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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(24)予期せぬ再会 -1-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第24回『予期せぬ再会』をお届けします。今回、切るところで迷ったあげく3回にしました。

川に流されてしまったアニーは無事でした。とはいえ、別の意味での意外な展開に。「乙女ゲームじゃあるまいし、こんな偶然ありか」などという抗議は受け付けません。中世の伝説的逸話って、なぜかおかしな再会がつきものなのですから。ただし、私のストーリーでは、主役ではなくて脇役にその役目が回ってきます。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(24)予期せぬ再会 -1-


 濁流にのまれて流されたものの、アニーは意識を失わなかった。うまく泳げなかったが、つかまりやすい板きれが、おそらく壊れてしまった橋の一部が、共に流れてきたので、必死にそれにつかまった。

 やがて、川が湾曲し、かなり広くなった所で流れが少しゆっくりとなった。うまく岸に近づいてきたのでバタバタと身を動かしていると、ちょうど岸にいた男たちが氣づいて引き上げてくれた。

 そこは小さな集落で、騒ぎを聞きつけて何人もの男女が出てきた。
「どうしたんだ」
「大丈夫か。どこから来たんだ」

「すこし上流の、『死者の板橋』が壊れて……」
アニーは説明した。彼女はセンヴリ語はできないのだが、幸いここトリネア候国の方言は、かなりルーヴラン語に近いので、人びとはアニーの言葉をだいたい理解した。

「ルーヴランの娘だ」
「誰か、言葉のわかる者は……」
「ああ、あの旅籠で食事をしていたお方は、確かルーヴからいらしているとか。あそこに連れて行け」

 人びとは身振り手振りで説明しながら、何とか歩けるアニーを伴って近くの旅籠へと伴った。「そこにルーヴラン語をよくわかる人がいる」と言っていることはわかったので、アニーはついていった。言葉がわかる人がいれば、はぐれてしまった一行を探す手だてもあるかもしれないし、少なくとも離宮への道のりは教えてもらえるだろう。

「おお、旦那様、まだいらっしゃいましたか! よかった。溺れかけた娘がいまして、ルーヴラン語を話すんです。ちょいと、通訳をしていただけませんか」
旅籠の入り口で、ひとりの男が奥にいる貴人に話しかけていた。

 人びとと離れて奥の席で食事をしていたその貴人は、「わかった」と言って出てきた。

 村人たちに伴われて旅籠にアニーが入るのと、その貴人が奥の部屋から出てきたのはほぼ同時だった。もっとも彼女は、完全に濡れて重くなった衣類に氣を取られて、ほとんど前を見ていなかった。

「アニー!」
その声を聞いて、アニーは驚いて彼女を呼んだ男の顔を見た。

「ギース様!」
アニーは、あまりの驚きに、その次の言葉が続かなかった。

 通訳をしてくれるという貴人を、アニーはよく知っていたのだ。それは、故郷が同じということでルーヴ王城でアニーとマウロの兄妹によくしてくれた紋章伝令副長官エマニュエル・ギースだった。

 どうしてここにギース様が?!

「アニー! そなた、生きていたのか!」
彼は駆け寄ってきて、アニーをきつく抱きしめた。

「ギ、ギース様! お召し物が汚れます」
アニーは動転して言った。

「かまうものか。そなたが、ヴェルドンで行方不明になったと聞いて、どれほど心を痛めたことか。侯爵に付き添っていった者らが、そなたはグランドロンの警備の者に屠られたと……」

 それを聞きながら、アニーはようやく自分が二重の意味で秘密を守らなくてはいけない立場にあることに思い至った。

 偽王女としてヴェルドンに行ったラウラと、彼女を助けようとしたマックスだが、国王レオポルドはさまざまな事情から秘密裏に2人を救った。偽王女は表向きは処刑されたことになり、マックスとラウラは見つかったフルーヴルーウー辺境伯夫妻として新たな人生を送ることになった。

 一方、それを知らなかったアニーはラウラの敵を討とうと王城に忍び込むことを画策し、あっさりと捕らえられた。けれど、レオポルドの温情で彼女もまた救われフルーヴルーウー伯爵夫人付きの侍女として生きることになった。

 その事情は、もちろん多くのルーヴラン王国の人びとは知らない。もしかするとラウラがフルーヴルーウー辺境伯夫人となったことは、エマニュエル・ギースは知っていた可能性はある。

 兄マウロが、名馬の世話のためにこのトリネア候国に連れてこられて、そのまま口封じで殺されそうになった時に、機転を利かせて逃しフルーヴルーウー城へと行くようにと手配してくれたのも、このギースだったからだ。
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Category : 小説・トリネアの真珠
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様です。

ああ、アニーは自力で助かっちゃったんですね。フリッツくんが駆けつけて……という展開を予想していたんですが。まあ、こちらのほうが自然ですよね。
と思ったら、なんとあの御仁とここで再会ですか。縁がある二人ですが、この再会は劇的すぎですね。もはやこうなると、運命を感じちゃうんですけど。陛下と侯女をさしおいて、アニーをめぐる三角関係ができちゃうとか、そういうカオスな展開でもオッケーです。って、そういう話じゃないか。
浮いた話はともかく、この予期せぬ再会、この先どうなるのかますます気になります。
2023.10.04 15:48 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

