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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】リナ姉ちゃんのいた頃 -1-

10,000Hitのキリ番で、前後賞の9999を踏んだウゾさんからのリクエスト。ウゾさん、ありがとう!

ズバリ スイスの家庭料理に付いて 出来れば 日本で手に入る材料で出来るもので
レシピ付き。

ただの記事にしてもよかったんですが、ちょっと趣向を変えて、こんな連載風短編に仕立ててみました。主人公は日本の中学生の遊佐三貴くんとスイス人高校生リナ・グレーディクちゃん。日本とスイスの異文化交流ものとしてまたテーマをいただいたら追加していこうかなと思っています。って、一回で終わりになるかもしれないけれど。



リナ姉ちゃんのいた頃 -1-

リナ姉ちゃんが我が家にやって来た日の事は今でもよく憶えている。我が家がひっくり返したような大騒ぎになったのは、その一週間ほど前の事だった。

「えええ〜っ? なんで?」
僕と栄二兄ちゃんは、最初、父さんが冗談を言っているのかと思った。我が家に、交換留学生の女の子がやってくる、一年間ホームステイする、スイス人だって。母さんは、重大発表のあいだ黙ってご飯をよそいでいた。

「だから、急遽、そういうことになったんだよ」
父さんは頭をかいた。
「斉藤専務のお宅で預かる事になっていた子なんだけどさ。部長の奥様に悪性腫瘍が見つかって、それどころじゃなくなっちゃったんだそうだ。それで、代わりにって。ほら、うちは今年から一美が下宿をはじめて、部屋も一つ空いたしさ」

「いや、代わりにって言ったってさ。その子、日本語喋れないんでしょ? どうすんの?」
栄二兄ちゃんが訊くと、父さんはじっと僕の方を見た。
「そうなんだよ。三貴、お前は三年も英会話学校に通っているだろう。お前だけが頼りなんだ」

僕はのけぞった。いや、だって僕はまだ義務教育中の身だよ。確かに、英会話学校に通っているのは、この中では僕だけだけど、栄二兄ちゃんは高校三年だし、父さんも母さんも大学をでているじゃないか。英会話学校って言ったって、週に一度の習い事じゃ、まともな英語なんて話せない。現に、FENもCNNもさっぱりわからないんだよ?
でも、父さんの道端に捨てられた子猫みたいにすがる目を見たら、嫌とは言いがたい空氣が流れた。

「何で断らなかったのさ」
栄二兄ちゃんが、僕の氣持ちを代弁する。

「斉藤専務は、私たちの仲人だし、人事部長時代は母さんの直接の上司だったんだよ」
「逆らわない方がいいのよねぇ、あの人には」
母さんが間延びした声で言った。父さんは再びすがるように僕を見た。僕は仕方なく頷いた。


それから一週間して、僕は父さんと一緒に成田空港に行った。「ようこそ、日本へ。リナ・グレーディクさん」と英語で画用紙に書くのすら、僕の仕事になった。こんなに英語がダメで、ほんとうに大丈夫なんだろうか。今まで尊敬ひとすじだった父さんが、なんだか頼りなく見える。

スイス・インターナショナルエアラインが到着すると、緊張が最高潮に達した父さんはトイレに駆け込んでしまい、僕は一人でそのスイス人の女の子を待つ事になった。僕と父さんの想像した彼女の姿はクリーム色のTシャツに赤いジャンパースカートだった。それほど僕たちにとってスイスは馴染みのないメルヘンの国だった。

