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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】リナ姉ちゃんのいた頃 -3- Featuring 「254」

本年最後の小説は、15003を踏まれた左紀さんからいただいたリクエスト。私の大好きな左紀さんの「254」のコトリとヤキダマ(共に敬称略)が、「リナ姉ちゃんのいた頃」に入り込んで共演してくれることになりました。左紀さん、ありがとう!

左紀さんの特別許可を得て、私がコトリとヤキダマのことを書いちゃっています。本邦初公開(?)の二人の本名も左紀さんに教えていただいたものです。左紀さんとそのファンの皆さん、コトリたちに対する愛情はいっぱい込めましたが、もし彼等らしくなかったとしたら、それは私の筆力のなさのせいです。ごめんなさい。書き方をちょっとイレギュラーにして、前半をヤキダマ目線、後半をミツ目線で書いています。

「リナ姉ちゃんのいた頃」の-2-までを読んでいない方のために。このシリーズの主人公は日本の中学生の遊佐三貴(もともとのリクエストをくださったウゾさんがモデル)とスイス人高校生リナ・グレーディク。日本とスイスの異文化交流を書いている不定期連載です。前の分を読まなくても話は通じるはずですが、先に読みたい方は、下のリンクからどうぞ。


リナ姉ちゃんのいた頃 をはじめから読む
山西左紀さんの「254」を読む



【小説】リナ姉ちゃんのいた頃 -3-
Featuring 「254」


「あのさ。今朝、コトリは一人でちょっと乗ってくるとか言って親父さんのところを出て行ったよな、たしか。」
ヤキダマはこめかみに人差し指をあててツボを押しながら言った。目の前に見えているものが、幻であってくれることを願って。

「ん? そうだったね」
コトリはヘルメットを脱いでくったくのない笑顔を見せた。コトリと愛車Moto Guzziの254そのものはいつも通り異常はない。問題はその後部座席だ。

「で、その後ろにいるのは、誰なんだ」
「誰って、ついさっき、知り合った友達だよ。いい子なんだ」

 友達。ヤキダマにはそれが「友達」なるジャンルの人間には見えなかった。どちらかというと、バイクの新作発表会で、意味もなく新製品にまたがっている外国人モデル。ウェーブした栗色の髪は、シャンプーの宣伝みたいに異様に輝いているし、顔も不必要に整っている。着ているものも新作発表会にぴったり。真っ赤な厚手の化繊のカットソーに上質の黒革のジャケットとパンツ。しかも真っ黒のハイヒール。
「ハイヒールでバイクの後ろに座る外人。しかも、ヘルメット省略かよ」

 コトリは少し口を尖らせて小さな声で言った。
「だから急いで、まずここに来たんだよ。ヘルメットを調達しなくちゃいけないと思ったから。ヤキダマ、ヘルメット貸してよ。わたしのだとキツいんだって」

 かわいい顔を上目遣いにして、まるで不当な尋問をされているかのごとく言うので、ヤキダマは自分の正当性を強調すべく、ぐいっと胸を張って首を振った。
「まだ、ちゃんとした答えを聞いていないよ。それ、誰なんだ」

 コトリが答える前に、新作発表会のモデルもどきの方が口を開いた。
「コニチハ。リナ・グレーディク デス。スイスカラ キタヨ」
ますます怪しい。なんだ、この教科書通りのガイジン・ジャパニーズは。妙に大きい口でにいっと笑われて、ヤキダマはたじたじとなった。

「ヤキダマ、少しは英語話せるんでしょ。リナは、まだ日本に来て三ヶ月なんだから、英語で話して」
コトリが流暢な英語でそういったので、ヤキダマは仰天した。そういえば、コトリこと彩香サヤカがどんな教育を受けていたのか、ヤキダマは知らなかった。しかし、ここで怯んでいる場合ではなかった。大学院生としての沽券を賭けて、彼も慣れない英語を口にした。
「で、どこで拾ったんだ」

「リナは首都高の入り口でヒッチハイクしていたんだ」
ヤキダマはそれを聞いて再びこめかみに痛みを感じた。

「渋谷で買い物をしていてミツとはぐれちゃったの。で、うろ覚えでバスに乗ったら、全然知らないところに来ちゃった。家に帰り着いたミツとは電話で連絡取れたんだけれど、あの子は中学生だから、そんなに簡単に迎えに来れないのよ。で、せっかくだからヒッチハイクしてみようかなって」
「轢かれるかもしれない危ないところに立っていたので、停まって訳を訊いたら、そういうことだって。だから、送ってあげようかと思って。祐天寺だもの、ここからそんなに遠くないんだよ。ヤキダマも一緒に来る?」

 楽しく笑いあう二人を見て、ヤキダマはひどく疲労感を憶えた。この外人モデルもどきは変だ。二人にしておいて、コトリに何かあったら困る。そう判断し、黙って中に入ると、ヘルメットを二つ持って戻ってきた。

