FC2ブログ

scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】祝いの栗

ブログのお友だち、栗栖紗那さんが10000Hitです。おめでとうございます! で、お祝いに掌編を贈らせていただくことになりました。紗那さんからのリクエストは

あ、でも、せっかくだからリクエストさせていただきます。
そうですね……『栗』もしくは『食欲の秋』のどちらか書きやすい方でお願いします。


で、『栗』+『10000のお祝い』で作ってみました。女主人公の名字を紗那さんからいただきました。構想20分、執筆一時間半、たった今、できたてのほやほやでございます。誤字脱字があったら、お許しくださいませ。


祝いの栗
ー 10000Hitのお祝いに栗栖紗那さんに捧ぐ ー


ピコンと鳴ったので、再びスマホに目をやる。今度は、中学校の同級生からのお祝いだ。うふ、ありがと。

「そのピコンピコン、止められないわけ?」
京子はイチゴショートケーキにぐさっとフォークを突き刺した。ここの一ピースはかなり大きいというのに、三分の一を一口で食べる勢いだ。歯に衣着せぬ批判は、幼なじみならではの特権だけれど、今日くらい勘弁してほしい。

「いいでしょ。一万顧客獲得なんて、そんなにある事じゃないんだし。みんなが祝ってくれるんだもの」
「あんたがfacebookで自慢したからでしょ」
「身もふたもない事いわないでよ。メールでも次々とお祝いが届いているのよ。やっぱり、つながっているって、いいわよねぇ」

ウエイトレスがようやく私の注文品を持ってきた。
「お待たせしました。モンブランとクリームソーダでございます」

京子はあからさまに眉をひそめた。
「いったいどういう組み合わせなのよ。氣でも違ったの?」
「う、うるさいわね。これは私のハレの日の組み合わせなの」

支店を任されて一年目、ようやく一万顧客を達成した。私にとっては過去最高の勝利だからといって、無理矢理京子を自由が丘の洋菓子店「モンブラン」に呼びつけたのだ。なんで居酒屋じゃないのかと訝られたが軽く無視した。

ここには最初のデートで征士が連れてきてくれたのだ。そもそも、このひどい組み合わせを注文したのは彼だった。
「子供の頃さ。祖父ちゃんが自由が丘に住んでいてさ。俺がちょっといい成績とったり、書道で賞穫ったりすると、ここに連れてきてくれたんだ。で、祖父ちゃんはモンブラン、俺がクリームソーダ頼んでさ。だから、俺は何か祝いたい時にはここにくるんだ」
「今日は、なんのお祝いなの?」
「もちろん、栗栖とつき合えた事だよ!」

大学の研究室で知り合った征士とは、卒業後もずっとつき合った。どちらかにいい事があった時は、必ずこの「モンブラン」に来て、モンブランとクリーム・ソーダで祝った。みんな、あのままゴールインするんだと思ってた。私も何となくそう思っていた。8年もつき合ったんだし。だけど、あいつは行ってしまった。


京子はちゃっちゃとショートケーキを片付けると、ブラックコーヒーを飲み干し、カチャンとソーサーに置いて畳み掛けてきた。
「で。あんた、顧客獲得一万はいいけど、その後、どうしてるのよ。新しい彼、みつけたの?」
ほら、きた。

「え。この一年は忙しくて……」
「そんなこと言っている場合? あんたね。もう三十なんだから、プロジェクトとか、顧客とか、そういう男をドン引きさせるうわごとばっかり言っていないで、ちゃんと彼を探しなよ」
「征士は、プロジェクトの事話しても、いつも応援してくれたよ」
「ふん。で? 今日のお祝いの嵐の中に、彼のメッセージはあるわけ?」

あるわけない。征士は私が支店を任された事も、顧客獲得にやっきになったことも知らないのだ。facebookの友だちですらない。だって……。

「どういうこと、それ?」
一年前、私はこの「モンブラン」のあの角の席で、征士をにらみつけた。
「だから、来月からシエラ・レオネに赴任するんだ」
「シエラ……? どこそれ」
「アフリカだよ」
「いきなり? 私に相談もなく決めちゃうわけ? ここに呼び出して別れ話ってこと?」
「誰が別れ話だって言ったよ。一緒に行かないかって、話だろ」
「ア・フ・リ・カ・に? 冗談でしょ? ロンドンやニューヨークならまだしも。それに、もしOKだとしても、来月って私のプロジェクトはどうなるわけ?」
「いや、だから、来月一緒に赴任しなくてもいいけどさ。でも、ほら、キリのいいところで……」
「キリのいいところで何よ。私がいつ結婚したら仕事を辞めたいって言った? ふざけないでよ」