いろいろな人が出て来た。野暮ったい女の子が出てくる度に「この人かな」と思ったけれど、彼女たちは僕の掲げた画用紙をちらっと見ただけで通り過ぎてしまった。

それから、彼女がやって来た。艶やかな栗色のウェーブした髪。すらりとした華奢な足。ヒョウ柄のカットソーに黒い革のミニスカート、黒いブーツというハイジとはまったくかけ離れた美少女。彼女の輝く灰緑色の瞳は、僕の掲げた画用紙にピタッと停まって、まっすぐに僕の方に歩いて来た。ええ〜? 嘘だ。この人? 類いまれな美少女じゃないか。彼女は僕に笑いかけた。あれれ? 先程の完璧な美がそれで吹き飛んだ。口が大きいのか、なんだかわからない。だが、その笑顔は、「あれ」に酷似していた。「不思議の国のアリス」の挿絵にある、チェシャ猫のニヤニヤ笑い。それがリナ姉ちゃんだった。


それから、リナ姉ちゃんは驚くべき事実を知った。家族の中で、意思の疎通が可能なのは、この僕だけだってこと。でも、彼女は素早く順応した。僕も、家につくまでには、どうやってリナ姉ちゃんと必要な意思の伝達が出来るか、なんとかめどが立っていた。FENの英語と較べて、リナ姉ちゃんの英語はずっとゆっくりではっきりとしていた。もともとリナ姉ちゃんにとっても英語は外国語なのだ。そしてドイツ語が通じるはずがない事は百も承知だ。幸い、僕には多少の絵心があったので、語彙の貧弱さはそれで補う事が出来た。それに父さんは、僕にポケット英和和英辞典を買ってくれた。


家につくと、母さんが食事の用意をして待っていた。栄二兄ちゃんは、リナ姉ちゃんの姿を見て、真っ赤になり、それからなにかごにょごにょ言って、僕と役目を代わりたがっていたけれど、バイトに出かける時間だったので、泣く泣く出て行った。僕はリナ姉ちゃんに、玄関で靴を脱ぐ事を教え(姉ちゃんったら、靴のまま上がろうとしたんだ)、部屋に案内し、それから食堂に連れて行った。


母さんはちらし寿司を用意していた。日本と言ったらスシだけど、いきなり生の魚じゃきついかと思ったらしい。だからサーモンと海老のちらしだ。

「わぁ〜、すごくきれいね。ちょっと待って。写真撮るから」
リナ姉ちゃんははしゃいだ。奥ゆかしさってものが全然ない人だな。僕はお腹がすいていたので、ぼうっとしていた。

「ほら、ミツ。早く食べましょ」
どっちの家なんだか、わかりゃしない。それに、僕の名前は三貴だ。ミツなんていわれると猫になったみたいじゃないか。

食事の間、僕は忙しかった。父さんと母さんとリナ姉ちゃんの通訳をしていたからだ。
「へえ。これもスシなの。日本人は、毎日寿司を食べているの?」
「そんなわけないだろ。今日は特別」
「じゃあ、普段は何を食べているの?」
「ええと。白いご飯に、魚とか、肉とか、野菜をたっぷりつけて」
「スパゲッティなんかは食べないの?」
「食べるよ。洋食って言うんだ」

母さんがふと興味を持って訊いた。
「スイスではどんなものを食べるのかしら? スパゲッティ?」

僕が訊くとリナ姉ちゃんは頷いた。
「イタリア料理はよく食べるわね。お肉やチーズもたくさん食べるわ」

「こう、これこそ、スイスって料理は?」
父さんの質問にリナ姉ちゃんは肩をすくめた。
「チーズ・フォンデュとラクレットかな。どっちも溶かしたチーズの料理よ」

「他には?」
「私の住んでるグラウビュンデン州の郷土料理は大きな葉っぱでパスタとチーズを包んだカプンツとか、ネギとパスタをスープで煮込んでチーズをかけたピッツォケリとか」
「ここで作れる?」
「ええっ、それは無理よ。カプンツはマンゴルドの葉っぱがないと出来ないし、ピツォケリはそういう名前のパスタがないと出来ないもの」

僕は口を尖らせた。
「なんか、日本でも出来る料理はないの?」
「う〜ん、アルペン・マカロニは?」
「何それ?」
「小さくゆでたジャガイモとマカロニをチーズで和えるの」


