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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(25)密会 -1-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第25回『密会』をお届けします。今回、本当は3回にわけるような長さじゃないのですが、2回だと切るところがおかしくなり、1つが長すぎることになります。で、3回にわけています。決して続きが遅れているから引き延ばしているわけでは……ないことはないか……。

さて、フィリパが修道院にアニーの様子を見にいってくれている間、役に立たない状態のフリッツは、近くの屋敷の近くに身を潜めて待っています。サブタイトル「密会」に関係してくるのは、分けた3回目だけなのですが、今回と次回は、わたしの小説によくあるキャラのグルグル思考をお楽しみください。このキャラのグルグルなんて、誰も待っていないとは思いますが。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(25)密会 -1-


 アニーと連絡をとるために修道院へ行ってくれたフィリパを待つ間、フリッツは辻の近くの屋敷の影に身を潜めていた。修道院ほどではないが、かなり立派な屋敷だ。

 建物の上部前面が柱で支えられた回廊様ポルティコになっており、その列柱の古代風装飾が優美で美しい。下部は塀に遮られて見えないが、門柱飾りは立派な松の実の装飾で、グランドロンでは見かけない香り高い白い花をつけたつる性植物がその塀を覆っていた。

 フリッツは、センブリ王国の建築様式などに関する知識はほとんどないが、少なくともかなり裕福な人物の持ち物であることは推測できた。おそらく名のある貴族の別宅だろう。

 もっとも、塀を覆う植物は少々生い茂りすぎている。修道院の塀にも蔦が這っていたが、下男たちが乱れぬ程度に剪定していた。この屋敷には、人手が足りないのか、もしくは長いあいだ主の目が届かぬ状態になっているのかもしれぬと考えていた。

 そのようなことを考えるのは、今のフリッツは為す術もなくここで女傭兵を待たなくてはならないからだった。普段の彼は、つねにレオポルドの行動に反応して、その安全に身を配っているので、このように何もせずにただ待つというようなことは記憶にあるかぎりしたことがなかった。

 今日は、何もかもが予想外のことばかりだった。アニーが川に投げ出され、すぐに助けに行きたいという思いと身に染みついた国王の警護優先に引き裂かれた。彼女の無事が確かめられたかと思えば、一行の正体を知る人物がその場にいた。

 そして、そのエマニュエル・ギースの態度振る舞いすら、彼の想定をはるかに超えていた。ルーヴラン人に多い、女にベタベタするタイプなのか、アニーに対しての距離感がおかしい。まるで熱愛する貴婦人に跪く騎士のような振る舞いだ。いったい何なんだ、あの優男は。

 フリッツは、小夜曲を奏でながら跪いて求愛するタイプの男が何よりも嫌いだ。皮肉なことに、彼の妻インゲがなびいて公然の愛人となってしまったのは、まさにそのタイプの男ドライス伯爵だった。

 インゲに夫ある身でほかの男と出歩くようなふしだらな振る舞いを慎むようにと言い渡したときに、彼の妻は慌てるどころか、フリッツをはなから馬鹿にした様子で言い放ったものだ。
「そんな態度で女を引き留めることができるなんて思わないことね」

「私があの方と出歩くだけだと思っているなら、おめでたいことだわ」
そう言って屋敷を後にしてから、インゲはもう戻らなかった。今ではヴェルドン宮廷の誰もが知っている。彼女はドライス伯爵の屋敷の1つに住み、舞踏会など社交の場にも堂々と伯爵とともに出てくるのだ。

 インゲとは、もともと恋愛感情があって結婚したわけではない。お互いに恥ずかしくない程度の家柄ということで、仲介者を通して知り合った。口数は少なく、家政をしっかりと切り盛りできるしっかり者だと判断したので結婚を申し込んだ。

 実際にインゲはきれい好きで整理整頓も得意だった。下男や下働きの娘の扱いだけでなく、自身もたまにする料理も下手ではないのだが、調理場を汚すような料理は作らない主義で、あっさりとしたあまり腹にはたまらない料理ばかりを作った。しかし、フリッツはそれに対して文句を言ったことはなかった。

 お互いに腹を割って話し合うようなことはしたことがない。もちろんドライス伯爵がお得意の、花を抱えて甘ったるい讃美の言葉を囁いたり、リュートで小夜曲を奏でたりするようなことは一切しなかった。
関連記事 (Category: 小説・トリネアの真珠)
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Category : 小説・トリネアの真珠
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
執筆、お疲れさまでした。