唐変木フリッツを、そんなカッコいいヒーローになんてするわけ……なんでもないです。
流れが速いとはいえ、大して大きな川でもなかったので何とか自力で岸に上がりました。それどころか、自力で離宮に向かうつもりで、かなりたくましい娘ではあります。ま、ラウラのために国王暗殺を企てるような子ですしね。

そして、ご想像の通りの若干カオスな展開に……。もっとも片方は、妻にも逃げられた唐変木ですしねぇ。あまり期待しないでください(笑)

さて、ロマンスはともかく、この再会のせいでしばらくアニーは一行と別行動になります。
その辺の事情、もう少々おつきあいください。

コメントありがとうございました。
2023.10.04 21:24 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
あれまぁ!あのお方の登場じゃないですか!
これはえらいことになりましたよ。フリッツもうかうかしてはいられなくなりましたね。
やっぱりフリッツ、あそこでモタモタしていてはいけなかったんですよ。ま、彼は超生真面目、任務にとっても忠実だったということですね。
フリッツ本人も自分の気持ちに気が付いていないから、その時になってオタオタするのかな?夕さんの采配やいかに、というところですね。
でも、アニーが助かってまずは良かったです。
思わぬ登場のあのお方にどのような役回りが割り当てられるのか、アニーとのカップリングがどうなるのか、新たな楽しみが湧いてきました。次話を楽しみに待っています。
2023.10.06 10:49 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
今晩は。

アニーさんが無事で良かったですね。
急に水に落ちたのに板切れを掴むなんて、運が良かったのかもしれませんが、判断力が流石です。
その行動力がいつもプラスに働くとは限らないのかもしれませんが、ピンチや咄嗟の時にまごつかず、直ぐに動けるのが凄いなと思います。
そんないつも頑張りやな彼女に運命の出会い、なのでしょうか。

仕事が理由か、意地を張ってかわかりませんが、フリッツさんが結構あっさり引いちゃって、意外と三角関係にすらならないような気がしなくもないです。
いや、でも、それもちょっと違うかな……恋愛の機微は分からぬ。
何にしろ、いちばん大事なのはアニーさんの気持ちなので。

更新お疲れさまです。
続きを楽しみにしております。
2023.10.06 16:25 | URL | #yl2HcnkM [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよ。都合のいい偶然とはいえ、せっかくここまで来ているんだから(後から出てきますがギースはマーテル・アニェーゼの縁者)出しちゃえってことで、登場ですよ。
フリッツは、唐変木ですからどこで何をしても無駄です(笑)

フリッツとギースは、性格も行動も正反対ですからね。
ま、もともとアニーとフリッツはやいやい言っているだけで、何もなかったようなものですから……どうなるでしょうね。
なんて別にひねりのある展開ではないですよ。

次回は、フリッツとフィリパ、両方とも登場です。お楽しみに(なにを?)

コメントありがとうございました。
2023.10.06 22:55 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

まあ、もともと大した川ではなかったのも幸いしていると思いますが、バリバリの庶民のアニーは、けっこうたくましかったようです。
無事に自力で岸にたどり着きました。

そして、ここでアニーにとっては唯一のロマンスっぽいことをしてくる相手が登場してしまいました。
アニー本人にとっては「めっそうもない、お偉いさんだし」な相手なんですが。

フリッツは、そもそも単なる唐変木でして、ここで一氣に挽回できるようなスペックは全く持っていないんですよ。
だいたい、フリッツ、嫁に逃げられたとはいえ、まだ離婚していないし。

とはいえ、ここで、アニーにとっては生まれて初めての乙女ゲーム展開?
本筋とは外れますが、こちらも楽しんでいただけると嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2023.10.06 23:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
今なら、ペットボトルを浮き輪代わりにするといいよ!!
って思わず、読んでいて思ってしまった。

川や海の事故は絶えぬもの。
今でも、子どもがそれでお亡くなりになるニュースを見ると、
悲しくなりますね。。。。

今回のお話のように、あの手のモノに関しては、
冷静になって、服を脱いで、
浮いているものにしがみついていれば
助けがくるまではなんとかなる、
ってことがあるんですけど。。。
結構、訓練しないと、冷静になるのが一番難しい。。。


今回は助かって良かった!!
(助からないと話しが進まないけど)
2023.10.16 02:15 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

ペットボトルの浮き輪!
上手い具合に手に持っているとちょうどいい浮きになりそうですよね。

今でも海や川の事故は悲しいことに毎年あるのですが、おそらく中世などはまだ治水も進んでいないところも多かったし、簡素な橋も多かったのでもっとたくさんあったのでしょうね。

今回の川は、そもそもそれほど大きな川でもなかったので、大した苦労もなく自力で岸に上がれたようです。
びしょ濡れにはなりましたが。

助からないと、本当に話が進まないんですよ。

コメントありがとうございました。
2023.10.17 23:14 | URL | #9yMhI49k [edit]

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