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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(21)修道院 -2-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第21回『修道院』の2回に分けた後編をお届けします。

ジューリオと名乗り男装をしている娘の案内で聖キアーラ女子修道院についた一行は、訳ありの男トゥリオとジューリオを助けた縁で、茶菓のもてなしを受けました。

今回は、思いがけない成り行きに渡りに舟と食いつくレオポルドたちが、その語にジューリオの正体に氣がつくことになります。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(21)修道院 -2-


 マーテル・アニェーゼは、さまざまな焼き菓子を一同の前に置き、薬草入りの白ワインをすすめた。
「城下町に滞在なさるご予定ですか」

「はい。安全で心地のいい宿をいくつかご存じでしょうか」
マックスが訊いた。

「そうですね。この近くにもいくつかございますが、あの森の村人たちとかち合わないようにとなると、かなり町の中心まで行く必要がございますね」
修道院長は考えながら答えた。

 ジューリオは、その会話を遮るように突然言った。
「ねえ。マーテル。いっそのこと、この人たちをここに泊めてくれないか? ここなら安全だし」

「まあ。でも、よろしいのですか? その……あなた様の……」
修道院長は、困ったように口淀んだ。

「少年のフリをしている女だとわかってしまう……と?」
レオポルドが言うと、2人は驚いたように見た。一行の誰も驚いていないので、どうやらとっくにわかっていたようだと、マーテルは肩をすくめた。

「もし懸念がそれだけだというのなら、今から城下町の中心まで行き、まともな旅籠を探すのも骨が折れるので、お言葉に甘えさせていただけるだろうか」
レオポルドは、マーテル・アニェーゼともう少し話をする機会を逃すつもりはない。

「そうですね。ここは修道院でございますので、申しわけございませんが、殿方様のお部屋と、奥方様のお部屋に分けさせていただきます。また、夕刻の祈りの時間には門の錠を締めさせていただきますので、あまり遅くまでの外出はできません。それでもよろしゅうございますか」
「もちろん異存は無い」

 マーテル・アニェーゼは頷いた。
「それでは、どうぞ、ゆっくりとご滞在くださいませ」

 レオポルドは、頭を下げた。
「ご親切に感謝します。もちろん相応のお代は支払わせていただくので、私の秘書であるこちらのマックスに申しつけていただきたい」

「私どもは旅籠ではございませんのでお代はいただきませんが、もちろんいくばくかでも寄進をいただければ幸いです。それでは、皆様のお部屋を用意いたしましょう」

 マーテル・アニェーゼが立ち上がると、ジューリオも立ちラウラとアニーの横に立った。
「わたしも、今日はここに泊まるんだ。あなたたちの部屋には私が案内しよう」

「エレオノーラ様」
マーテル・アニェーゼは咎めるような声を出した。

「いいじゃないか、マーテル。ここでの私は下人みたいなものだろう」
「冗談はおやめください、姫様。それに、今日のあなた様は、お祈りのためにここに泊まるお許しをお父様からいただいたんじゃありませんか。トゥリオ殿の看病とお客様のお世話は私どもがしますので、あなた様は大人しくなさっていてください」

 一同は、黙ってジューリオ、正しくはエレオノーラというらしい男装の姫を見た。

 当人は、ため息をついて答えた。
「わかった。じゃあ、この人たちの世話は任せた。何といってもこの人たちは、私の、つまりトリネアの恩人だしな」

 レオポルドとフリッツは、戸惑ったように目配せをしあった。

* * *


 案内された部屋に入った途端、レオポルドはフリッツに詰め寄った。
「おい。まさか、あれがトリネア候女だっていうじゃないだろうな」

 マックスも、「やっぱりそうなのか」と思った。

 聖キアーラ修道院長マーテル・アニェーゼは、トリネアの有力貴族ベルナルディ家の出身だ。その彼女が尊い姫のように扱っているということは、あんななりをしていてもかなりの家柄の令嬢なのは間違いない。加えて、かの男姫は自分たち一行のことを「トリネアの恩人」と言った。

 フリッツは、困ったように答えた。
「残念ながら、その可能性は高そうです。姫君の正式なお名前は、エレオノーラ・ベアトリーチェ ・ダ・トリネアでしたよね。そのうえ院長は姫様と呼んでいましたし。まあ、他に姫様と呼ばれる同名の女性がいる可能性もあるわけですが」

 レオポルドは頭を抱えた。
「あれはないだろう。あんな粗忽な姫なんて見たことがないぞ。勘弁してくれ」

「1つだけ、陛下の出された条件に合ったところもありますよ」
フリッツは、慰めるように言った。

「何だ」
「御母后様とはまったく似たところがございません」

 マックスは思わず吹き出しそうになったのをそっぽを向いてこらえ、レオボルドに睨まれた。
関連記事 (Category: 小説・トリネアの真珠)
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Category : 小説・トリネアの真珠
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

いやなんかもう、エレオノーラの正体、だだ判りじゃないですか。というか、マーテル院長も、隠す気なんてさらさらなさそうだし。
まあ、一行がただの商人だと思っているのなら、本名を言っても、姫様呼ばわりしても、トリネア候女だとバレても問題ない、という判断なのでしょうか。それとも、院長もタヌキで、一行の正体を見破っていて、わざと知らせた、とか?
いろいろと深読みをしたくなる回でした。

エレオノーラの第一印象、最悪ですね(笑)
これでまた、嫁取りは遠のきましたか? まあ、印象なんて、変わりますからね。そのあたりも楽しみにしています。
2023.08.23 09:35 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