アルペン・マカロニ 四人分(スイスのなので日本だと六人分かも……)

300g ジャガイモ
350グラム マカロニ
200グラム ナチュラル・チーズ (エメンタールなど)
(追記:本当は癖の強いチーズと弱いチーズを半々なのですが、癖の強いチーズは香りも強烈です。日本人には好き嫌いがあるかも。手にもなかなか入りませんし。それで、エメンタールなどのパンチの弱いチーズだけを使う場合は、出来てから味を見て、塩を追加してください)
1.5dl 生クリーム
カリカリに揚げたタマネギ、ベーコンなど、適宜

作り方
ジャガイモは1㎝角に切って、5分ほど塩ゆでしておく。
マカロニを表示時間通りゆでる。
オーブンは170℃に温める。
チーズを1㎝角に切る。
ジャガイモとマカロニとチーズを耐熱皿の中で混ぜて生クリームを注ぎ、25分焼く。
トッピングとしてカリカリタマネギやベーコンを散らす。


「ううむ。すごく美味しそうだけど、でも、今、真夏だよ」
「そうね。夏の食べ物じゃないわね。じゃあ、これは?」


ビルヒャー・ミューズリー 二人分

250cc ミューズリー・シリアル
2大さじ 干しぶどう
1大さじ クルミを砕いたもの
2大さじ アーモンドスライス
フルーツ(リンゴ、梨、苺、ブルーベリー、キウイ、バナナ、桃などなんでもいい)
1カップ ヨーグルト
砂糖、または果実のジャム
1/2カップ 牛乳

作り方
すべての材料を混ぜる。


「これ、料理か?」
「料理って言うには語弊があるけど、でも、れっきとしたレシピよ」
「わかった。じゃあ、ミューズリー買ってくるから、週末に作ろうよ」

こうして、僕たちとリナ姉ちゃんの一年間が始まったのだ。
関連記事 (Category: 小説・リナ姉ちゃんのいた頃)
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Category : 小説・リナ姉ちゃんのいた頃
Tag : キリ番リクエスト 小説 連載小説 リクエスト

Comment

says...
 おはよう御座います。
おおっ… ふらりと遊びに来たら リクエストが載っている!!!!!! 
有難う御座います 嬉しいよーーーーーー

リナ姉 可愛い 意思がはっきりしていて 個性がはっきりとある。
凄く 日本の地を訪れた 異邦人って感じが出ていて 面白い。

そして 逆らわない方がいい 斉藤専務って…

アルペン マカロニ 美味しそう 夏休み中に作ってみよう!!!!!
ミューズリー は 混ぜるだけ 火も使わないし ピッタリ夏向き 手軽に出来そう。
どちらも 出来そうで 嬉しいです レシピ ありがとね。
2012.08.13 23:02 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

まずは1万HITおめでとうございます。

おお、レシピだ! レシピだ!!
アルペン・マカロニはグラタンに近い料理に見えますね。
でも、チーズが上に来ないところと、少し汁気が多そうなところが違いそう……

ミューズリーのについては、コーンフレークでもフルーツやヨーグルトを混ぜて食べるのと似た感じなのかな?
でも、夏場の美容に良さそうなレシピです。

小説の中で料理を語る試みは大変参考になるものがありました。
いい刺激です!
2012.08.14 14:49 | URL | #T7ibFu9o [edit]
says...
短編&レシピで面白かったです!
ただ、うちにオーブンがないのですよ…
混ぜて寝かせるだけの酒のみツマミとはレベルが違いますね^^
いつか彼女ができたら作ってもらいます(← 夢・・・)

HIZAKI
2012.08.14 15:59 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

氣にいってもらってよかった〜。
三貴くんはウゾさんをイメージしてキャラ作りました。名字と名前の最初の一文字を合わせると、ウゾさんになるって、すごいこじつけの読みですが。お話の都合上、実際のウゾさんよりは、ちょっと子供っぽいかも。舞台も関西にはできず。土地勘と言葉の問題で……。

