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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【寓話】小鳥と木こりと世にも美しい鳥かごの話

scriviamo!


「scriviamo!」の第十一弾です。
とあるブロガーさま(仮に「秘密の詩人」さまとお呼びします)は、美しい詩で参加してくださいました。本当にありがとうございます。テーマはヒツジグサ。「秘密の詩人」さまのメッセージを引用しますが、このハス科の植物は「葉の形が心臓で、花言葉が「清純な心・純潔」なんです。 花が咲くのは午後二時(未の刻)だけ」だそうです。私とそのブログのこの辺の記事をイメージして書いてくださったとおっしゃるのですが、いや、その、とんでもない。汗だくになります。実は未年なので、えっ、どうしてわかったのと焦ったのは内緒です。(これで歳がわかるな……)


未の末
ヒツジグサ

産湯にただよい
ぷかぷかと浮いては沈んで 
白々しい肌 見せしめて
音なき波紋 しずかに拡がる

つばの生臭さ
日に日に 濃さをましては
葉に隠れ 抱きよせた

泥水にすける肌 
脈うつ葉 濡れゆくたび 
心うばわれる 

鴉の啼き声
沼と空に吸い込まれ
白々しい花 朽ちてゆく



この詩の著作権は「scriviamo!」参加のとあるブロガー様にあります。ご本人の承諾なしのコピーならびに転載、二次使用は固くお断りします。また画像の出典はウィキメディア・コモンズよりE-190氏によるヒツジグサ(http://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Hitsujigusa.jpg)です。

お返しする作品をいろいろと考えたのですが、この魂の叫びのような強い情念のこもった清冽な詩に、中途半端なソネットや、知ったかぶりの知識と言葉で何かを返すつもりにはなれませんでした。それで、お読みになる他の方には関連性が「?」になるのを承知で、これまでと趣向を変えて、寓話(メルヒェン)の形をとって、この「秘密の詩人」さまへの想いを書く事にしました。

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小鳥と木こりと世にも美しい鳥かごの話
——Special thanks to secret minstrel


 ある鬱蒼とした森の奥に、大きな大きな菩提樹が立っていました。夏の光に萌黄色の輝きを反射し、爽やかな風にさわさわと葉を鳴らしていました。そのてっぺんに、つがいの鳥が心を込めて巣を作りました。美しい葉に隠れて雛たちが猛禽から見つからず、とても高くてイタチや山猫は登ってこないという利点はありましたが、足場がさほどよくなかったのでとても小さな巣になってしまいました。
 
 雛たちは狭い巣の中で大きく口を開けて、両親を呼びました。ばさばさと羽音をたてて親鳥は少しずつエサを運んできましたが、六匹もいる雛たちに一度でお腹いっぱいになるようにすることはできませんでした。雛たちは狭い巣の中で押し合いへし合いして、お腹がすいて満ち足りぬ日々にへきえきしていました。

 一番小さな雛は、お腹がすいている事よりも、兄弟たちに押されて踏みつけられる事が嫌でしかたありませんでした。父さんや母さんのように飛べたら、あたしは一人でどこまでも飛んでいけるのに。そう思って巣の中で羽ばたきを繰り返しました。兄さんたちは狭い巣の中でそんな事をするのは迷惑だと憤慨しました。それで雛は、もうあたしは雛なんかじゃない、立派な小鳥だと言って、空に飛び立ちました。

 父さんや母さんは楽々と飛んでいるように見えて、それはとても簡単なように思われたのですが、実際に飛んでみると、風があたり、足元には支えるものが何もなく、恐ろしい勢いで落ちていくのでした。必死に翼を動かしましたが、ふわりと浮くにはほど遠く、菩提樹の枝と枝の間にぶつかりながら、ガサガサとぶざまに落ちていったのでした。

 氣がつくと、小鳥は菩提樹の根元に身を伏せていました。右の翼の付け根がずきずきと痛み、腹の下にもどくどくと血が流れていました。飛ぶどころか、歩く事も、伸びきった翼をたたむ事も出来ませんでした。何とかしなくてはならないという本能だけが頭の中で明滅し、傷ついていない左の翼だけで飛べないかと、ばさばさと動かしました。その度に、腹の傷が痛みました。

 しばらくすると、そこを子供が通りかかりました。傷ついた小鳥をみかけると、走って近寄り様子を見ようとしました。小鳥は危険を感じて子供の手を強くつつきました。子供はびっくりして走って逃げました。

