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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(25)密会 -3-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第25回『密会』3回に分けたラストをお届けします。

さて、フィリパが修道院にアニーの様子を見にいってくれている間、目立たぬように近くの屋敷の影に潜んでいたフリッツ。ちょうどその屋敷の使用人と、向こうからやって来た人物が密会をはじめたようです。フリッツは、それを盗み聞きすることになってしまいました。

まだ名前は出てきていませんが、この男が、おそらくこの作品群の最後に登場した主要サブキャラです。すでに外伝では登場させていますが、そっちは読まなくても大丈夫です。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(25)密会 -3-


 歩いてきた方はユダヤ人の服装をし肌色が非常に濃い男だ。屋敷から出てきた男は、その屋敷の召使いと思われる服装だ。だが、このような屋敷の使用人とユダヤ人が密会しているのはいかにも不自然だ。

 召使いの方は、聴き取りにくい小さな声で何かを囁いていた。それに対して、ユダヤ人の服装の男がカンタリア語で話しだした。
「では、例の男の口はまだ塞がれていないということか」

 フリッツの母親がレオポルドの乳母だったので、親子は子供の頃からレオポルドならびにカンタリア出身の母后の近くに侍ることが多く、グランドロン人としては珍しくカンタリア語を幼少期からたたき込まれている。

「はい。人狼であるという噂が立っているのをいいことに、うまく片付けるように仕向けておりましたが、邪魔が入りました」
屋敷の召使いの方は、カンタリア語は得意でないらしく、センヴリ語訛りで答えているが、カンタリア語とセンヴリ語はかなり近いので十分に会話が成立していた。フリッツにも何を言っているのかがよくわかった。

「邪魔? つまり、だれかがあの男を助けたと?」
「はい」
「あの男に味方がいるというのはよくない兆しだな。そちらも消さねばならぬとは思わぬのか?」

 フリッツは、話の内容に眉をひそめた。人狼というからには、例のトゥリオに違いない。カンタリアの人間が候女に近いトリネア人の殺害を示唆している。

「それが、どうも姫君の息のかかった者のようで」
「姫君? ああ、あの欠陥候女か」
「はい」

 浅黒い男は、わずかに考えていたが、ふっと笑った。
「そうか。それなら、むしろ好都合かもしれぬな」
「と、おっしゃいますと?」

「あの女は、孤立している。侯爵夫妻からも期待されておらず、どの有力貴族たちからもあざ笑われ、城内で頼る者もない。犯罪人を匿ったのが明るみに出れば廃嫡もあり得る大失態だ。そういって脅すことで、こちらに都合よく動く傀儡にすることも可能だ」
「なるほど、確かに」

「ともかくあの従僕の居場所を一刻も早く探って、あの女による隠匿である証拠を掴んでから消せ。あの候女が頼り匿っている者がいるなら、そちらも潰すいい機会だ」

「わかりました。それに、幸いトゥリオ自身がそう信じているように、姫君にも、ペネロペ殿はオルダーニ家に殺されたと思って動いていただければむしろ好都合です。万が一にも、こちらが計画したことと氣づかれれば、せっかく進んでいるそちらの殿下とのご縁談にも差し支えましょう」
「ふん。わが主にはまだ細かい事情を知らせるつもりはない。あの男は候女の前で馬鹿正直に思ったことを口にして、何もかも台無しにするだけだ」

 フリッツは仰天した。不穏な話題もだが、この男はカンタリア王子エルナンドの家来らしい。ということは、ユダヤ人などではなく変装だろう。この浅黒い顔はモロと通称されるタイファ諸国の褐色人のようにも見える。そのような男を王子が家来にしているのは奇妙だが、この件を主人レオポルドに報告すれば、いずれ候女エレオノーラ経由で何者なのかわかることだろう。

「まて。誰か来るぞ」
ユダヤ人の服装の男が声をひそめた。

 フリッツは自分の存在に氣づかれたかと思ったが、そうではなかった。かなり向こうからだが、この屋敷の方へ近づいてくる金属音がしている。フィリパに違いない。先ほども腰につけていたダガ剣とベルトが歩く度に音を立てていた。

「では、私はこれにて」
屋敷の召使いは、慌てて裏木戸を押した。彼が向きを変えたときに、その頬髭がつる性植物に引っかかりわずかに引っ張られた。それで、フリッツにその男の左頬の下にそれまで氣がつかなかった大きな黒子があるのが見えた。

「わかった。引き続きそちらからの情報を待つことにしよう」
浅黒い顔の男はあたりを見回してから、急ぎその場を離れ、召使い男はそそくさと屋敷に入った。

 見ていると、かなり先でその男とフィリパがすれ違い、彼女が胡散臭げに振り返っていた。モロである男は、目もくれずにすれ違ったが、しばらくしてふり返りフィリパと、そしておそらくこの屋敷を何か言いたげに見つめているのがわかった。

