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Posted by 八少女 夕

【小説】森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠(26)《トリネアの黒真珠》 -1-

『森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠』、第26回『《トリネアの黒真珠》』をお届けします。今回も3回に分けています。

ようやく話はメインキャラたちのいる離宮へと戻ってきました。フリッツとフィリパが戻ってきました。ラウラもアニーの無事がわかりひと安心です。


トリネアの真珠このブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


【参考】
「森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物




森の詩 Cantum Silvae - トリネアの真珠
(26)《トリネアの黒真珠》 -1-


「そう。無事なのね」
ラウラは、涙を浮かべて微笑んだ。アニーが川に流されて以来、水すら飲まずに祈り続けてきたが、フリッツとフィリパが朗報を持ってきてようやく顔に精氣が戻った。

「それで、なぜまた修道院に?」
マックスは、フリッツとフィリパだけが帰ってきたことに戸惑っていた一同の思いを代弁した。

「それが、やっかいなお方がアニーの側におりまして」
「それは?」
「ルーヴランの紋章伝令副長官ギース殿です」

「「なんだって?」」
レオポルドとマックスが同時に叫んだ。

 エマニュエル・ギースは、ルーヴの宮廷でマックスやラウラと親しく言葉を交わしたこともある。そして、それだけでなく、ノードランドの停戦交渉の場にもいたので、レオポルドの顔をもよく知っている。さすがにフリッツの素性まではわからないだろうが、顔を見知っている可能性はある。

 アニーの兄マウロの命を救い、フルーヴルーウー辺境伯領へと送る手助けをしてくれたのも当のエマニュエル・ギースだが、それはつまり、彼がラウラとマックスが現在はフルーヴルーウー辺境伯夫妻となっている裏事情をよく知っていることを意味する。それだけにいかにも軍人然としたフリッツが現れてアニーを引き取ったりしたら、すぐに何かがおかしいことに氣づくだろう。

「それでアニーは同行者などいないというフリをしたんだろう。溺れかけたそのあとでよく機転を利かせてくれたというほかはないが……困りましたね」
マックスは、どうしたらいいだろうかというようにレオポルドを見た。

「それで、マーテル・アニェーゼはなんと?」
レオポルドはフィリパに訊いた。

「あの尼さんも大したタヌキですね。アニー殿のこと、まるで初めて見た知らない娘みたいに振る舞っていましたよ。そのギースとかいうルーヴラン人の方は、アニー殿が心配で氣も狂わんばかりで、とにかく快復するまで滞在するって言い張っていました。で、マーテルがあたしを横に連れて行き、このお方が出立したら連絡をするのでそれまで待つようにと言い、この書状を姫さんに渡せって」

 レオポルドは、安堵して笑顔になった。
「なるほど。それが今のところ我々にとっても最善だな。ああ、フィリパ、悪いが、もう1つ頼みたいことがある」

「なんですかい?」
「もう1度修道院に行き、アニーに会い、我々から連絡があるまでそこで待てと伝えてほしい」
「そりゃあ、構いませんが、なんか忘れてませんか」

「なんだ。砂金なら先ほど渡したではないか」
「ヘルマン殿の代わりに尼さんところで黙って伝言係をやるなんてのも、予め言われた話にもなかったけれどやってきたんでね。そろそろ追加料をもらわないと」

 レオポルドは上を見てため息をつくと、マックスに目配せをした。マックスは笑いながら財布から再び砂金をとりだして与えた。

「こりゃ、どうも。ヘルマン殿との密偵ごっこの方もこっちに入れておきますね。あれはなかなか面白い体験だった。我々は、しばらく修道院脇で野営をしているから、またなんかあったらいつでもどうぞ」
そういうとフィリパは、悠々と出て行った。

 レオポルドは、フリッツの方に向いて訊いた。
「それで、密偵ごっこというのは、お前が報告したいと言っていた件か?」
「はい」
「よし話せ」

 フリッツからの報告を聞くと、レオポルドとマックスは、これはエレオノーラの耳にも入れる方がいい案件だと一致した。それで、全員ですぐにエレオノーラのいる東翼に向かった。