 もうしばらくすると、今度は老婦人が側を通りかかりました。この女は小鳥の傷ついた状態がわかったので、そっと近寄り眼を閉じさせて医者に連れて行こうとしましたが、あまりの痛みに耐えかねて、小鳥が力のかぎりに抵抗したので、どうしようもなく小鳥をその場に置いて去っていきました。

 ぐったりしている小鳥の横を、こんどは一人の木こりが通りかかりました。木こりもまた、小鳥の危険な状態がよくわかりました。それで老婦人と同じように近づき、小鳥に触れました。小鳥は先ほどと同じように抵抗しました。子供にしたように激しくつつき、老婦人にしたように力のかぎり暴れました。けれど木こりはそれで諦めたりはしませんでした。
「大丈夫だ。安心しろ。お前を助けたいんだ」
木こりは小鳥をぎゅっと抱きしめました。

 木こりは小鳥を小さな小屋に連れ帰ると、丁寧に傷の手当をしました。手当はとても痛かったのですが、包帯をされて血がとまり、だらんと伸びていた翼に添え木がされて痛みが楽になると、小鳥はほんの少し大人しくなりました。木こりは森の中をかけずり回って、小鳥の好きそうな毛虫を集めてきては食べさせてくれました。そして、果物かごに布団を敷いてそっと小鳥を寝かせました。イタチやフクロウの襲ってこない、森の小屋の中で小鳥はぐっすりと眠りました。

 木こりは辛抱強く小鳥の面倒を見ました。警戒心が強く、人を信じずに攻撃を繰り返しても、いつも優しく語りかけました。
「大丈夫だ。安心しろ。お前に害はくわえないから」

 やがて、怪我が少しずつよくなってくるのが、小鳥にもわかりました。毎日かかさず食事を用意してくれるので、木こりが自分の味方だとわかり、つつかないようになりました。木こりに何かお礼が出来ないかと思って、父さんと母さんがしたように歌ってみました。木こりは眼を輝かせて喜んだので、小鳥はもっとたくさん歌えるようになりたいと思いました。

 何日か経って、木こりはつまらない灰茶色をした小鳥の羽がどんどん抜け変わるのに氣がつきました。そして、その羽がすべて生え変わった時に、自分の小屋にいるのが七色に輝く世にも美しい鳥だという事を知りました。そして、天使の歌声もかくやというようにさえずるのです。

 もともと木こりは、小鳥の怪我が治ったら、野生に返してあげようと思って面倒を見ていました。けれど、あまりにも小鳥が美しくて貴重に思われ、なついて慕ってくるのも可愛くて、すっかり好きになってしまい、このままずっと小屋にいてくれたらいいと思うようになりました。それで、街に出かけてゆき、真鍮で出来たきれいな鳥かごを買ってきました。そして、そのシンプルな鳥かごでは、世界で一番美しい小鳥には似合わないと思い、母親が遺してくれた小さな宝石箱を取り出して、中に入っていた色とりどりの貴石で鳥かごを装飾しました。

 天蓋を真珠とルビーで覆いました。ほっそりとした柵にはサファイアとエメラルドを交互に取り付けました。そして床は珊瑚と桜貝で埋め尽くしたのです。質素で贅沢なものの何もない小屋の中で、鳥かごは一つだけ宵の明星のようにキラキラと輝いていました。そして、眠っている小鳥をそっとその鳥かごの中に移したのです。

 朝、目が醒めると、小鳥は黄金の鳥かごの中にいる事に氣がつきました。朝日を浴びてキラキラと光っていて、王様の御殿の中にいるようでした。柵の中から覗くと、優しい木こりがいつものように笑って、食事と水を用意してくれるのでした。それで小鳥はいつものように力のかぎり歌いました。

