の合間から見えてきた。

「あれがその修道院か」
レオポルドが訊いた。

「ああ、そうだ。すぐに着く」
ジューリオはそう答えたが、実際に壁面にたどり着くまでは半刻ほどかかった。ここの道もかなりの傾斜で下り、歩みは再びゆっくりとなった。木々は広葉樹ばかりとなり、若葉の色もずっと明るい黄緑で、明るく感じられた。

 ようやく森から出て、石畳にも似た石盤が土の合間に敷かれた道を修道院の壁に沿ってしばらく歩いたところでジューリオは停まった。

「ほら、そこが裏門だ」
生い茂る蔦に隠れるように裏木戸があった。ジューリオは、辺りを確かめながら裏木戸を開けて、一行を塀の内側に入れた。

「ちょっとここで待っていてくれ」
そう言って、ジューリオは建物の中へと向かった。5人とトゥリオはその場に残った。

「なんだあれは」
レオポルドが眉をひそめて言った。フリッツが肩をすくめた。
「伝説の男姫でしょうか」

「《男姫》ユーリアは絶世の美女だったって話じゃないか。こっちは単なるちんちくりんだぞ」
レオポルドは吐き出すように言った。

 それを聴いて、アニーが驚いてラウラに耳打ちした。
「あの方、女性なんですか?」
「そうみたい。でも、ここで大きな声でその話はしない方がいいわ」
ラウラはトゥリオを目で示しながら答えた。

 しばらくすると、ジューリオが3人の尼僧と戻ってきた。背の高い女性には明らかに他の2人とは異なる威厳があった。彼女は一行に頭を下げると、レオポルドに話しかけた。

「当修道院の院長でございます。この度はとんだ災難でございました。この2人をお助けくださったとのこと、私からも御礼申し上げます。どうぞ中でしばしお休みくださいませ」

 レオポルドは、頭を下げた。
「それはご親切にありがとうございます。お言葉に甘えて、すこし休息させていただきます」

 尼僧たちは、下男たちを手配しトゥリオを手当てするため奥に連れて行った。レオポルドたちは、そのまま中庭へと案内され、そこで茶菓のもてなしを受けた。院長マーテル・アニェーゼとジューリオも一緒に座った。

 塀に囲まれた大きな修道院は、俗世間から隔離されていることもあり、小さな城のような様相を示している。広い庭園にはたくさんの野菜とともに薬草になる植物がたくさん植えられ、蜂が忙しく蜜を集め、鶏も歩き回っていた。

 修道女たちが心を込めて作ったパンや菓子の甘い香りが漂い、夏の熱い日差しを葡萄棚が遮る庭園での休息は非常に心地よかった。

「ラウラ様……」
アニーがそっと立ち上がりラウラの左に回った。見ると左手首に巻いたスダリウムが外れかけている。馬から下りるときにずれたのだろう。赤い皮膚の傷跡が見えていた。

 ラウラがルーヴランでマリア=フェリシア姫の《学友》として代わりに罰を受けていた頃は、この傷が癒える間もなく次の鞭が当てられたものだが、グランドロンに来てからそのようなことはなくなり、傷は完全に塞がっている。だが、その痛々しい跡はもう消えることがないので、王都やフルーヴルーウー城では金糸の縫い取りのついた厚手の覆いをしている。だが、それは平民に相応しいものでもなく現在の服装にも合わないので、この旅の間は白いスダリウム布で簡単に覆うようにしていた。

 アニーが、スダリウムを結び直している時に、ジューリオはその様子をじっと見つめていた。
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Category : 小説・トリネアの真珠
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

なるほど、男性陣はジューリオが女性だと気づいていたわけですね。しかし、ヒロインに向かってちんちくりん呼ばわりは、いくらなんでも酷いんじゃ……。
修道院の様子、自給自足している感じが伝わってきます。野良仕事などの力仕事もあったでしょうから、尼僧だけではたいへんだったでしょうね。
さて。思惑通り(?)に、素性を隠して院長と面会を果たした陛下ですが、はたしていつまで隠しおおせるものやら。なんとなく、すぐにぼろを出す(なんかちょっと違うか?)ような気もします。
院長との会見のなかで、トゥリオの件、なにか事情が明かされていくんでしょうか。そして、ラウラとアニーの様子を見るエレオノーラも、なにを思っているのか気になりますね。
2023.08.16 16:11 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

そうです。近くで一緒に戦いぶりを見ていたり、実際に口をきいたりしてかなり簡単にわかったようです。
わかっていなかったのはアニー1人でした。

そして、エレオノーラは「美しい」属性ないんですよ。まあ、醜いって事はないんですけれど、それよりも残念さが際立っていまして。
その辺は、あれだけしょーもなくてもハンス=レギナルドをベタ惚れにさせたジュリアとは違いますね。

さて、当時の大きい修道院はたいてい自給自足だったようです。
とはいえ、わりといいところのお嬢さんが預けられたりしていたこともあり、女子修道院といいつつもちゃっかり下男などがいますので重労働はなどはしなくて済んでいたでしょう。まあ、それでもせっせと働きまくる日々でしたが。