 マーテル・アニェーゼからの手紙を渡しがてら、レオポルドは「お耳に入れたいことが」といい、暗に使用人たちの人払いを頼んだ。エレオノーラは、頷くと場所を変え、書斎にレオポルド一行と隠り、手紙を開封した。

「あそこに運び込まれたなら、なぜフリッツ殿が行って直接アニー殿を連れ出さなかったんだ?」
マーテル・アニェーゼからの手紙には、アニーはしばらく修道院で静養させ、快復したら連絡すると書いてあった。

「修道院に連れて行った貴人が、もしかするとあなた様をご存じだといけないと思い、アニーは自分には連れはいなくて1人だと説明したようなのです。確かに、あの修道院にトゥリオ殿が匿われている事情や、あなた様が病に伏せっておられるのではないことが、その貴人を通じてほかの方々にわかると面倒ですし」
レオポルドは、予め考えてあった通りに話した。
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Category : 小説・トリネアの真珠
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

おっと、このサブタイトル、いよいよ物語の核心に入る感じですね。
フィリパのちゃっかりっぷりは、流石に傭兵という感じですが、そのぶん仕事は頼りになりそうです。口も堅そうだし。
アニーとマーテルの不自然な動きから自分たちが身バレしないように、御一行はうまく言い逃れできるのかなぁ。まあ、エレオノーラは気づかなさそうな気もしますが。
さて、マーテルからの手紙、内容が気になります。そして、ヴィダルの動きを伝えられたエレオノーラが何を語るのかも楽しみです。
2023.11.29 12:23 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

あまり核心じゃないかも。登場する前に故人になっちゃった人の話かな。

フィリパをはじめ、傭兵団はちょっと金の亡者です。信じられるのは自らの腕っ節と金だけって感じですかね。
ただし、お金さえ払えば何でもしてくれるので、かなり便利かも。

そして、エレオノーラですが、おそらくアニーとギースの件だけだったら「なんかおかしい」と思ったかもしれませんが、フリッツの持ってきた情報に氣を取られますから、レオポルドたちにとっては大ラッキーでした。

マーテルの方も、実は、福者マリアンナの列聖審査で枢機卿が来る準備も大変だし、罪人といわれているトゥリオを匿っているし、あれこれあって、色ボケしているギースにかまっているヒマもあまりないので、そちらも一行にとってはラッキーでした。マーテルの手紙は、今回書いてあったとおりのことしかなくてむしろエレオノーラは「?」という感じですかね。でも、自分がトゥリオを押しつけているので文句は言えないでしょうね。

というわけで、次回からはペネロペの話と、ちょっと複雑なトリネア政情をお楽しみください。といってもいっぱいでてくる固有名詞を覚える必要はないです。
「ああ、政情不安なのね」くらいの理解をいただければ十分かと。

コメントありがとうございました。


2023.11.29 23:34 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
すっかりご無沙汰しちゃってすみません(;_;)
色々重なって目の前のことを片付けるの必死になっておりましたが、今日は数ヶ月ぶりの1日家にいる休日です。catch upはしていたつもりなのですが、何しろスマホでコメントを打ち込むのが苦手で、読み逃げになっていて済みません(;_;) というわけでやっと書きに来ました。パソコンが馬鹿すぎて、買い換えたいけれど、今年は不幸が重なり、パソコン代が捻出できず、おっそ~いパソコンでもたもた入力しています……

なんて言い訳は置いといて、コメント加工と思ったら細部を忘れてて、改めて読み直したりしていましたが、フリッツのうだうだ回顧とアニーへのぐるぐるだけはしっかりインプットされていました!
もっとも、そうは問屋が卸さない系の夕さんの物語。今回も我々を翻弄して、で、結局どうなん??で終わりそうな……(って、それはまったく主役の話じゃないですよね。てか、主役級はまだまだぐるぐるに突入さえしていないような)
それにしても、こんなに身近にいながらお忍び国王含め、お互いに本音で話せないまま、あちこちで色々な思惑がうごめいているというのが、歴史は裏側が面白いふうな(あるいは夜作られる、みたいな)大河ドラマになっていますね。どこで印籠が出てくるのか、今からワクワクしていますが……まだまだみたいですね。
今、私の中では、物語がすっかり水戸黄門状態。単純化して考えちゃっていますが、頭の中の地図や人物関係が混乱しかけています。歴史って、ほんとに、必ずしも脈絡や辻褄が合っているのか、分からないまま進むものなのですね~
引き続き楽しみにしております!
2023.12.03 12:06 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは。