 フリッツは、もしかして忍んで話を聞いていたのを感づかれたのかと訝った。だが、男は、身を翻すと城下町の方へと去って行った。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れ様でした。

ふふふ、コラボしていただいたときの、競演した御仁ですね。登場人物に名を連ねていたので、どこでどんなふうに出てくるのかと思っていましたが、なんだかラスボス感たっぷりでの登場でしたね。(お連れの王子様は、甘ちゃんみたいだしw)
しかし、この御仁、仮にも一国の侯女を欠陥品呼ばわりとは。しかも、何やらキナ臭い陰謀の道具としてしか、見ていないようだし。お主も悪よのう、という感じです。
この重大事を立ち聞きしちゃったフリッツ、そりゃアニーの心配どころじゃないですね。どうせならもうちょっとぐるぐるじれじれさせて欲しかったところですが、これで俄然面白くなってきました。次話が楽しみです。
2023.11.15 11:08 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
ますますビックリの展開。
とんでもない方向に進みそうですね。
期待度上昇。楽しみです(^^♪
2023.11.15 12:39 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そうです、そうです。
あの節は、ありがとうございました。あの時にかすっていただいたヘルマン家のこやつと、あそこで大変なお方とご一緒させていただいきデビューさせた陰険野郎との初共演です。
この人ね、候女どころか、王子である自分の異母兄も侮りまくっています。めちゃくちゃわかりやすいイヤなヤツ(笑)

そして、もちろんフリッツは完璧にお仕事モードに入りましたのでアニーなんて吹き飛びました。
この人、こういう方が生き生きしていますよね。だから嫁に愛想尽かされたんですよ。
もうしかたないんです、諦めるしかないですね。

というわけで、いちおう本筋に戻ってきました。
ちょっと偶然のたたみかけに無理があるんですが、その辺は「中世のお話にありがち展開」ということでご容赦ください。

コメントありがとうございました。
2023.11.15 23:40 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ああ・・・わかりました。あの方ですね。というか、少し遡って調べてきました。
なんだか巨大陰謀絶賛進行中のようにお見受けしましたが、例の男は厳重に匿われてしまいましたし、欠陥候女はとんでもなく強力な連中を味方に付けましたし(傭兵団までいるし)、陰謀の進行にはこの先かなりの困難が待ち受けているんじゃないかと・・・。ましてやこの連中を潰すなんてのは不可能なんじゃぁ・・・。
候女の引きの強さに新登場のラスボスもタジタジになりそうな予感。ちょっとワクワク。

さてフリッツはとんでもない情報を偶然手に入れてしまいましたが、このあとフィリパと合流してどんな会話をかわすのかな?駄目フリッツだから、アニーのことなんか忘れてしまって仕事モードオン!そして仕事パワー全力なんだろうなぁ。
やれやれ、これまで気をもんできたサキはすっかり置いてきぼりです。
・・・ということでキッパリと切り替えて、本編の進行をワクワクしながらお待ちしています。

あ、ユダヤ人というのはこの世界でもあのユダヤ人をイメージすれはいいのかな?
2023.11.16 11:42 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

この候国は、非常に恵まれた立地と資源豊富なせいであちこちの国に狙われ、さらに貴族たちも一枚岩ではなくて非常に不安定です。
今回フリッツが盗み聞きしたのは、その一端でした。
悪代官と悪徳商人の会話をお庭番が盗み聞きしたイメージで(笑)

コメントありがとうございました。
2023.11.16 20:39 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

あらら、わざわざ読みにいっていただき、ありがとうございます。
トゥリオの方は、あまり厳重ではないのですが、まあ、森に隠れているよりはマシか。
でも、ちょっと危ういですね。
一方、サキさんのおっしゃる通り、ダメ候女は知らずにとんでもない連中が味方についている状態になっていますね。

フリッツは、完全にお仕事モードでアニーのことなんて吹っ飛んでいます。ま、アニーが無事だったのもわかっていますからね。
フィリパが帰ってきましたので、アニーの件も、フリッツが立ち聞きした件も同時に離宮にいる一行の耳に入ることになります。

> あ、ユダヤ人というのはこの世界でもあのユダヤ人をイメージすれはいいのかな?

お。いい質問ですね。そうです。そこまで新しい名前を与えると説明臭くなるか、読者がついて来られなくなるので前作から「ギリシャ人」「ユダヤ人」「ラテン語」「レコンキスタ」「十字軍」といった単語は、そのまま使うようにしています。耳慣れないかと思いますが、実は「タイファ諸国」「モロ」といった単語もおもに当時のヨーロッパ使われていた単語をそのまま使用しています。そして、ほかの主要国は完全な創作名を与えているのですが「ルシタニア」という国だけは、とある国の古名をそのまま使ってあります(笑)

コメントありがとうございました。
2023.11.16 20:51 | URL | #9yMhI49k [edit]

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