 モデルもどき、もといグレーディク嬢は白いヘルメットを被ってみた。
「あ、これなら前も後ろも痛くない。でも、横はブカブカね」

 ヤキダマは、日本人の頭蓋骨が欧米人と較べて前後に短く横幅が広いということを思い出した。だからヘルメットを欧米から輸入しても日本人には合わないことが多いのだと親父さんが教えてくれたのだ。

 ヤキダマは自宅の戸締まりをして鍵をかけると、ガレージからHONDAのスクーターPCXを出して来た。
「遅いよ、ヤキダマ。置いてっちゃうよ」
コトリの言葉に肩をすくめる。グレーディク嬢が調子に乗っておうむ返しをした。
「オイテッチャウヨ!」

 ヤキダマの住む恵比寿から祐天寺はそんなに遠くない。ほんの少し渋滞はあるが、二輪車にとってはそんなに大きな問題ではなかった。グレーディク嬢が左右をキョロキョロと見ている。よほど面白いらしい。駒沢通りに入り、祐天寺の塀が目に入ると、彼女はコトリの肩を叩いて合図をした。254が駅の方向に右折すると、PCXもよどみなく曲がって後を追う。やがて、二台は目立たない一軒家の前で停まりエンジンを切った。

※ ※ ※


「リナ姉ちゃん!」
外からのエンジン音が止まった途端、僕と母さんは表に飛び出した。最初に目に入ったのは真っ赤なバイク。そして、その前で格好よくヘルメットを脱いで髪を揺らすリナ姉ちゃん。それからその後ろにいる二人と、スクーターにも目がいった。

「ミツ、ママ。たっだいま~」
リナ姉ちゃんは、死ぬほど心配していた僕たちが悲しくなるくらい明るい。

「いったいどうなったんだよ。この人たちはいったい?」
ヘルメットを脱いだ二人の顔が見えた。ええっ。女性だ。おかっぱの髪がさらさらしている。メイクをしているかどうかわからない、ナチュラルな透明感のある丸顔。とても清潔感のある人だ。こんなかわいい人が、バイクを運転するんだ。もう一人はとても背の高い青年で、痩せているけれどとても姿勢がよくて、なんていうのか骨っぽくて強そう。でも、顔はどちらかというと知性で勝負ってタイプに見える。二人とも、とても感じがよくて、リナ姉ちゃんとも英語でペラペラ話している。
「紹介するわ。さっき友達になったの。コトリとヤキダマよ」
――変わった名前だな。リナ姉ちゃんと友達になるだけのことはあるかも。

「はじめまして。中小路彩香なかこうじ さやかと申します」
三厩幸樹みんまや こうきです」
二人がきちんと母さんに挨拶をした。やっぱりちゃんとした社会人だった。そうだよな。本名のわけないじゃん。

 母さんは、慌ててお礼をいい、二人にお茶でもと言った。リナ姉ちゃんが言った。
「遠慮しないで、寄っていって。このうち、いつもすごく美味しい和菓子がでてくるのよ。私、練りきり大好き」
姉ちゃん……。母さんの言うお礼ってのは、姉ちゃんがおやつを食べるって意味じゃないんだけど。

 でも、姉ちゃんは、客間に通された二人にぴったりついてゆき、二人が一つずつしか食べていないのに、一人で二つも和菓子を平らげた。
「だって、こっちは道明寺だし、こっちは黄身餡なのよ。選べないわ」
そういう問題じゃないって。

「大体、なんで渋谷じゃないところに行っちゃったんだよ」
「いつものバスに乗ったつもりだったの」
いつものバスってことは洗足駅行に乗ろうとしたんだ。どこから?
「どっかのバス停よ。同じ柄のバスだったから、いつものだと思ったの」
で、行き先も確認しないで乗っちゃったんだ。僕はくらくらした。

「東急のバスはみんな同じ柄だよ。ちゃんと行き先を確認してよ」
「だって読めないんだもの」
そうか。漢字だから読めるわけないよな。それは氣がつかなかった。

「それで、三厩さん、中小路さん、お二人はどこで彼女を見つけてくださったんでしょうか」
母さんはコトリさんたちに、おそるおそる訊いた。
「目黒です。首都高の入り口でヒッチハイクをしていて……」

「姉ちゃんっ!」
コトリさんの説明をきくなり、僕は詰め寄った。
「何?」
「高速道路でヒッチハイクをしていたって……」

「高速道路の中には入っていないわよ」
「そういうことじゃなくって、なんでヒッチハイクなんてするんだよっ」

 リナ姉ちゃんは肩をすくめた。
「スイスだとよく見るのよ。大工の人とか」
どうしてここで大工がでてくるんだよ。

 リナ姉ちゃんは、もう少し説明してくれた。ドイツの職人たちは徒弟としてのカリキュラムが終わると「ヴァルツ」という三年にわたる放浪修行の旅に出かける伝統があるのだそうだ。ヨーロッパ各地の、同じ職業の親方のところに飛び込みで頼み込み数ヶ月ずつ雇ってもらうらしい。