あいかわらずお忙しいご様子。でも、お元氣だからこその大活躍なのかもしれませんね。あ、でも、喘息とかまた無理をしていらっしゃらないか心配です。
読んでくださるだけで、大感謝です。どうかコメントはお氣になさらないでください。

フリッツとアニーは、2人ともああだし、どうにもなりませんよ(笑)
でも、それをどちらかが苦にするような性格でもないし、軽ーく流していただければ十分。
主役級は、ええ、そもそもそういう段階じゃないです。
とはいえ、前作もそうでしたが、この話、まーーーーーったくひねりがありませんので、意外な展開とか期待なさらないでください。いま想像なさっているとおりになるはずです。

ちなみにトリネアの情勢、やたらと細かく難しく書いていますが、「内政不安です」ということを言いたいだけですので、固有名詞とかすっぱり忘れてくださって問題ありません。まあ、次回出てくるヴィダルは、今後も関係あるかと思いますが。

読んでくださって嬉しいです。
コメントありがとうございました。
2023.12.03 19:33 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
仕事人ですねえ、フィリパ。
こういうきっちりしている傭兵の方が逆に安心するかも。
だからこそ、レオポルドもお金を払っているんでしょうし。
・・・まあ、お金がある内は大丈夫なんでしょうね(笑)。

今の派遣社員でも、「ここからここまでが仕事の範疇」
って決まっている派遣社員もいますので、
そう考えると、時代の先端をいっている考え方なんじゃないか。

2023.12.09 00:19 | URL | #- [edit]
says...
そりゃレオポルドとマックスは驚くだろうな。よりによってギース殿ですからね。
読者も驚いたぐらいですから・・・。
ま、この人物がどういう役回りにまわるのか興味深いところです。サキとしては味方にまわってほしいのですが、アニーもいることだし、上手く立ち回ってくれそうな予感・・・。
そしてフィリパ、いい仕事しますね。要点をついてきちんと任務をこなしているみたい。ちょっと金にはがめついですが、それくらいの方がかえって信頼できる感じです。やっぱりなかなか素敵なキャラクターです。
お、エレオノーラ再登場ですね。本筋の展開を楽しみに待ちます。
2023.12.09 13:45 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

そう。フィリパは対価の分はきっちり仕事をする仕事人です。安くないけれど、それだけの仕事をするタイプ。
レオポルドも、そういう所が見えているので頼みやすいということもあるでしょう。
そして、傭兵は信用第一で、2枚舌な事をやったりしてしまうと、2度と雇ってもらえなくなるので、裏切りを怖れなくていいという部分もあります。

中世のスイスの傭兵たちは質が良くて強いことで有名で、ヨーロッパ各国が戦争すると前線にいるのは両陣営ともスイス傭兵だったなんてこともよくあったそうです。そうした誇り高く、有能な傭兵たちの働き方は、とてもシビアでたしかに現代の働き方に似ている部分もあるのかもしれませんね。

コメントありがとうございました。

>
> 今の派遣社員でも、「ここからここまでが仕事の範疇」
> って決まっている派遣社員もいますので、
> そう考えると、時代の先端をいっている考え方なんじゃないか。
2023.12.09 21:35 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

レオポルドたちにしてみたら「いま絶対に会いたくない人」の筆頭ですよ。エレオノーラやマーテル・アニェーゼをよく知っていて、さらにマックスたちもよく知っているんですから。
実を言うと、ギースは何の役割も果たしません。単にアニーが足止めされているだけ……。

フィリパは、きっちりと仕事をします。
傭兵というのは、騎士たちのように尊敬されるわけでもないし、場合によっては簡単に切り捨てられたりすることもあるので、ものすごく現実的という設定です。実際にそうだったみたいですし。
サキさんお氣に入り、フィリパの活躍の場は今後どんどん増えていきます。ご期待ください。

そして、エレオノーラ、そろそろ再教育はじめないとねぇ。
でも、「scriviamo!」のあとになっちゃうかも。

コメントありがとうございました。

2023.12.09 21:42 | URL | #9yMhI49k [edit]

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