外伝の時もそうでしたが、実はマーテル・アニェーゼ、エレオノーラから正体について口止めされていないんですよ。
なので、本人に隠すつもりがなさそうなときは、普通に姫として扱っています。
本人が隠しているなと感じるときだけは、いちおう氣をつけて振る舞っていますが。

ちなみにマーテル・アニェーゼもさすがにグランドロン国王とフルーヴルーウー辺境伯夫妻がフラフラあそびに来ているとは思っていません。
ただ、この人も、また、後から記述が出てきますがエレオノーラ自身も「ただの商人一行じゃないな」くらいは思っています。

ちなみにレオポルド、本氣で「これは勘弁してくれ」と思っています。
その詳細(どこが普通の姫君じゃないのか)については、これからの記述でも出てくるのでご期待ください。

コメントありがとうございました。
2023.08.23 22:25 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
レオポルドの目論見通りうまく事は運びましたが、うわぁ!お姫様の秘密がダダ洩れじゃぁないですか。こんなに早くお姫様の正体だけが一方的にばれてしまうとは予想外でした。
レオポルドの反応が傑作です。まったく彼の予想外、規格外の姫様だったわけですね。でも反面つかみはバッチリ!!!と言えるかも・・・。なんてことはないか。
すっかり評判を落としてしまったエレオノーラですが、この先でどうやって挽回するんだろう?ま、これ以上は落っこちそうもありませんから、あとは上がるだけ?レオポルドの方も規格外れの王様なんですから案外良い組み合わせなんじゃぁ・・・。
レオポルドたちの正体はまだばれていないようですが、こっちがばれる時のエレオノーラやマーテル・アニェーゼの反応も楽しみです。
2023.08.25 11:37 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

そもそもエレオノーラの方は(身の安全や外聞は別として)あまりバレたらまずいということではないんですよね。
むしろレオポルドたちの方がずっと後ろめたいことをしている分、必死に隠そうとしていますが、エレオノーラはあけすけです。

反面つかみという意味ではバッチリですね。
確かに印象はこれ以上落ちないところまで落ちています。
まあ、レオポルド、これまでの婚活での嫁の評価ポイントがかなりはっきりしているので、その辺にご期待ください。

レオポルドたちの正体は当分バレずにいきますね。
バレるときのシーンは、もう書いたのですが、その前後がまだなんですよね。頑張らなくちゃ。

コメントありがとうございました。
2023.08.26 10:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こういう、なんというか。
西欧の造詣が深いところがやっぱり勉強になりますねえ。
・・・と思いながら読ませて頂いておりますが。

修道院ということの役割というか、
その時代の立ち位置というか。
そういうことを小説を通じて表現されているのが、
夕さんだからこそ書ける小説なんだろうなあ。
・・・と思いながら、勉強しながら、読ませて頂いております。

赤い十字架の看護養成学校だと、
この辺も深く勉強するらしいですけど。
あそこは今でも、ほぼ寮生活しているんですけど、
問題らしい問題って聞いたことないなあ。。。
2023.08.27 12:33 | URL | #- [edit]
says...
個人的にはとてもいい組み合わせだと思いますけどね。王様でも自分の事棚上げいくない。
普通のお姫様だったら身分を隠して旅行とか、城の外へとか許してくれないどころか、ドン引きされるかも。
でも、エレオノーラさんだったら、むしろ喜んで賛成&協力してくれそう。
統治的な方はどうなんだろうとは思いますが、男装してあちこち彷徨いているなら、世情を全く知らない、想像できないってこともないでしょう。
知識は後から学べることを考えても、箱入りや全く下々に興味がないより良いんじゃないでしょうか。
確かに御母后様とはまったく似たところがないですね。

執筆お疲れさまでした。
続きを楽しみにしております。
2023.08.27 15:14 | URL | #yl2HcnkM [edit]
says...
こんばんは。

ありがとうございます。
少し前まで勤めていた会社の近くに、女子修道院があり、今でもそこでは祈りつつ働く生活をしているのを横目で見てきたりしました。
本で得た中世の修道院の話と、現実の話を少しずつ混ぜながら書いています。
ちょっとでもそれらしく書けているといいなとは思っています。

看護養成学校、ほぼ寮生活なんですか!
今どき珍しいとも思うし、そういうことで夜勤のこととかも慣れていくんですかね?
その世界については全く無知なので、蓮さんの小説でよく「なるほど」と勉強させていただいています。

コメントありがとうございました。
>
> 修道院ということの役割というか、
> その時代の立ち位置というか。
> そういうことを小説を通じて表現されているのが、
> 夕さんだからこそ書ける小説なんだろうなあ。
> ・・・と思いながら、勉強しながら、読ませて頂いております。
>
> 赤い十字架の看護養成学校だと、
> この辺も深く勉強するらしいですけど。
> あそこは今でも、ほぼ寮生活しているんですけど、
> 問題らしい問題って聞いたことないなあ。。。
2023.08.27 22:05 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

本当に棚上げ男なんですよ、レオポルド(笑)
そして、おっしゃるとおり、レオポルドは、きれいなだけで最低な王女(ラウラを鞭打ちして大喜びしていた女ですね)を知っていますし、嫁の選択基準は『見かけ』じゃないです。っていうか、そうじゃないとこのストーリー成立しませんから(笑)

レオポルド、母親が大嫌いなので、フリッツとしてはそれを知っていて慰めるつもりで言ってみました。
今の時点では、レオポルドにとってのエレオノーラ、ほとんどそこしか褒めるところがないほど地に堕ちていますが、これから(たぶん)浮上する予定ですのでご期待ください。

コメントありがとうございました。
2023.08.29 20:50 | URL | #9yMhI49k [edit]

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