「黒い服に、黒い帽子をかぶってね。それで、その人たちは公共交通機関使っちゃダメなの」
「ええ~っ。」
「ヨーロッパ中に行くのに?」
コトリさんとヤキダマさんも身を乗り出している。
「そうなの。ヒッチハイクするか、歩くしかないの。だからね。スイスでもたまに高速の入り口にそういう人たちが立っているのよ。だから、私もやってみようかなって思ったの」

 やってみようかなってさ。ここは日本なんだけど。
「でも、上手くいったじゃない。新しい友達もできたし。コトリには、今度ツーリングに連れて行ってもらうことにしたの」
そういうと、リナ姉ちゃんは、コトリさんと顔を見合わせて微笑んだ。

「えっ」
僕と母さんだけでなくて、そんな話を知らなかったらしいヤキダマさんも、ぎょっとして二人を見た。

「ヤキダマも一緒に来ていいよ。でも、ぐすぐすしていると、オイテッチャウヨ」
リナ姉ちゃんは、最後だけ習いたての日本語を使って、ムッとしているヤキダマさんに、いつものチェシャ猫風に、にいっと笑いかけた。


(初出:2012年12月 書き下ろし)

追記

スイス人留学生が日本にやって来て異文化交流をするという趣旨に則って、このシリーズでは毎回日本人の知らないスイスと、スイス人の知らない日本を少しずつ埋め込んでいます。

今回は、欧米人と日本人の頭蓋骨の違い、私の連れ合いが日本で交通機関を利用する時に困った点、それに今どき珍しいドイツのマイスター制度でヒッチハイクをして旅をするヴァルツのことなどを入れました。

ヴァルツに関しては、この辺の記事はいかがですか。(英語です)
関連記事 (Category: 小説・リナ姉ちゃんのいた頃)
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Category : 小説・リナ姉ちゃんのいた頃
Tag : 小説 コラボ キリ番リクエスト 連載小説 リクエスト

Comment

says...
夕さん

無茶なリクエストを聞いていただきましてありがとうございました。
イヤーすごく嬉しいです。

なんといっても一番の驚きは、コトリが山西の意思を離れて独り立ちをしたような心境になったことです。子供を独り立ちさせたときの親の気持ちってほど大げさなものではないのでしょうが、そんな気持ちのミニチュア版?みたいなものを感じているのかもしれません。自分以外の人に自分の作り出したキャラクターを動かしてもらうと、まるでそこにそのキャラが実在しているように感じられるのです。書いていただいている方の筆力にもよるのかもしれませんが、その点は夕さんですから……。
あの愛想の悪いコトリが、夕さんにきちんと演技をさせてもらっているようでよかったです。
あ、けっこうちゃんと社会人してる。と安心しました。
ヤキダマもずいぶんしっかりとした感じに書かれていて、おぉ!やるなぁ。という感想です。
ヒッチハイクはともかくヴァルツなど、日本ではあまり目にすることのない異文化を上手く組み合わせたお話になっていて、とても面白かったです。コトリの英語には度肝を抜かれましたけど。まあ感想は夕さんの執筆中にお送りしたメッセージでたくさん書いちゃったのでこれくらいにしておきます。
またコラボなど出来る機会がありましたらよろしくお願いします。
そしてコトリを生き生きと書いていただきましてありがとうございました。(ヤキダマもです)

新しい年がよい年でありますように。
ではまた。
2012.12.31 07:56 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
おはようございます。

最初にコトリたちに出会ったのは、「第三回目となった短編小説書いてみよう会」でしたね。左紀さんともあの時にはじめてコメントをして、嬉しくて仕方なかった、思い出の小説です。かわいいのに男の子のような言葉遣いをする、電動スクーターにキツいひと言のある(うちの連れ合いそっくりのセリフ)、大きなトラウマを持ちつつもしっかりと生きていくコトリ。いっぺんでファンになりました。旅行中に3000踏んで、サイダーのお題とともに無理矢理書いていただいたり、今回のコラボをリクエストいただいたり、コトリたちは私の中の「Debris circus」ワールドでどんどん特別になっています。

大切なキャラを大きな心でどんと貸し出してくださった左紀さんに感謝します。
今回はヤキダマを勝手に恵比寿の住人にしちゃったり、イルマ語やベクレラ語ではなくて日本語や英語だったり、かなりの無茶をしていますが、二人がするっとそのシチュエーションにハマってくれたのはやっぱりキャラも作者と同じで人間ができているからでしょう。うちの子たちも見習って、そのうちにカンデ市あたりにしれっと登場してくれると嬉しいなと思っていたり。

尊敬できる小説家として、一緒にわいわい楽しむブログの友達として、左紀さんに出会えてラッキーな2012年でした。どうか来年もまたいろいろな面で無茶な要求をするかと思いますが、懲りずにおつき合いくださいませ。先さんとお二人、楽しく新年を迎えられますよう。来年もどうぞよろしく。
2012.12.31 13:32 | URL | #9yMhI49k [edit]

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