あ~、フリッツさん、朴念仁っぷりが明らかになっちゃいましたね。インゲの行動も言い訳できないけど、もうちょっと夫婦のコミュニケーションをとったり、気の利いた奥様サービスでもしていれば、浮気に走らなかったんじゃないかなぁ。
アニー対するエマニュエル・ギースの言動が気に入らなくて、憎きドライス伯爵に重ねるのは、まあ致し方ないとしても、めっちゃアニーのこと気にしてるじゃないですか。これ、フリッツ本人は自覚してるのかなぁ。
次話もフリッツのグルグル、楽しませていただきます。
2023.11.01 07:18 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
待っていますよ。
フリッツのグルグルを存分に楽しんでおります。
そしてまぁ!そんなことだろうとは思っていましたが、ウ~ム。
インゲ、かなりの悪妻だとは思いますが、これでフリッツが自分には落ち度がなかったなどと考えているんだったら相当に重症です。
こんなんじゃぁアニーと組み合わせるのも心配になってきました。アニー、ギースの方が良いかもよ。
でも、ギースの登場によって彼が少しずつ変わっているような予感もありますので、その変化に期待もしたりして・・・。

本編の成り行きもとても気になるのですが、フリッツのグルグル、そして密会?楽しみにしています。
2023.11.02 14:36 | URL | #Qkh9uz4I [edit]
says...
こんばんは。

もうね。この人のダメなところ、全開なんですよ。堅物で、仕事熱心なんですが、もう少し人の心の機微とか理解できないとねぇ。

こんな事情からわかるように、実はこの人、まともな恋とかしたことないんで、よくわかっていないでしょうね。
ましてや相手は自分の娘であってもおかしくない年齢の小娘だし、考えてもいなかったと思います。
でも、エマニュエルがベタベタするんで、めちゃくちゃ不快になっているし(笑)

次回、さらにフリッツの「わかっていない」ぶりが明らかになりますが、この人の事情に触れるのはこの回だけなんで、グルグルにもう少々辛抱ください。

コメントありがとうございました。
2023.11.02 23:10 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

あはは。楽しんでいただけて善かったです。
この人、本当に真面目はいいんですけれど、堅物過ぎるというのか、もう少し人の心の機微を学べといいたくなりますよね。
これまで、まともに恋愛に関わってこなかったので、いい歳したおじさんになって、今ごろから戸惑っているようです。

フリッツね、自分に落ち度があったなんて、カケラも思っていません。それがこの人のダメなところなんですよ。
ま、フリッツのことなんて、このストーリーの中では「どうでもいいこと」なのでこの後はあまり出てきませんが、もう1週、ぐるぐるにおつきあいください。(呆れられているなあ)

コメントありがとうございました。
2023.11.03 00:42 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
小説を読ませて頂き、
他の方のコメントと返しを読んで、もの凄い笑ってしまった。

仕事熱心な男性の意見ですけど(笑)、
そんな男性で気の利いたサービスや
夫婦コミュニケーション出来るわけがない(笑)。
人間は万能ではないのだ。

逆に、そういうことが出来る万能な方って
やっぱりいらっしゃいますけど、
そういう男性の方ってほぼ100%浮気してますよ(笑)。

今のご時世だと、こういう男性の方が
浮気のリスクがなくて安心って女性も多いですからね。。。
2023.11.14 11:24 | URL | #- [edit]
says...
こちらにもありがとうございます。

あはは、そうですよね。
仕事熱心なのに、ものすごくマメな男性の場合「私だけにマメ」ってことはかなり稀ですよね(笑)
ま、翔センセーみたいにオープンならまだフェアですが、普通はコソコソ裏でやっているだろうしなあ。
そういう意味では、フリッツは「安全」なんですが、まあ、嫁はそんな彼に我慢ならなかったようで。

実際に、一般的な夫婦のコミュニケーションがなくても上手くやっているご夫婦もあるんでしょうが、まあ、それはフリッツのように「無関心」というのとは違うんだろうなあ。お互いに尊重し合わないと、この辺は難しいんでしょうね。彼も少しは学んでほしいものです。

コメントありがとうございました。
2023.11.15 23:31 | URL | #9yMhI49k [edit]

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