 次の日も、その次の日も同じでした。怪我はすっかりよくなり、本当だったらもう外を飛び回ってもかまわないはずだったのですが、小鳥はずっと鳥かごの中にいたのです。

 知っている歌はすべて歌ってしまいました。語れる詩はみな語り尽くしてしまいました。小鳥は世界と新しい歌を知る事もなく、鳥かごの中でうつろに動くようになりました。

「どうして歌ってくれないのかい、僕の小鳥さん」
木こりはある朝、訊ねました。

「あたしには歌が残っていないの。あたしは何も見ていないの。巣の中にいた時と同じなの」
小鳥はそう答えました。

 それを聞いて、木こりはさめざめと泣きました。大好きでいつも側にいてほしいと思って作った鳥かごが、小鳥を不幸せにしている事を、木こりはよく知っていたのです。

 それで、木こりはそっと鳥かごの扉を開けて言いました。
「それでは、空を飛び回り、お前の歌を探しなさい」

 小鳥は、言われたように籠から出ると、開け放たれた小屋の扉を抜けて、外に出て行きました。巣から出た時には、あれほど困難だった飛行はちっとも難しくありませんでした。それで、大空に向かって翼をはためかせ、ぐんぐんと昇っていったのでした。

 木こりは鳥の姿が視界から消えると、辛くて悲しくて、地面に突っ伏して大声で泣きました。けれど、いつまでも泣いているわけにはいかないので、いつものように仕事に行きました。

 夕暮れに小屋に戻ると、扉を閉めて、静寂の中で食事をしました。小鳥に出会う前よりも、一人でいる事が寂しくて、涙をぽろりとこぼしました。

 すると、扉の外から、コツコツという音がしてきました。こんな時間に、誰が来たのだろうと不思議に思って扉を開けると、彼の大好きな小鳥がぴゅーっと入ってきました。

「どうしてあたしが帰ってくる前に食事をしたの?」
木こりは泣き笑いのまま、小鳥に謝りました。

 小鳥は、木こりが食事をしている間中、世界で見てきたたくさんの事を語りました。王宮の大広間で踊る三人の王女様のこと、大海原を走る白い帆船のこと、不思議な形をした岩山の事、そのすべてを新しい歌にして語りました。
 
 夜になって、木こりが世にも美しい鳥かごの扉を開けて、寝床を示すと、小鳥は小さく首を振りました。小鳥は木こりの暖かい寝床に潜り込み、まだ語り尽くせていない新しい詩を夜更けまで歌い続けました。
 
 これが世にも美しい鳥かごのいらなくなった、小鳥と木こりの幸せなお話。遠い、遠い国の、昔むかしのお話。

(初出:2013年2月 書き下ろし)
関連記事 (Category: scriviamo! 2013)
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Category : scriviamo! 2013
Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
 こんばんは。
つややかで 艶めかしさと 何処か諦観を 無常を感じさせるような 熟成された言葉の詩ですね。
濃厚な赤葡萄酒の様で 言葉に酔ってしまいそうです。

そして 可愛らしくも 端正な掌編。
此の後が 気になりますね… 此の木こりは 小鳥は…
いや 幸せに暮らしたで終わるから いいのですね。 
 
2013.02.22 09:37 | URL | #- [edit]
says...
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013.02.22 11:11 | | # [edit]
says...
こんばんは。

感性が研ぎすまされた方の言葉ですよね。
濃厚な赤葡萄酒のようって表現はぴったりだと思います。

小鳥と木こりのその後ですか?
このあと、王様が綺麗な小鳥を欲しがって、持っていってしまい……嘘です。いま適当に作りました。
これは寓話なので「めでたしめでたし」で終わります。そのあとの現実は、散文的な努力の日々ですかね。
(結局、若いウゾさんの夢を壊しまくる私)

コメントありがとうございました。
2013.02.22 18:42 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

なんとかお氣に召していただけたようでほっとしました。
美しくて、そして、ちょっと甘ったるい「めでたしめでたし」の後には、やっぱり、単調な、時には悲しい事もあると思いますが、木こりと小鳥がお互いを尊重する努力を続けていけば、静かなめだたないハッピーエンドがずっと続くのではないかなと、思うのです。私は、とても楽天的なので。

とても美しい詩をありがとうございました。
そして、これからもどうぞよろしく。
2013.02.22 18:50 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
私もこんな詩を歌ってくれる小鳥が欲しいですw

鳥かごでだらだらしてる方が好きな私自身は
こんな小鳥さんにはなれなさそうだし
2013.02.27 09:30 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

三食昼寝付きメロドラマ試聴付きの鳥かご生活も悪くないですが、どちらかというとカリブの海辺のバーでロングドリンクを飲みながらだらだらするレゲエ生活の方が……。もはや鳥の話じゃありませんね(笑)

コメントありがとうございました。
2013.02.27 19:29 | URL | #9yMhI49k [edit]

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