私は、そのまま席を立ち、彼からのメールや電話を無視して、しばらく着信拒否にした。本当に怒っている事を理解させたかったから。けれど、彼はそのまま本当に行ってしまったのだ。

「あんたさ。終わった事は諦めて、さっさと次を探さなきゃ。花の命は短いんだし」
京子のいう事はまっとうだ。征士と仕事と天秤にかけて、私は速攻で仕事を選んでしまった。いや、本当はむかっ腹を立てていただけかもしれない。征士はずっと私の仕事を応援してくれていたはずなのに、いざとなったら「辞めて来い」みたいなことを言ったから。私にとって、仕事での成果はとっても大事だったのに。ああ、もう。今日は顧客一万のお祝いにここに来たのに。どうしてこんな事を考えてるのよ。

征士の向かった先、シエラ・レオネにだってE-Mailもfacebookもあるだろう。でも、彼が働いている場所は電氣が通っていない未開の地。携帯の電波だって入らないだろう。着任してすぐに彼からエアメールが届いて、その手の事が書いてあった。私はまだ怒っていたので、返事も書かなかった。それっきりだ。一年はあっという間だ。その間、彼がどう過ごしたのか知る由もない。私は誰ともつき合ったりしなかった。いい事があったら、いつもここに来たよ。

勝利の激甘モンブランとクリーム・ソーダが、なぜか苦く感じられた。続けて居酒屋に行こうと誘う京子に謝って別れ、私はマンションへと向かった。

仕方ないじゃない。ここには電車もあるし、コンビニもある。変な病氣になる心配もないし、それに卒業以来ずっと打ち込んできた仕事もある。仕事で成功したら、facebookの80人の友だちや、メル友たちがリアルタイムで祝ってくれる。ピコン。ほら、また。

マンションの郵便受けを覗く。あれ? このシンプルで薄い青い封筒……。エアメール? 裏返して、へたくそな字を見ただけで、心臓がドキドキしてくる。エレベーターを待つのももどかしく、私はすぐに封筒をこじ開けだす。なんで、こんなにがっちり糊付するのよ。

お〜い。どうしてる?
今日は、栗栖の誕生日だよな。おめでとう。
こっちは、秋なんて到底思えない暑さだけど、ドイツ人の同僚がいいもん見せてくれたんで、写真に撮ったよ。トチの実だ。ドイツにいる息子が拾ってパパにってプレゼントだってさ。「栗にそっくりじゃないか?」そう言ったらドイツ野郎は「当然だよ。ドイツ語では馬の栗っていうんだ」なんていいやがった。お前の誕生日に栗みたいなのが出てきたの、何かの縁かと思ってさ。仕事、頑張れよ。


トチの実



何よ。誕生日なんて一ヶ月以上前の事じゃない。どこがエアメールなのよ。それに、偽物の栗の写真を送るなんて、どういう神経しているの。私は征士の手紙を抱きしめた。

スマホがピコン、ピコンと鳴っている。涙を拭って、エアプレーン・モードにした。机に向かうと、便せんを探す。手紙なんか、ずっと書いていないから、なかなか見つからない。

(初出:2012年10月 書き下ろし)
関連記事 (Category: 読み切り小説)
  1 trackback
Category : 読み切り小説
Tag : 小説 読み切り小説 リクエスト

Comment

says...
 こんにちは。
可愛い 正直な女性ですね。
八十人のメールよりも 一通の封書ですかぁ。

何時か 彼女は 日本から飛び立つのか 其れとも 胸の奥底で少し痛む思い出に
してしまうのか。
数年後が 気になる話です。
いや 彼が 無理矢理 掻っ攫いに来るのかも。
とても 可愛い話でした。
  