ちゃっかり修道院に入り込むことに成功したレオポルド、最初の目的はマーテル・アニェーゼと親しくなって情報を得ることでしたが、このあとわりとすぐにターゲットを変更することになります(笑)
トゥリオの件は、おいおい……。エレオノーラの思惑の方は、すぐに出てきますのでご安心ください。

コメントありがとうございました。
2023.08.16 21:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
外伝、読み返してきましたよ。
いろいろとよみがえってきました。
そうかぁ。アニー、あんな思われ人がいたんだなぁ・・・フリッツを闇雲に応援できないなぁ。

ジューリオ、男だと気づかれていましたか、しかも男どもに。
言われてみれば一緒に戦ったりしたら気づいちゃうか、なるほど。
でも“ちんちくりん”とはレオポルドも酷いことを言いますね。女性だから男性よりは小柄なんだろうけど・・・やれやれ、先は長そうだ。
作者の夕さんにも残念な残念なって言われるし、いったいどんな容姿をしているんだろう?人は顔形ではないとはいえ気になっています。うたかたまほろさんのイラストではとても美しいんだけど・・・。
でも、物語の成り行きはレオポルドに都合よく進んでいるようです。彼の目論見はいつまで上手くいくのかな。やっぱり、レオポルドとジューリオ、お互いの正体がばれる時が楽しみです。
そして視線の先、ラウラの手首の様子にジューリオは何を思うのか?

あれ?でもここで終わり?
少ししか進んでいないような気がしますが、もう続いちゃう?
ああ、次が待ち遠しいです。
2023.08.18 04:28 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

お、外伝のまで再び読んでいただきありがとうございます。

あはは。あの外伝、ちゃんとネタ振りになっているのでご期待ください。
フリッツは、そもそも妻帯者ですから。嫁には逃げられたままですが。

さて、ジューリオことエレオノーラですが、残念なのは顔ではありません。
ま、大して美女というわけではありませんが、まあ美女でも問題ありのマリア=フェリシア姫みたいなのもいましたから、レオポルドにとって顔は二の次です。エレオノーラに対する評価が低いのは、顔以外の残念さが際立っているからです。その辺の描写はおいおい(笑)

このストーリー、本当にご都合主義の連続になっています。レオポルドにとっては渡りに舟がどんどん続きます。
次回、少しはご希望っぽいシーンがあるかな? ご期待ください。

コメントありがとうございました。
2023.08.18 22:53 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
今晩は。

外伝のリンクありがとうございます。
探したけど見つからなかったのです……探し方が悪いんだな。知ってた!
双方拝見いたしましたが、ちんちくりん……外見より、性格、言動かなあ。
残念とまでは思いませんが、今のところ。
どちらかと言えば無邪気かなあ。世間知らずとも言い換えられてしまう気もする。
ラウラさんの傷は事情を知らなければ、少々異様ですよね。
なんでそんなになったのって、悪く勘繰られても仕方ないような。
あれは実に無駄なシステムだった。形骸化してるなら辞めればいいのに。

自給自足な修道院と聞いて思い出したのは、函館のトラピスチヌ修道院でしょうか。
朝3時おきの19時就寝とか。
はちみつだけじゃなく蜜蝋でろうそくを作ったりとか聞いたような。
食料の確保と一つとっても、スペースが有っても大変でしょうね。毎年思う通りに育つとは限らないし。

執筆お疲れさまでした。
続きを楽しみにしております。
2023.08.19 14:36 | URL | #yl2HcnkM [edit]
says...
こんばんは。

すみません、お手数をおかけしていましたね。
外伝、よく考えたらけっこうたくさんあってどれだかわかりませんよね。
基本的には外伝を読まなくてもわかるように書くようにはしているのですが、何となく今回は氣まぐれにつリンクけてみました。

イラストを描いてくださる方、みなさん、ヒロインだといえばきれいに書いてくださるのですが、私の小説のヒロインに「めっちゃ美女」というのは少ないです。顔がよければ性格に問題ありとか癖があります。今回のヒロインは、そもそも「いちおうヒロイン」程度の立ち位置ですし、見かけの方は「醜くはない、そこそこ」ぐらいですかね。問題はそこじゃないんです。おっしゃるとおり言動の方が大いに問題ありなのです。
そこら辺の誰かと思えばレオポルドも「変わった女だ、ちんちくりんの」ぐらいの感想ですが、これが縁談相手ともなるとそれでは済まないという(笑)

そうそう、志士朗さん、視点がするどい。《学友》というトンデモ・システム、ラウラの傷だけでなく、あちこちで同様な被害者を生んでいた、やめりゃいいのにと思う人もいたという設定なのですが、これが今回のストーリーに関係してきます。

さて、トラビスト修道会、イメージしやすいですよね。
私、あのクッキーが大好きで……って、誰もそんなこと訊いていないって。
蜜蝋はヨーロッパでは今でも普通に流通していて、修道院系の露店でもよく出品されていますよね。

もっともこの時代の大きな女子修道院というのは、嫁に行けない貴族の娘を引き取るところだったりするので、わりと寄進が多くて普通の農民ほどの厳しい生活はしていなかった可能性もあります。そういう意味では今の修道院生活の方が大変そう。

コメントありがとうございました。
2023.08.19 22:54 | URL | #9yMhI49k [edit]

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