斉藤専務は、次のリクエストでもあった時に、登場させましょうか。

スイスって、本当にスイスにしかない普通の料理って少ないんですよ。あってもカプンツみたいに特殊すぎるものとか。でも、アルペン・マカロニはスイスっぽい、ごく普通の料理です。ミューズリーだけだと、あまりにも手抜き感が漂うので、両方アップしてみました。

ウゾさん、ひとり祭りに、おつき合いくださいまして、ありがとうございました!
また、よろしくね。
2012.08.14 17:02 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

ありがとうございます。紗那さんをはじめ、飽きずに来てくださる皆さんに感謝です!
アルペン・マカロニは、かなりただのマカロニ・グラタンに近いです。ただ、ホワイトソース作りがないので簡単かも。スイスでは、なぜかアップルムースと一緒に食べたりします。謎。

ミューズリーは、コーフレークのものよりも穀物がしっかりしているので、お腹いっぱいになります。もともとはビルヒャー療養所の特別療養食だったものが広がったんですって。だから健康にいい事は間違いないです。

このシリーズで、時々、スイスと日本の異文化交流を紹介していきたいなと、勝手に思っています。

コメントありがとうございました。
2012.08.14 17:07 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは〜。

オーブントースターでも平氣でしょうが、そこまでして真夏に作るものでもないかも(笑)

スイスの料理は基本的に簡単です。(←フランス料理なんかは、試す氣にもならないぐらい複雑)
田舎で洗練されていないのと、ゲルマン系主婦は台所を汚すのが嫌いなので。
本当はHIZAKIさんのご紹介なさっているおつまみの方が作るの大変だと思いますよ。

コメントありがとうございました。
2012.08.14 17:16 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おお!これは楽しい!楽しいです!!
夕さんにこういう異文化交流物を書かせると本当に楽しくて、そして面白いです。
実はこっそり「大道芸人たち-日本編」読ませてもらってます。(始めから読みたかったのですが、ちょっと読んだら止まらなくなった) 
リナの描写とキャラクターもとっても好きです。
三貴の開き直ったような対応がなんだかうらやましいです。
リナの冒険と三貴達一家のチャレンジの続きが読みたいです。
でも、料理はどうなんだろう?
山西、好き嫌いは無く何でもOKですので(タガメとか甲虫系の物は無理かも)
多分美味しくいただけると思いますが、
直感で「旨そう!」とまではいかないかな。すみません。
2012.08.15 05:52 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

構想一日、執筆一時間でだーっと出来ました。
イメージを提供してくれたウゾさんのお陰かも。
左紀さんに褒めていただいたのに氣をよくして、また時々登場させようかなと思っています。ネタの切れた時にでも……。

スイスは、食文化はいまいちです。本当に。チーズフォンデュも、多分生涯食べなくてもいい部類の食べ物ですかね。まあ、日本の食文化がレベル高すぎるってこともありますけれどね。

「大道芸人たち」日本編から読んでくださっているとの事、ありがとうございます。そこからでも、全く問題ないかも。真耶や拓人がかなり丁寧に復習してくれているし。

コメント、ありがとうございました!
2012.08.15 17:47 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ホームステイの人が家に来たらすごく緊張しそう
読んでるだけでドキドキしてきました

これなら私の家でもすぐ作れそうです
2012.08.16 05:48 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

そりゃ、自分の家には来てほしくないですよね。
特にこんないきなり(笑)

珍しくもない料理ですが、いろいろ手間がなくて、ハードル低いと思います。
以前、コルドンブルーの料理本っていうのを買ったら、一番最初に「丸ごとの鶏でチキンプロスを作るところから」ってイントロで、そのまま本を閉じて二度と開いていません。ハードルの低さって大切。

コメントありがとうございました。
2012.08.16 15:18 | URL | #9yMhI49k [edit]

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