2012.10.05 08:22 | URL | #- [edit]
says...
これが構想20分だってええええええ。
凄すぎて、ついつい色々と噴き出しましたwww
夕さんらしさ全開バリバリですね。甘いの食べれないので、モンブランとクリーム・ソーダなんて頼むことはないでしょうが、誰かが食べているのを見ると、思い出しそうです。
本当に栗栖さんが羨ましいです^^
2012.10.05 12:00 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

どうもありがとうございます!
素敵な話です。
少し意地っ張りな主人公と抜けたところがあるような恋人。
でも、最後には主人公も素直になった感じで……
やはり心のこもった一通の手紙に勝るものはないような気もします。

本当にありがとうございました。

P.S.
近々、イラストの方に取り掛かろうかと思ってます。
まずはやはり蝶子さんかな?
2012.10.05 12:16 | URL | #T7ibFu9o [edit]
says...
こんばんは。

スイスに住んでいらっしゃるんですね。
拍手のお写真が素敵で思わず見たさに何度も押してしまいますよ(^^)
リンドウも美しかったです♪
先日は見ていただいてありがとうございました。
2012.10.05 13:47 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

facebookなどで、たとえば中学の同級生から「おめでとっ」って言ってもらうのも嬉しいんですけれど、待ちこがれていたコンタクトに敵うものはないのかな〜と。やっぱり、これに返信しないと、さすがに次はないでしょうからね。

征士君、いい加減にして、日本に帰って来いよって話かも。

コメントありがとうございました。
2012.10.05 16:55 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

買い物からかえってきて、「どうしようかな〜」と歩いていたら、郵便受けの近くで、あのトチの実を発見、激写しました。そこからするするっと出来ました。

甘いもの大好きな私でも、さすがにモンブランとクリーム・ソーダなんて無茶はできません。そんな組み合わせで食べている人がいたら怖いかも。

実は、自分のブログの事以外で、こういう形のプレゼント、はじめてだったんです。こんなに喜んでいただけるなら、またどんどん書いちゃいます。お祝い事の時は、どんどん掌編進呈、やってみよう〜。

コメントありがとうございました。
2012.10.05 17:01 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

トラバに、関連記事での宣伝まで、ありがとうございます!
実は、いまだに紗那さんが男性なのか女性なのかわかっていないのですが、
勝手にヒロインの名字にいただきました。

紗那さんの小説に出てくる生き生きとした人物たちをイメージして
(そのわりには、全然、紗那さんの小説っぽくなくなっちゃいましたが)
なおかつ、お祝いだからハッピーエンドにしたいなあと思いました。

喜んでいただけて嬉しいです。

そ、そして、描いていただけるんですか? やった、やった!
ええと。蝶子でも、ステラでも、ピエロのヨナタンでも、アレシアでも何でも構いません。
紗那さんの描きやすい子でお願いします。
全く急ぎませんので、お時間のある時に! 楽しみにしていますね。

たのしいリクエストとコメント、ありがとうございました。
2012.10.05 17:10 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。そして、ようこそ!

ええっ。チビmomoさんに写真を褒めていただけるなんて光栄です!
今、15種類用意しているんですが、そろそろ新しいのと取り替えようかなあと思いつつ、なかなか傑作写真が撮れなくて……orzでございます。

来ていただけて嬉しいです。今後ともどうぞよろしくお願いします。
コメントありがとうございました。
2012.10.05 17:39 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こういうの“腐れ縁”って言うんでしょうか?
でも“腐れ”ではなくて実は上手く“発酵”してるんですね。
現代社会の最新のコミュニケーションと彼のアナログコミュニケーション、
とても興味深くて面白かったです。
これは多分彼のアナログの勝利か?(勝利というのもおかしい?)
短いけれど楽しくてとても面白かったです。

彼女、とても熱いです。
2012.10.12 13:04 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

「女の友情はハムより薄い」ともいいますよね。「結局、男か!」みたいな。
でも、「いいねボタン」を押すだけですぐに繋がれる広く浅いコミュニケーションと、便箋を探し何度も書き直し郵便局に行ってでも送る手紙では、質がかなり違ってきますよね。前者は80人とでも150人とでも出来ても、後者は数人に限られてしまう。時間と手間をかけてでも、連絡を取りたい相手というのはやっぱり深い縁なのでしょうね。腐ってても(笑)

コメントありがとうございました。
2012.10.12 19:09 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する